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過失(予見可能性) - 解答モード
予見可能性の意義 札幌高判昭和51年3月18日
概要
判例
判旨:「結果発生の予見とは、内容の特定しない一般的・抽象的な危惧感ないし不安感を抱く程度では足りず、特定の構成要件的結果及びその結果の発生に至る因果関係の基本的部分の予見を意味するものと解すべきである。
そして、この予見可能性の有無は、当該行為者の置かれた具体的状況に、これと同様の地位・状況に置かれた通常人をあてはめてみて判断すべきものである。
…執刀医である被告人甲にとって、前叙のとおりケーブルの誤接続のありうることについて具体的認識を欠いたことなどのため、右誤接続に起因する傷害事故発生の予見可能性が必ずしも高度のものではなく、手術開始直前に、ベテランの看護婦である被告人乙を信頼し接続の正否を点検しなかったことが当時の具体的状況のもとで無理からぬものであったことにかんがみれば、被告人甲がケーブルの誤接続による傷害事故発生を予見してこれを回避すべくケーブル接続の点検をする措置をとらなかったことをとらえ、執刀医として通常用いるべき注意義務の違反があったものということはできない。」
予見可能性の意義 最二小判平成元年3月14日
概要
判例
判旨:「被告人は、業務として普通貨物自動車(軽四輪)を運転中、制限速度を守り、ハンドル、ブレーキなどを的確に操作して進行すべき業務上の注意義務を怠り、最高速度が時速30キロメートルに指定されている道路を時速約65キロメートルの高速度で進行し、対向してきた車両を認めて狼狽し、ハンドルを左に急転把した過失により、道路左側のガードレールに衝突しそうになり、あわてて右に急転把し、自車の走行の自由を失わせて暴走させ、道路左側に設置してある信号柱に自車左側後部荷台を激突させ、その衝撃により、後部荷台に同乗していたA及びBの両名を死亡するに至らせ、更に助手席に同乗していたCに対し全治約2週間の傷害を負わせたものであるが、被告人が自車の後部荷台に右両名が乗車している事実を認識していたとは認定できないというのである。しかし、被告人において、右のような無謀ともいうべき自動車運転をすれば人の死傷を伴ういかなる事故を惹起するかもしれないことは、当然認識しえたものというべきであるから、たとえ被告人が自車の後部荷台に前記両名が乗車している事実を認識していなかったとしても、右両名に関する業務上過失致死罪の成立を妨げないと解すべきであり、これと同旨の原判断は正当である。」
過去問・解説
(H29 共通 第11問 エ)
土木作業員甲及び乙は、現場監督者丙の監督の下で、X川に架かる鉄橋の橋脚を特殊なA鋼材を用いて補強する工事に従事していたが、作業に手間取り、工期が迫ってきたことから、甲及び乙の2人で相談した上で、より短期間で作業を終えることができる強度の弱いB鋼材を用いた補強工事を共同して行った。その結果、工期内に工事を終えることはできたものの、その後発生した豪雨の際、A鋼材ではなくB鋼材を用いたことによる強度不足のために前記橋脚が崩落し、たまたま前記鉄橋上を走行していたV1運転のトラックがX川に転落し、V1が死亡した。なお、甲及び乙は同等の立場にあり、甲及び乙のいずれについても、B鋼材を工事に用いた場合に強度不足のために前記橋脚が崩落することを予見していなかったものの、その予見可能性があったものとする。
仮に、V1運転のトラックの荷台に、V1に無断でV2が乗り込んでおり、同トラックがX川に転落したことによって、V1及びV2の両名が死亡した場合、甲及び乙にはV2に対する業務上過失致死罪は成立しない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平1.3.14)は、本肢と同種の事案において、「被告人が自車の後部荷台に右両名が乗車している事実を認識していたとは認定できないというのである。しかし、被告人において、右のような無謀ともいうべき自動車運転をすれば人の死傷を伴ういかなる事故を惹起するかもしれないことは、当然認識しえたものというべきであるから、たとえ被告人が自車の後部荷台に前記両名が乗車している事実を認識していなかったとしても、右両名に関する業務上過失致死罪の成立を妨げない…。」としている。
甲及び乙は、B鋼材を工事に用いた場合に強度不足のために前記橋脚が崩落することについて予見可能性があったのだから、前記橋脚が崩落することによりおよそ人が死亡する結果も予見可能であったといえる。
そうである以上、甲及び乙にはV2に対する業務上過失致死罪が成立するのであり、V1運転のトラックの荷台にV1に無断でV2が乗り込んでいた事実はこの結論を妨げるものとはならない。
予見可能性の意義 最二小判平成12年12月20日
概要
判例
判旨:「近畿日本鉄道東大阪線生駒トンネル内における電力ケーブルの接続工事に際し、施工資格を有してその工事に当たった被告人が、ケーブルに特別高圧電流が流れる場合に発生する誘起電流を接地するための大小2種類の接地銅板のうちの1種類をY分岐接続器に取り付けるのを怠ったため、右誘起電流が、大地に流されずに、本来流れるべきでないY分岐接続器本体の半導電層部に流れて炭化導電路を形成し、長期間にわたり同部分に集中して流れ続けたことにより、本件火災が発生したものである。右事実関係の下においては、被告人は、右のような炭化導電路が形成されるという経過を具体的に予見することはできなかったとしても、右誘起電流が大地に流されずに本来流れるべきでない部分に長期間にわたり流れ続けることによって火災の発生に至る可能性があることを予見することはできたものというべきである。したがって、本件火災発生の予見可能性を認めた原判決は、相当である。」
過去問・解説
(H29 共通 第11問 ウ)
仮に、甲及び乙において、V1が死亡するに至る実際の因果経過を具体的に予見することが不可能であった場合、甲及び乙には業務上過失致死罪は成立しない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平12.12.20)は、トンネル内で火災が発生した事案において、「炭化導電路が形成されるという経過を具体的に予見することはできなかったとしても、右誘起電流が大地に流されずに本来流れるべきでない部分に長期間にわたり流れ続けることによって火災の発生に至る可能性があることを予見することはできたものというべきである。」として、実際の因果経過を具体的に予見することが不可能であったとしても、過失を認めている。
したがって、甲及び乙において、V1が死亡するに至る実際の因果経過を具体的に予見することが不可能であった場合であっても、両者に過失が認められ、業務上過失致死罪が成立する。
(R1 司法 第17問 エ)
過失犯が成立するには、因果経過の予見可能性を要するため、現実の結果発生に至る経過を逐一具体的に予見できなければ、過失犯が成立することはない。