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憲法 警察予備隊違憲訴訟 最大判昭和27年10月8日

概要
裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。
判例
事案:裁判所による違憲審査制には、大別して、①特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な争訟と関係なく、抽象的に違憲審査を行う方式(抽象的違憲審査制)と、②通常の裁判所が、具体的な争訟事件を裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で、適用法条の違憲審査を行う方式(付随的違憲審査制)がある。本事件では、現行法の下における違憲審査制の性質が問題となった。

判旨:「原告は、最高裁判所が一方司法裁判所の性格を有するとともに、他方具体的な争訟事件に関する判断を離れて抽象的に又一審にして終審として法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するや否やを判断する権限を有する点において、司法権、以外のそして立法権及び行政権のいずれの範疇にも属しない特殊の権限を行う性格を兼有するものと主張する。
 この点に関する諸外国の制度を見るに、司法裁判所に違憲審査権を行使せしめるもの以外に、司法裁判所にこの権限を行使せしめないでそのために特別の機関を設け、具体的争訟事件と関係なく法律命令等の合憲性に関しての一般的抽象的な宣言をなし、それ等を破棄し以てその効力を失はしめる権限を行わしめるものがないではない。しかしながらわが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。けだし最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異るところはないのである(憲法76条1項参照)。原告は憲法81条を以て主張の根拠とするが、同条は最高裁判所が憲法に関する事件について終審的性格を有することを規定したものであり、従つて最高裁判所が固有の権限として抽象的な意味の違憲審査権を有すること並びにそれがこの種の事件について排他的なすなわち第一審にして終審としての裁判権を有するものと推論することを得ない。原告が最高裁判所裁判官としての特別の資格について述べている点は、とくに裁判所法41条1項の趣旨に関すると認められるがこれ最高裁判所が合憲牲の審査のごとき重要な事項について終審として判断する重大な責任を負うていることからして十分説明し得られるのである。
 なお、最高裁判所が原告の主張するがごとき法律命令等の抽象的な無効宣言をなす権限を有するものとするならば、何人も違憲訴訟を最高裁判所に提起することにより法律命令等の効力を争うことが頻発し、かくして最高裁判所はすべての国権の上に位する機関たる観を呈し三権独立し、その間に均衡を保ち、相互に侵さざる民主政治の根本原理に背馳するにいたる恐れなしとしないのである。
 要するにわが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。そして弁論の趣旨よりすれば、原告の請求は右に述べたような具体的な法律関係についての紛争に関するものでないことは明白である。従つて本訴訟は不適法であつて、かかる訴訟については最高裁判所のみならず如何なる下級裁判所も裁判権を有しない。この故に本訴訟はこれを下級裁判所に移送すべきものでもない。 」
過去問・解説
(H23 司法 第18問 ア)
憲法第81条は、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する争訟事件を解決するのに必要な限度で、裁判所に違憲審査権を付与した規定である。したがって、裁判所にはいわゆる客観訴訟において違憲審査を行う権限はない。

(正答)  

(解説)
警察予備隊違憲訴訟判決(最大判昭27.10.8)は、「わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない」としており、「法令上の…根拠」が存在する場合には裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を持つことを許容する趣旨を含んでいる。
そして、議員定数不均衡訴訟判決(最大判昭51.4.14)は、「現行法上選挙を将来に向かつて形成的に無効とする訴訟として認められている公選法204条の選挙の効力に関する訴訟…は、現行法上選挙人が選挙の適否を争うことのできる唯一の訴訟であり、これを措いては他に訴訟上公選法の違憲を主張してその是正を求める機会はないのである。およそ国民の基本的権利を侵害する国権行為に対しては、できるだけその是正、救済の途が開かれるべきであるという憲法上の要請に照らして考えるときは、前記公選法の規定が、その定める訴訟において、同法の議員定数配分規定が選挙権の平等に違反することを選挙無効の原因として主張することを殊更に排除する趣旨であるとすることは、決して当を得た解釈ということはできない。」として、客観訴訟における違憲審査を認めている。

(R5 司法 第17問 ア)
警察予備隊違憲訴訟判決(最大判昭和27年10月8日)は、出訴等に関する手続を法律で定めれば、最高裁判所には法令等の合憲性を抽象的・一般的に審査・決定する権限を付与することもできるという考え方を否定するものではないと見る余地もある。

(正答)  

(解説)
警察予備隊違憲訴訟判決(最大判昭27.10.8)は、「わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない」としており、「法令上の…根拠」が存在する場合には裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を持つことを許容する趣旨を含んでいる。
総合メモ
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