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憲法 長良川事件 最二小判平成15年3月14日
概要
①少年法61条が禁止しているいわゆる推知報道に当たるか否かは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきである。
②名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるとき、又は真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しない。
③プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する。
②名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるとき、又は真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しない。
③プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する。
判例
事案:Xは、成人又は当時18歳、19歳の少年らと共謀の上、連続して犯した殺人、強盗殺人、死体遺棄等の刑事事件により起訴された。「週刊文春」と題する週刊誌を発行するYは、当該事件を題材に週刊誌に記事を掲載したところ、XがYに対して名誉毀損及びプライバシー侵害を理由に不法行為に基づく損害賠償を求めて訴えを提起した。
判旨:「原判決は、本件記事によるXの被侵害利益を、(ア) 名誉、プライバシーであるとして、Yの不法行為責任を認めたのか、これらの権利に加えて 、(イ) 原審が少年法61条によって保護されるとする「少年の成長発達過程において健全に成長するための権利」をも被侵害利益であるとして上記結論を導いたのか、その判文からは必ずしも判然としない。しかし、Xは、原審において、本件記事による被侵害利益を、上記(ア)の権利、すなわちXの名誉、プライバシーである旨を一貫して主張し、(イ)の権利を被侵害利益としては主張していないことは、記録上明らかである。このような原審における審理の経過にかんがみると、当審としては、原審が上記(ア)の権利の侵害を理由に前記結論を下したものであることを前提として、審理判断をすべきものと考えられる。
Xは、本件記事によって、ZがXであると推知し得る読者に対し、Xが起訴事実に係る罪を犯した事件本人であること(以下「犯人情報」という。)及び経歴や交友関係等の詳細な情報(以下「履歴情報」という。)を公表されたことにより、名誉を毀損され、プライバシーを侵害されたと主張しているところ、本件記事に記載された犯人情報及び履歴情報は、いずれもXの名誉を毀損する情報であり、また、他人にみだりに知られたくないXのプライバシーに属する情報であるというべきである。そして、Xと面識があり、又は犯人情報あるいはXの履歴情報を知る者は、その知識を手がかりに本件記事がXに関する記事であると推知することが可能であり、本件記事の読者の中にこれらの者が存在した可能性を否定することはできない。そして、これらの読者の中に、本件記事を読んで初めて、Xについてのそれまで知っていた以上の犯人情報や履歴情報を知った者がいた可能性も否定することはできない。したがって、Yの本件記事の掲載行為は、Xの名誉を毀損し、プライバシーを侵害するものであるとした原審の判断は、その限りにおいて是認することができる。なお、…少年法61条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきところ、本件記事は、Xについて、当時の実名と類似する仮名が用いられ、その経歴等が記載されているものの、Xと特定するに足りる事項の記載はないから、Xと面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、Xが当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。したがって、本件記事は、少年法61条の規定に違反するものではない。」
ところで、本件記事がXの名誉を毀損し、プライバシーを侵害する内容を含むものとしても、本件記事の掲載によってYに不法行為が成立するか否かは、被侵害利益ごとに違法性阻却事由の有無等を審理し、個別具体的に判断すべきものである。すなわち、名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるとき、又は真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しないのであるから、…本件においても、これらの点を個別具体的に検討することが必要である。また、プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するのであるから…、本件記事が週刊誌に掲載された当時のXの年齢や社会的地位、当該犯罪行為の内容、これらが公表されることによってXのプライバシーに属する情報が伝達される範囲とXが被る具体的被害の程度、本件記事の目的や意義、公表時の社会的状況、本件記事において当該情報を公表する必要性など、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要である。」
判旨:「原判決は、本件記事によるXの被侵害利益を、(ア) 名誉、プライバシーであるとして、Yの不法行為責任を認めたのか、これらの権利に加えて 、(イ) 原審が少年法61条によって保護されるとする「少年の成長発達過程において健全に成長するための権利」をも被侵害利益であるとして上記結論を導いたのか、その判文からは必ずしも判然としない。しかし、Xは、原審において、本件記事による被侵害利益を、上記(ア)の権利、すなわちXの名誉、プライバシーである旨を一貫して主張し、(イ)の権利を被侵害利益としては主張していないことは、記録上明らかである。このような原審における審理の経過にかんがみると、当審としては、原審が上記(ア)の権利の侵害を理由に前記結論を下したものであることを前提として、審理判断をすべきものと考えられる。
Xは、本件記事によって、ZがXであると推知し得る読者に対し、Xが起訴事実に係る罪を犯した事件本人であること(以下「犯人情報」という。)及び経歴や交友関係等の詳細な情報(以下「履歴情報」という。)を公表されたことにより、名誉を毀損され、プライバシーを侵害されたと主張しているところ、本件記事に記載された犯人情報及び履歴情報は、いずれもXの名誉を毀損する情報であり、また、他人にみだりに知られたくないXのプライバシーに属する情報であるというべきである。そして、Xと面識があり、又は犯人情報あるいはXの履歴情報を知る者は、その知識を手がかりに本件記事がXに関する記事であると推知することが可能であり、本件記事の読者の中にこれらの者が存在した可能性を否定することはできない。そして、これらの読者の中に、本件記事を読んで初めて、Xについてのそれまで知っていた以上の犯人情報や履歴情報を知った者がいた可能性も否定することはできない。したがって、Yの本件記事の掲載行為は、Xの名誉を毀損し、プライバシーを侵害するものであるとした原審の判断は、その限りにおいて是認することができる。なお、…少年法61条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべきところ、本件記事は、Xについて、当時の実名と類似する仮名が用いられ、その経歴等が記載されているものの、Xと特定するに足りる事項の記載はないから、Xと面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、Xが当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。したがって、本件記事は、少年法61条の規定に違反するものではない。」
ところで、本件記事がXの名誉を毀損し、プライバシーを侵害する内容を含むものとしても、本件記事の掲載によってYに不法行為が成立するか否かは、被侵害利益ごとに違法性阻却事由の有無等を審理し、個別具体的に判断すべきものである。すなわち、名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合において、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があるとき、又は真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しないのであるから、…本件においても、これらの点を個別具体的に検討することが必要である。また、プライバシーの侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立するのであるから…、本件記事が週刊誌に掲載された当時のXの年齢や社会的地位、当該犯罪行為の内容、これらが公表されることによってXのプライバシーに属する情報が伝達される範囲とXが被る具体的被害の程度、本件記事の目的や意義、公表時の社会的状況、本件記事において当該情報を公表する必要性など、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要である。」
過去問・解説
(H27 司法 第4問 ウ)
少年法61条が禁止する推知報道に該当するか否かは、少年と面識のある特定多数の者あるいは少年の生活基盤としてきた地域社会の不特定多数の者が、少年を当該事件の本人であると推知することができるかを基準にして判断すべきである。
少年法61条が禁止する推知報道に該当するか否かは、少年と面識のある特定多数の者あるいは少年の生活基盤としてきた地域社会の不特定多数の者が、少年を当該事件の本人であると推知することができるかを基準にして判断すべきである。
(正答) ✕
(解説)
長良川事件判決(最判平15.3.14)は、「少年法61条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべき」とした上で、「本件記事は、被上告人について、当時の実名と類似する仮名が用いられ、その経歴等が記載されているものの、被上告人と特定するに足りる事項の記載はないから、被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、被上告人が当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。」としており、「被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、被上告人が当該事件の本人であることを推知することができる」か否かを基準にしている。
したがって、本肢は、「少年と面識のある特定多数の者あるいは少年の生活基盤としてきた地域社会の不特定多数の者」を基準にしている点において、誤っている。
したがって、本肢は、「少年と面識のある特定多数の者あるいは少年の生活基盤としてきた地域社会の不特定多数の者」を基準にしている点において、誤っている。
(R5 司法 第3問 ウ)
少年法61条が禁止する推知報道に当たるか否かは、少年と面識のある特定多数の者あるいは少年が生活基盤としてきた地域社会の不特定多数の者ではなく、不特定多数の一般人が、当該事件報道記事等により、少年を当該事件の本人であると推知することができるかを基準にして判断すべきである。
少年法61条が禁止する推知報道に当たるか否かは、少年と面識のある特定多数の者あるいは少年が生活基盤としてきた地域社会の不特定多数の者ではなく、不特定多数の一般人が、当該事件報道記事等により、少年を当該事件の本人であると推知することができるかを基準にして判断すべきである。
(正答) 〇
(解説)
長良川事件判決(最判平15.3.14)は、「少年法61条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべき」とした上で、「本件記事は、被上告人について、当時の実名と類似する仮名が用いられ、その経歴等が記載されているものの、被上告人と特定するに足りる事項の記載はないから、被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、被上告人が当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。」としており、「被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、被上告人が当該事件の本人であることを推知することができる」か否かを基準にしている。
長良川事件判決(最判平15.3.14)は、「少年法61条に違反する推知報道かどうかは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知することができるかどうかを基準にして判断すべき」とした上で、「本件記事は、被上告人について、当時の実名と類似する仮名が用いられ、その経歴等が記載されているものの、被上告人と特定するに足りる事項の記載はないから、被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、被上告人が当該事件の本人であることを推知することができるとはいえない。」としており、「被上告人と面識等のない不特定多数の一般人が、本件記事により、被上告人が当該事件の本人であることを推知することができる」か否かを基準にしている。