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過失(過失総論) - 解答モード

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刑法上の過失相殺 大判大正11年5月11日

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概要
刑法において、過失相殺は認められない。
判例
事案:自動車の運転手が、電車軌道上を走行しており、進路と反対方向に進もうとしている電車が10数メートル前方の停留場に停留しているのを認識しながら、停車若しくは徐行をしないで進み、電車の背後から電車軌道を横断してきた少女に衝突し、同少女を死亡させた事案で、刑法上の過失相殺が認められるか問題となった。

判旨:「自動車ノ運転手カ之ヲ操縦シテ電車軌道上ヲ疾走スル場合其ノ前方ヨリ進ミ来レル電車カ一時停留セルヲ認メタルトキハ其ノ降車客カ往往不用意ニモ電車ノ背後ヨリ自動車ノ進路ニ向ヒ歩ヲ移スコトアルヘキヲ以テ電車ニ接近前停車スルカ少クトモ徐行スル等適切ナル操車方法ヲ採リ事ニ当リ急遽災害ヲ避クルノ途ニ出ツヘキハ其ノ職業上当然ノ義務ナリトス…
 凡ソ車道ヲ通行セントスル公衆ハ自動車ノ進行ヲ認メタルトキハ適宜之ヲ避止シ衝突ノ危険ヲ予防シ其ノ進行ヲ容易ナラシメ以テ快速力ヲ有スル交通機関トシテノ其ノ機能ヲ発揮セシムルコトニ留意スヘキハ固ヨリ論ヲ俟タスト雖自動車操縦ノ業務ニ従事セル者ハ常ニ其ノ進路ノ前方ヲ警戒シ危害ヲ未然ニ予防スルニ付細心ノ注意ヲ払ヒ交通ノ安全ヲ図ルハ業務上当然ノ義務ニシテ危険カ其ノ不注意ニ因リ発生シタル場合通行人ノ不用意ニ藉口シテ其ノ責ヲ回避スルコトヲ得ヘキモノニ非ス故ニ自動車カ進行スル際反対ノ方向ニ進路ヲ取リ一時停留セル電車ニ接近シタル際降車客カ不用意ニモ突然電車車掌台ノ背後ヨリ自動車ノ進路ニ向ヒ歩ヲ移シタルカ如キ場合ト雖斯ル事例ハ吾人日常目睹スル処ニシテ自動車操縦者ニ於テ固ヨリ此ノ点ニ留意スヘキ筋合ナルヲ以テ斯ル衝突ヲ予防スル為電車ニ接近前停車スルカ少クトモ徐行スル等業務上最モ適切ナル操車方法ヲ取リ事ニ当リ急遽危害ヲ避クルノ途ニ出ツルヲ得ヘキ余地ヲ存セサルヘカラス若シ此ノ業務上ノ注意ヲ欠キタルカ為通行人ニ衝突セシメ之ニ原因シテ死亡ノ結果ヲ生セシメタルトキハ縦令通行人ニ於テ如上不注意ノ廉アリトスルモ之ヲ以テ業務上過失致死罪ノ責ヲ免ルルヲ得サルモノトス…」
過去問・解説

(H28 司法 第11問 4)
注意義務に違反して人を負傷させた場合であっても、相手方に重大な過失があったときには、過失相殺が適用されるので、過失の責任を免れることができる。

(正答)

(解説)
判例(大判大11.5.11)は、自動車の運転手が過失ある歩行者に車で衝突し死亡させた事案において、「業務上ノ注意ヲ欠キタルカ為通行人ニ衝突セシメ之ニ原因シテ死亡ノ結果ヲ生セシメタルトキハ縦令通行人ニ於テ如上不注意ノ廉アリトスルモ之ヲ以テ業務上過失致死罪ノ責ヲ免ルルヲ得サルモノトス」として、刑法において過失相殺が認められないことを示している。
したがって、相手方に重大な過失があったとしても過失相殺が適用されないため、過失の責任を免れることができない。

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明文がない場合の過失犯 最一小判昭和28年3月5日

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概要
過失行為を処罰する旨の明文の規定がない場合であっても、過失行為を処罰することが可能である。
判例
事案:外国人登録令13条により処罰する同令10条の規定に違反して登録証明書を携帯しない罪が、過失犯をも含むかが問題となった。

判旨:「所論外国人登録令13条で処罰する同10条の規定に違反して登録証明書を携帯しない者とは、その取締る事柄の本質に鑑み故意に右証明書を携帯しないものばかりでなく、過失によりこれを携帯しないものをも包含する法意と解するのを相当とするから原判決には所論の違法はない。」
過去問・解説
全体の正答率 : 100%

(H25 司法 第15問 1)
罰則を定めた特別法の法条に、過失行為を処罰する旨の明文の規定がない場合であっても、当該特別法の目的から、罰則を定めた法条に過失行為を処罰する趣旨が包含されていると認められるときには、同法条が刑法第38条第1項ただし書に規定される特別の規定となり、過失による行為を処罰することが可能である。

(正答)

(解説)
判例(最判昭28.3.5)は、外国人登録書を過失により携帯していなかった事案において、「所論外国人登録令13条で処罰する同10条の規定に違反して登録証明書を携帯しない者とは、その取締る事柄の本質に鑑み故意に右証明書を携帯しないものばかりでなく、過失によりこれを携帯しないものをも包含する法意と解するのを相当とする…。」としている。
したがって、過失行為を処罰する旨の明文の規定がない場合であっても、過失行為を処罰することが可能である。


全体の正答率 : 100%

(R1 共通 第17問 ア)
刑法第38条第1項ただし書の「法律に特別の規定がある場合」とは、過失犯を処罰する旨の明文の規定がある場合に限られない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭28.3.5)は、外国人登録書を過失により携帯していなかった事案において、「所論外国人登録令13条で処罰する同10条の規定に違反して登録証明書を携帯しない者とは、その取締る事柄の本質に鑑み故意に右証明書を携帯しないものばかりでなく、過失によりこれを携帯しないものをも包含する法意と解するのを相当とする…。」としている。
したがって、「法律に特別の規定がある場合」とは、過失犯を処罰する旨の明文の規定がある場合に限られない。

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交通違反と信頼の原則 最二小判昭和42年10月13日

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概要
車両の運転者は、互いに他の運転者が交通法規に従って、適切な行動に出るであろうことを信頼して運転すべきものであって、そのような信頼がなければ、一時といえども安心して運転をすることはできないものである。
そして、すべての運転者が、交通法規に従って適切な行動に出るとともに、そのことを互に信頼し合って運転することになれば、事故の発生が未然に防止され、車両等の高速度交通機関の効用が十分に発揮されるに至るものと考えられる。
したがって、車両の運転者の注意義務を考えるに当たっては、この点を十分配慮しなければならない。
判例
事案:右折の合図をしながら時速約20キロメートルで南進し、右折を始めた(本件当時の道路交通法34条3項に違反)が、その際、右後方を瞥見しただけで、安全を十分確認しなかったため、被告人の右後方約15メートルを第二種原動機付自転車を時速約60キロメートルの高速度で運転し、被告人を追抜こうとしていたAを発見せず、危険はないものと軽信して右折し、その自転車に接触させて転倒させ死亡するに至らせたという事案で、信頼の原則の適用が問題となった。

判旨:「ところで、車両の運転者は、互に他の運転者が交通法規に従つて適切な行動に出るであろうことを信頼して運転すべきものであり、そのような信頼がなければ、一時といえども安心して運転をすることはできないものである。そして、すべての運転者が、交通法規に従って適切な行動に出るとともに、そのことを互に信頼し合って運転することになれば、事故の発生が未然に防止され、車両等の高速度交通機関の効用が十分に発揮されるに至るものと考えられる。したがつて、車両の運転者の注意義務を考えるに当っては、この点を十分配慮しなければならないわけである。
 このようにみてくると、本件被告人のように、センターラインの若干左側から、右折の合図をしながら、右折を始めようとする原動機付自転車の運転者としては、後方からくる他の車両の運転者が、交通法規を守り、速度をおとして自車の右折を待つて進行する等、安全な速度と方法で進行するであろうことを信頼して運転すれば足り、本件Aのように、あえて交通法規に違反して、高速度で、センターラインの右側にはみ出してまで自車を追越そうとする車両のありうることまでも予想して、右後方に対する安全を確認し、もって事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である(なお、本件当時の道路交通法34条3項によると、第一種原動機付自転車は、右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左端に寄り、かつ、交差点の側端に沿つて徐行しなければならなかったのにかかわらず、被告人は、第一種原動機付自転車を運転して、センターラインの若干左側からそのまま右折を始めたのであるから、これが同条項に違反し、同121条1項5号の罪を構成するものであることはいうまでもないが、このことは、右注意義務の存否とは関係のないことである。)。
 そうすると、本件において、被告人に過失責任を認めた原判決は、法令の解釈を誤り、被告事件が罪とならないのに、これを有罪としたものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、刑訴法411条1号によりこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」
過去問・解説
全体の正答率 : 100%

(R3 共通 第1問 4)
行為者が法令に違反する行動をした事案においても信頼の原則が適用される場合がある。

(正答)

(解説)
判例(最判昭42.10.13)は、交通事故の事案において、「Aのように、あえて交通法規に違反して、高速度で、センターラインの右側にはみ出してまで自車を追越そうとする車両のありうることまでも予想して、右後方に対する安全を確認し、もって事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はない…。」として、行為者が法令違反をした場合にも、信頼の原則が適用されることを前提として判断している。
したがって、行為者が法令に違反する行動をした事案においても、信頼の原則が適用される場合があるといえる。

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裁量ある権限不行使による注意義務違反 最二小判平成20年3月3日

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概要
公務員が法令により付与された権限を行使するか否かについて、当該公務員に裁量が認められている場合であっても、その権限の不行使を注意義務違反とする過失犯が成立する。
判例
事案:HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に汚染された非加熱血液製剤を投与された患者がエイズ(後天性免疫不全症候群)を発症して死亡した薬害事件の事案において、厚生省薬務局生物製剤課長であった者に業務上過失致死罪が成立するかが問題となった。

判旨:「薬品による危害発生を防止するため、薬事法69条の2の緊急命令など、厚生大臣が薬事法上付与された各種の強制的な監督権限を行使することが許容される前提となるべき重大な危険の存在が認められ、薬務行政上、その防止のために必要かつ十分な措置を採るべき具体的義務が生じたといえるのみならず、刑事法上も、本件非加熱製剤の製造、使用や安全確保に係る薬務行政を担当する者には、社会生活上、薬品による危害発生の防止の業務に従事する者としての注意義務が生じたものというべきである。
 そして、防止措置の中には、必ずしも法律上の強制監督措置だけではなく、任意の措置を促すことで防止の目的を達成することが合理的に期待できるときは、これを行政指導というかどうかはともかく、そのような措置も含まれるというべきであり、本件においては、厚生大臣が監督権限を有する製薬会社等に対する措置であることからすれば、そのような措置も防止措置として合理性を有するものと認められる。
 被告人は、エイズとの関連が問題となった本件非加熱製剤が、被告人が課長である生物製剤課の所管に係る血液製剤であることから、厚生省における同製剤に係るエイズ対策に関して中心的な立場にあったものであり、厚生大臣を補佐して、薬品による危害の防止という薬務行政を一体的に遂行すべき立場にあったのであるから、被告人には、必要に応じて他の部局等と協議して所要の措置を採ることを促すことを含め、薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったことも明らかであり、かつ、原判断指摘のような措置を採ることを不可能又は困難とするような重大な法律上又は事実上の支障も認められないのであって、本件被害者の死亡について専ら被告人の責任に帰すべきものでないことはもとよりとしても、被告人においてその責任を免れるものではない。」
過去問・解説
全体の正答率 : 100%

(R1 司法 第17問 イ)
公務員が法令により付与された権限を行使するか否かについて、当該公務員に裁量が認められている場合、その権限の不行使を注意義務違反とする過失犯が成立することはない。

(正答)

(解説)
判例(最判平20.3.3)は、「被告人には、必要に応じて他の部局等と協議して所要の措置を採ることを促すことを含め、薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったことも明らかであり、かつ、原判断指摘のような措置を採ることを不可能又は困難とするような重大な法律上又は事実上の支障も認められないのであって、本件被害者の死亡について専ら被告人の責任に帰すべきものでないことはもとよりとしても、被告人においてその責任を免れるものではない。」として、公務員の被告人が結果を予見できる情報を把握し、結果回避のための権限を有していたことから、権限の不行使を注意義務違反とする過失犯の成立を認めている。
したがって、公務員に裁量が認められている場合であっても、その権限の不行使を注意義務違反とする過失犯が成立しうる。

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