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緊急避難 - 解答モード
自然災害による危害と緊急避難行為 大判昭和8年11月30日
概要
判例
判旨:「面積4、5丁歩ノ田地ニ挿秧後10日乃至12日ノ稲苗カ異常ノ降雨ニ因ル湛水ノ為剣先ヲ没シ或ハ纔ニ5分ヲ余スノミニシテ湛水ノ継続ニ因リ著シキ不作又ハ稲苗枯死ノ危難アルニ当リ耕作者カ其ノ湛水ヲ排除スルノ必要上他人所有ノ水田灌漑用ノ板堰価格40円許ノモノヲ破壊シタルモ他ニ損害ヲ生セサルトキハ刑法第37条ノ緊急避難行為ヲ構成ス」
過去問・解説
(H27 予備 第3問 イ)
現在の危難の発生原因は人の行為に限られず、自然災害や動物による危害も含まれる。
(R3 共通 第19問 ア)
豪雨により稲苗が水に沈む危険が生じていたことから、排水のため他人の所有する下流の板堰を損壊した場合、「現在の危難」があるとは認められないので、緊急避難は成立しない。
(正答)✕
(解説)
判例(大判昭8.11.30)は、本肢と同種の事案において、「面積4、5丁歩ノ田地ニ挿秧後10日乃至12日ノ稲苗カ異常ノ降雨ニ因ル湛水ノ為剣先ヲ没シ或ハ纔ニ5分ヲ余スノミニシテ湛水ノ継続ニ因リ著シキ不作又ハ稲苗枯死ノ危難アルニ当リ耕作者カ其ノ湛水ヲ排除スルノ必要上他人所有ノ水田灌漑用ノ板堰価格40円許ノモノヲ破壊シタルモ他ニ損害ヲ生セサルトキハ刑法第37条ノ緊急避難行為ヲ構成ス」として、緊急避難の成立を認めている。
したがって、豪雨により稲苗が水に沈む危険が生じていたことから、排水のため他人の所有する下流の板堰を損壊した場合、「現在の危難」があると認められ、緊急避難が成立する。
現在の危難 最一小判昭和35年2月4日
概要
判例
判旨:「右吊橋は200貫ないし300貫の荷馬車が通る場合には極めて危険であったが、人の通行には差支えなく、しかも右の荷馬車も、村当局の重量制限を犯して時に通行する者があった程度であったことが窺えるのであって、果してしからば、本件吊橋の動揺による危険は、少なくとも本件犯行当時たる昭和28年2月21日頃の冬期においては原審の認定する程に切迫したものではなかったのではないかと考えられる。更に、また原審は、被告人等の本件所為は右危険を防止するためやむことを得ざるに出でた行為であって、ただその程度を超えたものであると判断するのであるが、仮に本件吊橋が原審認定のように切迫した危険な状態にあったとしても、その危険を防止するためには、通行制限の強化その他適当な手段、方法を講ずる余地のないことはなく、本件におけるようにダイナマイトを使用してこれを爆破しなければ右危険を防止しえないものであったとは到底認められない。しからば被告人等の本件所為については、緊急避難を認める余地なく、従ってまた過剰避難も成立しえないものといわなければならない。」
過去問・解説
(R3 共通 第19問 エ)
吊橋が腐朽し、通行の際の揺れにより通行者の生命、身体等に危険が生じていたため、ダイナマイトを使用して同吊橋を爆破したが、通行制限の強化等適当な手段、方法を講ずる余地があった場合、同爆破行為は、「やむを得ずにした行為」とは認められないので、緊急避難は成立しない。
(R3 共通 第19問 オ)
甲が飼い犬A(時価30万円相当)を連れて山道を散歩中、乙が設置していた害獣駆除用の罠(時価3万円相当)にAがかかり、その生命に危険が生じ、Aを保護するためには他に方法がなかったので、その罠を損壊した場合、緊急避難が成立する(甲及び乙いずれにも過失がなかったものとする。)。
(正答)〇
(解説)
判例(最判昭35.2.4)は、本肢と同種の事案において、「本件吊橋が原審認定のように切迫した危険な状態にあったとしても、その危険を防止するためには、通行制限の強化その他適当な手段、方法を講ずる余地のないことはなく、本件におけるようにダイナマイトを使用してこれを爆破しなければ右危険を防止しえないものであったとは到底認められない。」として、「やむを得ずにした行為」という要件について、補充性、すなわち現在の危難を避けるための唯一の手段であることが必要であることを示している。
Aを保護するためには他に方法がなかったことから、甲の行為は、Aの生命に対する現在の危難を避けるための唯一の手段であるといえ、補充性要件を満たす。
また、Aの時価は罠を上回っているから、法益の均衡も保たれており、「やむを得ずにした行為」であるといえる。
したがって、甲に緊急避難が成立する。
現在の危難 東京高判平成24年12月1日
概要
判例
判旨:「被告人は、覚せい剤を使用してその影響下にある捜査対象者から、けん銃を右こめかみに突き付けられ、目の前にある覚せい剤を注射するよう迫られたというのである。本件けん銃が真正けん銃であったか否かや、実弾が装填されていたか否か等は不明であるが、逆に、本件けん銃が人を殺傷する機能を備えた状態にあったことを否定する事情もなく、被告人の供述する状況下では、被告人の生命及び身体に対する危険が切迫していたこと、すなわち、現在の危難が存在したことは明らかというべきである。
次に、被告人が自己の身体に覚せい剤を注射した行為が、現在の危難を避けるためにやむを得ずにした行為といえるかについて検討すると、『やむを得ずにした行為』とは、危難を避けるためには当該避難行為をするよりほかに方法がなく、そのような行為に出たことが条理上肯定し得る場合をいうと解されるところ、本件においては、覚せい剤の影響下にあった捜査対象者が、けん銃を被告人の頭部に突き付けて、目の前で覚せい剤を使用することを要求したというのであるから、被告人の生命及び身体に対する危険の切迫度は大きく、深夜、相手の所属する暴力団事務所の室内に2人しかいないという状況にあったことも考慮すると、被告人が生命や身体に危害を加えられることなくその場を離れるためには、覚せい剤を使用する以外に他に取り得る現実的な方法はなかったと考えざるを得ない。また、本件において危難にさらされていた法益の重大性、危難の切迫度の大きさ、避難行為は覚せい剤を自己の身体に注射するというものであることのほか、本件において被告人が捜査対象者に接触した経緯、動機、捜査対象者による本件強要行為が被告人に予測可能であったとはいえないこと等に照らすと、本件において被告人が覚せい剤を使用した行為が、条理上肯定できないものとはいえない。
そして、本件において、被告人の覚せい剤使用行為により生じた害が、避けようとした被告人の生命及び身体に対する害の程度を超えないことも明らかであるから、被告人の本件覚せい剤使用行為は、結局、刑法37条1項本文の緊急避難に該当し、罪とならない場合に当たる。」
過去問・解説
(R3 共通 第19問 ウ)
頭に拳銃を突き付けられて、覚醒剤の自己使用を強要され、これを拒むことができず、自己に覚醒剤を注射して使用した場合、犯罪行為の強要の手段は「現在の危難」に当たらないので、緊急避難は成立しない。
(正答)✕
(解説)
裁判例(東京高判平24.12.18)は、本肢と同種の事案において、「けん銃を被告人の頭部に突き付けて、目の前で覚せい剤を使用することを要求したというのであるから、被告人の生命及び身体に対する危険の切迫度は大きく、深夜、相手の所属する暴力団事務所の室内に2人しかいないという状況にあったことも考慮すると、被告人が生命や身体に危害を加えられることなくその場を離れるためには、覚せい剤を使用する以外に他に取り得る現実的な方法はなかったと考えざるを得ない。」としている。
そうすると、頭に拳銃を突き付けるという犯罪行為も現在の危難に当たり、覚せい剤を使用する以外に他に取り得る現実的な方法はなかったといえ、補充性も認められる。
したがって、緊急避難が成立する。