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行政法 協定永住資格を有していた韓国人に対する指紋押なつ拒否を理由とする再入国不許可処分 最二小判平成10年4月10日
概要
法務大臣が、本邦で永住することができる地位を有していた者に対し、外国人登録法(昭和62年法律第102号による改正前のもの)14条1項に基づく指紋の押なつを拒否していることを理由としてした再入国不許可処分は、当時の社会情勢や指紋押なつ制度の維持による在留外国人及びその出入国の公正な管理の必要性など判示の諸事情に加えて、再入国の許否の判断に関する法務大臣の裁量権の範囲がその性質上広範なものとされている趣旨にもかんがみると、右不許可処分が右の者に与えた不利益の大きさ等を考慮してもなお、違法であるとまでいうことはできない。
判例
事案:法務大臣が、いわゆる協定永住許可を受けていたXに対し、指紋の押なつを拒否していることを理由として法務大臣がした再入国不許可処分に対し、Xが処分の取消しを求めた事案において、法務大臣の判断に裁量の逸脱・濫用が認められるか問題となった。
判旨:「一般に、出入国に関する事務は国際法上国内事項とされていて、外国人の入国にいかなる条件を課するかは専らその国の立法政策にゆだねられているところ、我が国の出入国管理及び難民認定法は、再入国の許可を受けて本邦から出国した外国人に限って、当該外国人の有していた在留資格のままで本邦に再び入国することを認めるものとしている。そして、再入国の許可の要件について、同法26条1項は、法務大臣は、本邦に在留する外国人(同法13条から18条までに規定する上陸の許可を受けている者を除く。)がその在留期間(在留期間の定めのない者にあっては、本邦に在留し得る期間)の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもって出国しようとするときは、法務省令で定める手続により、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる旨規定するのみで、右許可の判断基準について特に規定していないが、右は、再入国の許否の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。なぜならば、法務大臣は、再入国の許可申請があったときは、我が国の国益を保持し出入国の公正な管理を図る観点から、申請者の在留状況、渡航目的、渡航の必要性、渡航先国と我が国との関係、内外の諸情勢等を総合的に勘案した上、その許否につき判断すべきであるが、右判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければ到底適切な結果を期待することができないものだからである。右のような再入国の許否の判断に関する法務大臣の裁量権の性質にかんがみると、再入国の許否に関する法務大臣の処分は、その判断が全く事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである…。 以上の見地に立って、本件不許可処分に係る法務大臣の判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法であるか否かにつき検討する。
前記事実関係等によれば、本件不許可処分は、協定永住資格を有する上告人が、渡航先国である米国における大学留学を旅行目的として本件許可申請をしたのに対し、被上告人が指紋押なつ拒否者の増加という事態に対する対応策として打ち出した指紋押なつ拒否者に対しては原則として再入国の許可を与えないという方針に基づき、上告人が外国人登録法(昭和62年法律第102号による改正前のもの)14条1項の規定に違反して指紋の押なつを拒否していることを専らその理由としてされたものであって、他に法務大臣が上告人の右許可申請に対する許否の判断に当たり右申請を許可することが相当でない事由として考慮した事情の存在はうかがわれない。 出入国管理特別法1条の規定に基づき本邦で永住することを許可されている大韓民国国民については、日韓地位協定3条、出入国管理特別法6条1項所定の事由に該当する場合に限って、出入国管理及び難民認定法24条の規定による退去強制をすることができるものとされていることに加えて、日韓地位協定4条(a)の規定により、日本国政府は我が国における教育、生活保護及び国民健康保険に関する事項について妥当な考慮を払うものとされ、右規定の趣旨に沿って行政運用上日本国民と同等の取扱いがされているのであって、このような協定永住資格を有する者による再入国の許可申請に対する法務大臣の許否の判断に当たっては、その者の本邦における生活の安定という観点をもしんしゃくすべきである。しかるところ、本件不許可処分がされた結果、上告人は、協定永住資格を保持したまま留学を目的として米国へ渡航することが不可能となり、協定永住資格を保持するために右渡航を断念するか又は右渡航を実現するために協定永住資格を失わざるを得ない状況に陥ったものということができるのであって、本件不許可処分によって上告人の受けた右の不利益は重大である。 しかしながら、そもそも、外国人登録法が定める指紋押なつ制度は、本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資するという目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として規定されたものであって、出入国の公正な管理を図るという出入国管理行政の目的にも資するものであるから、法務大臣が、指紋押なつの拒否が出入国管理行政にもたらす弊害にかんがみ、再入国の許可申請に対する許否の判断に当たって、右申請をした外国人が同法の規定に違反して指紋の押なつを拒否しているという事情を右申請を許可することが相当でない事由として考慮すること自体は、法務大臣の前記裁量権の合理的な行使として許容し得るものというべきである。のみならず、その後の推移はともかく、本件不許可処分がされた当時は、指紋押なつ拒否運動が全国的な広がりを見せ、指紋の押なつを留保する者が続出するという社会情勢の下にあって、出入国管理行政に少なからぬ弊害が生じていたとみられるのであり、被上告人において、指紋押なつ制度を維持して在留外国人及びその出入国の公正な管理を図るため、指紋押なつ拒否者に対しては再入国の許可を与えないという方針で臨んだこと自体は、その必要性及び合理性を肯定し得るところであり、その結果、外国人の在留資格いかんを問わずに右方針に基づいてある程度統一的な運用を行うことになったとしても、それなりにやむを得ないところがあったというべきである。他方で、前記事実関係等によれば、上告人は、本件不許可処分の前のみならずその後も指紋押なつの拒否を繰り返しており、上告人が外国人登録制度を遵守しないことを表明し、これを実施したものと被上告人に受け止められても無理からぬ面があったといえなくもない。 右のような本件不許可処分がされた当時の社会情勢や指紋押なつ制度の維持による在留外国人及びその出入国の公正な管理の必要性その他の諸事情に加えて、前示のとおり、再入国の許否の判断に関する法務大臣の裁量権の範囲がその性質上広範なものとされている趣旨にもかんがみると、協定永住資格を有する者についての法務大臣の右許否の判断に当たってはその者の本邦における生活の安定という観点をもしんしゃくすべきであることや、本件不許可処分が上告人に与えた不利益の大きさ、本件不許可処分以降、在留外国人の指紋押なつ義務が軽減され、協定永住資格を有する者についてはさらに指紋押なつ制度自体が廃止されるに至った経緯等を考慮してもなお、右処分に係る法務大臣の判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいまだ断ずることができないものというべきである。したがって、右判断は、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったものとして違法であるとまでいうことはできない。」
判旨:「一般に、出入国に関する事務は国際法上国内事項とされていて、外国人の入国にいかなる条件を課するかは専らその国の立法政策にゆだねられているところ、我が国の出入国管理及び難民認定法は、再入国の許可を受けて本邦から出国した外国人に限って、当該外国人の有していた在留資格のままで本邦に再び入国することを認めるものとしている。そして、再入国の許可の要件について、同法26条1項は、法務大臣は、本邦に在留する外国人(同法13条から18条までに規定する上陸の許可を受けている者を除く。)がその在留期間(在留期間の定めのない者にあっては、本邦に在留し得る期間)の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもって出国しようとするときは、法務省令で定める手続により、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる旨規定するのみで、右許可の判断基準について特に規定していないが、右は、再入国の許否の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。なぜならば、法務大臣は、再入国の許可申請があったときは、我が国の国益を保持し出入国の公正な管理を図る観点から、申請者の在留状況、渡航目的、渡航の必要性、渡航先国と我が国との関係、内外の諸情勢等を総合的に勘案した上、その許否につき判断すべきであるが、右判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければ到底適切な結果を期待することができないものだからである。右のような再入国の許否の判断に関する法務大臣の裁量権の性質にかんがみると、再入国の許否に関する法務大臣の処分は、その判断が全く事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである…。 以上の見地に立って、本件不許可処分に係る法務大臣の判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法であるか否かにつき検討する。
前記事実関係等によれば、本件不許可処分は、協定永住資格を有する上告人が、渡航先国である米国における大学留学を旅行目的として本件許可申請をしたのに対し、被上告人が指紋押なつ拒否者の増加という事態に対する対応策として打ち出した指紋押なつ拒否者に対しては原則として再入国の許可を与えないという方針に基づき、上告人が外国人登録法(昭和62年法律第102号による改正前のもの)14条1項の規定に違反して指紋の押なつを拒否していることを専らその理由としてされたものであって、他に法務大臣が上告人の右許可申請に対する許否の判断に当たり右申請を許可することが相当でない事由として考慮した事情の存在はうかがわれない。 出入国管理特別法1条の規定に基づき本邦で永住することを許可されている大韓民国国民については、日韓地位協定3条、出入国管理特別法6条1項所定の事由に該当する場合に限って、出入国管理及び難民認定法24条の規定による退去強制をすることができるものとされていることに加えて、日韓地位協定4条(a)の規定により、日本国政府は我が国における教育、生活保護及び国民健康保険に関する事項について妥当な考慮を払うものとされ、右規定の趣旨に沿って行政運用上日本国民と同等の取扱いがされているのであって、このような協定永住資格を有する者による再入国の許可申請に対する法務大臣の許否の判断に当たっては、その者の本邦における生活の安定という観点をもしんしゃくすべきである。しかるところ、本件不許可処分がされた結果、上告人は、協定永住資格を保持したまま留学を目的として米国へ渡航することが不可能となり、協定永住資格を保持するために右渡航を断念するか又は右渡航を実現するために協定永住資格を失わざるを得ない状況に陥ったものということができるのであって、本件不許可処分によって上告人の受けた右の不利益は重大である。 しかしながら、そもそも、外国人登録法が定める指紋押なつ制度は、本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資するという目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として規定されたものであって、出入国の公正な管理を図るという出入国管理行政の目的にも資するものであるから、法務大臣が、指紋押なつの拒否が出入国管理行政にもたらす弊害にかんがみ、再入国の許可申請に対する許否の判断に当たって、右申請をした外国人が同法の規定に違反して指紋の押なつを拒否しているという事情を右申請を許可することが相当でない事由として考慮すること自体は、法務大臣の前記裁量権の合理的な行使として許容し得るものというべきである。のみならず、その後の推移はともかく、本件不許可処分がされた当時は、指紋押なつ拒否運動が全国的な広がりを見せ、指紋の押なつを留保する者が続出するという社会情勢の下にあって、出入国管理行政に少なからぬ弊害が生じていたとみられるのであり、被上告人において、指紋押なつ制度を維持して在留外国人及びその出入国の公正な管理を図るため、指紋押なつ拒否者に対しては再入国の許可を与えないという方針で臨んだこと自体は、その必要性及び合理性を肯定し得るところであり、その結果、外国人の在留資格いかんを問わずに右方針に基づいてある程度統一的な運用を行うことになったとしても、それなりにやむを得ないところがあったというべきである。他方で、前記事実関係等によれば、上告人は、本件不許可処分の前のみならずその後も指紋押なつの拒否を繰り返しており、上告人が外国人登録制度を遵守しないことを表明し、これを実施したものと被上告人に受け止められても無理からぬ面があったといえなくもない。 右のような本件不許可処分がされた当時の社会情勢や指紋押なつ制度の維持による在留外国人及びその出入国の公正な管理の必要性その他の諸事情に加えて、前示のとおり、再入国の許否の判断に関する法務大臣の裁量権の範囲がその性質上広範なものとされている趣旨にもかんがみると、協定永住資格を有する者についての法務大臣の右許否の判断に当たってはその者の本邦における生活の安定という観点をもしんしゃくすべきであることや、本件不許可処分が上告人に与えた不利益の大きさ、本件不許可処分以降、在留外国人の指紋押なつ義務が軽減され、協定永住資格を有する者についてはさらに指紋押なつ制度自体が廃止されるに至った経緯等を考慮してもなお、右処分に係る法務大臣の判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいまだ断ずることができないものというべきである。したがって、右判断は、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったものとして違法であるとまでいうことはできない。」
過去問・解説
(H20 司法 第24問 ア)
出入国管理及び難民認定法第26条第1項が外国人の再入国許可に関して許可の判断基準を特に規定していないのは、再入国の許否の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨であると解されている。
【参照条文】出入国管理及び難民認定法
第26条 法務大臣は、本邦に在留する外国人(中略)がその在留期間(在留期間の定めのない者にあっては、本邦に在留し得る期間)の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもって出国しようとするときは、法務省令で定める手続により、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる。この場合において、法務大臣は、その者の申請に基づき、相当と認めるときは、当該許可を数次再入国の許可とすることができる。
2~7 (略)
出入国管理及び難民認定法第26条第1項が外国人の再入国許可に関して許可の判断基準を特に規定していないのは、再入国の許否の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨であると解されている。
【参照条文】出入国管理及び難民認定法
第26条 法務大臣は、本邦に在留する外国人(中略)がその在留期間(在留期間の定めのない者にあっては、本邦に在留し得る期間)の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもって出国しようとするときは、法務省令で定める手続により、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる。この場合において、法務大臣は、その者の申請に基づき、相当と認めるときは、当該許可を数次再入国の許可とすることができる。
2~7 (略)
(正答)〇
(解説)
判例(最判平10.4.10)は、「再入国の許可の要件について、同法26条1項は、法務大臣は、本邦に在留する外国人…がその在留期間…の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもって出国しようとするときは、法務省令で定める手続により、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる旨規定するのみで、右許可の判断基準について特に規定していないが、右は、再入国の許否の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からである…。」としている。
判例(最判平10.4.10)は、「再入国の許可の要件について、同法26条1項は、法務大臣は、本邦に在留する外国人…がその在留期間…の満了の日以前に本邦に再び入国する意図をもって出国しようとするときは、法務省令で定める手続により、その者の申請に基づき、再入国の許可を与えることができる旨規定するのみで、右許可の判断基準について特に規定していないが、右は、再入国の許否の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からである…。」としている。