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憲法 箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟 最三小判平成5年2月16日
概要
①市が忠魂碑の存する公有地の代替地を買い受けて右忠魂碑の移設・再建をした行為及び右忠魂碑を維持管理する地元の戦没者遺族会に対しその敷地として右代替地を無償貸与した行為は、「宗教的活動」に当たらないから、憲法20条3項に違反しない。
②財団法人日本遺族会及びその支部遺族会は「宗教団体」及び「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないから、①の行為は、憲法20条1項後段及び憲法89条前段にも違反しない。
②財団法人日本遺族会及びその支部遺族会は「宗教団体」及び「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないから、①の行為は、憲法20条1項後段及び憲法89条前段にも違反しない。
判例
事案:箕面市は、小学校の増改築工事に伴い、同校庭にあった市遺族会の所有管理する忠魂碑を移転する必要ができたため、1975年(昭和50年)、7,882万円余りで土地を購入し、そこに忠魂碑を移設するとともに、同土地を市遺族会に無償貸与した。市遺族会に対する市有地の無償貸与について憲法20条3項・20条1項後段・89条前段違反が問題となった。
判旨:①「右政教分離原則の意義に照らすと、憲法20条3項にいう宗教的活動とは、およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきであり、ある行為が右にいう宗教的活動に該当するか否かを検討するに当たっては、当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に従ったものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならないものである。
…(1)旧忠魂碑は、地元の人々が郷土出身の戦没者の慰霊、顕彰のために設けたもので、元来、戦没者記念碑的な性格のものであり、本件移設・再建後の本件忠魂碑も同様の性格を有するとみられるものであって、その碑前で、戦没者の慰霊、追悼のための慰霊祭が、毎年一回、市遺族会の下部組織である地区遺族会主催の下に神式、仏式隔年交替で行われているが、本件忠魂碑と神道等の特定の宗教とのかかわりは、少なくとも戦後においては希薄であり、本件忠魂碑を靖国神社又は護国神社の分身(いわゆる「村の靖国」)とみることはできないこと、(2)本件忠魂碑を所有し、これを維持管理している市遺族会は、箕面市内に居住する戦没者遺族を会員とし、戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的として設立され活動している団体であって、宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではないこと、(3)旧忠魂碑は、戦後の一時期、その碑石部分が地中に埋められたことがあったが、大正5年に分会が箕面村の承諾を得て公有地上に設置して以来、右公有地上に存続してきたものであって、箕面市がした本件移設・再建等の行為は、右公有地に隣接する箕面小学校における児童数の増加、校舎の老朽化等により校舎の建替え等を行うことが急務となり、そのために右公有地を学校敷地に編入する必要が生じ、旧忠魂碑を他の場所に移設せざるを得なくなったことから、市遺族会との交渉の結果に基づき、箕面市土地開発公社から本件土地を買い受け、従前と同様、本件敷地を代替地として市遺族会に対し無償貸与し、右敷地上に移設、再建したにすぎないものであることが明らかである。これらの諸点にかんがみると、箕面市が旧忠魂碑ないし本件忠魂碑に関してした次の各行為、すなわち、旧忠魂碑を本件敷地上に移設、再建するため右公社から本件土地を代替地として買受けた行為(本件売買)、旧忠魂碑を本件敷地上に移設、再建した行為(本件移設・再建)、市遺族会に対し、本件忠魂碑の敷地として本件敷地を無償貸与した行為(本件貸与)は、いずれも、その目的は、小学校の校舎の建替え等のため、公有地上に存する戦没者記念碑的な性格を有する施設を他の場所に移設し、その敷地を学校用地として利用することを主眼とするものであり、そのための方策として、右施設を維持管理する市遺族会に対し、右施設の移設場所として代替地を取得して、従来どおり、これを右施設の敷地等として無償で提供し、右施設の移設、再建を行ったものであって、専ら世俗的なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。したがって、箕面市の右各行為は、宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないと解するのが相当である。」
②「憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり、また、当該組織ないし団体の使用、便益若しくは維持のため、公金その他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になり、憲法上の政教分離原則に反すると解されるものをいうのであり、換言すると、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である。
…財団法人日本遺族会及びその支部である市遺族会、地区遺族会は、いずれも、戦没者遺族の相互扶助・福社向上と英霊の顕彰を主たる目的として設立され活動している団体であって、その事業の一つである英霊顕彰事業として、政府主催の遺骨収集、外地戦跡の慰霊巡拝、全国戦没者追悼式等への参加、協力などの活動のほか、神式又は仏式による慰霊祭の挙行、靖国神社の参拝等の宗教的色彩を帯びた行事をも実施し、靖国神社国家護持の推進運動にも参画しているが、右行事の実施及び右運動への参画は、会の本来の目的として、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行おうとするものではなく、その会員が戦没者の遺族であることにかんがみ、戦没者の慰霊、追悼、顕彰のための右行事等を行うことが、会員の要望に沿うものであるとして行われていることが明らかである。これらの諸点を考慮すると、財団法人日本遺族会及びその支部である市遺族会、地区遺族会は、いずれも、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないものと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違憲、違法はない。」
過去問・解説
(H21 司法 第7問 ウ)
憲法第20条第1項後段にいう「宗教団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指す。したがって、例えば戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的とする団体が行う宗教的行事に対し、ある市が援助を与えたとしても、その援助は目的効果基準を用いるまでもなく合憲である。
憲法第20条第1項後段にいう「宗教団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指す。したがって、例えば戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的とする団体が行う宗教的行事に対し、ある市が援助を与えたとしても、その援助は目的効果基準を用いるまでもなく合憲である。
(正答) ✕
(解説)
箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟判決(最判平5.2.16)は、「憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、…特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である。」とた上で、「財団法人日本遺族会及びその支部である市遺族会、地区遺族会は、いずれも、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないものと解するのが相当である。」として、市が遺族会に対して財政的援助をしたことについて、目的効果基準を用いるまでもなく、憲法20条1項後段及び憲法89条前段に違反しないとしている。
しかし、本判決は、同じ係争行為について、宗教とのかかわり合いをもつ行為であることを前提として、「その目的は、…専ら世俗的なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。したがって、箕面市の右各行為は、宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないと解するのが相当である。」として、目的効果基準を用いて憲法20条3項に違反しないと結論付けている。
箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟判決(最判平5.2.16)は、「憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、…特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である。」とた上で、「財団法人日本遺族会及びその支部である市遺族会、地区遺族会は、いずれも、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないものと解するのが相当である。」として、市が遺族会に対して財政的援助をしたことについて、目的効果基準を用いるまでもなく、憲法20条1項後段及び憲法89条前段に違反しないとしている。
しかし、本判決は、同じ係争行為について、宗教とのかかわり合いをもつ行為であることを前提として、「その目的は、…専ら世俗的なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。したがって、箕面市の右各行為は、宗教とのかかわり合いの程度が我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないと解するのが相当である。」として、目的効果基準を用いて憲法20条3項に違反しないと結論付けている。