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総則、人

権利濫用禁止の原則と不法行為 大判大正8年3月3日

概要
権利の行使が社会観念上被害者が認容しなければならない程度を超える場合には、権利行使の適当なる範囲にあるとはいえないから、不法行為が成立する。
判例
事案:汽車の運行によって生じる煤煙が原因で線路近辺の松樹が枯死したとして、松樹の所有者が鉄道会社に対して不法行為に基づく損害賠償を求めて訴えを提起した場合に、当該訴えが権利の濫用に当たるかが問題となった。

判旨:「權利ノ行使ト雖モ法律ニ於テ認メラレタル適當ノ範圍内ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要スルモノナレハ權利ヲ行使スル場合ニ於テ故意又ハ過失ニ因リ其擔當ナル範圍ヲ超越シ失當ナル方法ヲ行ヒタルカ爲メ他人ノ權利ヲ侵害シタルトキハ侵害ノ程度ニ於テ不法行爲成立スルコトハ當院判例ノ認ムル所ナリ(大正5年(オ)第718號大正6年1月22日言渡當院判決參照)然ラハ其適當ナル範圍トハ如何凡ソ社會的共同生活ヲ爲ス者ノ間ニ於テハ1人ノ行爲カ他人ニ不利益ヲ及ホスコトアルハ免ルヘカラサル所ニシテ此場合ニ於テ常ニ權利ノ侵害アルモノト爲スヘカラス其他人ハ共同生活ノ必要上之ヲ認容セサルヘカラサルナリ然レトモ其行爲カ社會觀念上被害者ニ於テ認容スヘカラサルモノト一般ニ認メラルル程度ヲ越ヘタルトキハ權利行使ノ適當ナル範圍ニアルモノト云フコトヲ得サルヲ以テ不法行爲ト爲ルモノト解スルヲ相當トス抑モ汽車ノ運轉ハ音響及ヒ職動ヲ近傍ニ傳ヘ又之ヲ運轉スルニ當リテハ石炭ヲ燃燒スルノ必要上煤煙ヲ附近ニ飛散セシムルハ已ムヲ得サル所ニシテ注意シテ汽車ヲ操縱シ石炭ヲ燃燒スルモ避クヘカラサル所ナレハ鐵道業者トシテノ權利ノ行使ニ當然伴フヘキモノト謂フヘク蒸汽鐵道カ交通上缺クヘカラサルモノトシテ認メラルル以上ハ沿道ノ住民ハ共同生活ノ必要上之ヲ認容セサルヘカラス即チ此等ハ權利行使ノ適當ナル範圍ニ屬スルヲ以テ住民ニ害ヲ及ホスコトアルモ不法ニ權利ヲ侵害シタルニアラサレハ不法行爲成立セス從テ汽車進行中附近ノ草木等ニ普通飛散スヘキ煤煙ニ因リ害ヲ被ラシムルモ被害者ハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得サルモノトス然レトモ若シ汽車ノ運轉ニ際シ權利行使ノ適當ナル範圍ヲ超越シテ失當ナル方法ヲ行ヒ害ヲ及ホシタルトキハ不法ナル權利侵害トナルヲ以テ賠償ノ責ヲ免カルルコトヲ得サルナリ原院ノ認メタル事實ニ依レハ本件松樹ハ停車場ニ接近シ鐵道線路ヨリ僅ニ一間未滿ノ地點ニ生立シ其枝條ハ線路ノ方向ニ張リ常ニ汽鑵車ノ多大ナル煤煙ニ暴露セラレタル爲メ枯死ノ害ヲ被リタルモノニシテ其煤煙ヲ防クヘキ設備ヲ爲シ得ラレサルニアラサルコト第一點ニ説示シタルカ如クナルヲ以テ彼ノ鐵道沿線ノ到ル所ニ散在スル樹木カ普通ニ汽鑵車ヨリ吐出スル煤煙ノ害ヲ被ムリタルト同一ニ論スルコトヲ得サルモノトス即チ本件松樹ハ鐵道沿線ニ散在スル樹木ヨリモ甚シク煤煙ノ害ヲ被ムルヘキ位置ニアリテ且ツ其害ヲ豫防スヘキ方法ナキニアラサルモノナレハ討形人カ煤煙豫防ノ方法ヲ施サスシテ煙害ノ生スルニ任セ該松樹ヲ枯死セシメタルハ其營業タル汽車運轉ノ結果ナリトハ云ヘ社會觀念上一般ニ認容スヘキモノト認メラルル範圍ヲ超越シタルモノト謂フヘク權利行使ニ關スル適當ナル方法ヲ行ヒタルニアラサルモノト解スルヲ相當トス故ニ原院カ上告人ノ本件松樹ニ煙害ヲ被ラシメタルハ權利行使ノ範圍ニアラスト判斷シ過失ニ因リ之ヲ爲シタルヲ以テ不法行爲成立スル旨ヲ判示シタルハ相當ナリ。」
過去問・解説
(H20 司法 第1問 オ)
「権利の行使であっても、社会通念上被害者が認容しなければならない程度を超える場合には、不法行為が成立する」という記述は、権利濫用禁止の原則について述べているものである。

(正答)

(解説)
判例(大判大8.3.3)は、権利の行使が社会観念上被害者が認容しなければならない程度を超える場合には、権利の行使として法律上認められる適当な範囲を超えるとして、不法行為が成立する旨判示している。この判例に基づけば、本肢の記述は、権利濫用禁止の原則について述べたものであるといえる。
総合メモ

履行の提供と信義誠実の原則 大判大正14年12月3日

概要
履行の提供場所が不明確な場合においても、売主が目的物の引渡しの準備をし、その旨を買主に通知した上で代金支払いの催告をすれば、信義則上、買主は、売主に履行の提供場所を問い合わせるべきであるから、この問い合わせを怠り、代金の支払いに応じない場合には履行遅滞の責任を負う。
判例
事案:履行の提供場所が不明確な場合において、信義則上、買主が、売主に履行場所の問い合わせをする必要があるかが問題となった。

判旨:「上告人カ引渡ノ準備ヲ完了シ之ヲ被上告人ニ通知シ代金支払ヲ催告シタル際被上告人カ引渡場所ヲ知リ又ハ之ヲ知ルコトヲ得ヘカリシニ拘ラス之ニ応セサリシモノトスレハ固ヨリ遅滞ノ責ニ任セサルヘカラス而シテ本件ニ於テ上告人ハ引渡場所カ丸三倉庫ナルコトハ被上告人ノ了知スル所ナル旨主張スルモノナルコト原審ニ於ケル上告人弁論ノ全趣旨ニ徴シ之ヲ看取スルニ難カラサルノミナラス仮ニ被上告人カ之ヲ知ラサリシトスルモ被上告人ニ於テ誠実ニ取引スルノ意思アラハ相手方ニ対スル一片ノ問合セニ依リ直ニ之ヲ知ルコトヲ得ヘカリシモノニシテ斯カル場合ニハ信義ノ原則ニ依リ被上告人ハ右問合セヲ為スコトヲ要シ之ヲ怠リタルニ於テハ遅滞ノ責ヲ免ルルヲ得サルモノトス。」
過去問・解説
(H19 司法 第23問 ウ)
催告に当たり債権者が指定した履行の場所が不明確であったときは、この催告の効力が認められることはない。

(正答)

(解説)
判例(大判大14.12.3)は、履行の提供場所が不明確な場合においても、売主が目的物の引渡しの準備をし、その旨を買主に通知した上で代金支払いの催告をすれば、信義則上、買主は、売主に履行の提供場所を問い合わせるべきであるから、この問い合わせを怠り、代金の支払いに応じない場合には履行遅滞の責任を負う旨判示している。したがって、催告に当たり債権者が指定した履行の場所が不明確であったときにおいても、この催告の効力が認められる場合はある。

(H20 司法 第1問 ウ)
動産売買における引渡場所について、買主が売主に問い合わせをすれば知ることが容易であった場合には、問い合わせを怠った買主は、権利濫用禁止の原則を根拠に遅滞の責任を免れない。

(正答)

(解説)
判例(大判大14.12.3)は、履行の提供場所が不明確な場合においても、売主が目的物の引渡しの準備をし、その旨を買主に通知した上で代金支払いの催告をすれば、信義則上、買主は、売主に履行の提供場所を問い合わせるべきであるから、この問い合わせを怠り、代金の支払いに応じない場合には履行遅滞の責任を負う旨判示している。このように、同判例は、遅滞の責任を免れないとする根拠を、権利濫用禁止の原則ではなく、信義則に求めている。
総合メモ

権利濫用禁止の原則 大判昭和10年10月5日

概要
所有権に対する微小な侵害が生じている一方で、その侵害除去のためには莫大な出費を要する場合において、第三者が不当な利得を得ることを企図して別段の必要なくして侵害にかかる物件を買収し、所有者として、侵害者に対し、侵害除去を迫ると同時に、当該物件を巨額な代金で買い取るように要求し、他の一切の協調に応じない旨の主張をしている事情があるときには、侵害除去の請求は、権利の濫用に当たるから認められない。
判例
事案:Aが、温泉施設の引湯管が埋設されている土地を買い受けた上で、同温泉施設の経営者Bに対して提起した、所有権に基づく妨害排除としての引湯管の撤去を求める訴えが、権利の濫用に当たるかが問題となった。

判旨:「所有権ニ対スル侵害又ハ其ノ危険ノ存スル以上所有者ハ斯ル状態ヲ除去又ハ禁止セシムル為メ裁判上ノ保護ヲ請求シ得ヘキヤ勿論ナレトモ該侵害ニ因ル損失云フニ足ラス而モ侵害ノ除去著シク困難ニシテ縦令之ヲ為シ得トスルモ莫大ナル費用ヲ要スヘキ場合ニ於テ第三者ニシテ斯ル事実アルヲ奇貨トシ不当ナル利益ヲ図リ殊更侵害ニ関係アル物件ヲ買収セル上一面ニ於テ侵害者ニ対シ侵害状態ノ除去ヲ迫リ他面ニ於テハ該物件其ノ他ノ自己所有物件ヲ不相当ニ巨額ナル代金ヲ以テ買取ラレタキ旨ノ要求ヲ提示シ他ノ一切ノ協調ニ応セスト主張スルカ如キニ於テハ該除去ノ請求ハ単ニ所有権ノ行使タル外形ヲ構フルニ止マリ真ニ権利ヲ救済セムトスルニアラス即チ如上ノ行為ハ全体ニ於テ専ラ不当ナル利益ノ掴得ヲ目的トシ所有権ヲ以テ其ノ具ニ供スルニ帰スルモノナレハ社会観念上所有権ノ目的ニ違背シ其ノ機能トシテ許サルヘキ範囲ヲ超脱スルモノニシテ権利ノ濫用ニ外ナラス従テ斯ル不当ナル目的ヲ追行スルノ手段トシテ裁判上侵害者ニ対シ当該侵害状態ノ除去並将来ニ於ケル侵害ノ禁止ヲ訴求スルニ於テハ該訴訟上ノ請求ハ外観ノ如何ニ拘ラス其ノ実体ニ於テハ保護ヲ与フヘキ正当ナル利益ヲ欠如スルヲ以テ此ノ理由ニ依リ直ニ之ヲ棄却スヘキモノト解スルヲ至当トス。」
過去問・解説
(H20 司法 第1問 エ)
「妨害により所有権が侵害されても、生じた損失が軽微であり、妨害を除去することが著しく困難で、多大の費用を要する場合には、不当な利益を獲得する目的で妨害の除去を求めることは許されない」という記述は、権利濫用禁止の原則について述べているものである。

(正答)

(解説)
判例(大判昭10.10.5)は、所有権に対する微小な侵害が生じている一方で、その侵害除去のためには莫大な出費を要する場合において、第三者が不当な利得を得ることを企図して別段の必要なくして侵害にかかる物件を買収し、所有者として、侵害者に対し、侵害除去を迫ると同時に、当該物件を巨額な代金で買い取るように要求し、他の一切の協調に応じない旨の主張をしている事情があるときには、所有権に対する侵害の除去の請求は、権利の濫用に当たり認められない旨判示している。
総合メモ

長期間にわたって解除権を行使しなかった者による解除権の行使 最三小判昭和30年11月22日

概要
長期間にわたって解除権が行使されていない場合、相手方がその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が存在し、権利行使が信義誠実に反すると認められるような特段の事情がある場合、解除は許されない。
判例
事案:長期間にわたって解除権を行使しなかった者が同権利を行使した場合において、当該行使が信義則上許容されるかが問題となった。

判旨:「権利の行使は、信義誠実にこれをなすことを要し、その濫用の許されないことはいうまでもないので、解除権を有するものが、久しきに亘りこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有するに至つたため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、もはや右解除は許されないものと解するのを相当とする。」
過去問・解説
(H20 司法 第1問 イ)
「解除権を有する者が長期にわたりこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由を有するに至ったという特段の事情がある場合には、解除権の行使は許されない。」という記述は、権利濫用禁止の原則について述べたものである。

(正答)

(解説)
判例(最判昭30.11.22)は、「解除権を有するものが、久しきに亘りこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有するに至つたため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、もはや右解除は許されないものと解するのを相当とする。」と判示している。このように、同判例は、解除権の行使を制限する法的根拠を、権利濫用禁止の原則ではなく、信義則に求めている。
総合メモ

売買契約解除の前提としての催告が信義則に反し無効とされた事例 最一小判昭和43年5月30日

概要
売買契約が行われ、目的物である土地の引渡しがなされた後に、売主が、買主不知の間に、当該土地に第三者のため根抵当権及び地上権の設定登記をした場合において、売主が残代金の支払を催告し、その不払を理由に土地の売買契約を解除したときは、当該催告は信義則に反し無効となり、解除は認められない。
判例
事案:売買契約が行われ、目的物である土地の引渡しがなされた後に、売主が、買主不知の間に、当該土地に第三者のため根抵当権及び地上権の設定登記をした場合において、売主が残代金の支払を催告した上で、その不払を理由にした同売買契約の解除が有効であるかが問題となった。

判旨:「被上告人Aらの被相続人Bは売買により本件土地等の所有権を取得し、その引渡をも受けたものである旨、および右のような状況にある土地につき、B不知の間に、上告人CはDのため根抵当権および地上権の設定登記をし、その後に本件売買の残代金の催告をしたものである旨の原審の認定は、挙示の証拠により是認できる。かかる事実関係の下においては、契約当事者は信義則に従い、相手方が契約所期の目的を達するよう努める義務があるものであるから、本件土地が右のような状態にある場合においては、Bが上告人Cの催告に応じて残代金を支払っても、右根抵当権および地上権が設定されているため、将来所有権を失う等不則の損害を蒙るおそれがあるので、本件契約解除の前提たる前記催告は、信義則に反する無効のものというべきである…。」
過去問・解説
(H25 司法 第1問 1)
土地の売買契約により、買主が所有権を取得し、その引渡しを受けた後に、売主がその土地に第三者のため地上権の設定登記をした場合には、売主が買主に対して残代金の支払を催告し、その不払を理由に売買契約を解除する旨の意思表示は公序良俗に違反するから、解除の効力は生じない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭43.5.30)は、本肢と同種の事案において、買主が売買契約によって土地の所有権を取得し、その引渡を受けた後に、売主が、買主不知の間に、当該土地に第三者のため根抵当権及び地上権の設定登記をした場合に、売主が残代金の支払を催告し、その不払を理由に土地の売買契約を解除したときは、当該催告は信義則に反し無効であり、解除は認められない旨判示している。このように、同判例は、公序良俗(90条)違反ではなく、信義則を根拠として催告を無効とし、解除は認められないとしている。
総合メモ

国の国家公務員に対する安全配慮義務 最三小判昭和50年2月25日

概要
安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務であり、この理は国と公務員の間においても当てはまる。国は、国家公務員に対し、国家公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負う。
判例
事案:国家公務員が服務中の事故によって死亡した場合において、国の国家公務員に対する安全配慮義務が認められ、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が認められるかが問題となった。

判旨:「国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法101条1項前段、自衛隊法60条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法98条1項、自衛隊法56条、57条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法62条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあっては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法76条)、治安出動時(同法78条以下)又は災害派遣時(同法83条)のいずれにおけるものであるか等によっても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負っているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。けだし、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法93条ないし95条及びこれに基づく国家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法27条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。」
過去問・解説
(H20 司法 第1問 ア)
「国は、公務員に対して、その生命及び健康等を危険から保護するように配慮すべき義務を負う。」という記述は、権利濫用禁止の原則について述べたものである。

(正答)

(解説)
判例(最判昭50.2.25)は、「国は、公務員に対し…公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負」うと判示した上で、「右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であ」ると判示している。このように、同判例は、安全配慮義務の根拠を、権利濫用禁止の原則ではなく、信義則に求めている。
総合メモ

不当利得返還請求訴訟において不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないと主張して請求を争うことが信義誠実の原則に反するとされた事例 最三小判平成16年10月26日

概要
自ら受領権限があるものとして金融機関から払戻しを受けておきながら、一転して、払戻金融機関に過失があり、自らが受けた払戻しは478条の要件を満たさず無効であって、損失はないと主張することは、信義誠実の原則に反し、許されない。
判例
事案:自ら受領権限があるとして払戻しを受けた者が、払戻金融機関から、不当利得返還請求訴訟を提起された場合において、払戻しにつき金融機関側に過失があり、478条の要件を満たさず払戻しは無効であるなどとして、不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないと主張して請求を争うことが、信義誠実の原則に反するかが問題となった。

判旨:「(1)上告人は、本件各金融機関から被上告人相続分の預金について自ら受領権限があるものとして払戻しを受けておきながら、被上告人から提起された本件訴訟において、一転して、本件各金融機関に過失があるとして、自らが受けた上記払戻しが無効であるなどと主張するに至ったものであること、(2)仮に、上告人が、本件各金融機関がした上記払戻しの民法478条の弁済としての有効性を争って、被上告人の本訴請求の棄却を求めることができるとすると、被上告人は、本件各金融機関が上記払戻しをするに当たり善意無過失であったか否かという、自らが関与していない問題についての判断をした上で訴訟の相手方を選択しなければならないということになるが、何ら非のない被上告人が上告人との関係でこのような訴訟上の負担を受忍しなければならない理由はないことなどの諸点にかんがみると、上告人が上記のような主張をして被上告人の本訴請求を争うことは、信義誠実の原則に反し許されないものというべきである。」
過去問・解説
(R2 司法 第28問 エ)
債務者が債権の受領権限がない者に対し弁済をした場合において、真の債権者がその受領者に対して不当利得返還請求をしたときは、その受領者は、弁済をした債務者に過失があったことを主張して、請求を拒絶することができる。

(正答)

(解説)
判例(最判平16.10.26)は、自ら受領権限があるものとして弁済を受けておきながら、一転して、弁済をした債務者に過失があり、自らが受けた払戻しは478条の要件を満たさず無効であって、損失はないと主張することは、信義誠実の原則に反し、許されない旨判示している。したがって、弁済受領者が、弁済をした債務者に過失があったことを主張して、真の債権者からの不当利得返還請求を拒絶することは、信義誠実の原則に反し、許されない。
総合メモ

貸金業者において、特約に基づき借主が期限の利益を喪失した旨主張することが信義則に反し許されないとされた事例 最二小判平成21年9月11日

概要
消費貸借契約において、貸主が積極的に借主の誤信を招くような対応をしたために、借主が期限の利益を喪失していないものと信じて各期の支払いを継続し、貸主も借主の誤信を知りながらその誤信を解くことなく弁済金を受領し続けたという事情がある場合、貸主が、借主に対し、期限の利益を喪失した旨の主張をすることは、信義則に反し許されない。
判例
事案:金銭消費貸借の借主が貸主に過払い金の返還を求めた場合において、貸主側の、特約に基づいてされた借主が期限の利益を喪失した旨の主張が認められるかが問題となった。

判旨:「…上告人の対応は…被上告人に期限の利益を喪失していないとの誤信を生じさせかねないものであって、被上告人において、約定の支払期日より支払が遅れることがあっても期限の利益を喪失することはないと誤信したことには無理からぬものがあるというべきである。」 
 「上告人は、被上告人が期限の利益を喪失していないと誤信していることを知りながら、この誤信を解くことなく…金員等を受領し続けたにもかかわらず、被上告人から過払金の返還を求められるや、被上告人は第5回目の支払期日における支払が遅れたことにより既に期限の利益を喪失しており、その後に発生したのはすべて利息ではなく遅延損害金であったから、利息の制限利率ではなく遅延損害金の制限利率によって過払金の元本への充当計算をすべきであると主張するものであって、このような上告人の期限の利益喪失の主張は、誤信を招くような上告人の対応のために、期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきた被上告人の信頼を裏切るものであり、信義則に反し許されないものというべきである。」
過去問・解説
(H25 司法 第1問 3)
消費貸借契約の貸主が積極的に借主の誤信を招くような対応をしたため、借主が期限の利益を喪失していないものと信じて各期の支払を継続し、貸主も借主が誤信していることを知りながらその誤信を解くことなく弁済金を受領し続けたという事情がある場合、貸主は、借主に対し、期限の利益を喪失した旨の主張は、公序良俗に違反することから、することができない。

(正答)

(解説)
判例(最判平21.9.11)は、本肢と同種の事案において、「上告人は、被上告人が期限の利益を喪失していないと誤信していることを知りながら、この誤信を解くことなく…金員等を受領し続けたにもかかわらず、被上告人から過払金の返還を求められるや、被上告人は第5回目の支払期日における支払が遅れたことにより既に期限の利益を喪失しており、その後に発生したのはすべて利息ではなく遅延損害金であったから、利息の制限利率ではなく遅延損害金の制限利率によって過払金の元本への充当計算をすべきであると主張するものであって、このような上告人の期限の利益喪失の主張は、誤信を招くような上告人の対応のために、期限の利益を喪失していないものと信じて支払を継続してきた被上告人の信頼を裏切るものであり、信義則に反し許されないものというべきである。」と判示している。このように、同判例は、本肢と同種の事案において、期限の利益を喪失した旨の主張を退ける法的根拠を、公序良俗(90条)に違反することではなく、信義則に求めている。
総合メモ

権利能力のない労働組合に対する脱退組合員の財産分割請求権 最一小判昭和32年11月14日

概要
権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の総有に属するものであるから、総社員の同意をもって、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、当該財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではない。
判例
事案:権利能力なき社団である労働組合から組合員の脱退が発生した場合において、脱退組合員の財産分割請求権が認められるかが問題となった。

判旨:「権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから、総社員の同意をもつて、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、右財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である。」
過去問・解説
(H20 司法 第4問 4)
権利能力なき社団の財産は、その構成員に総有的に帰属するから、構成員の1人に対して金銭債権を有する債権者は、当該構成員の有する総有持分に限りこれを差し押さえることができる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭32.11.14)は、「権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから、総社員の同意をもつて、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、右財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である。」と判示している。したがって、構成員は、団体財産について共有持分権を有さず、分割請求権も有しないため、構成員に対して金銭債権を有する債権者は、当該構成員の有する総有持分を差し押さえることはできない。
総合メモ

権利能力なき社団の成立要件 最一小判昭和39年10月15日

概要
権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない。
判例
事案:法人ではない団体から賃借権を含む一切の権利を譲り受けた賃借人が、土地所有者から、同賃借人らは権限なく土地を占有しているとして、建物収去土地明渡請求を受けた事案において、権利能力なき社団の成立要件が問題となった。

判旨:「法人格を有しない社団すなわち権利能力のない社団については、民訴46条(現行法29条)がこれについて規定するほか実定法上何ら明文がないけれども、権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならないのである。」
過去問・解説
(H20 司法 第4問 1)
権利能力なき社団の成立要件は、団体としての組織を備え、多数決の原理が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることである。

(正答)

(解説)
判例(最判昭39.10.15)は、「権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならないのである。」と判示している。
総合メモ

権利能力なき社団の資産たる不動産についての登記方法②権利能力なき社団の資産たる不動産につき登記簿上所有名義人となっていた代表者が交替した場合における新代表者の旧代表者に対する登記請求権 最二小判昭和47年6月2日

概要
①権利能力なき社団の資産たる不動産については、社団の代表者が、社団の構成員全員の受託者たる地位において、個人の名義で所有権の登記をすることができるにすぎず、社団を権利者とする登記をし、又は、社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個人名義の登記をすることは、許されないものと解すべきである。
②権利能力なき社団の資産たる不動産につき、登記簿上所有名義人となった代表者がその地位を失い、これに代わる新代表者が選任されたときは、新代表者は、旧代表者に対して、当該不動産につき自己の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求めることができる。
判例
事案:①権利能力なき社団に総有的に帰属した不動産が存在する場合において、いかなる登記方法が認められるかが問題となった。
 ②権利能力なき社団の資産たる不動産につき登記簿上所有名義人となっていた代表者が交替した場合に、新代表者の旧代表者に対する登記請求権が認められるかが問題となった。

判旨:「権利能力なき社団の資産はその社団の構成員全員に総有的に帰属しているのであって、社団自身が私法上の権利義務の主体となることはないから、社団の資産たる不動産についても、社団はその権利主体となり得るものではなく、したがつて、登記請求権を有するものではないと解すべきである。不動産登記法が、権利能力なき社団に対してその名において登記申請をする資格を認める規定を設けていないことも、この趣旨において理解できるのである。したがつて、権利能力なき社団が不動産登記の申請人となることは許されず、また、かかる社団について前記法条の規定を準用することもできないものといわなければならない。
 ところで、右のように権利能力なき社団の構成員全員の総有に属する社団の資産たる不動産については、従来から、その公示方法として、本件のように社団の代表者個人の名義で所有権の登記をすることが行なわれているのである。これは、不動産登記法が社団自身を当事者とする登記を許さないこと、社団構成員全員の名において登記をすることは、構成員の変動が予想される場合に常時真実の権利関係を公示することが困難であることなどの事情に由来するわけであるが、本来、社団構成員の総有に属する不動産は、右構成員全員のために信託的に社団代表者個人の所有とされるものであるから、代表者は、右の趣旨における受託者たるの地位において右不動産につき自己の名義をもつて登記をすることができるものと解すべきであり、したがつて、登記上の所有名義人となった権利能力なき社団の代表者がその地位を失ってこれに代る新代表者が選任されたときは、旧代表者は右の受託者たる地位をも失い、新代表者においてその地位を取得し、新代表者は、信託法の信託における受託者の更迭の場合に準じ、旧代表者に対して、当該不動産につき自己の個人名義に所有権移転登記手続をすることの協力を求め、これを訴求することができるものと解するのが相当である。
 所論は、右の場合においても、登記簿上、たんに代表者個人名義の記載をするにとどめるのは相当でなく、社団の代表者である旨の肩書を付した記載を認めるべきであって、判決においてもその趣旨の登記をなすことを命ずべきものと主張する。
 しかしながら、かりに、そのような方法が代表者個人の固有の権利と区別し社団の資産であることを明らかにする手段としては適当であるとしても、かような登記を許すことは、実質において社団を権利者とする登記を許容することにほかならないものであるところ、不動産登記法は、権利者として登記せらるべき者を実体法上権利能力を有する者に限定し、みだりに拡張を許さないものと解すべきであるから、所論のような登記は許されないものというべきである。」
過去問・解説
(H20 司法 第4問 2)
権利能力なき社団が取得した不動産については、権利能力なき社団名義で所有権の登記をすることはできず、権利能力なき社団の代表者たる肩書を付した代表者名義で所有権の登記をすることができるにすぎない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭47.6.2)は、「権利能力なき社団の資産はその社団の構成員全員に総有的に帰属しているのであって、社団自身が私法上の権利義務の主体となることはないから、社団の資産たる不動産についても、社団はその権利主体となり得るものではなく、したがつて、登記請求権を有するものではないと解すべきである。」と判示しており、権利能力なき社団名義で所有権の登記をすることはできないとしている。したがって、本肢前段部分は正しい。
これに対して、同判例は「…登記簿上、たんに代表者個人名義の記載をするにとどめるのは相当でなく、社団の代表者である旨の肩書を付した記載を認めるべきであって、判決においてもその趣旨の登記をなすことを命ずべきものと主張する。しかしながら、かりに、そのような登記を許すことは、実質において社団を権利者とする登記を許容することにほかならないものであるところ、不動産登記法は、権利者として登記せらるべき者を実体法上権利能力を有する者に限定し、みだりに拡張を許さないものと解すべきであるから、所論のような登記は許されないものというべきである。」と判示しており、権利能力なき社団の代表者たる肩書を付した代表者名義で所有権の登記をすることはできないとしている。したがって、本肢後段部分は誤りである。

(H28 司法 第27問 ウ)
組合は、不動産について組合名義の所有権移転登記を備えることはできない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭47.6.2)は、「権利能力なき社団の資産はその社団の構成員全員に総有的に帰属しているのであって、社団自身が私法上の権利義務の主体となることはないから、社団の資産たる不動産についても、社団はその権利主体となり得るものではなく、したがつて、登記請求権を有するものではないと解すべきである。」と判示しており、権利能力なき社団名義で所有権の登記をすることはできないとしている。そして、組合には法人格がなく、組合財産は組合員に合有的に帰属していると解されていることから、上記判例の理解は、組合の場合にも妥当すると解されている。したがって、組合は、不動産について組合名義の所有権移転登記を備えることはできない。
総合メモ

権利能力なき社団の取引上の債務と社団構成員の責任 最三小判昭和48年10月9日

概要
権利能力のない社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、社団の構成員全員に1個の義務として総有的に帰属し、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し個人的債務ないし責任を負わない。
判例
事案:権利能力なき社団の代表者が社団の名において行った取引について、構成員が個人的な債務や責任を負担するかが問題になった。

判旨:「権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に、1個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わないと解するのが、相当である。」
過去問・解説
(H20 司法 第4問 5)
権利能力なき社団はその代表者により社団の名で取引をすることができるが、その取引により社団が負担した債務については、構成員各自は取引の相手方に対して直接には個人的債務ないし責任を負わない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭48.10.9)は、「権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に、一個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わないと解するのが、相当である。」と判示している。したがって、権利能力なき社団が負担した債務については、構成員各自は取引の相手方に対して直接には個人的債務ないし責任を負わない。

(H29 司法 第36問 5)
権利能力なき社団の債権者は、各構成員に対して、その権利を行使することができる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭48.10.9)は、「権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に、一個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わないと解するのが、相当である。」と判示している。したがって、権利能力なき社団の債権者は、各構成員に対して、その権利を行使することができない。
総合メモ

制限行為能力者の詐術 大判大正12年8月2日

概要
制限行為能力者が同意権者の同意を得ていないにもかかわらず、これを得ていると相手方を信じさせるため詐術を用いたときには、21条が適用される。
判例
事案:準禁治産者が同意権者の同意を得たと詐術を用いて法律行為を行った場合に、旧民法20条(現21条)の適用の可否が問題となった。

判旨:「民法第20条ハ準禁治産者ノ如キ無能力者カ或法律行為ヲ為スニ付自ラ準禁治産者ニ非サルコトヲ信セシムル為相手方ニ対シ詐術ヲ用ヰテ之ヲ信セシメタル場合ハ勿論其ノ法律行為ニ付保佐人ノ同意ヲ得タルコトヲ信セシムル為詐術ヲ用ヰ相手方ヲシテ之ヲ信セシメタル場合ニ於テモ亦其ノ行為ノ取消ヲ為スコトヲ許ササル趣旨ナリト解スヘキモノトス(明治37年(オ)第160号同年6月16日第一民事部判決参照)。」
過去問・解説
(R4 共通 第1問 オ)
未成年者が、親権者の同意があると誤信させるために詐術を用いて契約を締結した場合、その契約は取り消すことができる。

(正答)

(解説)
判例(大判大12.8.2)は、制限行為能力者が同意権者の同意を得ていないにもかかわらず、これを得ていると相手方を信じさせるため詐術を用いたときには、21条が適用される旨判示している。したがって、未成年者が、親権者の同意があると誤信させるために詐術を用いて契約を締結した場合においても、21条が適用されるため、その契約は取り消すことができない。
総合メモ

家庭裁判所が選任した不在者財産管理人の上訴権限が問題となった事案 最二小判昭和47年9月1日

概要
不在者財産管理人は、28条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、不在者を被告とする訴訟において、控訴・上告を提起する権限を有する。
判例
事案:家庭裁判所が選任した不在者財産管理人があり、同管理人が不在者を被告とする訴訟において控訴・上告をする場合に、28条の許可を得る必要があるかが問題となった。

判旨:「家庭裁判所の選任した不在者財産管理人が民法103条所定の権限内の行為をするには、その行為が訴または上訴の提起という訴訟行為であっても、同法28条所定の家庭裁判所の許可を要しないものと解すべきところ、被上告人の提起した本訴建物収去土地明渡等の請求を認容する第1審判決に対し控訴を提起し、その控訴を不適法として却下した第2審判決に対し上告を提起することおよび右訴訟行為をさせるため訴訟代理人を選任することは、いずれも上告人の財産の現状を維持する行為として同法103条1号にいう保存行為に該当するものであるから、本件不在者財産管理人および同人の選任した訴訟代理人は、同法28条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、本件第1、2審判決に対する上訴を提起する権限を有するものというべきである。」
過去問・解説
(H26 司法 第3問 ウ)
家庭裁判所が選任した不在者の財産の管理人は、不在者を被告とする土地明渡請求訴訟の第1審において不在者が敗訴した場合、家庭裁判所の許可を得ないで控訴をすることができる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭47.9.1)は、「家庭裁判所の選任した不在者財産管理人が民法103条所定の権限内の行為をするには、その行為が訴または上訴の提起という訴訟行為であっても、同法28条所定の家庭裁判所の許可を要しない」と判示し、さらに「本訴建物収去土地明渡等の請求を認容する第1審判決に対し控訴を提起…することは、いずれも上告人の財産の現状を維持する行為として同法103条1号にいう保存行為に該当するものであるから、本件不在者財産管理人および同人の選任した訴訟代理人は、同法28条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、本件第1…審判決に対する上訴を提起する権限を有するものというべきである。」と判示している。したがって、家庭裁判所が選任した不在者の財産の管理人は、不在者を被告とする土地明渡請求訴訟の第1審において不在者が敗訴した場合、28条の家庭裁判所の許可を得ないで控訴をすることができる。
総合メモ

失踪宣告後その取消前の契約の効力 大判昭和13年2月7日

概要
失踪宣告後、その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさないと定めた32条1項後段の適用が認められるためには、当該行為が契約である場合には、当該契約当事者全員が善意である必要がある。
判例
事案:失踪宣告後、当該宣告が取り消される前になされた、失踪者の財産の処分に関する契約について、契約当事者が失踪者の生存につき悪意であった場合に、32条1項後段が適用されるかが問題となった。

判旨:「失踪宣告後其ノ取消前ニ失踪者ノ生存スルコトヲ知ラス即チ善意ヲ以テ為シタル行為ニ限リ其ノ効力ヲ変セサルモノナリト雖右行為カ契約其ノ他多数当事者間ニ於テ為サレタルモノナル場合ニ於テハ行為当事者全員ノ善意ヲ要スルモノト解ス…。」
過去問・解説
(H29 共通 第3問 エ)
Aの生死が7年間明らかでなかったことから、Aについて失踪宣告がされ、Aが死亡したものとみなされた後に、Aの子であるBがA所有の甲土地を遺産分割により取得した。その後、Bは、Cに甲土地を売却したが、その売却後にAの生存が判明し、Aの失踪宣告は取り消された。その売買契約の時点で、Aの生存についてBが善意であっても、Cが悪意であるときは、Cは、甲土地の所有権を取得することができない。

(正答)

(解説)
判例(大判昭13.2.7)は、失踪宣告後、その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさないと定めた32条1項後段の適用が認められるためには、当該行為が契約である場合には、契約当事者全員が善意である必要がある旨判示している。したがって、本肢においては、Aの失踪宣告後その取消し前にした甲土地の売買契約の当事者であるB及びCが、共にAの生存について善意である場合に限り、32条1項後段が適用される。しかし、CがAの生存について悪意であることから、同項後段が適用されず、Cは甲土地の所有権を取得することができない。

(R3 共通 第1問 ウ)
失踪宣告を受けて死亡したものとみなされたAから甲土地を相続したBが、Cに甲土地を売却した後に、Aの失踪宣告が取り消された。この場合において、CがAの生存につき善意であったときは、Bがこれにつき悪意であったとしても、その取消しは、BC間の売買契約による甲土地の所有権の移転に影響を及ぼさない。

(正答)

(解説)
判例(大判昭13.2.7)は、失踪宣告後、その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさないと定めた32条1項後段の適用が認められるためには、当該行為が契約である場合には、契約当事者全員が善意である必要がある旨判示している。したがって、本肢においては、Aの失踪宣告後その取消し前にした甲土地の売買契約の当事者であるB及びCの双方が、Aの生存について善意である場合に限り、32条1項後段が適用される。しかし、BがAの生存について悪意であることから、同項後段が適用されない。
失踪宣告によって甲土地を相続したBは、失踪宣告の取消によって甲土地の所有権を失う(32条2項本文)ため、BC間の売買契約は他人物売買(561条)となり、BがAから甲土地の所有権を取得しない限り、Cが甲土地の所有権を取得することはできない。よって、Aの失踪宣告の取消は、BC間の売買契約による甲土地の所有権の移転に影響を及ぼす。
総合メモ

抹消登記手続と信義則違反 最二小判昭和42年4月7日

概要
不動産について、共同相続による自己の持分しか取得しなかったにもかかわらず、単独相続をしたとして、その旨の所有権移転登記を経由した上、当該不動産について抵当権設定契約を締結し、その旨の登記を経由したときは、抵当権設定者は抵当権者に対し、自己が取得した持分を超える持分についての抵当権が無効であると主張して、その抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照らし許されない。
判例
事案:相続不動産につき、自己の持分を超え、単独相続をしたとして、その旨の登記を経由し、同不動産について抵当権を設定した場合において、抵当権設定者が、自己の持分を超える持分についての抵当権が無効であることを主張できるかが問題となった。

判旨:「原判決の確定したところによれば、上告人は、本件田について、共同相続によつて持分しか取得しなかつたにもかかわらず、自己が単独相続したとして、その旨の所有権移転登記を経由し、これを前提として、被上告人との間において右抵当権設定契約を締結し、その旨の登記を経由したというのであるから、上告人が、被上告人に対し、その分割前に取得していた本件田の持分をこえる持分についての右抵当権が無効であると主張して、その抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照して許されないというべきである。」
過去問・解説
(H25 司法 第1問 4)
次の記述は、公序良俗に違反することを根拠とするか。
不動産の共同相続人の1人が、単独相続の登記をして、これに抵当権を設定し、その設定登記をしながら、自己の持分を超える部分の抵当権の無効を主張して、その抹消登記手続を請求することはできない。

(正答)公序良俗に違反することを根拠としない。

(解説)
判例(最判昭42.4.7)は、不動産について、共同相続による自己の持分しか取得しなかったにもかかわらず、単独相続をしたとして、その旨の所有権移転登記を経由したうえ、当該不動産について抵当権を設定した場合には、抵当権設定者は、抵当権者に対して、自己の持分を超える持分についての抵当権が無効であると主張して、その抹消登記手続を請求することは、信義則に照らして許されない旨判示している。したがって、同判例に基づけば、本肢の記述は信義則(1条)を根拠とするものといえ、公序良俗(90条)に違反することを根拠としない。
総合メモ

対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去土地明渡しを求めることが権利の濫用となるとされた事例 最三小判昭和43年9月3日

概要
土地買受人が、賃借人が地上に建物を所有し営業しているのを知って著しく低廉な賃借権付評価で取得しながら、賃借権の対抗力の欠如を利用してする建物収去土地明渡しの訴えは、権利の濫用となる。
判例
事案:対抗力を具備しない土地賃借権が存することを知りながら、著しく低廉な賃借権付評価で土地を買い受けた者が、土地賃借人に対し建物収去土地明渡しを求めた場合において、同請求が権利の濫用に当たるかが問題となった。

判旨:「原審は、…「被控訴人(上告人)は、単に控訴人(被上告人)…が本件…土地を賃借し、同地上に建物を所有して営業している事実を知つて本件土地を買受けたものであるに止らず、時価よりも著しく低廉な、しかも賃借権付評価で取得した土地につき、たまたま控訴人(被上告人)…の賃借権が対抗力を欠如していることを発見し、これを奇貨として予想外の新たな利益を収めようとするものであり、その方法としては事前に何らの交渉もしないで抜打的に本訴を提起し、その反面に、相手方に予期しない不利益を与えるもの、即ち正当な賃借権に基き地上に建物を所有して平穏に営業し来つた控訴人(被上告人)…側の営業ならびに生活に多大の損失と脅威を与えることを意に介せず、敢えて彼我の利益の均衡を破壊して巨利を博する結果を招来せんとするものと認めなければならない」とし、上告人の被上告人…に対する本件建物収去・土地明渡の請求は権利の濫用として許されないと判断したのである。そして、原判決挙示の証拠によれば、原審の前記事実の認定は是認することができ、当該事実関係のもとにおいては、上告人の被上告人…に対する本件建物収去・土地明渡の請求を権利の濫用にあたるとした原審の判断は正当である。」
過去問・解説
(H18 司法 第18問 3)
AがBに土地を賃貸し、Bが同土地上に建物を建築して所有している。AがCに同土地を譲渡した。Bが土地の賃貸借の登記と建物の所有権の登記のいずれもしていなかったが、Cは、Bの賃借人としての土地利用を知っており、借地権の存在を前提とする低廉な価格で土地を買い、所有権移転登記を経た。この場合、CのBに対する建物収去土地明渡請求は認められる。

(正答)

(解説)
判例(最判昭43.9.3)は、本肢と同種の事案において、土地買受人が、同土地の賃借人が地上に建物を所有し営業しているのを知って著しく低廉な賃借権付評価で取得しながら、賃借権の対抗力の欠如を利用し建物収去土地明け渡しの訴えを提起することは、権利の濫用となり許されない旨判示している。したがって、本肢においても、CはBの賃借人としての土地利用を知りつつ、借地権の存在を前提とする低廉な価格で土地を購入しているため、この場合にCがBに対して建物収去土地明渡請求を行うことは、権利の濫用に当たり認められない。
総合メモ