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国家賠償制度(国家賠償法1条1項)

都道府県警察の警察官が交通犯罪の捜査において違法に他人に加えた損害について国家賠償責任を負う国家機関(国か都道府県か) 最三小判昭和54年7月10日

概要
都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき違法に他人に加えた損害について賠償責任を負うのは、原則として都道府県のみであり、国は、原則として国家賠償法1条1項による賠償責任を負わない。
判例
事案:都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うについて違法に他人に加えた損害について、国が国家賠償法1条1項による賠償責任を負うかが問題となった。

判旨:「都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合において国家賠償法1条1項によりその損害の賠償の責めに任ずるのは、原則として当該都道府県であり、国は原則としてその責めを負うものではない、と解するのが相当である。けだし、警察法及び地方自治法は、都道府県に都道府県警察を置き、警察の管理及び運営に関することを都道府県の処理すべき事務と定めている(警察法36条1項、地方自治法2条6項2号(昭和44年法律第2号による改正前は同条5項2号)等参照)ものと解されるから、都道府県警察の警察官が警察の責務の範囲に属する交通犯罪の捜査を行うこと(警察法2条1項参照)は、検察官が自ら行う犯罪の捜査の補助に係るものであるとき(刑訴法193条3項参照)のような例外的な場合を除いて、当該都道府県の公権力の行使にほかならないものとみるべきであるからである。都道府県警察の警察官の行う捜査が司法警察職員としての職務にあたるものであることは、前記警察法及び地方自治法の規定の趣旨にかんがみると、その捜査が国の事務にあたるものとすべき根拠とするには足りず、また、検察官の一般的指示権又は一般的指揮権(刑訴法193条1項、2項参照)は公訴の遂行を全うするため又は捜査の協力を求めるためにされるものであるにとどまるものと解すべきであるから、このような権限が国の公務員である検察官に認められているからといって、都道府県警察の警察官の行う捜査を国の公権力の行使であるとすることはできない。公権力を違法に行使した警察官が警視正以上の階級にある者ではない場合、その者の任免及びその者に対する指揮監督の権限が国家公安委員会によって任免され法制上国家公務員の身分を有する警視総監又は道府県警察本部長によって行使されるものであることは、所論の指摘するとおりであるが、右の権限は、都道府県警察の職員として都道府県に置かれる警視総監又は道府県警察本部長(地方自治法180条の9第2項、第4項、警察法48条、55条1項、2項等参照)が、都道府県公安委員会の管理の下にある都道府県警察(警察法38条1項、3項参照)の本部の長として、その所属の警察職員につき行使するもの(警察法48条、55条3項参照)にほかならないものというべく、したがって、所論指摘のことがあるからといって、前記のように都道府県の処理すべき事務にかかる警察の事務を都道府県警察の警察官において執行すること(警察法63条参照)自体までが国の公権力の行使にあたることになるものと解すべきではない。」
過去問・解説
(H26 共通 第36問 ア)
A県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合においては、A県だけではなく、原則として、国もまた、国家賠償法第1条第1項に基づいて損害賠償責任を負う。

(正答)

(解説)
判例(最判昭54.7.10)は、「都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合において国家賠償法1条1項によりその損害の賠償の責めに任ずるのは、原則として当該都道府県であり、国は原則としてその責めを負うものではない、と解するのが相当である。」としている。
したがって、本肢のような場合に責任を負うのは、A県のみであり、国は原則として国家賠償責任を負わない。
総合メモ

指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たるか 公立学校における教師の教育活動は「公権力の行使」に含まれるか 最二小判平成17年6月24日

概要
指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たる。
判例
事案:建築物の周辺に居住する者が、建築物が建築されることによって生命、身体の安全等が害されるなどと主張して、建築確認の取消しを求める訴えを提起したが、その後、建築物に関する完了検査が終了し、上記訴えの利益が消滅したことから、行政事件訴訟法21条1項の規定に基づいて、上記訴えを、本件確認の違法を原因とする損害賠償を求める訴えに変更することの許可を申し立てた事案において、当該公共団体が行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体」に当たるかが問題となった。

判旨:「建築基準法6条1項の規定は、建築主が同項1号から3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合においてはその計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて建築主事の確認を受けなければならない旨定めているところ、この規定は、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることを確保することが、住民の生命、健康及び財産の保護等住民の福祉の増進を図る役割を広く担う地方公共団体の責務であることに由来するものであって、同項の規定に基づく建築主事による確認に関する事務は、地方公共団体の事務であり(同法4条、地方自治法2条8項)、同事務の帰属する行政主体は、当該建築主事が置かれた地方公共団体である。そして、建築基準法は、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、指定確認検査機関の確認を受け、確認済証の交付を受けたときは、当該確認は建築主事の確認と、当該確認済証は建築主事の確認済証とみなす旨定めている(6条の2第1項)。また、同法は、指定確認検査機関が確認済証の交付をしたときはその旨を特定行政庁(建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいう。2条32号)に報告しなければならない旨定めた(6条の2第3項)上で、特定行政庁は、この報告を受けた場合において、指定確認検査機関の確認済証の交付を受けた建築物の計画が建築基準関係規定に適合しないと認めるときは、当該建築物の建築主及び当該確認済証を交付した指定確認検査機関にその旨を通知しなければならず、この場合において、当該確認済証はその効力を失う旨定めて(同条4項)、特定行政庁に対し、指定確認検査機関の確認を是正する権限を付与している。
 以上の建築基準法の定めからすると、同法は、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについての確認に関する事務を地方公共団体の事務とする前提に立った上で、指定確認検査機関をして、上記の確認に関する事務を特定行政庁の監督下において行わせることとしたということができる。そうすると、指定確認検査機関による確認に関する事務は、建築主事による確認に関する事務の場合と同様に、地方公共団体の事務であり、その事務の帰属する行政主体は、当該確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体であると解するのが相当である。
 したがって、指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の『当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体』に当たるというべきであって、抗告人は、本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たるということができる。」
過去問・解説
(H22 司法 第36問 エ)
株式会社Aは、建築基準法第6条の2第1項にいう指定を受けた指定確認検査機関であり、その従業員であるBを確認検査員に選任している。C市内に建築する計画の建築物について、Bの実施する確認(以下「本件確認」という。)がされ、同建築物に関する完了検査が終了したが、同建築物の周辺に居住するDは、同建築物が建築されたことによって生命、身体の安全等が害されたなどと主張している。なお、C市には建築主事が置かれている。
Dが、建築工事の着工前に本件確認の取消訴訟を提起していたが、建築物に関する完了検査終了後、これを国家賠償請求訴訟に訴えを変更するとした場合、C市は、行政事件訴訟法第21条第1項の「事務の帰属する国又は公共団体」に当たる。

【参照条文】建築基準法
第6条 建築主は、第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。(以下略)
2~15 (略)
第6条の2 前条第1項各号に掲げる建築物の計画(中略)が建築基準関係規定に適合するものであることについて、(中略)国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者の確認を受け、国土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは、当該確認は前条①の規定による確認と、当該確認済証は同項の確認済証とみなす。
2~12 (略)
第77条の24  指定確認検査機関は、確認検査を行うときは、確認検査員に確認検査を実施させなければならない。
2~4 (略)

(正答)

(解説)
判例(最判平17.6.24)は、「指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の『当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体』に当たるというべきであって、抗告人は、本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たるということができる。」としている。
したがって、C市は、行政事件訴訟法第21条第1項の「事務の帰属する…公共団体」に当たるといえる。
総合メモ

公立学校における教師の教育活動は「公権力の行使」に含まれるか 最二小判昭和62年2月6日

概要
国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる。
判例
事案:公立中学校の水泳の授業において大怪我を負った原告が、担当教諭の指導方法に問題があったとして提起した国家賠償請求訴訟において、公立学校における教師の教育活動が国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」にあたるかが問題となった。

判旨:「国家賠償法1条1項にいう『公権力の行使』には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当であ…る。」
過去問・解説
(H25 予備 第22問 ア)
国家賠償法第1条第1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭62.2.26)は、「国家賠償法1条1項にいう『公権力の行使』には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当であ…る。」としている。

(R4 予備 第23問 ア)
中学校における教師の教育活動は、当該学校が市立学校であるとしても、国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に該当しない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭62.2.26)は、「国家賠償法1条1項にいう『公権力の行使』には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当であ…る。」としている。
総合メモ

公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめたが具体的な加害行為を特定することができない場合 最一小判昭和57年4月1日

概要
国又は公共団体に属する1人又は数人の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよ、これによる被害につき専ら国又は当該公共団体が国家賠償法上又は民法上賠償責任を負うべき関係が存在するときは、国又は当該公共団体は、加害行為の不特定の故をもって右損害賠償責任を免れることはできない。
判例
事案:公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめたが具体的な加害行為を特定することができない場合において、国又は公共団体は国家賠償責任を負うかが問題となった。

判旨:「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができないと解するのが相当であり、原審の見解は、右と趣旨を同じくする限りにおいて不当とはいえない。しかしながら、この法理が肯定されるのは、それらの一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為にあたる場合に限られ、一部にこれに該当しない行為が含まれている場合には、もとより右の法理は妥当しないのである。」
過去問・解説
(H18 司法 第21問 ア)
同一の地方公共団体に属する公務員による一連の職務行為の過程において他人に損害を生じさせる事態が発生した場合、一連の行為のうちのいずれかに過失による違法行為があったのでなければ当該損害が生ずることはなかったと認められるときは、どの公務員のどのような違法行為によるものかが特定されなくても、当該地方公共団体は、その不特定を理由として損害賠償責任を免れることができない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.4.1)は、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができないと解するのが相当であ…る。」としている。
したがって、本肢のような場合、どの公務員のどのような違法行為によるものかが特定される必要はない。

(H22 司法 第37問 イ)
国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、当該一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ当該被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって損害賠償責任を免れることはできないと解されるが、この法理が肯定されるのは、それらの一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為に当たる場合に限られる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.4.1)は、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができないと解するのが相当であり、原審の見解は、右と趣旨を同じくする限りにおいて不当とはいえない。しかしながら、この法理が肯定されるのは、それらの一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為にあたる場合に限られ、一部にこれに該当しない行為が含まれている場合には、もとより右の法理は妥当しないのである。」としている。

(R1 予備 第23問 イ)
国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、それらの一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為に当たるときには、国又は公共団体は、加害行為が不特定であることを理由に国家賠償法上の損害賠償責任を免れることはできない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.4.1)は、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができないと解するのが相当であ…る。」としている。

(R5 予備 第23問 イ)
国の公権力の行使に当たる複数の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生じさせた場合であっても、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができないときは、国が、国家賠償法第1条第1項による損害賠償責任を負うことはない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.4.1)は、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法又は民法上の損害賠償責任を免れることができないと解するのが相当であ…る。」としている。
したがって、具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、国は国家賠償責任を負うことになる。
総合メモ

「公務員がその職務を行うについて」の判断基準(外形標準説) 最二小判昭和31年11月30日

概要
公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず、自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって他人に損害を加えたときは、国家賠償法1条にいう公務員が職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合にあたる。
判例
事案:公務員が自己の利をはかる意図をもって違法に他人に損害を加えた場合、国家賠償法1条1項にいう「その職務を行うについて」といえるかが問題となった。

判旨:「原判決は、その理由において、国家賠償法第1条の職務執行とは、その公務員が、その所為に出づる意図目的はともあれ、行為の外形において、職務執行と認め得べきものをもって、この場合の職務執行なりとするのほかないのであるとし、即ち、同条の適用を見るがためには、公務員が、主観的に権限行使の意思をもってした職務執行につき、違法に他人に損害を加えた場合に限るとの解釈を排斥し、本件において、梅津巡査がもっぱら自己の利をはかる目的で警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で、同人を射殺して、その目的をとげた、判示のごとき職権濫用の所為をもって、同条にいわゆる職務執行について違法に他人に損害を加えたときに該当するものと解したのであるが、同条に関する右の解釈は正当であるといわなければならない。けだし、同条は公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきであるからである。」
過去問・解説
(H18 司法 第21問 ウ)
国家賠償法第1条の「その職務を行うについて」に該当するためには、少なくとも公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合であることを要するから、公務員が私利私欲を図る意図をもって職権を濫用し、その結果他人に損害を与えたとしても、当該公務員個人の損害賠償責任が生ずるにとどまり、国又は公共団体が賠償責任を負うことはない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭31.11.30)は、「国家賠償法第1条の職務執行とは、その公務員が、その所為に出づる意図目的はともあれ、行為の外形において、職務執行と認め得べきものをもって、この場合の職務執行なりとするのほかないのであるとし、即ち、同条の適用を見るがためには、公務員が、主観的に権限行使の意思をもってした職務執行につき、違法に他人に損害を加えた場合に限るとの解釈を排斥し…巡査がもっぱら自己の利をはかる目的で警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で、同人を射殺して、その目的をとげた、判示のごとき職権濫用の所為をもって、同条にいわゆる職務執行について違法に他人に損害を加えたときに該当するもの…。」とした原審の判断を正当であるとした上で、「公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべき…である。」と理由づけている。
したがって、国又は公共団体も責任を負い得る。

(H25 予備 第22問 イ)
国家賠償法第1条第1項にいう「その職務を行うについて」に当たるのは、公務員が権限行使の意思をもって行為をした場合に限られ、公務員が自己の利を図る意図をもって行為をした場合は、これに当たらない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭31.11.30)は、国家賠償法1条1項について、「公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべき…である。」としている。
したがって、公務員が自己の利を図る意図をもってした行為についても、「その職務を行うについて」に当たる場合がある。

(H30 予備 第23問 ウ)
国家賠償法第1条第1項の「その職務を行うについて」とは、少なくとも公務員が主観的に権限行使の意思を有して、当該権限行使を行う場合に限られるから、客観的に職務執行の外形を備える行為によって、他人に損害を加えた場合であっても、当該公務員に権限行使の意思が認められない場合には、当該公務員個人の損害賠償責任は別として、国家賠償責任は認められない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭31.11.30)は、「公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべき…である。」としている。
したがって、当該公務員に権限行使の意思が認められない場合にも、国家賠償請求が認められ得る。

(R4 予備 第23問 イ)
警察官が専ら自己の利を図る目的で職務執行を装って私人Aに職務質問をし、犯罪の証拠物名義で預かった所持品を不法に領得するため拳銃でAを射殺した事案につき、警察官の上記行為は客観的に職務執行の外形を備えているから、国家賠償法第1条第1項にいう公務員が「その職務を行うについて」違法に他人に損害を加えたときに該当する。

(正答)

(解説)
判例(最判昭31.11.30)は、本肢と同種の事案において、「原判決は、その理由において、国家賠償法第1条の職務執行とは、その公務員が、その所為に出づる意図目的はともあれ、行為の外形において、職務執行と認め得べきものをもって、この場合の職務執行なりとするのほかないのであるとし、即ち、同条の適用を見るがためには、公務員が、主観的に権限行使の意思をもってした職務執行につき、違法に他人に損害を加えた場合に限るとの解釈を排斥し、本件において、梅津巡査がもっぱら自己の利をはかる目的で警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で、同人を射殺して、その目的をとげた、判示のごとき職権濫用の所為をもって、同条にいわゆる職務執行について違法に他人に損害を加えたときに該当するものと解したのであるが、同条に関する右の解釈は正当であるといわなければならない。けだし、同条は公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきであるからである。」としている。
したがって、本肢における警察官の行為は客観的に職務執行の外形を備えているから、国家賠償法第1条第1項にいう公務員が「その職務を行うについて」違法に他人に損害を加えたときに該当することになる。
総合メモ

建築士の設計に係る建築物の計画についての建築主事による建築確認 最三小判平成25年3月26日

概要
一級建築士により構造計算書に偽装が行われていた建築物の計画についての建築主事による建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法となるとはいえない。
判例
事案:建築物の建築主であるXが、建築基準法6条4項によりその計画の確認をした建築主事が属するYに対し、確認の申請書に添付された構造計算書に一級建築士による偽装が行われていたことを看過してされた確認は国家賠償法1条1項の適用上違法であり、それによって改修工事費用等の財産的損害を受けたとして、損害賠償を求めた事案において、一級建築士により構造計算書に偽装が行われていた建築物の計画についての建築主事による建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかが問題となった。

判旨:「建築士法によれば、一級建築士を含む建築士は、建築又は土木に関する知識及び技能を有するものとして所定の要件に該当する者を対象として、設計及び工事監理に必要な知識及び技能について行われる試験(12条から15条まで)に合格し、国土交通大臣又は都道府県知事の免許を受けた者であり(2条1項から4項まで、4条1項、2項)、その業務を誠実に行い、建築物の質の向上に努めなければならないほか、設計を行う場合においては、これを法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならないものとされている(18条1項、2項)。そして、同法3条から3条の3までによれば、各条に定める建築物の新築等をする場合には、それぞれ当該各条に規定する建築士でなければその設計及び工事監理をすることができず(違反した場合の罰則につき同法35条3号参照)、建築基準法5条の4によれば、それらの建築士の設計及び工事監理によることなくその工事をすることもできないものとされている(違反した場合の罰則につき同法99条1項1号参照)。これらの規定の趣旨は、建築物の新築等をする場合におけるその設計及び工事監理に係る業務を、その規模、構造等に応じて、これを適切に行い得る専門的技術を有し、かつ、法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし、その設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務が課せられている建築士に独占的に行わせることにより、建築される建築物を建築基準関係規定に適合させ、その基準を守らせることとしたものであって、建築物を建築し、又は購入しようとする者に対し、建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとするものである…。
 次に、建築基準法によれば、建築主は、同法6条1項各号に掲げる建築物の建築等の工事につき、あらかじめその計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて建築主事の審査及び建築確認を受けなければ、上記工事をすることができないものとされており(同条1項、4項、6項)、これは、建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的とするものであるところ…、同条1項及び建築基準法施行令9条によれば、建築主事による審査の基準となる建築基準関係規定とは、同法並びにこれに基づく命令及び条例の規定その他同条各号に掲げる各法律の規定並びにこれらの規定に基づく命令及び条例の規定で建築物の敷地、構造又は建築設備に係るものをいうと具体的に定められている。また、同法6条7項によれば、建築確認を受けようとする建築主が提出すべき確認の申請書は、所定の様式によって作成すべきものとされ、その様式は、同項の委任を受けた建築基準法施行規則(平成13年国土交通省令第128号による改正前のもの)1条の3において、添付すべき図書の種類並びに申請書及びこれらの図書に記載すべき事項を含めて具体的に定められており、同法6条3項によれば、申請に係る計画が建築士法3条から3条の3までの規定に違反するときは、建築主事は申請書を受理することができないものとされている。そして、建築基準法6条4項、5項によれば、建築主事は、同条1項1号から3号までに掲げる建築物の計画について申請書を受理した場合には、これを受理した日から21日以内に、その計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査し、適合すると認めたときは確認済証を、適合しないと認めたとき又は申請書の記載によっては適合するかどうかを決定できない正当な理由があるときは、その旨及びその理由を記載した通知書を、それぞれ申請者に交付しなければならないとされている。このように建築主の確認の申請に対する応答期限が設けられたのは、建築確認制度が建築主の建築の自由に対する制限となり得ることから、確認の申請に対する応答を迅速にすべきものとし、建築主に資金の調達や工事期間中の代替住居・営業場所の確保等の事前準備などの面で支障を生じさせることのないように配慮し、建築の自由との調和を図ろうとしたものと解される…。
 建築確認制度の根拠法律である建築基準法は、建築物の構造等に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的としており(1条)、上記…のような規制も、この目的に沿って設けられているところである。しかるところ、建築士が設計した計画に基づいて建築される建築物の安全性が第一次的には上記…のような建築士法上の規律に従った建築士の業務の遂行によって確保されるべきものであり、建築士の設計に係る建築物の計画についての建築主による建築基準法6条1項に基づく確認の申請が、自ら委託(再委託を含む。以下同じ。)をした建築士の設計した建築物の計画が建築基準関係規定に適合することについての確認を求めてするものであるとはいえ、個別の国民である建築主が同法1条にいう国民に含まれず、その建築する建物に係る建築主の利益が同法における保護の対象とならないとは解し難い。建築確認制度の目的には、建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを通じて得られる個別の国民の利益の保護が含まれており、建築主の利益の保護もこれに含まれているといえるのであって、建築士の設計に係る建築物の計画について確認をする建築主事は、その申請をする建築主との関係でも、違法な建築物の出現を防止すべく一定の職務上の法的義務を負うものと解するのが相当である。以上の理は、国民の社会生活上の重要な要素としての公共性を有する建築物の適正を公的に担保しようとする建築基準法の趣旨に沿うものであり、建築物の適正を担保するためには専門技術的な知見が不可欠であるという実情にもかなうものということができる。 
 そこで、建築主事が負う職務上の法的義務の内容についてみるに、上記…のとおり、建築士の設計に係る建築物の計画について建築主事のする確認は、建築主からの委託を受けた建築士により法令又は条例の定める基準に適合するように設計されたものとして当該建築主により申請された当該計画についての建築基準関係規定との適合性の審査を内容とするものであり、建築士は建築士法に基づき当該計画が上記基準に適合するように設計を行うべき義務及びその業務を誠実に行い建築物の質の向上に努めるべき義務を負うものであることからすると、当該計画に基づき建築される建築物の安全性は、第1次的には建築士のこれらの義務に従った業務の遂行によって確保されるべきものであり、建築主事は、当該計画が建築士により上記の義務に従って設計されるものであることを前提として審査をすることが予定されているものというべきである。このことに加え、上記…のとおり申請書及び法令上これに添付すべき図書(以下併せて『申請書類』という。)の記載事項等がこれらの様式や審査期間を含めて法令で個別具体的に規定されていること等に鑑みると、建築主事による当該計画に係る建築確認は、例えば、当該計画の内容が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるときに、申請書類の記載事項における誤りが明らかで、当該事項の審査を担当する者として他の記載内容や資料と符合するか否かを当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったなど、建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該計画につき建築確認を行ったと認められる場合に、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(なお、建築主事がその不適合を認識しながらあえて当該計画につき建築確認を行ったような場合に同項の適用上違法となることがあることは別論である。)。
 もっとも、上記…に示した場合に該当するときであっても、建築確認制度は建築主が自由に建物を建築することに対して公共の福祉(建築基準法1条)の観点から設けられた規制であるところ、建築士が設計した計画に基づいて建築される建築物の安全性は第一次的には上記…のような建築士法上の規律に従った建築士の業務の遂行によって確保されるべきものであり、建築主は自ら委託をした建築士の設計した建築物の計画につき建築基準関係規定に適合するものとして建築確認を求めて建築主事に対して申請をするものであることに鑑みると、その不適合に係る建築主の認識の有無又は帰責性の程度、その不適合によって建築主の受けた損害の性質及び内容、その不適合に係る建築主事の注意義務違反の程度又は認識の内容その他の諸般の事情に照らして、建築確認の申請者である建築主が自らの申請に応じて建築主事のした当該計画に係る建築確認の違法を主張することが信義則に反するなどと認められることにより、当該建築主が当該建築確認の違法を理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求をすることができないものとされる場合があることは否定できない。
 これを本件についてみるに、本件建築物の2階以上の梁間方向の耐震壁が1枚の有開口耐震壁としてモデル化されていた点については、本件建築確認当時の建築基準関係規定には建築物のモデル化の在り方や内容に関する定めはなく、本件建築物の計画が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるとはいえない。
 次に、本件建築物の1階の剛性率が10分の6以上とされていた点については、建築士によって作成された申請書類には、適切な入力データに基づき大臣認定プログラムにより計算された結果として記載されていたものであるところ、本件建築物の1階は2階以上と比べて耐震壁が大幅に少ないことが申請書類の記載内容から看取されるとしても、そのことから直ちに、1階の柱などの設計内容いかんにかかわらず1階の剛性率が10分の6以上となることがあり得ないとはいえないから、申請書類の記載事項における誤りが明らかであったとはいえず、本件建築主事が1階の剛性率及びその基礎となる入力データの各数値の適否につき疑問を抱き、申請者に他の資料の提出を求めてそれらと符合するか否かを確かめるなどしなかったことをもって、当該事項の審査を担当する者として職務上当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったともいえない。
 さらに、耐力壁の断面の検討における設計用せん断力に虚偽の数値が用いられていた点については、建築士によって作成された申請書類には当該数値が上記…と同様の方法による計算に基づくものとして記載されていたところ、本件プログラムは標準仕様では応力解析で得られた数値が耐力壁の断面の検討のために自動的には入力されず手作業で入力しなければならないものであり、本件構造計算書の作成の際に上記検討を自動化するための追加機能は付されていなかったが、大臣認定プログラムは100種類以上あってその種類や追加機能の有無によって手作業で入力すべき項目の範囲等は多種多様であるため、建築主事が個々のプログラムについて耐力壁の断面の検討のために手作業で入力すべき項目の有無や範囲等を逐一把握するのは所定の審査の期限を考慮すると困難である上、本件プログラムの出力結果が膨大なものであり手作業で入力された数値も相当多岐にわたることは記録上明らかであるから、申請書類の記載事項における誤りが明らかであったとはいえず、本件建築主事が手作業で入力された各数値の適否につき疑問を抱き本件プログラムの出力結果から必要なデータを抽出してそれらのデータと符合するか否かを逐一確かめるなどしなかったことをもって、当該事項の審査を担当する者として職務上当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったともいえない。
 以上によれば、上記…の各点のみから、本件建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から本件建築物の計画の建築基準関係規定との不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過したものとは認められず、他にそのように認められるべき事情もうかがわれないから、本件建築確認が国家賠償法1条1項の適用上違法となるとはいえない。」
過去問・解説
(H30 予備 第23問 イ)
建築基準法によると、建築物の所有者が有する財産上の利益は法律上保護された利益ではないから、建築確認を行う際に建築主事が職務上尽くすべき義務を尽くさず、建築物の所有者に損害が生じたとしても、建築物の所有者に対する、建築主事が所属する公共団体の国家賠償責任は認められない。

(正答)

(解説)
判例(最判平25.3.26)は、「個別の国民である建築主が同法1条にいう国民に含まれず、その建築する建物に係る建築主の利益が同法における保護の対象とならないとは解し難い。」として、建築物の所有者が有する財産上の利益も法律上保護された利益に当たるとしている。
また、本判例は続けて、「建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該計画につき建築確認を行ったと認められる場合に、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である…。」とした上で、「もっとも、上記…に示した場合に該当するときであっても、…その不適合に係る建築主の認識の有無又は帰責性の程度、その不適合によって建築主の受けた損害の性質及び内容、その不適合に係る建築主事の注意義務違反の程度又は認識の内容その他の諸般の事情に照らして、建築確認の申請者である建築主が自らの申請に応じて建築主事のした当該計画に係る建築確認の違法を主張することが信義則に反するなどと認められることにより、当該建築主が当該建築確認の違法を理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求をすることができないものとされる場合があることは否定できない。」としている。
したがって、建築確認を行う際に建築主事が職務上尽くすべき義務を尽くさず、建築物の所有者に損害が生じたとしても、建築物の所有者に対する、建築主事が所属する公共団体の国家賠償責任が認められない場合もあるが、一般的にこのような結論になるわけではない。
総合メモ

裁判官がした裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在していた場合 最二小判昭和57年3月12日

概要
裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする。
判例
事案:前訴において敗訴判決を受けたXが、右判決は適用すべき法条を適用しなかった違法な判決であり、裁判官は故意又は少なくとも重大な過失により違法な判決をしてXに損害を加えたとして、国に対し、国家賠償法1条1項により、損害賠償を請求した事案において、裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるかが問題となった。

判旨:「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。」
過去問・解説
(H18 司法 第21問 イ)
裁判官による争訟の裁判については、当該裁判官に事実認定や法律解釈の誤りがあったとしても、それは上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべきものであるから、国家賠償法第1条第1項にいう違法な行為に当たるものとして争うことができるのは、そのような訴訟法上の救済が及ばない瑕疵に限られる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.3.12)は、「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。」としている。
したがって、上訴等の訴訟法上の救済が及ぶ場合であっても、本判例にいう「特別の事情」があれば、国家賠償法第1条第1項にいう違法な行為に当たることになる。

(H23 共通 第36問 イ)
裁判官がした争訟の裁判については、上訴等の訴訟法上の救済方法が存するから、その裁判内容に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、国家賠償法上違法の評価を受けることはない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.3.12)は、「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする。」としている。
したがって、本判例にいう「特別の事情」があれば、上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在した場合にも、国家賠償法上違法の評価を受けることがある。

(R2 予備 第22問 ウ)
裁判官による争訟の裁判に事実認定や法律解釈の誤りがあった場合には、上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正することが予定されているから、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって上記のような誤った裁判をした場合であっても、国の賠償責任を生ずることはない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.3.12)は、「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家1条1項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。」としている。
したがって、裁判官が違法又は不当な目的をもって上記のような誤った裁判をした場合には、国の賠償責任が認められ得る。
総合メモ

警察官のパトカーによる追跡を受けて車両で逃走する者が起こした交通事故により第三者が損害を被った場合 最一小判昭和61年2月27日

概要
警察官のパトカーによる追跡を受けて車両で逃走する者が惹起した事故により第三者が損害を被った場合において、右追跡行為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるというためには、追跡が現行犯逮捕、職務質問等の職務の目的を遂行するうえで不必要であるか、又は逃走車両の走行の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無・内容に照らして追跡の開始、継続若しくは方法が不相当であることを要する。
判例
事案:警察官のパトカーによる追跡を受けて車両で逃走する者が惹起した事故により第三者が損害を被った事案において、追跡行為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるといえるかが問題となった。

判旨:「およそ警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断してなんらかの犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問し、また、現行犯人を現認した場合には速やかにその検挙又は逮捕に当たる職責を負うものであって(警察法2条、65条、警察官職務執行法2条1項)、右職責を遂行する目的のために被疑者を追跡することはもとよりなしうるところであるから、警察官がかかる目的のために交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合において、右追跡行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要するものと解すべきである。
 以上の見地に立って本件をみると、原審の確定した前記事実によれば、(1)近藤は、速度違反行為を犯したのみならず、警察官の指示により一たん停止しながら、突如として高速度で逃走を企てたものであって、いわゆる挙動不審者として速度違反行為のほかに他のなんらかの犯罪に関係があるものと判断しうる状況にあったのであるから、本件パトカーに乗務する警察官は、近藤を現行犯人として検挙ないし逮捕するほか挙動不審者に対する職務質問をする必要もあったということができるところ、右警察官は逃走車両の車両番号は確認したうえ、県内各署に加害車両の車両番号、特徴、逃走方向等の無線手配を行い、追跡途中で『交通機動隊が検問開始』との無線交信を傍受したが、同車両の運転者の氏名等は確認できておらず、無線手配や検問があっても、逃走する車両に対しては究極的には追跡が必要になることを否定することができないから、当時本件パトカーが加害車両を追跡する必要があったものというべきであり、(2)また、本件パトカーが加害車両を追跡していた道路は、その両側に商店や民家が立ち並んでいるうえ、交差する道路も多いものの、その他に格別危険な道路交通状況はなく、東山交差点から雄山町交差点までは4車線、その後は2車線で歩道を含めた道路の幅員が約一二メートル程度の市道であり、事故発生の時刻が午後11時頃であったというのであるから、逃走車両の運転の前示の態様等に照らしても、本件パトカーの乗務員において当時追跡による第三者の被害発生の蓋然性のある具体的な危険性を予測しえたものということはできず、(3)更に、本件パトカーの前記追跡方法自体にも特に危険を伴うものはなかったということができるから、右追跡行為が違法であるとすることはできないものというべきである。」
過去問・解説
(H20 司法 第21問 イ)
警察官が、交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が身体等に重大な損害を被った場合、当該追跡行為は、上記第三者との関係では違法な職務執行といわざるを得ない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭61.2.27)は、本肢と同種の事案において、「追跡行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要するものと解すべきである。」としている。
したがって、警察官が、交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が身体等に重大な損害を被った場合であっても、追跡行為の必要性・相当性が肯定されれば、追跡行為が適法といえる。

(R2 予備 第22問 ア)
警察官が、交通法規等に違反して車両で逃走する者をパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合、当該警察官の職務執行は、当該追跡が職務目的を遂行する上で必要なものであり、かつ、追跡の開始・継続及び追跡の方法が相当であったとしても、当該第三者に対する関係では違法なものとなる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭61.2.27)は、本肢と同種の事案において、「追跡行為が違法であるというためには、右追跡が当該職務目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の逃走の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当であることを要するものと解すべきである。」としている。
したがって、当該追跡が職務目的を遂行する上で必要なものであり、かつ、追跡の開始・継続及び追跡の方法が相当であれば、当該第三者との関係でも追跡行為は適法となる。
総合メモ

刑事裁判で無罪判決が確定とした場合における捜査機関の捜査・起訴の違法性 最二小判昭和53年10月20日

概要
無罪の刑事判決が確定したというだけで直ちに当該刑事事件についてされた逮捕、勾留及び公訴の提起・追行が違法となるものではない
判例
事案:刑事裁判において訴追されていた被告人の無罪判決が確定した場合に、当該被告人に対する捜査及び訴追が国家賠償法上違法となるかが問題となった。

判旨:「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし、逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり、かつ、必要性が認められるかぎりは適法であり、公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから、起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである。」
過去問・解説
(H23 共通 第36問 ア)
検察官が公訴を提起したが裁判で無罪が確定した場合、当該公訴提起は国家賠償法上違法の評価を受ける。

(正答)

(解説)
判例(最判昭53.10.20)は、「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が違法となるということはない。」としている。
総合メモ

犯罪の被害者ないし告訴人からの捜査の不適正又は不起訴処分の違法を理由とする国家賠償請求 最三小判平成2年2月20日

概要
犯罪の被害者ないし告訴人は、捜査機関の捜査が適正を欠くこと又は検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることができない。
判例
事案:犯罪の被害者ないし告訴人からの捜査の不適正又は不起訴処分の違法を理由とする国家賠償請求をすることができるか。

判旨:「犯罪の捜査及び検察官による公訴権の行使は、国家及び社会の秩序維持という公益を図るために行われるものであって、犯罪の被害者の被侵害利益ないし損害の回復を目的とするものではなく、また、告訴は、捜査機関に犯罪捜査の端緒を与え、検察官の職権発動を促すものにすぎないから、被害者又は告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず、法律上保護された利益ではないというべきである。したがって、被害者ないし告訴人は、捜査機関による捜査が適正を欠くこと又は検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできないというべきである…。」
過去問・解説
(H24 司法 第37問 ウ)
犯罪の被害者は、公訴提起により利益を受けることから、検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法に基づき損害賠償請求をすることができる。

(正答)

(解説)
判例(最判平2.2.20)は、「被害者又は告訴人が捜査又は公訴提起によって受ける利益は、公益上の見地に立って行われる捜査又は公訴の提起によって反射的にもたらされる事実上の利益にすぎず、法律上保護された利益ではないというべきである。したがって、被害者ないし告訴人は、捜査機関による捜査が適正を欠くこと又は検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法の規定に基づく損害賠償請求をすることはできないというべきである…。」としている。
したがって、犯罪被害者は、検察官の不起訴処分の違法を理由として、国家賠償法に基づき損害賠償請求をすることができない。
総合メモ

税務署長のする所得税の過大更正 最一小判平成5年3月11日

概要
税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、違法の評価を受ける。
判例
事案:収入金額を確定申告の額より増額しながら必要経費の額を確定申告の額のままとしたため所得金額を過大に認定した所得税の更正は、国家賠償法第1条第1項にいう違法があったといえるか。

判旨:「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受けるものと解するのが相当である。
 ところで、所得税法は、納税義務者が自ら納付すべき所得税の課税標準及び税額を計算し、自己の納税義務の具体的内容を確認した上、その結果を申告して、これを納税するという申告納税制度を採用し、納税義務者に課税標準である所得金額の基礎を正確に申告することを義務付けており(所得税法120条参照)、本件のような事業所得についていえば、納税義務者はその収入金額及び必要経費を正確に申告することが義務付けられているのである。それらの具体的内容は、納税義務者自身の最もよく知るところであるからである。そして、納税義務者において売上原価その他の必要経費に係る資料を整えておくことはさして困難ではなく、資料等によって必要経費を明らかにすることも容易であり、しかも、必要経費は所得算定の上での減算要素であって納税義務者に有利な課税要件事実である。そうしてみれば、税務署長がその把握した収入金額に基づき更正をしようとする場合、客観的資料等により申告書記載の必要経費の金額を上回る金額を具体的に把握し得るなどの特段の事情がなく、また、納税義務者において税務署長の行う調査に協力せず、資料等によって申告書記載の必要経費が過少であることを明らかにしない以上、申告書記載の金額を採用して必要経費を認定することは何ら違法ではないというべきである。
 以上によって本件をみるのに、被上告人は、本件係争各年分の所得税の申告をするに当たり、必要経費につき真実より過少の金額を記載して申告書を提出し、さらに、本件各更正に先立ち、税務職員から申告書記載の金額を超える収入の存在が発覚していることを告知されて調査に協力するよう説得され、必要経費の金額について積極的に主張する機会が与えられたにもかかわらず、これをしなかったので、奈良税務署長は、申告書記載どおりの必要経費の金額によって、本件各更正に係る所得金額を算定したのである。してみれば、本件各更正における所得金額の過大認定は、専ら被上告人において本件係争各年分の申告書に必要経費を過少に記載し、本件各更正に至るまでこれを訂正しようとしなかったことに起因するものということができ、奈良税務署長がその職務上通常尽くすベき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をした事情は認められないから、48年分更正も含めて本件各更正に国家賠償法1条1項にいう違法があったということは到底できない。」
過去問・解説
(H20 司法 第21問 ウ)
税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法第1条第1項にいう違法があったとの評価を受けるものではない。

(正答)

(解説)
判例(最判平5.3.11)は、「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受ける…。」としている。

(R3 予備 第22問 ウ)
税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していた場合であっても、当該税務署長において職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がない限り、国家賠償法第1条第1項にいう違法があったとの評価を受けない。

(正答)

(解説)
判例(最判平5.3.11)は、「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受ける…。」としている。

(R5 予備 第23問 エ)
税務署長が所得税の更正において所得金額を過大に認定した場合において、当該税務署長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情があるときには、当該更正は、国家賠償法第1条第1項の適用上、違法の評価を受ける。

(正答)

(解説)
判例(最判平5.3.11)は、「税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、右の評価を受ける…。」としている。
総合メモ

水俣病認定申請に関する熊本県知事の不作為 最二小判平成3年4月26日

概要
①公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法3条1項又は公害健康被害補償法(昭和62年法律第97号による改正前のもの)4条2項に基づき水俣病患者認定申請をした者が相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、不法行為法上の保護の対象になる。
②右認定申請を受けた処分庁には、不当に長期間にわたちないうちに応答処分をすべき条理上の作為義務があり、右の作為義務に違反したというためには、客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分ができなかったことだけでは足りず、その期間に比して更に長期間にわたり遅延が続き、かつ、その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要である。
判例
事案: 水俣病と認定すべき旨の申請を、国から認定業務の委任を受けている県知事に対してしたXらが、知事の長期間の不作為により精神的苦痛を被ったとして、国及び県に対し慰謝料を請求した事案において、①公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法3条1項又は公害健康被害補償法(昭和62年法律第97号による改正前のもの)4条2項に基づき水俣病患者認定申請をした者が相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされない利益が法的保護の対象となるか、②右認定申請を受けた処分庁が不当に長期間にわたらないうちに応答処分をすべき条理上の作為義務に違反したといえるための要件は何かなどが問題となった。

判旨:①「一般的には、各人の価値観が多様化し、精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会においては、各人が自己の行動について他者の社会的活動との調和を充分に図る必要があるから、人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても、一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法行為が成立する余地があるものと解すべきである。これを本件についてみるに、既に検討したように、認定申請者としての、早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待、その期待の背後にある申請者の焦燥、不安の気持を抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、これが不法行為法上の保護の対象になり得るものと解するのが相当である。」
 ②「救済法及び補償法の下で、申請者から認定申請を受けた知事は、それに対する処分を迅速、適正にすべき行政手続上の作為義務があることはいうまでもなく、これに対応して、認定申請者には、申請に対して迅速、適正に処分を受ける手続上の権利を有することになる。しかしながら、知事の負っている右作為義務は、申請者の地位にある者の内心の静穏な感情を害されないという私的利益の保護に直接向けられたものではないから、右の行政手続上の作為義務が直ちに後者の利益に対応するものとはいえず、これについては別途の考察が必要である。 そして、救済法及び補償法からは、認定申請に対する処分の遅延そのものに対する申請者の内心の不安感、焦燥感等に対して、これに特別の配慮を加え、その利益のために一定期間内に処分すべき旨を定めた法意を見いだすことはできない。もっとも、…被上告人らと知事との間には、…水俣病不作為の違法確認請求事件の確定判決がある…が、この訴訟の性質からすれば、その違法であることの確認の趣旨は、右訴訟の弁論終結時点において、知事が処分をすべき行政手続上の作為義務に違反していることを確認することにあるから、これが直ちに認定申請者の右の法的利益に向けた作為義務を認定し、その利益侵害という意味での不作為の違法性を確認するものではないと解すべきである。 
 …しかし、救済法及び補償法の中に、認定申請者の右のような私的利益に直接向けられた作為義務の根拠を見いだし難いとしても、一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できることであるから、処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。 そして、処分庁が右の意味における作為義務に違反したといえるためには、客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分できなかったことだけでは足りず、その期間に比してさらに長期間にわたり遅延が続き、かつ、その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要であると解すべきである。 そこで、本件において、処分庁たる知事が、故意又は過失により右のような条理上の作為義務に違反しているかどうかについて検討するに、原審が確定した前記…の事実によれば、被上告人らの認定申請については、その申請時から処分時まで、あるいは未処分のまま第1審の口頭弁論終結時に至るまで長期間経過したものがあり、申請の中には最高9年余の期間を経過したものもあるというのであるから、その時間的経過だけでみる限り、知事が右作為義務に違反しているかのように考えられないわけではない。しかし、その間、知事が処分することが可能であったかどうか、また知事が遅延解消のための通常期待される努力を尽くさなかったかどうかについての原審の認定判断は、次に検討するとおり、にわかに是認することができない。」
過去問・解説
(H23 共通 第36問 エ)
公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法又は公害健康被害の補償等に関する法律に基づき、水俣病と認定すべき旨の申請を知事に行ったものの、何らの応答処分を相当期間内に受けなかったという場合において、認定要件を満たす者が被る損害は、認定されることにより解消されることになるから、申請処理の遅延による精神的苦痛について国家賠償法に基づく慰謝料請求は認められない。

(正答)

(解説)
判例(最判平3.4.26)は、「一般的には、各人の価値観が多様化し、精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会においては、各人が自己の行動について他者の社会的活動との調和を充分に図る必要があるから、人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても、一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法行為が成立する余地があるものと解すべきである。これを本件についてみるに、既に検討したように、認定申請者としての、早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待、その期待の背後にある申請者の焦燥、不安の気持を抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、これが不法行為法上の保護の対象になり得るものと解するのが相当である。」としている。
したがって、水俣病と認定されたとしても慰謝料請求が認められる余地がある。

(H28 司法 第21問 ア)
最高裁判所の判旨に照らすと、水俣病患者認定申請に対する応答処分をしない行政庁の不作為の違法確認を求める訴訟における違法と、当該認定申請に対する行政庁の応答処分の遅延による精神的損害につき賠償を求める国家賠償請求訴訟における違法は同じであるから、前者の訴訟に係る認容判決の既判力は、後者の訴訟の当事者及び裁判所に及ぶとされている。

(正答)

(解説)
判例(最判平3.4.26)は、「一般的には、各人の価値観が多様化し、精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会においては、各人が自己の行動について他者の社会的活動との調和を充分に図る必要があるから、人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても、一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法行為が成立する余地があるものと解すべきである。これを本件についてみるに、既に検討したように、認定申請者としての、早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待、その期待の背後にある申請者の焦燥、不安の気持を抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、これが不法行為法上の保護の対象になり得るものと解するのが相当である。」としている。
このように、水俣病患者認定申請に対する応答処分をしない行政庁の不作為の違法確認を求める訴訟における違法とは別に、応答処分の遅延による精神的損害につき賠償を求める国家賠償請求訴訟における違法が認められる余地があり、これらは原因が異なるから、別の訴訟物を構成する。
したがって、前者の訴訟に係る認容判決の既判力は、後者の訴訟の当事者及び裁判所に及ばない(民訴法114条1項参照)。
総合メモ

強制執行法上の手続による救済を求めることを怠った場合における国の責任 最三小判昭和57年2月23日

概要
執行裁判所みずからその処分を是正すベき場合等特別の事情がある場合を除いて権利者が右の手続による救済を求めることを怠ったため損害が発生しても、国に対する損害賠償請求はできない。
判例
事案:Xが取得した土地につき、売主の債権者により不動産強制競売の申立てがなされ、執行裁判所が競落許可決定をしたため、Xが、右競落許可決定はいわゆる過剰競売として違法な競売手続であり、担当裁判官には過失があったとして、国に対して国家賠償を求めた事案において、不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分が、実体的権利関係に適合しないことにより自己の権利が害される者が、強制執行法上の手続による救済を求めることを怠った場合に、国に対する損害賠償請求ができるかが問題となった。

判旨:「不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は、債権者の主張、登記簿の記載その他記録にあらわれた権利関係の外形に依拠して行われるものであり、その結果関係人間の実体的権利関係との不適合が生じることがありうるが、これについては執行手続の性質上、強制執行法に定める救済の手続により是正されることが予定されているものである。したがって、執行裁判所みずからその処分を是正すベき場合等特別の事情がある場合は格別、そうでない場合には権利者が右の手続による救済を求めることを怠ったため損害が発生しても、その賠償を国に対して請求することはできないものと解するのが相当である。しかるところ、原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人が本件土地の所有権を取得したとしてこれにつき処分禁止の仮処分決定を得、その登記を経由したのは、本件土地につきされた競売開始決定に基づき競売手続が進行中であったというのであって、所論の如く上告人が所有権を取得した以上これに遅れて配当要求をした債権者のためには競売すベきではなく本件土地三筆の全部を競売することが超過競売となり上告人の所有権を害することがあると解せられるとしても、暫定的な処分にすぎない仮処分決定があるというだけでは、前記の特別の事情がある場合にあたるということはできず、上告人としては強制執行法上の異議の訴えを起し執行停止決定を得てその正本を執行裁判所に提出するなど強制執行法上の手続による救済を求めるベきものであったのである。しかるに、更に原審の適法に確定したところによれば、上告人は強制執行法上の手続による救済を求めなかったというのであるから、本件土地の全部が競売されたことにより、上告人がその一部の所有権を失い、また、その売得金が上告人の得た仮処分決定の後に配当要求をした債権者にも配当されて上告人が配当を受けることができなかったのは、上告人が右の手続による救済を求めることを怠った結果によるものというべきであって、上告人はその被った損害につき国家賠償法の規定による賠償を請求することはできないものといわなければならない。」
過去問・解説
(H24 司法 第37問 イ)
不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分については、民事執行法に定める救済の手続により是正することができる。こうした手続が予定されているから、執行裁判所自らその処分を是正すべき場合等特別の事情がある場合を除き、権利者がその手続による救済を求めることを怠ったため損害が生じたとしても、国家賠償法に基づき損害賠償請求をすることはできない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.2.23)は、本肢と同種の事案において、「執行裁判所みずからその処分を是正すベき場合等特別の事情がある場合は格別、そうでない場合には権利者が右の手続による救済を求めることを怠ったため損害が発生しても、その賠償を国に対して請求することはできないものと解するのが相当である。」としている。
したがって、不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分については、権利者が民事執行法上の手続による救済を求めることを怠ったため損害が生じたとしても、国家賠償法に基づき損害賠償請求をすることはできない。
総合メモ

固定資産評価審査委員会に対する審査申出等に関する地方税法の規定は当該価格決定を行った公務員の国家賠償責任を否定する根拠となるか 最一小判平成22年6月3日

概要
公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して固定資産の価格を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得る。
判例
事案: 固定資産の価格を過大に決定されたことによって損害を被った納税者が提起した国家賠償請求訴訟において、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経ていなくても国家賠償請求を行うことができるかが問題となった。

判旨:「国家賠償法1条1項は、『国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。』と定めており、地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときは、当該地方公共団体がこれを賠償する責任を負う。前記のとおり、地方税法は、固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は、同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが、同規定は、固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照)、当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。
 原審は、国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額に係る損害賠償請求を許容することは課税処分の公定力を実質的に否定することになり妥当ではないともいうが、行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない…。このことは、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきである。
 そして、他に、違法な固定資産の価格の決定等によって損害を受けた納税者が国家賠償請求を行うことを否定する根拠となる規定等は見いだし難い。
 したがって、たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても、公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。」
過去問・解説
(H24 司法 第37問 ア)
固定資産税の納税者は、固定資産税の登録価格について不服がある場合、地方税法に基づく審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができるとされている。したがって、当該納税者がこれら手続を経ることなく、登録価格が過大であったとして、国家賠償法に基づき固定資産税の過納金相当額の損害賠償請求をすることはできない。

(正答)

(解説)
判例(最判平22.6.3)は、本肢と同種の事案において、「行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない…。このことは、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきである。」としている。
したがって、地方税法に基づく審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えを経なくても、登録価格が過大であったとして、国家賠償法に基づき固定資産税の過納金相当額の損害賠償請求を行い得る。

(H30 予備 第23問 ア)
行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではなく、このことは、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならない。

(正答)

(解説)
判例(最判平22.6.3)は、「行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない…。このことは、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきである。」としている。
総合メモ

宅地建物取引業者に対する知事の監督処分権限の不行使 最二小判平成元年11月24日

概要
知事が宅地建物取引業者に対し宅地建物取引業法65条2項による業務停止処分ないし同法66条9号による免許取消処分をしなかった場合であっても、知事の右監督処分権限の不行使は、具体的事情の下において、右権限が付与された趣旨・目的に照らして著しく不合理と認められるときでない限り、右業者の不正な行為により損害を被った取引関係者に対する関係において国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けない。
判例
事案:詐欺的不動産取引によって損害を被ったXが、Y知事は宅地建物取引業法に違反して加害者たるAに免許を付与し、これを取り消さず、かつ更新したとして、Y県に対し国家賠償法に基づく損害賠償を請求した事案において、宅地建物取引業者に対する知事の監督処分権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるかが問題となった。

判旨:「宅地建物取引業法(昭和55年法律第56号による改正前のもの。以下『法』という。)は、第2章において、宅地建物取引業を営む者(以下『宅建業者』という。)につき免許制度を設け、その事務所の設置場所が2以上の都道府県にわたるか否かにより免許権者を建設大臣又は都道府県知事(以下『知事等』という。)に区分し(3条1項)、免許の欠格要件を定め(5条1項)、この基準に従って免許を付与し、3年ごとにその更新を受けさせ(3条2項)、免許を受けない者の営業等を禁止し(12条)、第6章において、免許を付与された宅建業者に対する知事等の監督処分を定め、右業者が免許制度を定めた法の趣旨に反する一定の事由に該当する場合において、業務の停止(65条2項)、免許の取消(66条)をはじめ、必要な指導、助言及び勧告(71条)、立入検査等(72条)を行う権限を知事等に付与し、業務の停止又は免許の取消を行うに当たっては、公開の聴聞(69条)及び公告(70条1項)の手続を義務づけている。法がかかる免許制度を設けた趣旨は、直接的には、宅地建物取引の安全を害するおそれのある宅建業者の関与を未然に排除することにより取引の公正を確保し、宅地建物の円滑な流通を図るところにあり、監督処分権限も、この免許制度及び法が定める各種規制の実効を確保する趣旨に出たものにほかならない。もっとも、法は、その目的の1つとして購入者等の利益の保護を掲げ(1条)、宅建業者が業務に関し取引関係者に損害を与え又は与えるおそれが大であるときに必要な指示をする権限を知事等に付与し(65条1項1号)、営業保証金の供託を義務づける(25条、26条)など、取引関係者の利益の保護を顧慮した規定を置いており、免許制度も、究極的には取引関係者の利益の保護に資するものではあるが、前記のような趣旨のものであることを超え、免許を付与した宅建業者の人格・資質等を一般的に保証し、ひいては当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接的な目的とするものとはにわかに解し難く、かかる損害の救済は一般の不法行為規範等に委ねられているというべきであるから、知事等による免許の付与ないし更新それ自体は、法所定の免許基準に適合しない場合であっても、当該業者との個々の取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるものではないというべきである。また、業務の停止ないし免許の取消は、当該宅建業者に対する不利益処分であり、その営業継続を不能にする事態を招き、既存の取引関係者の利害にも影響するところが大きく、そのゆえに前記のような聴聞、公告の手続が定められているところ、業務の停止に関する知事等の権限がその裁量により行使されるべきことは法65条2項の規定上明らかであり、免許の取消については法66条各号の1に該当する場合に知事等がこれをしなければならないと規定しているが、業務の停止事由に該当し情状が特に重いときを免許の取消事由と定めている同条9号にあっては、その要件の認定に裁量の余地があるのであって、これらの処分の選択、その権限行使の時期等は、知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられているというべきである。したがって、当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が損害を被った場合であっても、具体的事情の下において、知事等に監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、右権限の不行使は、当該取引関係者に対する関係で国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないといわなければならない。」
過去問・解説
(H18 司法 第21問 エ)
宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る損害の防止・救済を目的とするものではないから、当該業者に対する行政庁の監督処分権限の不行使が著しく不合理と認められる場合でも、当該権限の不行使は国家賠償法第1条第1項の適用上違法の評価を受けるものではない。

(正答)

(解説)
判例(最判平元.11.24)は、「法は、…免許を付与した宅建業者の人格・資質等を一般的に保証し、ひいては当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接的な目的とするものとはにわかに解し難く、かかる損害の救済は一般の不法行為規範等に委ねられているというべきである…。」とした上で、「当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が損害を被った場合であっても、具体的事情の下において、知事等に監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、右権限の不行使は、当該取引関係者に対する関係で国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないといわなければならない。」としている。
したがって、行政庁の監督処分権限の不行使が著しく不合理と認められる場合には、当該権限の不行使が国家賠償法第1条第1項の適用上違法の評価を受け得る。

(H26 共通 第24問 ウ)
規制を目的とする不利益処分について、処分の根拠法令が処分を行うか否かの点で行政庁に効果裁量を認めている場合には、処分を行わないという行政庁の不作為が違法となることはない。

(正答)

(解説)
判例(最判平1.11.24)は、「業務の停止に関する知事等の権限がその裁量により行使されるべきことは法65条2項の規定上明らかであり、免許の取消については法66条各号の1に該当する場合に知事等がこれをしなければならないと規定しているが、業務の停止事由に該当し情状が特に重いときを免許の取消事由と定めている同条9号にあっては、その要件の認定に裁量の余地があるのであって、これらの処分の選択、その権限行使の時期等は、知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられているというべきである。」として、処分の根拠法令に効果裁量を認めた上で、「当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が損害を被った場合であっても、具体的事情の下において、知事等に監督処分権限が付与された趣旨・目的に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときでない限り、右権限の不行使は、当該取引関係者に対する関係で国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないといわなければならない。」としている。
したがって、規制を目的とする不利益処分について、処分の根拠法令が処分を行うか否かの点で行政庁に効果裁量を認めている場合であっても、処分を行わないという行政庁の不作為が違法となることがある。
総合メモ

通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったこと 最三小判平成16年4月27日

概要
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。
判例
事案:炭坑で粉じん作業に従事し、じん肺に罹患したと主張する者又はその承継人であるXらが、国に対し、鉱山保安法に基づく規制権限を行使することを怠ったことが違法であるなどと主張して、国家賠償を求めた事案において、通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるかが問題となった。

判旨:「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である…。
 これを本件についてみると、鉱山保安法は、鉱山労働者に対する危害の防止等をその目的とするものであり(1条)、鉱山における保安、すなわち、鉱山労働者の労働災害の防止等に関しては、同法のみが適用され、労働安全衛生法は適用されないものとされており(同法115条1項)、鉱山保安法は、職場における労働者の安全と健康を確保すること等を目的とする労働安全衛生法の特別法としての性格を有する。そして、鉱山保安法は、鉱業権者は、粉じん等の処理に伴う危害又は鉱害の防止のため必要な措置を講じなければならないものとし(4条2号)、同法30条は、鉱業権者が同法4条の規定によって講ずべき具体的な保安措置を省令に委任しているところ、同法30条が省令に包括的に委任した趣旨は、規定すべき鉱業権者が講ずべき保安措置の内容が、多岐にわたる専門的、技術的事項であること、また、その内容を、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正していくためには、これを主務大臣にゆだねるのが適当であるとされたことによるものである。
 同法の目的、上記各規定の趣旨にかんがみると、同法の主務大臣であった通商産業大臣の同法に基づく保安規制権限、特に同法30条の規定に基づく省令制定権限は、鉱山労働者の労働環境を整備し、その生命、身体に対する危害を防止し、その健康を確保することをその主要な目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきものである。
 前記の事実関係によれば、次のことが明らかである。
 労働省が昭和30年9月から昭和32年3月にかけて実施した大規模なけい肺健康診断の結果により、昭和34年ころには、全有所見者の約30%、1万人を超える炭鉱労働者の有所見者が存在することなど、炭坑労働者のじん肺り患の実情が相当深刻なものであることが明らかになっていた。
 じん肺に関する医学的知見に関しては、けい肺審議会医学部会が、昭和34年9月、じん肺に関する当時の医学的知見に基づき、炭じん等のあらゆる種類の粉じんの吸入によるじん肺発症の可能性、危険性を肯定し、その症状が高度なものとなった場合の健康被害の重大性を指摘した上で、けい肺の原因となる遊離けい酸を含有する粉じんに限定せず、あらゆる種類の粉じんに対する被害の予防と健康管理の必要性を指摘する旨の意見を公表した。
 上記のとおり、炭鉱労働者のじん肺り患の深刻な実情が明らかとなり、じん肺に関する上記医学部会の意見が公表されたことから、けい肺に限定していた従来のじん肺に関する施策を根本的に見直す必要があると認識されるようになり、政府は、昭和34年12月、上記医学部会の意見に基づくけい肺審議会の答申を受けて、じん肺法案を国会に提出したが、同法案は、じん肺を、遊離けい酸を含有する粉じんの吸入によるけい肺に限定せず、炭じん等の鉱物性粉じんの吸入によって生じたものを広く含むものとして定義し、これを同法による施策の対象とするものであった。
 じん肺防止のための粉じん対策の要は、粉じんの発生の抑止であるとされているが、昭和30年代初頭までには、さく岩機の湿式型化により粉じんの発生を著しく抑制することができるとの工学的知見が明らかとなっており、また、そのころまでには、軽量の手持型湿式さく岩機が実用に供されるようになっていたことから、遅くとも、昭和35年ころまでには、すべての石炭鉱山における衝撃式さく岩機の湿式型化を図ることに特段の障害はなく、現に、金属鉱山においては、昭和27年9月に金属鉱山等保安規則が改正されて以降、さく岩機の湿式型化は急速に進展し、昭和29年までにはさく岩機の湿式型化率は99.7%を達成していた。
 しかるに、石炭鉱山においては、前記のとおり、いわば国策としての強力な石炭増産政策が推進されるなどしてきたのに、上記金属鉱山等保安規則の改正後も、石炭鉱山保安規則によるけい酸質区域指定制度が維持され、その後、前記答申に基づきじん肺法が制定された昭和35年3月以降も、指定の基準も含め、保安規制に関する大きな見直しもされずに、上記制度が存続し、せん孔前の散水、衝撃式さく岩機の湿式型化を義務付ける旨の保安規制が、一般的な保安規制に改められたのは、昭和61年11月であった。そのため、石炭鉱山においては、その大部分を占める非指定坑におけるさく岩機の湿式型化率、せん孔前の散水実施率は極めて低い状態で推移したのであり、じん肺防止対策の実施状況は、一般的な粉じん対策も含めて、極めて不十分なものであった。
 以上の諸点に照らすと、通商産業大臣は、遅くとも、昭和35年3月31日のじん肺法成立の時までに、前記のじん肺に関する医学的知見及びこれに基づくじん肺法制定の趣旨に沿った石炭鉱山保安規則の内容の見直しをして、石炭鉱山においても、衝撃式さく岩機の湿式型化やせん孔前の散水の実施等の有効な粉じん発生防止策を一般的に義務付ける等の新たな保安規制措置を執った上で、鉱山保安法に基づく監督権限を適切に行使して、上記粉じん発生防止策の速やかな普及、実施を図るべき状況にあったというべきである。そして、上記の時点までに、上記の保安規制の権限(省令改正権限等)が適切に行使されていれば、それ以降の炭坑労働者のじん肺の被害拡大を相当程度防ぐことができたものということができる。
 本件における以上の事情を総合すると、昭和35年4月以降、鉱山保安法に基づく上記の保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは、その趣旨、目的に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである。」
過去問・解説
(H20 司法 第21問 ア)
規制権限の不行使は、当該権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、違法となるものと解するのが相当である。

(正答)

(解説)
判例(最判平16.4.27)は、「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である…。」としている。

(H29 予備 第22問 ア)
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法第1条第1項の適用上違法となる。

(正答)

(解説)
判例(最判平16.4.27)は、「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である…。」としている。
総合メモ

国が水俣病による健康被害の拡大防止のために水質2法に基づく規制権限を行使しなかったこと 最二小判平成16年10月15日

概要
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。
判例
事案:水俣病の患者であるXらが、Yらは水俣病の発生及び被害拡大の防止のために規制権限を怠ったことにつき国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うとして、Yらに対し、損害賠償を求めた事案において、国が水俣病による健康被害の拡大防止のためにいわゆる水質二法に基づく規制権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるかが問題となった。

判旨:「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である…。
 …水質二法所定の前記規制は、〔1〕特定の公共用水域の水質の汚濁が原因となって、関係産業に相当の損害が生じたり、公衆衛生上看過し難い影響が生じたりしたとき、又はそれらのおそれがあるときに、当該水域を指定水域に指定し、この指定水域に係る水質基準(特定施設を設置する工場等から指定水域に排出される水の汚濁の許容限度)を定めること、汚水等を排出する施設を特定施設として政令で定めることといった水質二法所定の手続が執られたことを前提として、〔2〕主務大臣が、工場排水規制法7条、12条に基づき、特定施設から排出される工場排水等の水質が当該指定水域に係る水質基準に適合しないときに、その水質を保全するため、工場排水についての処理方法の改善、当該特定施設の使用の一時停止その他必要な措置を命ずる等の規制権限を行使するものである。そして、この権限は、当該水域の水質の悪化にかかわりのある周辺住民の生命、健康の保護をその主要な目的の1つとして、適時にかつ適切に行使されるべきものである。
 前記の事実関係によれば、昭和34年11月末の時点で、〔1〕昭和31年5月1日の水俣病の公式発見から起算しても既に約3年半が経過しており、その間、水俣湾又はその周辺海域の魚介類を摂取する住民の生命、健康等に対する深刻かつ重大な被害が生じ得る状況が継続していたのであって、上告人国は、現に多数の水俣病患者が発生し、死亡者も相当数に上っていることを認識していたこと、〔2〕上告人国においては、水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり、その排出源がチッソ水俣工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況にあったこと、〔3〕上告人国にとって、チッソ水俣工場の排水に微量の水銀が含まれていることについての定量分析をすることは可能であったことといった事情を認めることができる。なお、チッソが昭和34年12月に整備した前記排水浄化装置が水銀の除去を目的としたものではなかったことを容易に知り得たことも、前記認定のとおりである。そうすると、同年11月末の時点において、水俣湾及びその周辺海域を指定水域に指定すること、当該指定水域に排出される工場排水から水銀又はその化合物が検出されないという水質基準を定めること、アセトアルデヒド製造施設を特定施設に定めることという上記規制権限を行使するために必要な水質二法所定の手続を直ちに執ることが可能であり、また、そうすべき状況にあったものといわなければならない。そして、この手続に要する期間を考慮に入れても、同年12月末には、主務大臣として定められるべき通商産業大臣において、上記規制権限を行使して、チッソに対し水俣工場のアセトアルデヒド製造施設からの工場排水についての処理方法の改善、当該施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命ずることが可能であり、しかも、水俣病による健康被害の深刻さにかんがみると、直ちにこの権限を行使すべき状況にあったと認めるのが相当である。また、この時点で上記規制権限が行使されていれば、それ以降の水俣病の被害拡大を防ぐことができたこと、ところが、実際には、その行使がされなかったために、被害が拡大する結果となったことも明らかである。
 本件における以上の諸事情を総合すると、昭和35年1月以降、水質二法に基づく上記規制権限を行使しなかったことは、上記規制権限を定めた水質二法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである。 
 したがって、同項による上告人国の損害賠償責任を認めた原審の判断は、正当として是認することができる。この点に関する上告人国の論旨は採用することができない。
 次に、上告人県の責任についてみると、以上説示したところによれば、前記事実関係の下において、熊本県知事は、水俣病にかかわる前記諸事情について上告人国と同様の認識を有し、又は有し得る状況にあったのであり、同知事には、昭和34年12月末までに県漁業調整規則32条に基づく規制権限を行使すべき作為義務があり、昭和35年1月以降、この権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くものであるとして、上告人県が国家賠償法1条1項による損害賠償責任を負うとした原審の判断は、同規則が、水産動植物の繁殖保護等を直接の目的とするものではあるが、それを摂取する者の健康の保持等をもその究極の目的とするものであると解されることからすれば、是認することができる。」
過去問・解説
(H24 司法 第25問 エ)
工場排水の規制処分について法令により行政裁量が認められる場合において、裁判所が処分権限不行使の違法を理由とする国家賠償請求を認容するためには、処分権限の不行使が、その権限を定めた法令の趣旨、目的やその権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められることが必要である。

(正答)

(解説)
判例(最判平16.10.15)は、本肢と同種の事案において、「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である…。」としている。
総合メモ

加害公務員の個人責任 最三小判昭和30年4月19日

概要
公権力の行使に当たる公務員の職務行為に基く損害については、国または公共団体が賠償の責に任じ、職務の執行に当たった公務員は、行政機関としての地位においても、個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではない。
判例
事案:国家賠償請求において、加害行為をした当該公務員個人が独立に損害賠償責任を負うかが問題となった。

判旨:「損害賠償等を請求する訴について考えてみるに、右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すべきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。従って県知事を相手方とする訴は不適法であり、また県知事個人、農地部長個人を相手方とする請求は理由がないことに帰する。」
過去問・解説
(H19 司法 第21問 ア)
国の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、軽過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、その被害者に対しては国のみが責任を負うが、当該公務員に故意又は重過失がある場合には、国及び当該公務員のいずれもが被害者に対し直接に責任を負う。

(正答)

(解説)
判例(最判昭30.4.19)は、公務員個人に対して国家賠償請求をした事案において、「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。」としている。
したがって、公務員に故意又は重過失がある場合であっても、公務員個人が責任を負うわけではない。

(H29 予備 第22問 イ)
国家賠償法第1条は、加害行為が公務員の故意又は重過失による場合には、被害者が当該公務員個人に対して賠償請求することを妨げない趣旨である。

(正答)

(解説)
判例(最判昭30.4.19)は、公務員個人に対して国家賠償請求をした事案において、「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。」としている。
したがって、加害行為が公務員の故意又は重過失による場合にも、被害者が当該公務員個人に対して賠償請求することはできない。

(R2 予備 第22問 イ)
国の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意により違法に他人に損害を与えた場合であっても、国は被害者に対し賠償責任を負うが、当該公務員個人は被害者に対し直接に賠償責任を負わない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭30.4.19)は、公務員個人に対して国家賠償請求をした事案において、「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。」としている。
したがって、公務員個人は被害者に対し直接に賠償責任を負わない。
総合メモ

国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に加えた損害につき国又は公共団体が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合において、使用者が民法715条に基づく損害賠償責任を負うか 最一小判平成19年1月25日

概要
国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うときは、使用者は民法715条に基づく損害賠償責任を負わない。
判例
事案:国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に加えた損害につき国又は公共団体が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合において、使用者が民法715条に基づく損害賠償責任を負うかが問題となった。

判旨:「国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし、公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される…。この趣旨からすれば、国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には、被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず、使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、3号措置に基づき入所した児童に対するA学園の職員等による養育監護行為が被告県の公権力の行使に当たり、本件職員の養育監護上の過失によって原告が被った損害につき被告県が国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うことは前記判示のとおりであるから、本件職員の使用者である被告Yは、原告に対し、民法715条に基づく損害賠償責任を負わないというべきである。」
過去問・解説
(H26 共通 第36問 ウ)
社会福祉法人Cの設置する児童養護施設に、児童福祉法に基づくD県の措置により入所した児童が、施設の職員Eの養育監護上の過失によって、他の入所児童から暴行を受けて負傷した場合であって、Eの養育監護行為が、国家賠償法第1条第1項の適用上、県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為とされるときには、E個人が民法第709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず、使用者であるCも同法第715条に基づく損害賠償責任を負わない。

(正答)

(解説)
判例(最判平19.1.25)は、「国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には、被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず、使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わないと解するのが相当である。」としている。
したがって、Eの養育監護行為が県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為とされるときには、E個人が民法第709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず、使用者であるCも同法第715条に基づく損害賠償責任を負わない。

(R1 予備 第23問 ア)
国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うときには、被用者個人は民法第709条に基づく損害賠償責任を負わないが、使用者は同法第715条に基づく損害賠償責任を負う。

(正答)

(解説)
判例(最判平19.1.25)は、「国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても、当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には、被用者個人が民法709条に基づく損害賠償責任を負わないのみならず、使用者も同法715条に基づく損害賠償責任を負わないと解するのが相当である。」としている。
したがって、本肢のような場合、使用者は民法715条に基づく損害賠償責任を負わない。
総合メモ

国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員がその職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害に関する当該公務員らの求償債務 最三小判令和2年7月14日

概要
国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国又は公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国又は公共団体に対し、連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負う。
判例
事案:国家賠償請求訴訟において、複数の公務員が国又は公共団体に対して連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負うかが問題となった。

判旨:「国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国又は公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国又は公共団体に対し、連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負うものと解すべきである。なぜならば、上記の場合には、当該公務員らは、国又は公共団体に対する関係においても一体を成すものというべきであり、当該他人に対して支払われた損害賠償金に係る求償債務につき、当該公務員らのうち一部の者が無資力等により弁済することができないとしても、国又は公共団体と当該公務員らとの間では、当該公務員らにおいてその危険を負担すべきものとすることが公平の見地から相当であると解されるからである。」
過去問・解説
(R5 予備 第23問 ウ)
国の公権力の行使に当たる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国に対し、当該違法行為に係る各公務員の責任割合に応じた分割債務として、国家賠償法第1条第2項による求償債務を負う。

(正答)

(解説)
判例(最判令2.7.14)は、「国又は公共団体の公権力の行使に当たる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国又は公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国又は公共団体に対し、連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負うものと解すべきである。」としている。
したがって、公務員らは、国に対し、分割債務としてではなく、連帯債務として、国家賠償法第1条第2項による求償債務を負う。
総合メモ