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正当防衛(総論) - 解答モード
第一行為と第二行為による殺人 大判大正6年9月10日
概要
判例
判旨:「殺意ヲ以テ2箇ノ異ナレル殺害方法ヲ他人ニ施シタル處第1ノ方法ヲ以テシテハ殺害ノ結果ヲ惹起スルコト絶對ニ不能ニシテ單タ他人ヲ傷害シタルニ止マリ第2ノ方法ヲ用ヰ始メテ殺害ノ目的ヲ達シタルトキハ右2箇ノ行爲カ孰レモ同一ノ殺意ニ出テタリトスルモ第1ノ方法ニ依ル行爲カ殺人罪トシテ純然タル不能犯ニ屬スル場合ニ於テハ殺人罪ニ問擬スヘカラサルハ勿論ニシテ若シ又該行爲ノ結果カ傷害罪ニ該當スルニ於テハ殺人罪トシテハ不能犯ナルモ傷害罪ヲ以テ之ヲ處斷スヘク第2ノ方法ニ依ル殺人罪ノ既遂ト連續犯ノ關係ヲ有スル殺人罪ノ未遂ヲ以テ論スヘキニ非ス」
過去問・解説
(H28 司法 第13問 イ)
判例の立場に従って検討し、殺人罪が既遂になる場合には1を、未遂にとどまる場合には2を、既遂にも未遂にもならない場合には3を選びなさい。
甲は、Aを殺害しようと考え、Bから致死性の毒薬であると告げられて小瓶入りの液体を購入し、コーヒーに同液体を入れて、これをAに飲ませたものの、同液体は水であったため、Aは死亡しなかった。
(正答)3
(解説)
判例(大判大6.9.10)は、本肢と同種の事案において、「第1ノ方法ニ依ル行爲カ殺人罪トシテ純然タル不能犯ニ屬スル場合ニ於テハ殺人罪ニ問擬スヘカラサル」とした上で、「第2ノ方法ニ依ル殺人罪ノ既遂ト連續犯ノ關係ヲ有スル殺人罪ノ未遂ヲ以テ論スヘキニ非ス」として、第1行為によって結果を発生させることが絶対に不能な場合には、続く第2行為との連続性が認められることをもって第1行為に殺人未遂罪を成立させることはできないことを示している。
水を飲ませることにより人を殺すことができない以上、コーヒーに水を混ぜた行為は殺人の実行行為に当たらない。
したがって、甲の行為は不能犯であり、殺人罪は既遂にも未遂にもならない。
正当な行為に対する正当防衛の成否 大判昭和8年9月27日
概要
判例
判旨:「刑法第三十六條ニ所謂不正トハ違法ナルコトヲ指斥セル法意ナルカ故ニ被告人ノ甲ニ加ヘタル打撲挫傷ハ正當防衞ノ觀念ヲ以テ論スル限リニ非ス」
過去問・解説
(H20 司法 第3問 ア)
正当防衛は、不正の侵害に対して成立するから、正当防衛行為に対する正当防衛は成立し得ない。
(H20 司法 第3問 エ)
正当防衛は、不正の侵害に対して成立するから、加害者の過失行為に対しては正当防衛は成立し得ない。
(R3 共通 第17問 5)
刑法第36条第1項における「不正の侵害」というには、可罰的な行為であることを要しない。
喧嘩と正当防衛 最大判昭和23年7月7日
概要
判例
判旨:「互に暴行し合ういわゆる喧嘩は、闘争者双方が攻撃及び防禦を繰り返す一団の連続的闘争行為であるから、闘争の或る瞬間においては、闘争者の一方がもっぱら防禦に終始し、正当防衛を行う観を呈することがあっても、闘争の全般からみては、刑法第36条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合がある。本件について、原判決の確定した事実によれば、被告人は井戸三郎と口論の末、互に殴り合となり、被告人はたちまち井戸のために殴られ乍ら後方へ押されて鉄条網に仰向けに押しつけられた上睾丸等を蹴られたので、憤激の余り所持していた小刀で井戸に斬りつけ創傷を負わせた結果、同人を左上膊動脉切断に因る失血のため、死亡するに至らしめたというのであるから、被告人の行為は全般の情況から見て、前記の場合に当るものと言わなければならない。従って刑法第36条を適用すべき余地はない。」
過去問・解説
(H24 予備 第2問 5)
けんか闘争において正当防衛が成立するかどうかを判断するに当たっては、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様のみに着眼するのではなく、けんか闘争を全般的に観察することが必要である。
防衛行為の対象となる「法益」の意義 最一小判昭和24年8月18日
概要
判例
判旨:「刑法37条にいわゆる『現在の危難』についても、刑法36条の『急迫の侵害』と同様のことが言い得るわけである。ここにおける防衛行為は個人的法益の防衛行為ではなく、国民の安全利福の防衛に関するものである。かかる公益ないし国家的法益の防衛が、正当防衛として認められ得るか否かについては、これを否定する学説見解もないではないが、公共の福祉を最高の指導原理とする新憲法の理念から言っても、公共の福祉をも含めてすべての法益は防衛させられるべきであるとする刑法の理念から言っても、国家的、国民的、公共的法益についても正当防衛の許さるべき場合が存することを認めるべきである。だがしかし、本来国家的、公共的法益を保全防衛することは、国家又は公共団体の公的機関の本来の任務に属する事柄であって、これをた易く自由に私人又は私的団体の行動に委すことは却って秩序を乱し事態を悪化させる危険を伴う虞がある。それ故、かかる公益のための正当防衛等は、国家公共の機関の有効な公的活動を期待し得ない極めて緊迫した場合においてのみ例外的に許容さるべきものと解するのが相当とする。刑法36条及び37条にいわゆる『已むことを得ざるに出でたる行為』という観点から眺めるならば、一層容易にかつ明白に同じ結論に達することが理解されるであろう。防衛行為が已むことを得ないとは、当該具体的事態の下において当時の社会通念が防衛行為として当然性、妥当性を認め得るものを言うのである。そして、殊に前述のごとく国家的、公共的法益に対する侵害等を私人が防衛する場合に、已むことを得ざるものとして当然許容さるべき範囲は、整備せる現代国家の機構組織の下においては、必然的に比較的極めて狭少な限局されたものたるべきことは国家理論の帰結として何人も承認しなければならぬところである。」
過去問・解説
(H24 予備 第2問 3)
刑法第36条にいう「権利」は個人的法益を指し、国家的法益や社会的法益は含まれない。
(H27 予備 第3問 ア)
国家的法益に対する現在の危難を避けるためにした行為については、緊急避難が成立することはない。
(H28 共通 第9問 1)
国家的法益を防衛するための正当防衛が成立する余地はない。
(R3 共通 第17問 4)
刑法第36条第1項にいう「権利」は、個人的法益に限られ、国家的・社会的法益は、これに含まれない。
(R5 司法 第12問 ア)
緊急避難は、自己又は他人の生命、身体、自由又は財産という個人的法益に対する現在の危難を避けるためにした行為に成立するものであるから、国家的法益に対する危難を避けるためにした行為に緊急避難が成立することはない。
喧嘩と正当防衛 最三小判昭和32年1月22日
概要
判例
判旨:「いわゆる喧嘩は、闘争者双方が攻撃及び防禦を繰り返す一団の連続的闘争行為であるから、闘争のある瞬間においては、闘争者の一方がもっぱら防禦に終始し、正当防衛を行う観を呈することがあっても、闘争の全般からみては、刑法36条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合があるというのであるから、法律判断として、まず喧嘩闘争はこれを全般的に観察することを要し、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様によって事を判断してはならないということと、喧嘩闘争においてもなお正当防衛が成立する場合があり得るという両面を含むものと解することができる。」
過去問・解説
(H22 司法 第4問 4)
いわゆるけんか闘争状態にある者が、相手方に対して加害行為をした場合、正当防衛が成立する余地はない。
自招侵害に対する正当防衛 最二小決平成20年5月20日
概要
判例
判旨:「被告人は、Aから攻撃されるに先立ち、Aに対して暴行を加えているのであって、Aの攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきである。そうすると、正当防衛の成立を否定した原判断は、結論において正当である。」
過去問・解説
(H22 司法 第4問 3)
相手方を挑発して相手方による侵害を自ら招いた者が、それに対し反撃した場合、正当防衛が成立する余地はない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平20.5.20)は、「Aの攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきである。」として、自招侵害に対する正当防衛の成立を否定している。
もっとも、この判例では、具体的な事実関係に着目して正当防衛の成立が否定されているにとどまるから、相手方を挑発して相手方による侵害を自ら招いた者が、それに対し反撃した場合にも、正当防衛が成立する余地はある。
(H25 共通 第13問 3)
相手からの侵害が、それに先立つ自らの攻撃によって触発されたものである場合には、不正の行為により自ら侵害を招いたことになるから、相手からの侵害が急迫性を欠く結果、これに対する反撃行為に正当防衛が認められることはない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平20.5.20)は、自招侵害の事案において、「Aの攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきである。」として、具体的な事実関係に着目した上で、「急迫不正の侵害」とは別の「被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況」という観点から、正当防衛の成立を否定している。
本肢は、自招侵害について、一律に正当防衛の成立が否定されるとしている点、及び侵害の急迫性を欠くことを理由にしている点において、誤っている。
(R3 共通 第20問 ア)
乙が甲の胸部を拳で強打した行為については、甲からの侵害が、乙が甲に因縁を付けたことにより招かれたものである以上、正当防衛又は過剰防衛が成立することはない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平20.5.20)は、「Aの攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきである。」として、自招侵害に対する正当防衛の成立を否定している。
もっとも、この判例では、具体的な事実関係に着目して正当防衛の成立が否定されているにとどまるから、相手方を挑発して相手方による侵害を自ら招いた者が、それに対し反撃した場合にも、正当防衛が成立する余地はある。
したがって、乙が甲の胸部を拳で強打した行為についても、正当防衛又は過剰防衛が成立し得る。
財産権への侵害に対する正当防衛 最一小判平成21年7月16日
概要
判例
判旨:「Bらが立入禁止等と記載した本件看板を本件建物に設置することは、被告人らの本件建物に対する共有持分権、賃借権等を侵害するとともに、F宅建の業務を妨害し、被告人らの名誉を害するものといわなければならない。そして、Bの依頼を受けたCらは、本件建物のすぐ前において本件看板を取り付ける作業を開始し、被告人がこれを取り上げて踏み付けた後も、Bがこれを持ち上げ、付けてくれと言ってCに渡そうとしていたのであるから、本件暴行の際、Bらはなおも本件看板を本件建物に取り付けようとしていたものと認められ、その行為は、被告人らの上記権利や業務、名誉に対する急迫不正の侵害に当たるというべきである。そして、被告人は、BがCに対して本件看板を渡そうとしたのに対し、これを阻止しようとして本件暴行に及び、Bを本件建物から遠ざける方向に押したのであるから、Bらによる上記侵害から被告人らの利等を防衛するために本件暴行を行ったものと認められる。さらに、Bらは、本件建物のガラスを割ったり作業員を威圧したりすることによって被告人らが請け負わせた本件建物の原状回復等の工事を中止に追い込んだ上、本件建物への第三者の出入りを妨害し、同(3)の即時抗告棄却決定の後においても、立入禁止等と記載した看板を本件建物に設置するなど、本件以前から継続的に被告人らの本件建物に対する権利等を実力で侵害する行為を繰り返しており、本件における上記不正の侵害はその一環をなすものである。一方、被告人とBとの間には体格差等があることや、Bが後退して転倒したのは被告人の力のみによるものとは認め難いことなどからすれば、本件暴行の程度は軽微なものであったというべきである。そうすると、本件暴行は、被告人らの主として財産的権利を防衛するためにBの身体の安全を侵害したものであることを考慮しても、いまだBらによる上記侵害に対する防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできない。以上によれば、本件暴行については、刑法36条1項の正当防衛として違法性が阻却される。」
過去問・解説
(H25 共通 第13問 4)
刑法第36条にいう「権利」には、生命、身体、自由のみならず名誉や財産といった個人的法益が含まれるので、自己の財産権への侵害に対して相手の身体の安全を侵害する反撃行為に及んでも正当防衛となり得る。
(R1 共通 第15問 5)
財産的権利を防衛するために相手方の身体に暴行を加えて傷害を負わせた場合、その暴行行為については、正当防衛が成立する余地はない。
(R5 司法 第18問 1)
刑法第36条第1項における「権利」には、個人の生命、身体、自由のみならず、財産も含まれる。