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売買、交換

第556条

条文
第556条(売買の一方の予約)
① 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。
② 前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。
過去問・解説
(H22 司法 第4問 イ)
売買の一方の予約における完結の意思表示について期間を定めなかったときに、予約者が相手方に対し、相当の期間を定めて、売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をしたにもかかわらず確答がなかったときは、予約者は、相手方に対し、売買契約の履行を請求することはできない。

(正答)  

(解説)
556条2項は、売買の一方の予約について、「前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。」と規定している。
総合メモ

第557条

条文
第557条(手付)
① 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
② 第545条第4項の規定は、前項の場合には、適用しない。
過去問・解説
(H19 司法 第24問 1)
Aは、その所有する甲土地をBに売却する契約(以下「本契約」という。)を結び、BはAに手付を交付した。Aが解除する場合、Aが手付の倍額をBに提供しなくても、本契約を手付により解除する旨の通知がBに到達した時、解除の効果が発生する。

(正答)  

(解説)
557条1項本文は、「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。」と規定している。
したがって、売主Aは、Bに対して手付の「倍額を現実に提供」しなければ、解約手付により売買契約を解除することができない。

(H19 司法 第24問 3)
Aは、その所有する甲土地をBに売却する契約(以下「本契約」という。)を結び、BはAに手付を交付した。Bが手付のほか内金をAに支払った後に、Bが本契約を手付により解除する場合、Bは、Aに対し内金の返還を請求することはできない。

(正答)  

(解説)
557条1項は、本文において「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。」と規定する一方で、但書において「ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」と規定する。
買主Bは、手付のほかに内金をAに支払うことで、売買契約に基づく代金支払債務の履行に着手しているが、手付解除権の消滅原因となる「相手方が契約の履行に着手した」とは、売主が売買契約の履行に着手したことを意味する。したがって、売主Aが売買契約の履行に着手していない以上、「相手方が契約の履行に着手したとき」に当たらないから、Bは、本契約を手付により解除して(557条1項本文)、Aに対し内金の返還を請求する(545条1項本文)ことができる。

(H20 司法 第21問 ウ)
売主Xと買主Yとの間の売買契約において手付が交付された場合において、Yが手付を放棄して契約を解除した場合、X及びYに損害賠償義務は生じない。

(正答)  

(解説)
545条4項は、「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。」と規定しているところ、557条2項は、「第545条第4項の規定は、前項の場合には、適用しない。」として、手付解除の場合について、545条4項の適用を排除している。したがって、手付解除をした場合、当事者の一方又は双方に債務不履行があったとしても、債務不履行に基づく損害賠償請求権(415条)は発生しない。

(H26 共通 第23問 エ)
買主が売主に手付を交付した場合、売主が手付の倍額を償還して契約を解除するためには、口頭により手付の倍額を償還する旨を告げ、その受領を催告すれば足りる。

(正答)  

(解説)
557条1項本文は、売主による手付解除について、「手付…の倍額を現実に提供」することを必要としている。

(H28 司法 第24問 ア)
解約手付の授受された売買契約の買主は、自ら履行に着手した場合でも、売主が履行に着手するまでは、手付を放棄して売買契約の解除をすることができる。

(正答)  

(解説)
557条1項は、本文において「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。」と規定する一方で、但書において「ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」と規定する。そして、手付解除権の消滅原因となる「相手方が契約の履行に着手した」とは、売主が売買契約の履行に着手したことを意味する。
本肢の事例では、買主が自ら履行に着手しているにとどまるから、売主が履行に着手するまでは、「相手方が契約の履行に着手したとき」に当たらないため、手付を放棄して売買契約の解除をすることができる。

(R4 司法 第24問 イ)
買主は、売主が契約の履行に着手していても、自ら履行に着手するまでは、解約手付による解除をすることができる。

(正答)  

(解説)
557条1項は、本文において「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。」と規定する一方で、但書において「ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」と規定する。そして、手付解除権の消滅原因となる「相手方が契約の履行に着手した」とは、売主が売買契約の履行に着手したことを意味する。
したがって、買主は、自ら履行に着手していなくても、売主が契約の履行に着手している以上、「相手方が契約の履行に着手したとき」に当たるから、解約手付による解除をすることができない。

(R4 司法 第24問 ウ)
買主は、自ら契約の履行に着手していても、売主が履行に着手するまでは、解約手付による解除をすることができる。

(正答)  

(解説)
557条1項は、本文において「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。」と規定する一方で、但書において「ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」と規定する。そして、手付解除権の消滅原因となる「相手方が契約の履行に着手した」とは、売主が売買契約の履行に着手したことを意味する。
買主は、自ら契約の履行に着手していても、売主が履行に着手するまでは、「相手方が契約の履行に着手したとき」に当たらないから、解約手付による解除をすることができる。

(R4 司法 第24問 エ)
売主は、買主に対し、手付金の倍額を償還する旨を口頭で告げて、解約手付による解除をすることができる。

(正答)  

(解説)
557条1項本文は、売主による手付解除について、「手付…の倍額を現実に提供」することを必要としている。

(R4 司法 第24問 オ)
買主が解約手付による解除をした場合、売主に手付金の額を超える損害が生じたとしても、買主は損害賠償義務を負わない。

(正答)  

(解説)
545条4項は、「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。」と規定しているところ、557条2項は、「第545条第4項の規定は、前項の場合には、適用しない。」として、手付解除の場合について、545条4項の適用を排除している。したがって、手付解除をした場合、当事者の一方又は双方に債務不履行があったとしても、債務不履行に基づく損害賠償請求権(415条)は発生しない。
総合メモ

第559条

条文
第559条(有償契約への準用)
 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
過去問・解説
(H22 司法 第25問 4)
建築請負の仕事の目的物である建物に重大な欠陥があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、注文者は、請負人に対し、建物の建替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができる。

(正答)  

(解説)
請負契約の仕事の目的物の種類・品質に契約不適合がある場合にも債務不履行に関する一般規定(415条、541条及び542条)が適用される(559条、564条)から、建築請負の仕事の目的物である建物に重大な欠陥があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、注文者は、請負人に対し、仕事完成債務の不履行を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権(415条1項、2項)を行使して、建物の建替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができる。

(H27 共通 第27問 ア)
仕事の目的物の引渡しを要する場合において、その引渡しの時に目的物の種類・品質に関する契約不適合が明らかであったときは、請負人は責任を負わない。

(正答)  

(解説)
請負契約の仕事の目的物の種類・品質に契約不適合がある場合にも債務不履行に関する一般規定(415条、541条及び542条)が適用される(559条、564条)から、仕事の目的物の引渡しを要する場合において、その引渡しの時に目的物の種類・品質に関する契約不適合が明らかであったときは、請負人は、仕事完成債務の不履行を理由とする債務不履行責任(415条、541条及び542条)を負う。

(H27 共通 第27問 イ)
仕事の目的物に種類・品質に関する契約不適合がある場合、注文者は、その瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。

(正答)  

(解説)
請負契約の仕事の目的物の種類・品質に関する契約不適合がある場合には、買主の追完請求権に関する規定(562条1項)が準用される(559条)とともに、債務不履行に関する一般規定(415条、541条及び542条)が適用される(559条、564条)。564条は、「前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。」と規定しているから、注文者は仕事の目的物の種類・品質に関する契約不適合を理由に追完請求をできる場合(又は追完請求をする場合)であっても、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることは妨げられない。
したがって、請負契約の仕事の目的物の種類・品質に関する契約不適合がある場合、注文者は、その瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。

(H27 共通 第27問 エ)
仕事の目的物に種類・品質に関する契約不適合がある場合において、その瑕疵を修補することが不能であり、契約をした目的を達成することができないときは、注文者は、請負契約を解除することができる。

(正答)  

(解説)
請負契約の仕事の目的物の種類・品質に関する契約不適合がある場合には、債務不履行に関する一般規定(415条、541条及び542条)が適用される(559条、564条)。そして、542条1項5号は、無催告解除ができる場合として、「前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。」を挙げている。したがって、仕事の目的物に種類・品質に関する契約不適合がある場合において、その瑕疵を修補することが不能であり、契約をした目的を達成することができないときは、注文者は、請負契約を解除することができる。

(H29 司法 第28問 ウ)
建築請負の目的物である建物に重大な欠陥があって建て替えるほかはない場合であっても、注文者は、請負人に対し、建物の建替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することはできない。

(正答)  

(解説)
請負契約の仕事の目的物の種類・品質に契約不適合がある場合にも債務不履行に関する一般規定(415条、541条及び542条)が適用される(559条、564条)から、建築請負の目的物である建物に重大な欠陥があって建て替えるほかはない場合には、注文者は、請負人に対し、仕事完成債務の不履行を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権(415条1項、2項)を行使して、建物の建替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することはできない。

(R1 共通 第26問 イ)
仕事の目的物に契約不適合があり、その修補を請求することができる場合であっても、注文者は、請負人に対し、修補に代わる損害賠償を請求することができる。

(正答)  

(解説)
請負契約の仕事の目的物の種類・品質に関する契約不適合がある場合には、買主の追完請求権に関する規定(562条1項)が準用される(559条)とともに、債務不履行に関する一般規定(415条、541条及び542条)が適用される(559条、564条)。564条は、「前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。」と規定しているから、注文者は仕事の目的物の種類・品質に関する契約不適合を理由に追完請求をできる場合(又は追完請求をする場合)であっても、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることは妨げられない。
したがって、請負契約の仕事の目的物の種類・品質に関する契約不適合がある場合、注文者は、その瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。

(R3 司法 第36問 ウ)
賃貸借契約の締結に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。

(正答)  

(解説)
561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」として、他人の権利を目的とする売買契約も有効に成立することを前提とした規定をしている。そして、平成29年改正前民法下では、原始的不能の場合について、契約の成立を否定すると理解されていたが(伝統的見解)、改正民法下では、「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」と定める412条の2第2項を根拠として、原始的不能の場合であっても契約は有効であると理解されている。したがって、本件売買契約は他人Aの権利を目的とする他人物売買であり、かつ、契約締結時に、Aが甲土地を他の者に譲渡する意思がなく、BがAから甲土地の所有権を取得することができないために売主Bの権利供与義務が原始的不能である場合であるが、本件売買契約は有効に成立する。
総合メモ

第561条

条文
第561条(他人の権利の売買における売主の義務)
 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
過去問・解説
(H23 司法 第26問 2)
他人の土地を買主に移転するという債務が売主の責めに帰すことができる事由により履行不能となった場合、目的物である土地を売主が所有していないことを知って売買契約を締結した買主は、売主に対して損害賠償を請求することができる。

(正答)  

(解説)
561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」と規定しているから、他人物売買の場合、売主は、売買契約に基づく財産権移転債務(555条)の内容として、その権利を取得してこれを買主に移転する権利供与義務を負う。そして、他人の土地を買主に移転するという債務が売主の責めに帰すことができる事由により履行不能となった場合、売買契約締結時において買主が目的物である土地を売主が所有していないことを知っていたか否かにかかわらず、415条1項本文の要件を満たすから、買主は、415条1項に基づき、売主に対して損害賠償を請求することができる。なお、平成29年改正前民法下では、「前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。」(旧561条)と定められていたため、目的物である土地を売主が所有していないことを知って売買契約を締結した買主は、売主に対して損害賠償を請求することができない。

(H25 共通 第24問 ア)
他人の土地の売買において、売主がその土地を取得して買主に移転することができない場合であっても、契約の時に売主がその土地が自己に属しないことを知らなかったときは、売主は、契約の解除をすることができる。

(正答)  

(解説)
561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」と規定しているから、他人物売買の場合、売主は、売買契約に基づく財産権移転債務(555条)の内容として、その権利を取得してこれを買主に移転する権利供与義務を負う。そして、他人の土地の売買において、売主がその土地を取得して買主に移転することができない場合であっても、契約の時に売主がその土地が自己に属しないことを知らなかったか否かにかかわらず、権利供与義務の履行不能により「債務の全部の履行が不能であるとき」(542条1項1号)という無催告での全部解除の要件を満たす。したがって、売主は、契約を解除することができる。
なお、平成29年改正前民法下では、「売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。」と定められていた(旧562条1項)。

(H26 司法 第8問 エ)
Aは、BからC所有の土地を買う旨の契約をした場合、その土地についてCを登記名義人とする登記がされていても、Bに対し、売買契約に基づき、その土地についてBからAへの所有権移転登記手続を請求することができる。

(正答)  

(解説)
売主は、財産権移転債務の内容として、「買主に対し、登記、登録その他の売買の目的物である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務」を負う(560条)。そして、561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」と規定しているから、他人物売買の場合、売主は、売買契約に基づく財産権移転債務(555条)の内容として、その権利を取得してこれを買主に移転する権利供与義務を負う。そのため、他人物売買の場合であっても、売主は、上記の権利供与義務として、「買主に対し、登記、登録その他の売買の目的物である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務」を負う。
したがって、他人物売買における売主であるBは、買主であるAに対し、売買契約に基づき、目的物であるC所有の土地について、所有権移転登記を備えさせる義務を負う。
よって、Aは、Bに対し、売買契約に基づき、上記土地についてBからAへの所有権移転登記手続を請求することができる。

(H28 司法 第7問 イ)
AがBとの間の売買契約に基づき買い受けた甲土地がBの所有でなかった場合、Aは、Bに対し、甲土地の所有権移転登記手続を請求することができない。

(正答)  

(解説)
売主は、財産権移転債務の内容として、「買主に対し、登記、登録その他の売買の目的物である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務」を負う(560条)。そして、561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」と規定しているから、他人物売買の場合、売主は、売買契約に基づく財産権移転債務(555条)の内容として、その権利を取得してこれを買主に移転する権利供与義務を負う。そのため、他人物売買の場合であっても、売主は、上記の権利供与義務として、「買主に対し、登記、登録その他の売買の目的物である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務」を負う。
したがって、他人物売買における売主であるBは、買主であるAに対し、売買契約に基づき、甲土地について、所有権移転登記を備えさせる義務を負う。
よって、Aは、Bに対し、甲土地の所有権移転登記手続を請求することができる。

(H29 司法 第27問 ア)
A所有の甲土地をBがCに対して売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)が締結された。本件売買契約が締結された時に、Aが甲土地を他の者に譲渡する意思がなく、BがAから甲土地の所有権を取得することができない場合であっても、本件売買契約は有効に成立する。

(正答)  

(解説)
561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」として、他人の権利を目的とする売買契約も有効に成立することを前提とした規定をしている。そして、平成29年改正前民法下では、原始的不能の場合について、契約の成立を否定すると理解されていたが(伝統的見解)、改正民法下では、「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」と定める412条の2第2項を根拠として、原始的不能の場合であっても契約は有効であると理解されている。したがって、本件売買契約は他人Aの権利を目的とする他人物売買であり、かつ、契約締結時に、Aが甲土地を他の者に譲渡する意思がなく、BがAから甲土地の所有権を取得することができないために売主Bの権利供与義務が原始的不能である場合であるが、本件売買契約は有効に成立する。

(H29 司法 第27問 エ)
A所有の甲土地をBがCに対して売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)が締結された。本件売買契約が締結された時にBが甲土地の所有権がBに属しないことを知らず、Cが甲土地の所有権がBに属しないことを知っていた場合において、Bが甲土地の所有権を取得してCに移転することができないときは、Bは、Cに対し、甲土地の所有権を移転することができない旨を通知して、本件売買契約を解除することができる。

(正答)  

(解説)
確かに、平成29年改正前民法下では、「売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。」と定められていた(旧562条1項)。この規定によれば、本件売買契約が締結された時にBが甲土地の所有権がBに属しないことを知らず、Bが甲土地の所有権を取得してCに移転することができないときは、Bは、損害を賠償して、本件売買契約を解除することができる。
しかし、平成29年改正民法下では、他人物売買における処理は、売主が売買契約の内容に適合した権利の移転をすべき義務を負うことを前提として、契約不適合を理由とする債務不履行責任として一元的に規律されるに至った(契約責任説の採用)。
そして、本件売買契約が締結された時にBが甲土地の所有権がBに属しないことを知らない一方で、Cが甲土地の所有権がBに属しないことを知っていた場合であっても、Cについて解除事由(541条、542条参照)が認められない以上、Bは、本件売買契約を一方的に解除することはできない。

(R2 司法 第24問 ア)
売主が他人の権利を取得して買主に移転することができない場合、買主は、契約時にその権利が売主に属しないことを知っていたとしても、それにより損害賠償の請求を妨げられない。

(正答)  

(解説)
561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」と規定しているから、他人物売買の場合、売主は、売買契約に基づく財産権移転債務(555条)の内容として、その権利を取得してこれを買主に移転する権利供与義務を負う。そして、他人の土地を買主に移転するという債務が売主の責めに帰すことができる事由により履行不能となった場合、売買契約締結時において買主が目的物である土地を売主が所有していないことを知っていたか否かにかかわらず、415条1項本文の要件を満たすから、買主は、415条1項に基づき、売主に対して損害賠償を請求することができる。なお、平成29年改正前民法下では、「前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。」(旧561条)と定められていたため、買主は、契約時にその権利が売主に属しないことを知っていたときは、それにより損害賠償の請求を妨げられる。

(R2 司法 第24問 エ)
売主が他人の権利を取得して買主に移転することができない場合、買主は、契約時にその権利が売主に属しないことを知っていたときは、契約を解除することができない。

(正答)  

(解説)
561条は、「他人の権利…を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」と規定しているから、他人物売買の場合、売主は、売買契約に基づく財産権移転債務(555条)の内容として、その権利を取得してこれを買主に移転する権利供与義務を負う。そして、売主が他人の権利を取得して買主に移転することができない場合、「債務の全部の履行が不能であるとき」(542条1項1号)に当たるから、買主は、契約時にその権利が売主に属しないことを知っていたときであっても、売買契約を無催告で解除することができる(なお、買主が契約時にその権利が売主に属しないことを知っていたからといって、「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものである」(543条)とはいえない。)。
なお、平成29年改正前民法下では、「前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。」(旧561条)と定められていたため、買主は、契約時にその権利が売主に属しないことを知っていたときは、それにより損害賠償の請求を妨げられるが、解除権までは否定されていなかった。
総合メモ

第562条

条文
第562条(買主の追完請求権)
① 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
② 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
過去問・解説
(H26 司法 第25問 3)
利息付きの消費貸借において、物に欠陥があったときは、貸主は、欠陥がない物をもってこれに代えなければならない。

(正答)  

(解説)
551条は、贈与者の担保責任について、1項において「贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。」と規定した上で、2項において「負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。」と規定している。そして、591条1項は、「第551条の規定は、前条第1項の特約のない消費貸借について準用する。」と規定しているから、無利息の消費貸借契約における貸主は、消費貸借の目的である物を消費貸借の目的として特定した時の状態で引き渡すことを約したものと推定される(590条1項による551条2項準用)。
これに対し、利息付の消費貸借契約における貸主は、契約に適合した種類・品質・数量の物を引き渡すべき義務を負う(559条、562条1項参照)。したがって、利息付きの消費貸借において、物に欠陥があったときは、借主は、「引き渡された目的物が…品質…に関して契約の内容に適合しないものである」ことを理由に、貸主に対し、「目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求する」ことができる。

(R3 共通 第23問 ウ)
AB間の売買契約において、売主Aが買主Bに対して引き渡した目的物の数量が不足しており、契約の内容に適合しない場合において、数量の不足がBの責めに帰すべき事由によって生じた場合には、不足分の引渡しが可能であっても、Bは不足分の引渡しを請求することができない。

(正答)  

(解説)
562条2項は、買主の追完請求権の発生障害事由として、「前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。」と規定している。
したがって、数量の不足が買主Bの責めに帰すべき事由によって生じた場合には、不足分の引渡しが可能であっても、買主Bは不足分の引渡しを請求することができない。

(R5 共通 第25問 ア)
売買契約に基づき買主Aが売主Bから引渡しを受けた動産甲の品質が契約の内容に適合しないものである場合においてBは、Aから甲の修補の請求を受けた場合であっても、Aに不相当な負担を課するものでないときは、代替物の引渡しによる履行の追完をすることができる。

(正答)  

(解説)
562条1項は、本文において「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。」と規定する一方で、但書において「ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」と規定している。
売買契約に基づき買主Aが売主Bから引渡しを受けた動産甲の品質が契約の内容に適合しないものである場合においてBは、Aから甲の修補の請求を受けた場合であっても、Aに不相当な負担を課するものでないときは、562条1項但書に基づいて、代替物の引渡しによる履行の追完をすることができる。

(R5 共通 第25問 ウ)
売買契約に基づき買主Aが売主Bから引渡しを受けた動産甲の品質が契約の内容に適合しないものである場合において、不適合がAの責めに帰すべき事由によるものであるときは、Aは、Bに対し、甲の修補と代金の減額のいずれの請求もすることができない。

(正答)  

(解説)
562条2項は、買主の追完請求権の発生障害事由として、「前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。」と規定している。また、563条3項は、買主の代金減額請求権の発生障害事由として、「前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。」と規定している。
したがって、動産甲の品質に関する契約不適合がAの責めに帰すべき事由によるものであるときは、Aは、Bに対し、甲の修補と代金の減額のいずれの請求もすることができない。
総合メモ

第563条

条文
第563条(買主の代金減額請求権)
① 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。 
② 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。 
 一 履行の追完が不能であるとき。
 二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
 三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
 四 前3号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
③ 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。 
過去問・解説
(H25 共通 第24問 イ)
売買の目的物である建物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその滅失を知っていたときであっても、買主は、その滅失していた部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。

(正答)  

(解説)
563条1項は、「前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。」と規定するにとどまり、契約不適合に関する買主の知不知は代金減額請求の要件とはされていない。
したがって、売買の目的物である建物の一部が契約の時に既に滅失していた場合には、「引き渡された目的物が…品質…に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(562条1項本文に規定する場合)に当たるから、買主がその滅失を知っていたときであっても、買主は、その滅失していた部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。

(R2 司法 第24問 ウ)
売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、その権利の一部が買主に移転されず、 履行の追完が不能である場合、そのことについて買主の責めに帰すべき事由が存在しないときは、買主は、催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

(正答)  

(解説)
563条は、買主の代金減額請求について、1項において原則として履行の追完の催告(及び相当期間内に履行の追完がないこと)を必要とする一方で、2項1号において、履行の追完の催告を要しない場合として、「履行の追完が不能であるとき」を挙げている。
したがって、売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、その権利の一部が買主に移転されず、 履行の追完が不能である場合、そのことについて買主の責めに帰すべき事由が存在しないときは、買主は、催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

(R3 共通 第23問 エ)
AB間の売買契約において、売主Aが買主Bに対して引き渡した目的物の数量が不足しており、契約の内容に適合しない場合において、不足分の引渡しが可能であり、Aがその引渡しを申し出た場合であっても、Bは、その申出を拒んで直ちに代金の減額を請求することができる。

(正答)  

(解説)
563条は、買主の代金減額請求について、1項において原則として履行の追完の催告(及び相当期間内に履行の追完がないこと)を必要とする一方で、2項各号において、履行の追完の催告を要しない場合を列挙している。
本肢の事例では、数量不足の場合において、足分の引渡しが可能であり、Aがその引渡しを申し出ているのだから、「履行の追完が不能であるとき」(1号)には当たらず、2号ないし4号に当たる事情もない。したがって、Bは、Aに対して、直ちに代金の減額を請求することはできず、そのためには、「相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がない」ことが必要である。

(R5 共通 第25問 イ)
売買契約に基づき買主Aが売主Bから引渡しを受けた動産甲の品質が契約の内容に適合しないものである場合に、不適合が追完不能であるためにAのBに対する履行の追完の請求が認められないときは、Aは、Bに対し、代金の減額を請求することができない。

(正答)  

(解説)
買主の追完請求権(562条1項)は、追完が不能である場合には認められないと解されている。民法にはその旨を定めた規定は設けられていないが、履行請求権の限界事由に関する412条の2第1項を買主の追完請求権にも適用すると解する余地があることや、仮にそうでなくても民法が追完不能の場合には追完請求権は認められないことを不文のルールとして承認していることが明らかであると理解されている(潮見佳男「プラクティス民法 債権総論」第5版補訂84頁)。
これに対し、買主の代金減額請求権では、「履行の追完が不能であるとき」は、無催告で代金減額を請求できる場合として定められている(563条2項1号)から、「履行の追完が不能であるとき」は、買主の代金減額請求権の発生障害事由とはならない。
したがって、動産甲の品質に関する契約不適合が追完不能であるためにAのBに対する履行の追完の請求が認められないときであっても、Aは、Bに対し、代金の減額を請求することができる。

(R5 共通 第25問 エ)
売買契約に基づき買主Aが売主Bから引渡しを受けた動産甲の品質が契約の内容に適合しないものである場合に、不適合がAB双方の責めに帰することができない事由によるものであるときは、Aは、Bに対し、代金の減額を請求することができない。

(正答)  

(解説)
563条は、3項において「第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。」として、「第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものである」ことを買主の代金減額請求権の発生障害事由として定めているが、債務不履行に基づく損害賠償請求権(415条1項)のように、目的物に関する契約不適合が売主の責めに帰すべき事由によるものであることを要件とはしていない。したがって、動産甲の品質に関する契約不適合がAB双方の責めに帰することができない事由によるものであるときであっても、Aは、Bに対し、代金の減額を請求することができる。
総合メモ

第564条

条文
第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
 前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
過去問・解説
(R3 共通 第23問 ア)
AB間の売買契約において、売主Aが買主Bに対して引き渡した目的物の数量が不足しており、契約の内容に適合しない場合において、数量の不足がABいずれの責めにも帰することができない事由によって生じた場合には、BはAB間の売買契約を解除することができない。

(正答)  

(解説)
564条は、「前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。」と規定しているから、売買契約の目的物の数量に関する契約不適合がある場合には、債務不履行に関する一般規定(415条、541条及び542条)が適用される(564条)。そして、平成29年改正前民法下では、債務不履行に基づく契約解除について、債務者の帰責事由が要件から除外される一方で、債権者の帰責事由が解除権の発生障害事由として定めている(543条)。
本肢の事例では、数量の不足がABいずれの責めにも帰することができない事由によって生じているため、「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。」(543条)という解除権の発生障害事由は認められないから、Bは、Aの引渡義務の不履行を理由として、AB間の売買契約を解除することができない。
総合メモ

第565条

条文
第565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
 前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
過去問・解説
(H23 司法 第26問 3)
買った土地の一部が売主以外の者の所有する土地であり、契約締結時に買主がその事実を知っていた場合において、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、売主に対して、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することはできない。

(正答)  

(解説)
565条は、「前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。」と規定しているから、本肢の事例にも、買主の代金減額請求に関する規定(563条)が準用される。
したがって、買った土地の一部が売主以外の者の所有する土地であり、契約締結時に買主がその事実を知っていた場合であっても、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、売主に対して、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
総合メモ

第566条

条文
第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
過去問・解説
(H18 司法 第1問 2)
目的物に地上権による制限があった場合の責任追及には期間制限があるが、抵当権の行使によって買主が権利を失った場合の責任追及には期間制限がない。

(正答)  

(解説)
566条本文は、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」における売主の責任について、「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」として期間制限を設けているが、「売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)」(565条)における売主の責任については、期間制限が設けられていない。
もちろん、いずれの責任についても、消滅時効に関する一般規定(166条)は適用される。

(H23 共通 第25問 エ)
買主が売主に対して、目的物の種類・品質に関する契約不適合を理由として損害賠償を請求する場合、買主は売買契約が成立した時から1年以内にこれをしなければならない。

(正答)  

(解説)
566条本文は、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」と規定している。
したがって、買主が売主に対して、目的物の種類・品質に関する契約不適合を理由として損害賠償を請求する場合、買主は、売買契約が成立した時から1年以内にこれをしなければならないのではなく、「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しな」ければならない。

(H25 共通 第24問 エ)
売買の目的物である土地のために存すると称した地役権が存しなかった場合における買主の契約の解除をするには、買主が事実を知った時から1年以内に通知しなければならない。

(正答)  

(解説)
566条本文は、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」における売主の責任について、「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」として期間制限を設けているが、「売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)」(565条)における売主の責任については、期間制限が設けられていない。
もちろん、いずれの責任についても、消滅時効に関する一般規定(166条)は適用される。

(R3 共通 第23問 オ)
AB間の売買契約において、売主Aが買主Bに対して引き渡した目的物の数量が不足しており、契約の内容に適合しない場合において、Bが数量の不足を知った時から1年以内にその旨をAに通知しない場合には、Aが引渡しの時に数量の不足を知り又は重大な過失によって知らなかったときを除き、Bは損害賠償の請求をすることができない。

(正答)  

(解説)
566条本文は、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」における売主の責任について、「買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」として期間制限を設けているが、数量不足の場合における売主の責任については、期間制限が設けられておらず、消滅時効に関する一般規定(166条)が適用されるにとどまる。
したがって、Bが数量の不足を知った時から1年以内にその旨をAに通知しない場合であっても、Bは損害賠償の請求をすることができる。

(R5 共通 第25問 オ)
売買契約に基づき買主Aが売主Bから引渡しを受けた動産甲の品質が契約の内容に適合しないものであり、Bが引渡し時に不適合を過失なく知らなかった場合において、Aが不適合を知った時から法定の期間内にその旨をBに通知しなかったときは、Aは、Bに対し、損害賠償を請求することができない。

(正答)  

(解説)
566条は、本文において「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。」と規定する一方で、但書において「ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。」と規定している。
本肢の事例では、「売主が…品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」に当たり、かつ、Bが引渡し時に不適合を過失なく知らなかったにとどまるため、「売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったとき」には当たらないから、Bの責任は同条本文の期間制限に服することになる。したがって、Aが不適合を知った時から法定の期間内にその旨をBに通知しなかったときは、Aは、Bに対し、損害賠償を請求することができない。
総合メモ

第567条

条文
第567条(目的物の滅失等についての危険の移転)
① 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
② 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
過去問・解説
(H23 司法 第24問 2)
Aは、Bに対して、A所有の中古住宅を代金3000万円で売却し、Bへの所有権移転登記と同時に代金全額を受け取るという約束でBにこの住宅を引き渡したが、Bに引き渡した2日後に、この住宅は隣人の失火によって全焼した。この場合、Bは、Aに対して、代金3000万円を支払わなければならない。

(正答)  

(解説)
危険負担については、一般規定(536条)があるが、「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が…滅失し、又は損傷したとき」については、特則である567条が適用される。
567条1項は、「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。」と規定している。
本肢の事例では、「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したとき」に当たるから、Bは、Aに対して、代金3000万円を支払わなければならない。

(H26 司法 第16問 ア)
売買契約においてその目的物であるワインを種類のみで指定し、買主の住所で引き渡すこととされていた場合において、売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したのに、買主がその受領を拒んだ場合には、その後売主がそのワインを故意に滅失させたときであっても、売主は、ワインの引渡債務の不履行を理由とする損害賠償責任を負わない。

(正答)  

(解説)
567条1項は、「売買の目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)」を引き渡した時以後における目的物の滅失・損傷に関するリスク分配について定めており、同条2項は、買主の受領遅滞中における目的物(売買の目的として特定したものに限る…)」の滅失・損傷に関するリスク分析について定めている。そして、受領遅滞中の履行不能のリスク分配については、一般規定として413条の2があるが、売買の場合には、その特則として567条2項が優先的に適用される。
本肢の事例では、売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したのに、買主がその受領を拒んだのだから、「売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み」という場合に当たる。また、売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したことにより、「債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し…た」として、売買の目的物であるワインが持参したワインに特定されているため、「目的物(売買の目的として特定したもの…)」という前提要件も満たす。そうすると、「その履行の提供があった時以後に…その目的物が滅失し、又は損傷したとき」として、売主は、ワインの引渡債務の不履行を理由とする損害賠償責任(415条1項本文)を負わないとも思える。
しかし、売主がワインを故意に滅失させたのだから、「当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失…したとき」には当たらず、567条2項の適用はない。
したがって、売主は、ワインの引渡債務の不履行を理由とする損害賠償責任(415条1項本文)を負う。

(H26 司法 第16問 イ)
売買契約においてその目的物であるワインを種類のみで指定し、買主の住所で引き渡すこととされていた場合において、売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したが、買主がその受領を拒んだ場合、その後そのワインが保管されていた倉庫が第三者の放火によって焼失し、ワインが滅失したときには、売主は、ワインの引渡債務を免れる。

(正答)  

(解説)
567条1項は、「売買の目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)」を引き渡した時以後における目的物の滅失・損傷に関するリスク分配について定めており、同条2項は、買主の受領遅滞中における目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)」の滅失・損傷に関するリスク分配について定めている。そして、受領遅滞中の履行不能のリスク分配については、一般規定として413条の2があるが、売買の場合には、その特則として567条2項が優先的に適用される。
本肢の事例では、売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したが、買主が正当な理由なくその受領を拒んだのだから、「売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み」(567条2項)という場合に当たる。そして、買主の受領遅滞後に、そのワインが保管されていた倉庫が第三者の放火によって焼失し、ワインが滅失したのだから、「その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し…たとき」に当たる。したがって、売主は、ワインの引渡債務を免れる一方で、買主は、代金の支払いを拒むことができない。なお、売主が引渡債務を免れるのは、567条2項の適用によるものではなく、目的物の滅失による履行不能(412条の2第1項)によるものである。

(R2 司法 第15問 オ)
AとBは、Aが所有する骨董品甲をBに100万円で売却する旨の売買契約を締結した。Aが引渡期日に甲の引渡しの提供をしたところ、Bが正当な理由なく受領を拒絶したため、Aの下で甲を保管中に、Aの重過失により甲が滅失したときは、Bは、代金の支払を拒むことができない。

(正答)  

(解説)
567条1項は、「売買の目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)」を引き渡した時以後における目的物の滅失・損傷に関するリスク分配について定めており、同条2項は、買主の受領遅滞中における目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)」の滅失・損傷に関するリスク分配について定めている。そして、受領遅滞中の履行不能のリスク分配については、一般規定として413条の2があるが、売買の場合には、その特則として567条2項が優先的に適用される。
本肢の事例では、Aが引渡期日に甲の引渡しの提供をしたところ、Bが正当な理由なく受領を拒絶したのだから、「売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み」(567条2項)という場合に当たる。また、受領遅滞の効果として、Aの目的物保存義務の水準は、「自己の財産に対するのと同一の注意」へと軽減される(413条1項)。そうすると、「その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失…したとき」として、Bは、567条2項に基づいて、代金の支払を拒むことができそうである。しかし、Aの下で甲を保管中に、Aの重過失により甲が滅失しているため、Aが「自己の財産に対するのと同一の注意」を尽くしたとはいえないから、「その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失…したとき」には当たらず、567条2項の適用はない。したがって、Bは、代金の支払を拒むことができる。

(R6 司法 第25問 エ)
特定物甲の売主Aが買主Bから代金の支払を受けるまでに、甲は、ABいずれの責めにも帰することができない事由によって滅失又は損傷した。
AB間の売買契約に甲の所有権は代金完済時に移転する旨の特約が付されていた場合において、甲の滅失がBへの引渡し後であったときは、Bは、危険負担の抗弁を主張して代金の支払を拒むことができる。

(正答)  

(解説)
危険負担については、一般規定(536条)があるが、「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が…滅失し、又は損傷したとき」については、特則である567条が適用される。567条は、平成29年改正民法による新設された規定であり、目的物の引渡しにより目的物の支配が売主から買主に移転することに着目したものである。
567条1項は、「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。」と規定している。
AB間の売買契約に甲の所有権は代金完済時に移転する旨の特約が付されているが、甲の滅失がBへの引渡し後である以上は、「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が…滅失し、又は損傷したとき」に当たる。したがって、Bは、危険負担の抗弁を主張して代金の支払を拒むことができない。

(R6 司法 第25問 オ)
特定物甲の売主Aが買主Bから代金の支払を受けるまでに、甲は、ABいずれの責めにも帰することができない事由によって滅失又は損傷した。
AがBに甲を引き渡そうとしたところ、その品質が契約の内容に適合しないものであったためにBがその受領を拒んだときは、その後に甲の滅失が生じたとしても、Bは、危険負担の抗弁を主張して代金の支払を拒むことができる。

(正答)  

(解説)
567条1項は、「売買の目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)」を引き渡した時以後における目的物の滅失・損傷に関するリスク分配について定めており、同条2項は、買主の受領遅滞中における目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)」の滅失・損傷に関するリスク分配について定めている。そして、受領遅滞中の履行不能のリスク分配については、一般規定として413条の2があるが、売買の場合には、その特則として567条2項が優先的に適用される。
本肢の事例では、Bが甲の受領を拒んでいるから、「売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る…。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が…滅失…したとき」には当たらないから、567条1項は適用されない。また、Bは、甲の品質が契約の内容に適合しないものであったという正当な理由に基づいてその受領を拒んだのだから、「買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合」にも当たらず、567条2項も適用されない。したがって、567条ではなく、一般規定である536条1項が適用される。そして、536条1項は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定しているところ、本肢の事例では、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たる。以上より、Bは、危険負担の抗弁(536条1項)を主張して代金の支払を拒むことができる。
総合メモ

第568条

条文
第568条(競売における担保責任等)
① 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は、第541条及び第542条の規定並びに第563条(第655条において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
② 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
③ 前2項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
④ 前3項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。 
過去問・解説
(H18 司法 第1問 3)
競売も売買であるから、担保責任は通常の売買と同じように課される。

(正答)  

(解説)
568条4項は、競売における担保責任等について、「前3項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。」と規定している。

(H23 共通 第25問 オ)
中古の建物について競売が行われた場合、その建物の買受人は、その建物の元の所有者に対し、その建物に種類・品質に関する契約不適合があった場合があることを理由として損害賠償を請求することができる。

(正答)  

(解説)
568条4項は、競売における担保責任等について、「前3項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。」と規定している。

(H25 共通 第24問 オ)
競売の目的物である土地が留置権の目的である場合において、買受人は、そのことを知らず、かつ、そのために買受けをした目的を達することができないときであっても、契約の解除をすることができない。

(正答)  

(解説)
568条1項は、「競売…における買受人は、第541条及び第542条の規定並びに第563条…の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。」と規定しており、同条4項は、「前3項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。」と規定している。競売の目的物である土地が留置権の目的である場合は、「競売の目的物の種類又は品質に関する不適合」に当たらないから、568条1項の適用は排除されない。そして、競売の目的物である土地が留置権の目的である場合において、買主がそのために買受けをした目的を達することができないときは、売主の権利供与義務(契約内容に適合する権利を供与する義務)について、「債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」(542条1項5号)に当たる。したがって、買受人は、そのことを知っていたか否かにかかわらず、契約の解除をすることができる。

(H28 司法 第24問 オ)
建物の競売の手続が開始され、借地権の存在を前提として建物の売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかった場合、債務者が無資力であるときは、建物の買受人は、競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができる。

(正答)  

(解説)
568条は、1項において「競売…における買受人は、第541条及び第542条の規定並びに第563条…の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。」と規定し、2項において「前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。」と規定している。
判例(最判平8.1.26)は、敷地利用権付き建物の競売がされて買い受けたところ、敷地利用権が存在しなかったために、建物所有権には欠点はないが、建物所有権に従たる権利が存在しなかったという場合について、「建物に対する強制競売の手続において、建物のために借地権が存在することを前提として建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかった場合、買受人は、そのために建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、民法568条1項、2項及び566条1項、2項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができるものと解するのが相当である。」と解している(潮見佳男「基本講義 債権各論Ⅰ」第4版109~110頁)。この判例は、平成29年改正民法下の事例にも適用されると解される。
したがって、建物の競売の手続が開始され、借地権の存在を前提として建物の売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかった場合、債務者が無資力であるときは、建物の買受人は、568条1項及び2項の類推適用を根拠として、競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができる。
総合メモ

第572条

条文
第572条(担保責任を負わない旨の特約)
 売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
過去問・解説
(H18 司法 第1問 1)
担保責任を免除する特約を結ぶことはできるが、その場合も、目的物について売主が自分で第三者のために設定した権利があったときは、売主は、責任を免れない。

(正答)  

(解説)
572条は、「売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。」と規定している。
本肢の事例では、「第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたとき」に当たる一方で、目的物について売主が自分で第三者のために設定した権利は「自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利」に当たるから、売主は、責任を免れない。

(H27 司法 第26問 オ)
請負人は、注文者との間で瑕疵担保責任を負わない旨の特約をした場合であっても、瑕疵があることを知りながらこれを注文者に告げずに仕事の目的物を引き渡したときには、その瑕疵についての担保責任を免れることができない。

(正答)  

(解説)
572条は、「売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。」と規定しており、同条は請負契約にも準用されない(559条)。
本肢の事例では、「第562条第1項本文…に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたとき」に当たる一方で、請負人は、瑕疵があることを知りながらこれを注文者に告げずに仕事の目的物を引き渡したのだから、「知りながら告げなかった事実」について、その担保責任を免れることができない。

(H28 共通 第22問 イ)
売買契約において契約不適合責任を免除する特約がある場合であっても、その当時売買の目的物について種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを売主が知りながらそのことを告げなかったときには、売主は契約不適合責任を免れない。

(正答)  

(解説)
572条は、「売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。」と規定している。

(R1 共通 第26問 オ)
請負人は、担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れない。

(正答)  

(解説)
572条は、「売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。」と規定しており、同条は請負契約にも準用されない(559条)。
総合メモ

第574条

条文
第574条(代金の支払場所)
 売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。
過去問・解説
(H26 共通 第23問 ア)
買主は、目的物の引渡しを先に受けた場合でも、目的物の引渡しを受けた場所において代金を支払わなければならない。

(正答)  

(解説)
574条は、「売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。」と規定している。
本肢の事例では、買主は、目的物の引渡しを先に受けた場合であり、「売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきとき」には当たらないから、「目的物の引渡しを受けた場所において代金を支払わなければならない」のではなく、「債権者の現在の住所」(484条1項)において代金を支払わなければならない。
なお、484条1項は、弁済の場所について、「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」と規定している。
総合メモ

第575条

条文
第575条(果実の帰属及び代金の利息の支払)
① まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。
② 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。
過去問・解説
(H27 司法 第36問 オ)
売買契約において、売主の目的物引渡義務が先履行とされ、かつ、代金の支払について期限がある場合、買主は、その目的物の引渡しを受けた後も、代金の支払についての期限が到来するまでは、利息を支払う必要がない。

(正答)  

(解説)
575条2項は、本文において「買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。」と規定する一方で、但書において「ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。」と規定している。
したがって、売買契約において、売主の目的物引渡義務が先履行とされ、かつ、代金の支払について期限がある場合、買主は、その目的物の引渡しを受けた後も、代金の支払についての期限が到来するまでは、利息を支払う必要がない。

(R1 司法 第24問 オ)
AとBは、平成31年4月1日、A所有の中古自転車(以下「甲」という。)を、同月10日引渡し、同月20日代金支払の約定でBに売却する旨の売買契約を締結した。Aは、Bに対し、平成31年4月25日、甲を引き渡したが、Bは、Aに対し、その後も代金を支払っていない。この場合、Aは、Bに対し、甲の代金及び同月21日からの利息の支払を求めることができる。

(正答)  

(解説)
575条2項は、本文において「買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。」と規定する一方で、但書において「ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。」と規定している。
本肢の事例では、平成31年4月20日の代金支払の約定があるが、AがBに対して甲を引き渡したのは平成31年4月25日であるから、AがBに対して支払を求めることができるのは、同月25日からの利息に限られる。
総合メモ

第577条

条文
第577条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
① 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
② 前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
過去問・解説
(H26 共通 第23問 ウ)
買主は、買い受けた不動産について抵当権、先取特権又は質権の登記があるときは、抵当権、先取特権又は質権の消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。

(正答)  

(解説)
577条は、1項本文において「買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。」と規定した上で、2項において「前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。」と規定している。
したがって、買主は、買い受けた不動産について抵当権、先取特権又は質権の登記があるときは、抵当権、先取特権又は質権の消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。

(H29 司法 第26問 5)
不動産の売買契約に基づき売主が買主に対して代金の支払を訴訟で請求する場合おいて、売買契約の目的不動産について抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、代金の支払を拒むことができる。

(正答)  

(解説)
577条1項本文は、「買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。」と規定している。
総合メモ

第579条

条文
第579条(買戻しの特約)
 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第835条第1項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
過去問・解説
(H29 予備 第11問 エ)
不動産の売買契約と同時にされた買戻しの特約に関して、売主は、買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。

(正答)  

(解説)
579条前段は、「不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金…及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。」と規定している。

(H29 予備 第11問 オ)
不動産の売買契約と同時にされた買戻しの特約に関して、売主が買戻しの実行をしたときは、買主は、売買契約締結後買戻しの実行までの間に取得した果実を売主に返還しなければならない。

(正答)  

(解説)
579条本は、前段において「不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金…及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。」と規定した上で、後段において「この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。」と規定している。
したがって、不動産の売買契約と同時にされた買戻しの特約に関して、売主が買戻しの実行をしたときは、買主は、売買契約締結後買戻しの実行までの間に取得した果実を売主に返還する必要はない。
総合メモ

第580条

条文
第580条(買戻しの期間)
① 買戻しの期間は、10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、10年とする。
② 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。
③ 買戻しについて期間を定めなかったときは、5年以内に買戻しをしなければならない。
過去問・解説
(H29 予備 第11問 ア)
不動産の売買契約と同時にされた買戻しの特約に関して、買戻しの期間は、10年を超えることができない。

(正答)  

(解説)
580条1項前段は、「買戻しの期間は、10年を超えることができない。」と規定している。

(H29 予備 第11問 イ)
不動産の売買契約と同時にされた買戻しの特約に関して、買戻しの特約において、その期間を定めたときであっても、後日これを伸長することができる。

(正答)  

(解説)
580条2項は、「買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。」と規定している。
総合メモ

第581条

条文
第581条(買戻しの特約の対抗力)
① 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。
② 前項の登記がされた後に第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は、その残存期間中1年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。
過去問・解説
(H29 予備 第11問 ウ)
不動産の売買契約と同時にされた買戻しの特約に関して、売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を生ずる。

(正答)  

(解説)
581条1項は、「売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。」と規定している。
総合メモ

第583条

条文
第583条(買戻しの実行)
① 売主は、第580条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。
② 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第196条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
過去問・解説
(R3 司法 第36問 オ)
Aの所有する甲建物の配偶者居住権を有するBは、甲建物をAに返還する場合において、それ以前に支出した有益費につき、その価格の増加が返還時に現存するときは、Aの選択に従い、その支出した金額又は増価額について償還を受けることができる。

(正答)  

(解説)
1034条は、配偶者居住権が認められる場合における居住建物の費用の負担について、1項において「配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。」と規定し、2項において「第583条第2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。」と規定している。そして、583条2項は、「買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第196条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。」と規定しており、196条2項本文は、「占有者が…支出した…有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。」と規定している。
したがって、Aの所有する甲建物の配偶者居住権を有するBは、甲建物をAに返還する場合において、それ以前に支出した有益費につき、その価格の増加が返還時に現存するときは、Aの選択に従い、その支出した金額又は増価額について償還を受けることができる。
総合メモ