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行政法 指定医師の指定取消処分等(職権撤回)の違法性 最二小判昭和63年6月17日

概要
優生保護法14条1項による指定を受けた医師が、虚偽の出生証明書を発行して他人の嬰児をあっせんするいわゆる実子あっせんを長年にわたり多数回行ったことが判明し、そのうちの一例につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられたため、右指定の撤回により当該医師の被る不利益を考慮してもなおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められる場合に、指定権限を付与されている都道府県医師会は、右指定を撤回することができる。
判例
事案:旧優生保護法14条1項に基づき人口妊娠中絶を行うことのできる医師として指定を受けたXが、いわゆる実子あっせんをしたことを理由に有罪判決を受けて上記指定の取消処分(講学上は職権撤回に当たる)をした事案において、許認可の要件が事後的に消滅した場合に、明文規定なくして許認可を撤回することができるか問題となった。

判旨:「右事実関係に基づいて、上告人が行った実子あっせん行為のもつ法的問題点について考察するに、実子あっせん行為は、医師の作成する出生証明書の信用を損ない、戸籍制度の秩序を乱し、不実の親子関係の形成により、子の法的地位を不安定にし、未成年の子を養子とするには家庭裁判所の許可を得なければならない旨定めた民法798条の規定の趣旨を潜脱するばかりでなく、近親婚のおそれ等の弊害をもたらすものであり、また、将来子にとって親子関係の真否が問題となる場合についての考慮がされておらず、子の福祉に対する配慮を欠くものといわなければならない。したがって、実子あっせん行為を行うことは、中絶施術を求める女性にそれを断念させる目的でなされるものであっても、法律上許されないのみならず、医師の職業倫理にも反するものというべきであり、本件取消処分の直接の理由となった当該実子あっせん行為についても、それが緊急避難ないしこれに準ずる行為に当たるとすべき事情は窺うことができない。しかも、上告人は、右のような実子あっせん行為に伴う犯罪性、それによる弊害、その社会的影響を不当に軽視し、これを反復継続したものであって、その動機、目的が嬰児等の生命を守ろうとするにあったこと等を考慮しても、上告人の行った実子あっせん行為に対する少なからぬ非難は免れないものといわなければならない。そうすると、被上告人医師会が昭和51年11月1日付の指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるものというべきである。したがって、本件取消処分及びそれと同じ理由による本件却下処分に違法な点はなく、右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。」
過去問・解説
(H23 共通 第22問 イ)
処分庁は、成立時には瑕疵がなかったが後発的な事情の変化により存続させることが妥当でなくなった行政行為について、法令上明文の規定がない限り、その効力を将来にわたり消滅させることができない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭63.6.17)は、「医師会が…指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、…法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるものというべきである。」としている。
したがって、法令上明文の規定がなくても、その効力を将来にわたり消滅させることができる。

(R1 予備 第14問 ウ)
行政行為がその成立時には違法でなかったものの、その後の事情の変化によりこれを存続させることが公益に適合しなくなった場合、当該行政行為を行った行政庁は、法令上、その撤回について直接明文の規定がある場合に限り、当該行政行為の効力を将来に向かって消滅させることができる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭63.6.17)は、「医師会が…指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、…法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるものというべきである。」としている。
したがって、法令上、その撤回について直接明文の規定がなくても、当該行政行為の効力を将来に向かって消滅させることができる。

(R5 予備 第13問 ウ)
処分庁から人工妊娠中絶を行うことができる医師に指定された開業医が当該指定処分後に虚偽の出生証明書を作成して罰金刑を受けたため、当該処分庁がこれを主な理由として当該指定処分を取り消す行為は、学問上の「職権取消し」に当たる。

(正答)

(解説)
職権取消しは、成立当初から行政行為に違法又は不当の瑕疵があることを理由とするものであり、職権撤回は、行政行為の適法な成立後に生じた後発的な事情の変化を理由とするものである。
本肢における当該指定処分の取消し行為は、処分庁から人工妊娠中絶を行うことができる医師に指定された開業医が当該指定処分後に虚偽の出生証明書を作成して罰金刑を受けたという、当該指定処分の適法な成立後に生じた後発的な事情の変化を理由とするものであるから、職権取消しではなく、職権撤回に当たる。
判例(最判昭63.6.17)も、本肢と同種の事案において、指定医師の指定の取消処分を職権撤回として扱っている。

(R6 予備 第14問 ウ)
母体保護法に基づき人工妊娠中絶手術を行うことができる医師に指定する処分を受けた開業医が、当該処分後に虚偽の出生証明書を作成して罰金刑を受けたとしても、処分の撤回について法令に直接明文の規定がない限り、当該処分が撤回されることはない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭63.6.17)は、本肢と同種の事案において、「実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができる…。」としている。
総合メモ
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