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憲法 全農林警職法事件 最大判昭和48年4月25日
概要
①公務員の争議行為を禁止する国家公務員法98条5項は、憲法28条に違反しない。
②あおり行為等を処罰対象とする同法110条1項17号は、憲法28条に違反しない。
③同法110条1項17号は、憲法21条1項に違反しない。
④同法110条1項17号が、違法性の強い争議行為を違法性の強いまたは社会的許容性のない行為によりあおる等した場合に限つてこれに刑事制裁を科すべき趣旨であると解することは、不明確な限定解釈であり、かえつて犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する憲法31条に違反する疑いすら存する。
②あおり行為等を処罰対象とする同法110条1項17号は、憲法28条に違反しない。
③同法110条1項17号は、憲法21条1項に違反しない。
④同法110条1項17号が、違法性の強い争議行為を違法性の強いまたは社会的許容性のない行為によりあおる等した場合に限つてこれに刑事制裁を科すべき趣旨であると解することは、不明確な限定解釈であり、かえつて犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する憲法31条に違反する疑いすら存する。
判例
事案:全農林労働組合(非現業の国家公務員である農水省(当時)職員により組織される労働組合)の役員Xらは、警察官職務執行法改正案に反対するため、同省職員に対し職場大会への参加を慫慂し争議行為を煽った等として、国家公務員法110条1項17号(98条5項[現98条2項]による違法とされる争議行為の煽り行為等に対して刑事罰を定めている)違反で起訴された事案において、①公務員の争議行為を禁止する国家公務員法98条5項の憲法28条違反、②あおり行為等を処罰対象とする同法110条1項17号の憲法28条違反、③同法110条1項17号の憲法21条1項違反、④同法110条1項17号の『あおる』行為等の限定解釈の可否が問題となった。
判旨:①「憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」、すなわちいわゆる労働基本権を保障している。この労働基本権の保障は、憲法25条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法27条の勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と相まつて勤労者の経済的地位の向上を目的とするものである。このような労働基本権の根本精神に即して考えると、公務員は、私企業の労働者とは異なり、使用者との合意によつて賃金その他の労働条件が決定される立場にないとはいえ、勤労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。ただ、この労働基本権は、右のように、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであつて、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、このことは、憲法13条の規定の趣旨に徴しても疑いのないところである(この場合、憲法13条にいう「公共の福祉」とは、勤労者たる地位にあるすべての者を包摂した国民全体の共同の利益を指すものということができよう。)。以下、この理を、さしあたり、本件において問題となつている非現業の国家公務員(非現業の国家公務員を以下単に公務員という。)について詳述すれば、次のとおりである。
(一) 公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものであるが、憲法15条の示すとおり、実質的には、その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである。もとよりこのことだけの理由から公務員に対して団結権をはじめその他一切の労働基本権を否定することは許されないのであるが、公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきである。けだし、公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果すことが必要不可欠であつて、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがあるからである。
次に公務員の勤務条件の決定については、私企業における勤労者と異なるものがあることを看過することはできない。すなわち利潤追求が原則として自由とされる私企業においては、労働者側の利潤の分配要求の自由も当然に是認せられ、団体を結成して使用者と対等の立場において団体交渉をなし、賃金その他の労働条件を集団的に決定して協約を結び、もし交渉が妥結しないときは同盟罷業等を行なつて解決を図るという憲法二八条の保障する労働基本権の行使が何らの制約なく許されるのを原則としている。これに反し、公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。これを法制に即して見るに、公務員については、憲法自体がその73条4号において「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」は内閣の事務であると定め、その給与は法律により定められる給与準則に基づいてなされることを要し、これに基づかずにはいかなる金銭または有価物も支給することはできないとされており(国公法63条1項参照)、このように公務員の給与をはじめ、その他の勤務条件は、私企業の場合のごとく労使間の自由な交渉に基づく合意によつて定められるものではなく、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によつて定められることとなつているのである。その場合、使用者としての政府にいかなる範囲の決定権を委任するかは、まさに国会みずからが立法をもつて定めるべき労働政策の問題である。したがつて、これら公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行なうことは、的はずれであつて正常なものとはいいがたく、もしこのような制度上の制約にもかかわらず公務員による争議行為が行なわれるならば、使用者としての政府によつては解決できない立法問題に逢着せざるをえないこととなり、ひいては民主的に行なわれるべき公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなつて、憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法41条、83条等参照)に背馳し、国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。
さらに、私企業の場合と対比すると、私企業においては、極めて公益性の強い特殊のものを除き、一般に使用者にはいわゆる作業所閉鎖(ロツクアウト)をもつて争議行為に対抗する手段があるばかりでなく、労働者の過大な要求を容れることは、企業の経営を悪化させ、企業そのものの存立を危殆ならしめ、ひいては労働者自身の失業を招くという重大な結果をもたらすことともなるのであるから、労働者の要求はおのずからその面よりの制約を免れず、ここにも私企業の労働者の争議行為と公務員のそれとを一律同様に考えることのできない理由の一が存するのである。また、一般の私企業においては、その提供する製品または役務に対する需給につき、市場からの圧力を受けざるをえない関係上、争議行為に対しても、いわゆる市場の抑制力が働くことを必然とするのに反し、公務員の場合には、そのような市場の機能が作用する余地がないため、公務員の争議行為は場合によつては一方的に強力な圧力となり、この面からも公務員の勤務条件決定の手続をゆがめることとなるのである。
… 以上のように、公務員の争議行為は、公務員の地位の特殊性と勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地から、一般私企業におけるとは異なる制約に服すべきものとなしうることは当然であり、また、このことは、国際的視野に立つても肯定されているところなのである。
(二)しかしながら、前述のように、公務員についても憲法によつてその労働基本権が保障される以上、この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすることは、憲法の趣意であると解されるのであるから、その労働基本権を制限するにあたつては、これに代わる相応の措置が講じられなければならない。そこで、わが法制上の公務員の勤務関係における具体的措置が果して憲法の要請に添うものかどうかについて検討を加えてみるに、
(イ) 公務員たる職員は、後記のように法定の勤務条件を享受し、かつ、法律等による身分保障を受けながらも、特殊の公務員を除き、一般に、その勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体を結成すること、結成された職員団体に加入し、または加入しないことの自由を保有し(国公法98条2項、前記改正後の国家公務員法(以下、単に改正国公法という。)108条の2第3項)、さらに、当局は、登録された職員団体から職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、およびこれに付帯して一定の事項に関し、交渉の申入れを受けた場合には、これに応ずべき地位に立つ(国公法98条2項、改正国公法108条の5第1項)ものとされているのであるから、私企業におけるような団体協約を締結する権利は認められないとはいえ、原則的にはいわゆる交渉権が認められており、しかも職員は、右のように、職員団体の構成員であること、これを結成しようとしたこと、もしくはこれに加入しようとしたことはもとより、その職員団体における正当な行為をしたことのために当局から不利益な取扱いを受けることがなく(国公法98条3項、改正国公法108条の7)、また、職員は、職員団体に属していないという理由で、交渉事項に関して不満を表明し、あるいは意見を申し出る自由を否定されないこととされている(国公法98条2項、改正国公法108条の5第9項)。ただ、職員は、前記のように、その地位の特殊性と職務の公共性とにかんがみ、国公法98条5項(改正国公法98条2項)により、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為または政府の活動能率を低下させる怠業的行為をすることを禁止され、また、何人たるを問わず、かかる違法な行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、もしくはあおつてはならないとされている。そしてこの禁止規定に違反した職員は、国に対し国公法その他に基づいて保有する任命または雇用上の権利を主張できないなど行政上の不利益を受けるのを免れない(国公法98条6項、改正国公法98条3項)。しかし、その中でも、単にかかる争議行為に参加したにすぎない職員については罰則はなく、争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、もしくはあおり、またはこれらの行為を企てた者についてだけ罰則が設けられているのにとどまるのである(国公法、改正国公法各110条1項17号)。
以上の関係法規から見ると、労働基本権につき前記のような当然の制約を受ける公務員に対しても、法は、国民全体の共同利益を維持増進することとの均衡を考慮しつつ、その労働基本権を尊重し、これに対する制約、とくに罰則を設けることを、最少限度にとどめようとしている態度をとつているものと解することができる。そして、この趣旨は、いわゆる全逓中郵事件判決の多数意見においても指摘されたところである(昭和39年(あ)第296号同41年10月26日大法廷判決・刑集20巻8号912頁参照)。
(ロ) このように、その争議行為等が、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受ける公務員に対しても、その生存権保障の趣旨から、法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている。ことに公務員は、法律によつて定められる給与準則に基づいて給与を受け、その給与準則には俸給表のほか法定の事項が規定される等、いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであつて、人事院は、公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会および内閣に対し勧告または報告を義務づけられている。そして、公務員たる職員は、個別的にまたは職員団体を通じて俸給、給料その他の勤務条件に関し、人事院に対しいわゆる行政措置要求をし、あるいはまた、もし不利益な処分を受けたときは、人事院に対し審査請求をする途も開かれているのである。このように、公務員は、労働基本権に対する制限の代償として、制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けているのである。
(三) 以上に説明したとおり、公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、国公法98条5項がかかる公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべきであつて、憲法28条に違反するものではないといわなければならない。」
②「次に、国公法110条1項17号は、公務員の争議行為による業務の停廃が広く国民全体の共同利益に重大な障害をもたらす虞れのあることを考慮し、公務員たると否とを問わず、何人であつてもかかる違法な争議行為の原動力または支柱としての役割を演じた場合については、そのことを理由として罰則を規定しているのである。すなわち、前述のように、公務員の争議行為の禁止は、憲法に違反することはないのであるから、何人であつても、この禁止を侵す違法な争議行為をあおる等の行為をする者は、違法な争議行為に対する原動力を与える者として、単なる争議参加者にくらべて社会的責任が重いのであり、また争議行為の開始ないしはその遂行の原因を作るものであるから、かかるあおり等の行為者の責任を問い、かつ、違法な争議行為の防遏を図るため、その者に対しとくに処罰の必要性を認めて罰則を設けることは、十分に合理性があるものということができる。したがつて、国公法110条1項17号は、憲法18条、憲法28条に違反するものとはとうてい考えることができない。」
判旨:①「憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」、すなわちいわゆる労働基本権を保障している。この労働基本権の保障は、憲法25条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法27条の勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と相まつて勤労者の経済的地位の向上を目的とするものである。このような労働基本権の根本精神に即して考えると、公務員は、私企業の労働者とは異なり、使用者との合意によつて賃金その他の労働条件が決定される立場にないとはいえ、勤労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。ただ、この労働基本権は、右のように、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであつて、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、このことは、憲法13条の規定の趣旨に徴しても疑いのないところである(この場合、憲法13条にいう「公共の福祉」とは、勤労者たる地位にあるすべての者を包摂した国民全体の共同の利益を指すものということができよう。)。以下、この理を、さしあたり、本件において問題となつている非現業の国家公務員(非現業の国家公務員を以下単に公務員という。)について詳述すれば、次のとおりである。
(一) 公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものであるが、憲法15条の示すとおり、実質的には、その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである。もとよりこのことだけの理由から公務員に対して団結権をはじめその他一切の労働基本権を否定することは許されないのであるが、公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として公務員の労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきである。けだし、公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果すことが必要不可欠であつて、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがあるからである。
次に公務員の勤務条件の決定については、私企業における勤労者と異なるものがあることを看過することはできない。すなわち利潤追求が原則として自由とされる私企業においては、労働者側の利潤の分配要求の自由も当然に是認せられ、団体を結成して使用者と対等の立場において団体交渉をなし、賃金その他の労働条件を集団的に決定して協約を結び、もし交渉が妥結しないときは同盟罷業等を行なつて解決を図るという憲法二八条の保障する労働基本権の行使が何らの制約なく許されるのを原則としている。これに反し、公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。これを法制に即して見るに、公務員については、憲法自体がその73条4号において「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」は内閣の事務であると定め、その給与は法律により定められる給与準則に基づいてなされることを要し、これに基づかずにはいかなる金銭または有価物も支給することはできないとされており(国公法63条1項参照)、このように公務員の給与をはじめ、その他の勤務条件は、私企業の場合のごとく労使間の自由な交渉に基づく合意によつて定められるものではなく、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によつて定められることとなつているのである。その場合、使用者としての政府にいかなる範囲の決定権を委任するかは、まさに国会みずからが立法をもつて定めるべき労働政策の問題である。したがつて、これら公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行なうことは、的はずれであつて正常なものとはいいがたく、もしこのような制度上の制約にもかかわらず公務員による争議行為が行なわれるならば、使用者としての政府によつては解決できない立法問題に逢着せざるをえないこととなり、ひいては民主的に行なわれるべき公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなつて、憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法41条、83条等参照)に背馳し、国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。
さらに、私企業の場合と対比すると、私企業においては、極めて公益性の強い特殊のものを除き、一般に使用者にはいわゆる作業所閉鎖(ロツクアウト)をもつて争議行為に対抗する手段があるばかりでなく、労働者の過大な要求を容れることは、企業の経営を悪化させ、企業そのものの存立を危殆ならしめ、ひいては労働者自身の失業を招くという重大な結果をもたらすことともなるのであるから、労働者の要求はおのずからその面よりの制約を免れず、ここにも私企業の労働者の争議行為と公務員のそれとを一律同様に考えることのできない理由の一が存するのである。また、一般の私企業においては、その提供する製品または役務に対する需給につき、市場からの圧力を受けざるをえない関係上、争議行為に対しても、いわゆる市場の抑制力が働くことを必然とするのに反し、公務員の場合には、そのような市場の機能が作用する余地がないため、公務員の争議行為は場合によつては一方的に強力な圧力となり、この面からも公務員の勤務条件決定の手続をゆがめることとなるのである。
… 以上のように、公務員の争議行為は、公務員の地位の特殊性と勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地から、一般私企業におけるとは異なる制約に服すべきものとなしうることは当然であり、また、このことは、国際的視野に立つても肯定されているところなのである。
(二)しかしながら、前述のように、公務員についても憲法によつてその労働基本権が保障される以上、この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすることは、憲法の趣意であると解されるのであるから、その労働基本権を制限するにあたつては、これに代わる相応の措置が講じられなければならない。そこで、わが法制上の公務員の勤務関係における具体的措置が果して憲法の要請に添うものかどうかについて検討を加えてみるに、
(イ) 公務員たる職員は、後記のように法定の勤務条件を享受し、かつ、法律等による身分保障を受けながらも、特殊の公務員を除き、一般に、その勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体を結成すること、結成された職員団体に加入し、または加入しないことの自由を保有し(国公法98条2項、前記改正後の国家公務員法(以下、単に改正国公法という。)108条の2第3項)、さらに、当局は、登録された職員団体から職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、およびこれに付帯して一定の事項に関し、交渉の申入れを受けた場合には、これに応ずべき地位に立つ(国公法98条2項、改正国公法108条の5第1項)ものとされているのであるから、私企業におけるような団体協約を締結する権利は認められないとはいえ、原則的にはいわゆる交渉権が認められており、しかも職員は、右のように、職員団体の構成員であること、これを結成しようとしたこと、もしくはこれに加入しようとしたことはもとより、その職員団体における正当な行為をしたことのために当局から不利益な取扱いを受けることがなく(国公法98条3項、改正国公法108条の7)、また、職員は、職員団体に属していないという理由で、交渉事項に関して不満を表明し、あるいは意見を申し出る自由を否定されないこととされている(国公法98条2項、改正国公法108条の5第9項)。ただ、職員は、前記のように、その地位の特殊性と職務の公共性とにかんがみ、国公法98条5項(改正国公法98条2項)により、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為または政府の活動能率を低下させる怠業的行為をすることを禁止され、また、何人たるを問わず、かかる違法な行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、もしくはあおつてはならないとされている。そしてこの禁止規定に違反した職員は、国に対し国公法その他に基づいて保有する任命または雇用上の権利を主張できないなど行政上の不利益を受けるのを免れない(国公法98条6項、改正国公法98条3項)。しかし、その中でも、単にかかる争議行為に参加したにすぎない職員については罰則はなく、争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、もしくはあおり、またはこれらの行為を企てた者についてだけ罰則が設けられているのにとどまるのである(国公法、改正国公法各110条1項17号)。
以上の関係法規から見ると、労働基本権につき前記のような当然の制約を受ける公務員に対しても、法は、国民全体の共同利益を維持増進することとの均衡を考慮しつつ、その労働基本権を尊重し、これに対する制約、とくに罰則を設けることを、最少限度にとどめようとしている態度をとつているものと解することができる。そして、この趣旨は、いわゆる全逓中郵事件判決の多数意見においても指摘されたところである(昭和39年(あ)第296号同41年10月26日大法廷判決・刑集20巻8号912頁参照)。
(ロ) このように、その争議行為等が、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受ける公務員に対しても、その生存権保障の趣旨から、法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている。ことに公務員は、法律によつて定められる給与準則に基づいて給与を受け、その給与準則には俸給表のほか法定の事項が規定される等、いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであつて、人事院は、公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会および内閣に対し勧告または報告を義務づけられている。そして、公務員たる職員は、個別的にまたは職員団体を通じて俸給、給料その他の勤務条件に関し、人事院に対しいわゆる行政措置要求をし、あるいはまた、もし不利益な処分を受けたときは、人事院に対し審査請求をする途も開かれているのである。このように、公務員は、労働基本権に対する制限の代償として、制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けているのである。
(三) 以上に説明したとおり、公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、国公法98条5項がかかる公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべきであつて、憲法28条に違反するものではないといわなければならない。」
②「次に、国公法110条1項17号は、公務員の争議行為による業務の停廃が広く国民全体の共同利益に重大な障害をもたらす虞れのあることを考慮し、公務員たると否とを問わず、何人であつてもかかる違法な争議行為の原動力または支柱としての役割を演じた場合については、そのことを理由として罰則を規定しているのである。すなわち、前述のように、公務員の争議行為の禁止は、憲法に違反することはないのであるから、何人であつても、この禁止を侵す違法な争議行為をあおる等の行為をする者は、違法な争議行為に対する原動力を与える者として、単なる争議参加者にくらべて社会的責任が重いのであり、また争議行為の開始ないしはその遂行の原因を作るものであるから、かかるあおり等の行為者の責任を問い、かつ、違法な争議行為の防遏を図るため、その者に対しとくに処罰の必要性を認めて罰則を設けることは、十分に合理性があるものということができる。したがつて、国公法110条1項17号は、憲法18条、憲法28条に違反するものとはとうてい考えることができない。」
③「さらに、憲法21条との関係を見るに、原判決が罪となるべき事実として確定したところによれば、被告人らは、いずれも農林省職員をもつて組織する全農林労働組合の役員であつたところ、昭和33年10月8日内閣が警察官職務執行法(以下、警職法という)の一部を改正する法律案を衆議院に提出するや、これに反対する第四次統一行動の一環として、原判示第一の所為のほか、同第二のとおり、同年11月5日午前9時ころから同11時40分ころまでの間、農林省の職員に対し、同省正面玄関前の「警職法改悪反対」職場大会に参加するよう説得、慫慂したというのであるから、被告人らの所為ならびにそのあおつた争議行為すなわち農林省職員の職場離脱による右職場大会は、警職法改正反対という政治的目的のためになされたものというべきである。
ところで、憲法21条の保障する表現の自由といえども、もともと国民の無制約な恣意のままに許されるものではなく、公共の福祉に反する場合には合理的な制限を加えうるものと解すべきところ…、とくに勤労者なるがゆえに、本来経済的地位向上のための手段として認められた争議行為をその政治的主張貫徹のための手段として使用しうる特権をもつものとはいえないから、かかる争議行為が表現の自由として特別に保障されるということは、本来ありえないものというべきである。そして、前記のように、公務員は、もともと合憲である法律によつて争議行為をすること自体が禁止されているのであるから、勤労者たる公務員は、かかる政治的目的のために争議行為をすることは、二重の意味で許されないものといわなければならない。してみると、このような禁止された公務員の違法な争議行為をあおる等の行為をあえてすることは、それ自体がたとえ思想の表現たるの一面をもつとしても、公共の利益のために勤務する公務員の重大な義務の懈怠を慫慂するにほかならないのであつて、結局、国民全体の共同利益に重大な障害をもたらす虞れがあるものであり、憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱するものというべきである。したがつて、あおり等の行為を処罰すべきものとしている国公法110条1項17号は、憲法21条に違反するものということができない。」
④「原判決が「同法110条1項17号の『あおる』行為等の指導的行為は争議行為の原動力、支柱となるものであつて、その反社会性、反規範性等において争議の実行行為そのものより違法性が強いと解し得るのであるから、憲法違反となる結果を回避するため、とくに『あおる』行為等の概念を縮小解釈しなければならない必然性はなく、またその証拠も不十分である」としたうえ、同条項一七号所定の「指導的行為の違法性は、その目的、規模、手段方法(態様)、その他一切の付随的事情に照らし、刑罰法規一般の予定する違法性、すなわち可罰的違法性の程度に達しているものでなければならず、また、これらの指導的行為は、刑罰を科するに足る程度の反社会性、反規範性を具有するものに限る」旨判示し、何らいわゆる限定解釈をすることなく、被告人らの本件行為に対し国公法の右規定を適用していることは、所論のとおりである。これに対し、所論引用の大阪高等裁判所昭和43年3月29日判決、福岡高等裁判所昭和42年12月18日各判決、同裁判所昭和43年4月18日判決は、右国公法110条1項17号または地方公務員法61条4号については、あおり行為あるいはその対象となる争議行為またはその双方につき、限定的に解釈すべきものであるとの見解をとつており、そして、これらの判決は原判決に先だつて言い渡されたものであるから、原判決は、右各高等裁判所の判例と相反する判断をしたこととなり、その言渡当時においては、刑訴法405条3号後段に規定する、最高裁判所の判例がない場合に、控訴裁判所たる高等裁判所の判例に相反する判断をしたことになるといわなければならない。
しかしながら、国公法98条5項、110条1項17号の解釈に関して、公務員の争議行為等禁止の措置が違憲ではなく、また、争議行為をあおる等の行為に高度の反社会性があるとして罰則を設けることの合理性を肯認できることは前述のとおりであるから、公務員の行なう争議行為のうち、同法によつて違法とされるものとそうでないものとの区別を認め、さらに違法とされる争議行為にも違法性の強いものと弱いものとの区別を立て、あおり行為等の罪として刑事制裁を科されるのはそのうち違法性の強い争議行為に対するものに限るとし、あるいはまた、あおり行為等につき、争議行為の企画、共謀、説得、慫慂、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして、国公法上不処罰とされる争議行為自体と同一視し、かかるあおり等の行為自体の違法性の強弱または社会的許容性の有無を論ずることは、いずれも、とうてい是認することができない。けだし、いま、もし、国公法110条1項17号が、違法性の強い争議行為を違法性の強いまたは社会的許容性のない行為によりあおる等した場合に限つてこれに刑事制裁を科すべき趣旨であると解するときは、いうところの違法性の強弱の区別が元来はなはだ曖昧であるから刑事制裁を科しうる場合と科しえない場合との限界がすこぶる明確性を欠くこととなり、また同条項が争議行為に「通常随伴」し、これと同一視できる一体不可分のあおり等の行為を処罰の対象としていない趣旨と解することは、一般に争議行為が争議指導者の指令により開始され、打ち切られる現実を無視するばかりでなく、何ら労働基本権の保障を受けない第三者がした、このようなあおり等の行為までが処罰の対象から除外される結果となり、さらに、もしかかる第三者のしたあおり等の行為は、争議行為に「通常随伴」するものでないとしてその態様のいかんを問わずこれを処罰の対象とするものと解するときは、同一形態のあおり等をしながら公務員のしたものと第三者のしたものとの間に処罰上の差別を認めることとなつて、ただに法文の「何人たるを問わず」と規定するところに反するばかりでなく、衡平を失するものといわざるをえないからである。いずれにしても、このように不明確な限定解釈は、かえつて犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する憲法31条に違反する疑いすら存するものといわなければならない。
なお、公務員の団体行動とされるもののなかでも、その態様からして、実質が単なる規律違反としての評価を受けるにすぎないものについては、その煽動等の行為が国公法110条1項17号所定の罰則の構成要件に該当しないことはもちろんであり、また、右罰則の構成要件に該当する行為であつても、具体的事情のいかんによつては法秩序全体の精神に照らし許容されるものと認められるときは、刑法上違法性が阻却されることもありうることはいうまでもない。もし公務員中職種と職務内容の公共性の程度が弱く、その争議行為が国民全体の共同利益にさほどの障害を与えないものについて、争議行為を禁止し、あるいはそのあおり等の行為を処罰することの当を得ないものがあるとすれば、それらの行為に対する措置は、公務員たる地位を保有させることの可否とともに立法機関において慎重に考慮すべき立法問題であると考えられるのである。
いわゆる全司法仙台事件についての当裁判所の判決(昭和41年(あ)第1129号同44年4月2日大法廷判決・刑集23巻5号685頁)は、本判決において判示したところに抵触する限度で、変更を免れないものである。
そうであるとすれば、原判決が被告人らの前示行為につき国公法98条5項、110条1項17号を適用したことは結局正当であつて、これと異なる見解のもとに原判決に法令違反があるとする所論は採用することができず、また、この点に関する原審の判断と抵触する前記各高等裁判所の判例は、これを変更すべきものであつて、所論は、原判決破棄の理由とならない。」
ところで、憲法21条の保障する表現の自由といえども、もともと国民の無制約な恣意のままに許されるものではなく、公共の福祉に反する場合には合理的な制限を加えうるものと解すべきところ…、とくに勤労者なるがゆえに、本来経済的地位向上のための手段として認められた争議行為をその政治的主張貫徹のための手段として使用しうる特権をもつものとはいえないから、かかる争議行為が表現の自由として特別に保障されるということは、本来ありえないものというべきである。そして、前記のように、公務員は、もともと合憲である法律によつて争議行為をすること自体が禁止されているのであるから、勤労者たる公務員は、かかる政治的目的のために争議行為をすることは、二重の意味で許されないものといわなければならない。してみると、このような禁止された公務員の違法な争議行為をあおる等の行為をあえてすることは、それ自体がたとえ思想の表現たるの一面をもつとしても、公共の利益のために勤務する公務員の重大な義務の懈怠を慫慂するにほかならないのであつて、結局、国民全体の共同利益に重大な障害をもたらす虞れがあるものであり、憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱するものというべきである。したがつて、あおり等の行為を処罰すべきものとしている国公法110条1項17号は、憲法21条に違反するものということができない。」
④「原判決が「同法110条1項17号の『あおる』行為等の指導的行為は争議行為の原動力、支柱となるものであつて、その反社会性、反規範性等において争議の実行行為そのものより違法性が強いと解し得るのであるから、憲法違反となる結果を回避するため、とくに『あおる』行為等の概念を縮小解釈しなければならない必然性はなく、またその証拠も不十分である」としたうえ、同条項一七号所定の「指導的行為の違法性は、その目的、規模、手段方法(態様)、その他一切の付随的事情に照らし、刑罰法規一般の予定する違法性、すなわち可罰的違法性の程度に達しているものでなければならず、また、これらの指導的行為は、刑罰を科するに足る程度の反社会性、反規範性を具有するものに限る」旨判示し、何らいわゆる限定解釈をすることなく、被告人らの本件行為に対し国公法の右規定を適用していることは、所論のとおりである。これに対し、所論引用の大阪高等裁判所昭和43年3月29日判決、福岡高等裁判所昭和42年12月18日各判決、同裁判所昭和43年4月18日判決は、右国公法110条1項17号または地方公務員法61条4号については、あおり行為あるいはその対象となる争議行為またはその双方につき、限定的に解釈すべきものであるとの見解をとつており、そして、これらの判決は原判決に先だつて言い渡されたものであるから、原判決は、右各高等裁判所の判例と相反する判断をしたこととなり、その言渡当時においては、刑訴法405条3号後段に規定する、最高裁判所の判例がない場合に、控訴裁判所たる高等裁判所の判例に相反する判断をしたことになるといわなければならない。
しかしながら、国公法98条5項、110条1項17号の解釈に関して、公務員の争議行為等禁止の措置が違憲ではなく、また、争議行為をあおる等の行為に高度の反社会性があるとして罰則を設けることの合理性を肯認できることは前述のとおりであるから、公務員の行なう争議行為のうち、同法によつて違法とされるものとそうでないものとの区別を認め、さらに違法とされる争議行為にも違法性の強いものと弱いものとの区別を立て、あおり行為等の罪として刑事制裁を科されるのはそのうち違法性の強い争議行為に対するものに限るとし、あるいはまた、あおり行為等につき、争議行為の企画、共謀、説得、慫慂、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして、国公法上不処罰とされる争議行為自体と同一視し、かかるあおり等の行為自体の違法性の強弱または社会的許容性の有無を論ずることは、いずれも、とうてい是認することができない。けだし、いま、もし、国公法110条1項17号が、違法性の強い争議行為を違法性の強いまたは社会的許容性のない行為によりあおる等した場合に限つてこれに刑事制裁を科すべき趣旨であると解するときは、いうところの違法性の強弱の区別が元来はなはだ曖昧であるから刑事制裁を科しうる場合と科しえない場合との限界がすこぶる明確性を欠くこととなり、また同条項が争議行為に「通常随伴」し、これと同一視できる一体不可分のあおり等の行為を処罰の対象としていない趣旨と解することは、一般に争議行為が争議指導者の指令により開始され、打ち切られる現実を無視するばかりでなく、何ら労働基本権の保障を受けない第三者がした、このようなあおり等の行為までが処罰の対象から除外される結果となり、さらに、もしかかる第三者のしたあおり等の行為は、争議行為に「通常随伴」するものでないとしてその態様のいかんを問わずこれを処罰の対象とするものと解するときは、同一形態のあおり等をしながら公務員のしたものと第三者のしたものとの間に処罰上の差別を認めることとなつて、ただに法文の「何人たるを問わず」と規定するところに反するばかりでなく、衡平を失するものといわざるをえないからである。いずれにしても、このように不明確な限定解釈は、かえつて犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する憲法31条に違反する疑いすら存するものといわなければならない。
なお、公務員の団体行動とされるもののなかでも、その態様からして、実質が単なる規律違反としての評価を受けるにすぎないものについては、その煽動等の行為が国公法110条1項17号所定の罰則の構成要件に該当しないことはもちろんであり、また、右罰則の構成要件に該当する行為であつても、具体的事情のいかんによつては法秩序全体の精神に照らし許容されるものと認められるときは、刑法上違法性が阻却されることもありうることはいうまでもない。もし公務員中職種と職務内容の公共性の程度が弱く、その争議行為が国民全体の共同利益にさほどの障害を与えないものについて、争議行為を禁止し、あるいはそのあおり等の行為を処罰することの当を得ないものがあるとすれば、それらの行為に対する措置は、公務員たる地位を保有させることの可否とともに立法機関において慎重に考慮すべき立法問題であると考えられるのである。
いわゆる全司法仙台事件についての当裁判所の判決(昭和41年(あ)第1129号同44年4月2日大法廷判決・刑集23巻5号685頁)は、本判決において判示したところに抵触する限度で、変更を免れないものである。
そうであるとすれば、原判決が被告人らの前示行為につき国公法98条5項、110条1項17号を適用したことは結局正当であつて、これと異なる見解のもとに原判決に法令違反があるとする所論は採用することができず、また、この点に関する原審の判断と抵触する前記各高等裁判所の判例は、これを変更すべきものであつて、所論は、原判決破棄の理由とならない。」
過去問・解説
(H19 司法 第11問 エ)
国家公務員法の規制をめぐる全農林警職法事件(最大判昭和48年4月25日)において、最高裁判所は、全逓東京中郵事件判決を変更する旨述べ、「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」論、公務員の勤務条件に関する「財政民主主義」論を根拠にして、公務員の争議行為の一律禁止を合憲とした。
国家公務員法の規制をめぐる全農林警職法事件(最大判昭和48年4月25日)において、最高裁判所は、全逓東京中郵事件判決を変更する旨述べ、「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」論、公務員の勤務条件に関する「財政民主主義」論を根拠にして、公務員の争議行為の一律禁止を合憲とした。
(正答) ✕
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」を理由に、その「労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきである」とした。また、「公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。」として、公務員の勤務条件に関する「財政民主主義」論を根拠に、公務員の争議行為の一律禁止を合憲とした。しかし、同判決はあおり行為についての合憲限定解釈を否定したため、これにより変更されたのは合憲限定解釈をとった全司法仙台事件判決(最大判昭44.4.2)であり、全逓東京中郵事件判決(最大判昭41.10.26)ではない。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」を理由に、その「労働基本権に対し必要やむをえない限度の制限を加えることは、十分合理的な理由があるというべきである」とした。また、「公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。」として、公務員の勤務条件に関する「財政民主主義」論を根拠に、公務員の争議行為の一律禁止を合憲とした。しかし、同判決はあおり行為についての合憲限定解釈を否定したため、これにより変更されたのは合憲限定解釈をとった全司法仙台事件判決(最大判昭44.4.2)であり、全逓東京中郵事件判決(最大判昭41.10.26)ではない。
(H25 予備 第1問 ア)
国家公務員は、憲法において「全体の奉仕者」とされていることや、実質的にはその使用者が国民全体であることなどから、その人権についても、一定の制約に服することがあると解されている。
国家公務員は、憲法において「全体の奉仕者」とされていることや、実質的にはその使用者が国民全体であることなどから、その人権についても、一定の制約に服することがあると解されている。
(正答) 〇
(解説)
弘前機関区事件判決(最大判昭28.4.8)は、「国家公務員は、国民全体の奉仕者として(憲法15条)公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当つては全力を挙げてこれに専念しなければならない(国家公務員法96条1項)性質のものであるから、団結権団体交渉権等についても、一般の勤労者とは違つて特別の取扱を受けることがあるのは当然である」としている。また、全農林警職法事件(最大判昭48.4.25)は、「公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものであるが、憲法15条の示すとおり、実質的には、その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである」としている。そして、公務員の地位の特殊性と職務の公共性を理由として、その労働基本権について一定の制約を受けるとされた。
弘前機関区事件判決(最大判昭28.4.8)は、「国家公務員は、国民全体の奉仕者として(憲法15条)公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当つては全力を挙げてこれに専念しなければならない(国家公務員法96条1項)性質のものであるから、団結権団体交渉権等についても、一般の勤労者とは違つて特別の取扱を受けることがあるのは当然である」としている。また、全農林警職法事件(最大判昭48.4.25)は、「公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものであるが、憲法15条の示すとおり、実質的には、その使用者は国民全体であり、公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである」としている。そして、公務員の地位の特殊性と職務の公共性を理由として、その労働基本権について一定の制約を受けるとされた。
(H25 予備 第1問 イ)
国家公務員の労働関係は、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によって定められることなどから、争議行為を企てる行為や、これをあおる行為に対して刑罰を科すことは違憲ではないと解されている。
国家公務員の労働関係は、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によって定められることなどから、争議行為を企てる行為や、これをあおる行為に対して刑罰を科すことは違憲ではないと解されている。
(正答) 〇
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、・・・その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。」「公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行なうことは、的はずれであつて正常なものとはいいがたく、もしこのような制度上の制約にもかかわらず公務員による争議行為が行なわれるならば、使用者としての政府によつては解決できない立法問題に逢着せざるをえないこととなり、ひいては民主的に行なわれるべき公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなつて、憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法41条、83条等参照)に背馳し、国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。」として、公務員が政府に対して争議行為を行うことは議会制民主主義に反するとして、公務員がかかる行為または争議行為をあおる行為を行うことはできないとした。したがって、争議行為を企てる行為や、これをあおる行為に対して刑罰を科すことは違憲ではない。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、・・・その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。」「公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行なうことは、的はずれであつて正常なものとはいいがたく、もしこのような制度上の制約にもかかわらず公務員による争議行為が行なわれるならば、使用者としての政府によつては解決できない立法問題に逢着せざるをえないこととなり、ひいては民主的に行なわれるべき公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなつて、憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法41条、83条等参照)に背馳し、国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。」として、公務員が政府に対して争議行為を行うことは議会制民主主義に反するとして、公務員がかかる行為または争議行為をあおる行為を行うことはできないとした。したがって、争議行為を企てる行為や、これをあおる行為に対して刑罰を科すことは違憲ではない。
(H26 予備 第7問 ア)
国家公務員は、その地位の特殊性や職務の公共性に加え、勤労条件が法律・予算により定められており、人事院をはじめとする代償措置が講じられていることなどからすれば、その争議行為を全面的に禁止することは、やむを得ない制約である。
国家公務員は、その地位の特殊性や職務の公共性に加え、勤労条件が法律・予算により定められており、人事院をはじめとする代償措置が講じられていることなどからすれば、その争議行為を全面的に禁止することは、やむを得ない制約である。
(正答) 〇
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」に加えて、「公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。」として、また、「法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている」ことを理由として、争議行為を全面的に禁止することはやむを得ない制約として認めた。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「公務員の地位の特殊性と職務の公共性」に加えて、「公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。」として、また、「法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている」ことを理由として、争議行為を全面的に禁止することはやむを得ない制約として認めた。
(H26 予備 第7問 イ)
人事院勧告の実施が凍結され、労働基本権の制約の代償措置がその本来の機能を果たさず実際上画餅に等しいとみられる事態が生じた場合には、国家公務員がその正常な運用を要求して相当な手段態様で争議行為を行うことは、憲法上保障される。
人事院勧告の実施が凍結され、労働基本権の制約の代償措置がその本来の機能を果たさず実際上画餅に等しいとみられる事態が生じた場合には、国家公務員がその正常な運用を要求して相当な手段態様で争議行為を行うことは、憲法上保障される。
(正答) ✕
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている」ことを一つの理由として、争議行為を全面的に禁止することはやむを得ない制約として認めた。しかし、代償措置が本来の機能を果たさないときについて国家公務員が争議行為を行うことができるかどうかについては述べていない。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている」ことを一つの理由として、争議行為を全面的に禁止することはやむを得ない制約として認めた。しかし、代償措置が本来の機能を果たさないときについて国家公務員が争議行為を行うことができるかどうかについては述べていない。
(H28 共通 第9問 ア)
公務員の争議行為の制限は国民生活全体の利益を維持増進する必要との調和の見地から合理性の認められる必要最小限度のものでなければならず、職務の性質や違いを考慮することなく公務員の争議行為を一律に禁止することは憲法上許されないとするのが判例の立場である。
公務員の争議行為の制限は国民生活全体の利益を維持増進する必要との調和の見地から合理性の認められる必要最小限度のものでなければならず、職務の性質や違いを考慮することなく公務員の争議行為を一律に禁止することは憲法上許されないとするのが判例の立場である。
(正答) ✕
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)では、全司法仙台判決を変更して、「公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがあるからである」として、公務員の職務の性質や違いを考慮することなく公務員の争議行為を一律かつ全面的に禁止することは合憲であるとした。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)では、全司法仙台判決を変更して、「公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがあるからである」として、公務員の職務の性質や違いを考慮することなく公務員の争議行為を一律かつ全面的に禁止することは合憲であるとした。
(H30 司法 第9問 ウ)
判例は、労働基本権について、公務員にもその保障が及ぶとし、その制約の合憲性を判断する上で、職務の公共性は考慮されるべきではないとする一方、人事院が設けられていることなどの代替措置が整備されていることを重視して、一般私企業とは異なる制約に服するものとする。
判例は、労働基本権について、公務員にもその保障が及ぶとし、その制約の合憲性を判断する上で、職務の公共性は考慮されるべきではないとする一方、人事院が設けられていることなどの代替措置が整備されていることを重視して、一般私企業とは異なる制約に服するものとする。
(正答) ✕
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)では、「公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果すことが必要不可缺であつて、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがある」とした。すなわち、公務員の地位の特殊性および職務の公共性を理由として、公務員の基本労働権は一定の制約をうけるとした。したがって、「制約の合憲性を判断する上で、職務の公共性は考慮されるべきではない」とする点で、本肢は誤っている。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)では、「公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果すことが必要不可缺であつて、公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性および職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはその虞れがある」とした。すなわち、公務員の地位の特殊性および職務の公共性を理由として、公務員の基本労働権は一定の制約をうけるとした。したがって、「制約の合憲性を判断する上で、職務の公共性は考慮されるべきではない」とする点で、本肢は誤っている。
(R4 司法 第1問 ウ)
労働基本権は、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであって、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、憲法第13条のいう公共の福祉のための制約を受けるほか、公務員の争議行為の禁止の場合のように、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を受ける。
労働基本権は、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであって、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、憲法第13条のいう公共の福祉のための制約を受けるほか、公務員の争議行為の禁止の場合のように、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を受ける。
(正答) ✕
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべき」としつつ、「労働基本権は、右のように、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであつて、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、このことは、憲法13条の規定の趣旨に徴しても疑いのないところである」とした。すなわち、憲法13条のいう公共の福祉のための制約を受けるとは別に、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を受けると捉えているのではなく、13条による制約の中に、国民全体の共同利益の見地からする制約が含まれていると捉えている。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべき」としつつ、「労働基本権は、右のように、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであつて、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、このことは、憲法13条の規定の趣旨に徴しても疑いのないところである」とした。すなわち、憲法13条のいう公共の福祉のための制約を受けるとは別に、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を受けると捉えているのではなく、13条による制約の中に、国民全体の共同利益の見地からする制約が含まれていると捉えている。
(R5 司法 第8問 ウ)
憲法第28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶが、国家公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられていることなどからすれば、法律により国家公務員の争議行為を禁止することは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするとやむを得ない制約というべきであって、憲法第28条に違反しない。
憲法第28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶが、国家公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられていることなどからすれば、法律により国家公務員の争議行為を禁止することは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするとやむを得ない制約というべきであって、憲法第28条に違反しない。
(正答) 〇
(解説)
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべき」としつつ、「公務員の地位の特殊性および職務の公共性」を理由として、公務員の基本労働権は一定の制約をうけるとした。さらに、「法は、…制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている」ことから、公務員の争議行為を禁止することは「勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべき」とした。
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)は、「憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべき」としつつ、「公務員の地位の特殊性および職務の公共性」を理由として、公務員の基本労働権は一定の制約をうけるとした。さらに、「法は、…制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている」ことから、公務員の争議行為を禁止することは「勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべき」とした。