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背任の罪 - 解答モード
抵当権設定登記と背任罪 最二小判昭和31年12月7日
概要
判例
判旨:「背任罪の成立要件たる事務は他人の事務であることを要件とする。しかるに本件第一番抵当権者たるべきAに対する被告人の抵当権段定の登記義務は設定者である被告人固有の事務であって他人の事務ではないのに、原審が被告人の所為を背任罪に問擬したのは刑法247条の解釈適用を誤った違法があり、且つ憲塗31条、11条違憲の判決であると主張する。しかし抵当権設定者はその壁記に関し、これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。」
過去問・解説
(H18 司法 第5問 オ)
甲は、乙に対する債務の担保として、乙のため、自己の所有する不動産に抵当権を設定したが、抵当権設定登記をしない間に、乙に無断で、借金をしている丙のため、その不動産に一番抵当権を設定して登記を完了した。甲に横領罪が成立する。
(正答)✕
(解説)
判例(最判昭31.12.7)は、本肢と同種の事案において、「背任罪の成立要件たる事務は他人の事務であることを要件とする。…抵当権設定者はその壁記に関し、これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。」として、背任罪の成立を認めている。
甲は、抵当権者乙の登記手続に協力する義務を負っていたが、丙に1番抵当権を設定し登記を完了することで、これに違背している。
そして、甲が侵害したのは乙の抵当権であり所有権ではないから、「他人の物」の侵害がなく、甲に横領罪は成立せず、背任罪が成立する。
(H21 司法 第15問 ウ)
甲は、自己が所有し、その旨登記されている土地について、乙を権利者とする抵当権を設定した後、その旨の登記が完了する前に、当該土地に丙を権利者とする抵当権を設定し、その旨の登記をした。乙には抵当権があるにすぎず、当該土地は「他人の物」とはいえないので、甲には乙を被害者とする横領罪は成立しない。
(正答)〇
(解説)
判例(最判昭31.12.7)は、本肢と同種の事案において、「背任罪の成立要件たる事務は他人の事務であることを要件とする。…抵当権設定者はその壁記に関し、これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。」として、背任罪の成立を認めている。
甲は、抵当権者乙の登記手続に協力する義務を負っていたが、丙に先順位抵当権を設定し登記を完了することで、これに違背している。
そして、甲が侵害したのは乙の抵当権であり所有権ではないから、「他人の物」の侵害がなく、甲に横領罪は成立せず、背任罪が成立する。
(H28 司法 第2問 オ)
甲は、自己が所有する不動産について、乙を権利者とする抵当権を設定したが、その抵当権設定登記が完了する前に、同不動産について、丙を権利者とする抵当権を設定し、その抵当権設定登記を完了した。甲に横領罪が成立する。
(正答)✕
(解説)
判例(最判昭31.12.7)は、本肢と同種の事案において、「背任罪の成立要件たる事務は他人の事務であることを要件とする。…抵当権設定者はその壁記に関し、これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。」として、背任罪の成立を認めている。
甲は、抵当権者乙の登記手続に協力する義務を負っていたが、丙に先順位抵当権を設定し登記を完了することで、これに違背している。
そして、甲が侵害したのは乙の抵当権であり所有権ではないから、「他人の物」の侵害がなく、甲に横領罪は成立せず、背任罪が成立する。
(R4 予備 第4問 オ)
甲は、債権者乙との間で甲所有家屋を目的とする根抵当権設定契約を締結し、乙にその登記に必要な登記済証、白紙委任状及び印鑑証明を交付していたが、乙がその登記をしない間に、自らの利益を図る目的で、丙から金を借りて同家屋に根抵当権を設定し、丙が第1順位の根抵当権設定登記を了し、乙はそのために債権の回収が困難になった。この場合、甲に背任罪が成立する。
(R6 司法 第6問 4)
甲は、自己が所有する土地について、Aを権利者とする抵当権を設定したが、その旨の登記が完了する前に、同土地について、Aに無断で、Bを権利者とする抵当権を設定し、その旨の登記をした。この場合、甲は、抵当権設定登記を完了するまでは、抵当権者の登記手続に協力する任務を有するから、甲にはAに対する背任罪が成立する。
背任罪における「自己若しくは第三者の利益を図る目的」 大判大正3年10月16日
概要
判例
判旨:「刑法第247条ハ明ニ本人ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタル事実アルコトヲ要求スルニ拘ハラス自己若クハ第三者ノ利益ヲ図ル目的又ハ本人ニ損害ヲ加フル目的アルヲ以テ足レリトシ特ニ其利益又ハ損害カ財産ニ関スルモノナルコトヲ要ス可キ旨ヲ明定セス或ハ同条ノ罪カ財産ニ対スル罪種ナル点ヨリ立論シテ当然財産上ノ利益又ハ損害ノミヲ指称スト断定スル者ナキヲ保セスト雖モ既ニ同条ニ明定シタル如ク本人ニ加ヘタル損害ハ財産上ノ損害ナルコトヲ要スルヲ以テ裕ニ其財産ニ対スル罪種ナルコトヲ認ムルニ足ル可ク必スシモ其目的トシタル利益又ハ損害モ亦財産ニ関スルコトヲ要ス可キ理由ナキノミナラス之ヲ刑法カ其第236条第246条及第249条ニ於テ明ニ財産上不法ノ利益云云ト使用シタル用語例ニ徴スレハ特ニ財産上ノ利益ト限定セサル場合ニ於テハ之ヲ広義ニ解釈セサルヲ得ス之ヲ要スルニ前示条項ニ所謂自己ノ利益ヲ図ル目的トハ身分上ノ利益其他総テ自己ノ利益ヲ図ル目的ナルヲ以テ足レリトシ必スシモ其財産上ノ利益ヲ図ル目的ナルコトヲ要セス又同条ノ罪ハ所謂目的ヲ特定シタル罪種ニ属シ従テ他人ノ為メ其事務ヲ処理スル者カ其任務ニ背キタル行為ヲ為シ本人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テモ自己若クハ第三者ノ利益ヲ図ル目的又ハ本人ニ損害ヲ加フル目的ニ出テサルトキハ之ヲ罪ト為ル可キ行為ナリトセサルヲ以テ若シ其目的ニシテ本人ノ利益ヲ図ルニ在リトスレハ之ヲ罰セサルモノト云ハサルヲ得ス」
過去問・解説
(H22 司法 第9問 1)
「自己若しくは第三者の利益を図る目的」の「利益」とは、経済的利益のことをいい、社会的地位や信用等の身分上の利益を含まない。
背任罪における「財産上の損害」 最一小決昭和58年5月24日
概要
判例
判旨:「刑法247条にいう『本人ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ』とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、被告人の行為によって、本人の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいうと解すべきであるところ、被告人が本件事実関係のもとで同協会をしてAの債務を保証させたときは、同人の債務がいまだ不履行の段階に至らず、したがって同協会の財産に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていないとしても、経済的見地においては、同協会の財産的価値は減少したものと評価されるから、右は同条にいう『本人ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ』にあたるというべきである。
また、信用保証協会の行う債務保証が、常態においても同協会に前記の意味の損害を生じさせる場合の少なくないことは、同協会の行う業務の性質上免れ難いところであるとしても、同協会の負担しうる実損には資金上限度があり、倒産の蓋然性の高い企業からの保証申込をすべて認容しなければならないものではなく、同協会の役職員は、保証業務を行うにあたり、同協会の実損を必要最小限度に止めるべく、保証申込者の信用調査、資金使途調査等の確実を期するとともに、内規により役職に応じて定められた保証決定をなしうる限度額を遵守すべき任務があるものというべきである。本件においては、信用保証協会の支所長であった被告人が、企業者の債務につき保証業務を行うにあたり、原判示の如く、同企業者の資金使途が倒産を一時糊塗するためのものにすぎないことを知りながら、しかも、支所長に委任された限度額を超えて右企業者に対する債務保証を専決し、あるいは協会長に対する禀議資料に不実の記載をし、保証条件として抵当権を設定させるべき旨の協会長の指示に反して抵当権を設定させないで保証書を交付するなどして、同協会をして保証債務を負担させたというのであるから、被告人はその任務に背いた行為をし同協会に財産上の損害を加えたものというべきである。」
過去問・解説
(H22 司法 第9問 4)
「財産上の損害」は、経済的見地から把握されるべきものであるから、返済の可能性が著しく低い無担保貸付けについては、その債務不履行が確定しなければ損害が発生したとはいえない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決昭58.5.24)は、無担保貸付がなされた事案において、「『本人ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ』とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、被告人の行為によって、本人の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいうと解すべきであるところ、被告人が…同協会をしてAの債務を保証させたときは、同人の債務がいまだ不履行の段階に至らず、したがって同協会の財産に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていないとしても、経済的見地においては、同協会の財産的価値は減少したものと評価されるから、右は同条にいう『本人ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ』にあたる…。」としている。
したがって、返済の可能性が著しく低い無担保貸付けについては、その債務不履行が確定する前であっても、経済的見地においては、同協会の財産的価値は減少したものと評価され、「財産上の損害」に当たりうる。
(R4 予備 第4問 ア)
甲は、信用保証協会の支所長であり、金融機関が中小企業者等に対して行う融資に関して、信用保証をなす業務を行っていたところ、乙の利益を図る目的で、乙に返済能力がないことを知りながら、乙が金融機関から融資を受けるに際し、確実かつ十分な担保の徴求をしないまま、同協会にその保証債務を負担させた。この場合、乙の金融機関に対する債務がいまだ不履行の状態に至らず、上記協会に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていなくても、甲に背任罪が成立する。
(正答)〇
(解説)
判例(最決昭58.5.24)は、本肢と同種の事案において、「『本人ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ』とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、被告人の行為によって、本人の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいうと解すべきであるところ、被告人が…同協会をしてAの債務を保証させたときは、同人の債務がいまだ不履行の段階に至らず、したがって同協会の財産に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていないとしても、経済的見地においては、同協会の財産的価値は減少したものと評価されるから、右は同条にいう『本人ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキ』にあたる…。」としている。
甲は、乙に返済能力がないことを知りながら、信用保証協会にその保証債務を負担させているから、経済的見地においては、同協会の財産的価値は減少し「財産上の損害」が認められる。
したがって、協会に代位弁済による現実の損失がいまだ生じていなくても、甲に背任罪が成立する。
背任罪における「本人に損害を加える目的」 最二小決昭和63年11月21日
概要
判例
判旨:「以下、所論にかんがみ、被告人乙の関係において、特別背任罪(昭和56年法律第74号による改正前の商法468条1項)におけるいわゆる図利加害目的につき、職権をもって検討する。
…株式会社B銀行の銀座支店長であった被告人乙は、被告人甲の経営するA株式会社が同支店に開設していた当座預金口座に決済資金が不足した場合には、右不足分を同銀行において立替払いをするいわゆる過振りの便宜を図っていたが、Aの資金状態が改善される見通しのないことが明らかとなった後も、その任務に違背し、被告人甲及びAを利し同銀行を害することを熟知しながら、あえて回収不能のおそれのある過振りを長期間連続的に行い、同銀行に財産上の損害を加えたものであり、しかも、被告人乙が右任務違背行為に出たのは、同銀行の利益を図るためではなく、従前安易に行っていた過振りの実態が本店に発覚して自己の面目信用が失墜するのを防止するためであったというのである。
ところで、特別背任罪における図利加害目的を肯定するためには、図利加害の点につき、必ずしも所論がいう意欲ないし積極的認容までは要しないものと解するのが相当であり、右事実関係のもとにおいては、被告人甲及びAを利し同銀行を害する図利加害目的の存在を認めることができるものというべきであるから、これと同旨に解される原判断は、正当である。」
背任罪の成立事例 東京地判昭和60年3月6日
概要
判例
判旨:「被告人甲…は…フロッピーシートを管理し、これを使用して同社の顧客であるA新聞販売店経営者方に設置されるオフィスコンピューターに右オブジェクトプログラムを入力しその使用方法につき技術指導するなどの業務を担当していたものであり,右オブジェクトプログラムの入力使用等に当たっては、同社が業務として同社の顧客方に設置するオフィスコンピューターに対してのみ、右フロッピーシートを使用するなど、同社のため忠実にその業務を遂行すべき任務を有していたものであり、被告人乙及び丙は、同社と競合してこれと同様の営業を行うことを企図していたものであるが、被告人両名及び丙は、共謀の上、被告人甲の前記任務に背き、自己らの利益を図る目的で、昭和59年1月26日ころ、東京都(番地略)所在の丙方において、右丙及び被告人乙が同社と無関係に読売新聞販売店であるBに賃借(リース)させ、同人方に設置予定であったオフィスコンピューターエリア三D型1台に、被告人甲において、前記フロッピーシート5枚分の前記オブジェクトプログラムを入力し、もって株式会社Cに対し、右オブジェクトプログラム入力代金相当額…の財産上の損害を加えたものである。」
過去問・解説
(H18 司法 第5問 ウ)
乙株式会社では、開発したコンピュータプログラムは乙会社の顧客にだけ使用させるとの内規があったにもかかわらず、そのプログラムを自己のCD-ROMで管理していた乙会社営業課長甲は、内規に違反し、乙会社の顧客ではない知人Aの依頼に応じ、乙会社に無断で、そのCD-ROMを社外に持ち出して、プログラムをA方のコンピュータに入力した。甲に横領罪が成立する。
(正答)✕
(解説)
裁判例(東京地判昭60.3.6)は、本肢と同種の事案において、「被告人両名及び丙は、共謀の上、被告人甲の前記任務に背き、自己らの利益を図る目的で、…右丙及び被告人乙が同社と無関係に読売新聞販売店であるBに賃借(リース)させ、同人方に設置予定であったオフィスコンピューターエリア三D型1台に、被告人甲において、前記フロッピーシート5枚分の前記オブジェクトプログラムを入力し、もって株式会社Cに対し、右オブジェクトプログラム入力代金相当額…の財産上の損害を加えたものである。」として、背任罪の成立を肯定している。
甲は、Aの利益を図るために、任務に背いて内規に違反して入力し、乙社に入力代金相当額の損害を与えている。
したがって、甲には、横領罪ではなく背任罪が成立する。
背任罪における「自己若しくは第三者の利益を図る目的」 最一小決平成10年11月25日
概要
判例
判旨:「被告人及びHらは、本件融資が、Bに対し、遊休資産化していた土地を売却してその代金を直ちに入手できるようにするなどの利益を与えるとともに、C及びDに対し、大幅な担保不足であるのに多額の融資を受けられるという利益を与えることになることを認識しつつ、あえて右融資を行うこととしたことが明らかである。そして、被告人及びHらには、本件融資に際し、Bが募集していたレジャークラブ会員権の預り保証金の償還資金を同社に確保させることによりひいては、Bと密接な関係にあるA銀行の利益を図るという動機があったにしても、右資金の確保のためにA銀行にとって極めて問題が大きい本件融資を行わなければならないという必要性、緊急性は認められないこと等にも照らすと、…それは融資の決定的な動機ではなく、本件融資は、主として右のようにB、C及びDの利益を図る目的をもって行われたということができる。そうすると、被告人及びHらには、本件融資につき特別背任罪におけるいわゆる図利目的があったというに妨げなく、被告人につきHらとの共謀による同罪の成立が認められるというべきであるから、これと同旨の原判断は正当である。」
過去問・解説
(H22 司法 第9問 2)
「自己若しくは第三者の利益を図る目的」があるというためには、主として自己又は第三者の利益を図る目的があれば足りるが、これと本人の利益を図る目的とが併存している場合は含まない。
背任罪と共同正犯 最一小決平成20年5月19日
概要
判例
判旨:「本件融資については…被告人らによる連帯保証があったものの、これらの連帯保証人に本件融資金を返済する能力はなく、また、C、更にはEにも、本件ゴルフ場以外には本件融資金の返済に充てられるべき資産はなかったところ、…本件融資は担保価値の乏しい不動産を担保に徴求するなどしただけのものであった。本件当時のEの経営状態は…実質的に破たん状態であったところ、本件ゴルフ場の会員権の販売状況、経営状態も、…劣悪な状況にあり、会員権の販売や営業収入の増加により本件融資金の返済が可能であったとは到底いえない。本件融資は、借り主であるC、更にはEが貸付金の返済能力を有さず、その回収が著しく困難であったものである。
そうすると、B銀行における資金の貸付け並びに債権の保全及び回収等の業務を担当していたDらは、同銀行の資産内容を悪化させることのないよう、貸付けに当たっては、回収の見込みを十分に吟味し、回収が危ぶまれる貸付けを厳に差し控え、かつ、十分な担保を徴求するなどして債権の保全及び回収を確実にするとの任務を有していたところ、本件融資の実行は、同任務に違背するものであった。
…被告人は、本件融資について、その返済が著しく困難であり、本件ゴルフ場の担保価値が乏しく、本件融資の焦げ付きが必至のものであることを認識しており、本件融資の実行がDらの任務に違背するものであること、その実行がB銀行に財産上の損害を加えるものであることを十分に認識していた。
そして、被告人の経営するE等はB銀行との間で長年にわたって不正常な取引関係を続けてきたものであるところ、本件融資の実行はEの経営破たんを当面回避させるものであり、それはDらが経営責任を追及される事態の発生を回避させるというDらの自己保身につながる状況にあったもので、被告人はDらが自己の利益を図る目的も有していたことを認識していた。
以上の事実関係のとおり、被告人は、特別背任罪の行為主体の身分を有していないが、上記認識の下、単に本件融資の申込みをしたにとどまらず、本件融資の前提となる再生スキームをDらに提案し、G社との債権譲渡の交渉を進めさせ、不動産鑑定士にいわば指し値で本件ゴルフ場の担保価値を大幅に水増しする不動産鑑定評価書を作らせ、本件ゴルフ場の譲渡先となるCを新たに設立した上、Dらと融資の条件について協議するなど、本件融資の実現に積極的に加担したものである。このような事実からすれば、被告人はDらの特別背任行為について共同加功したものと評価することができるのであって、被告人に特別背任罪の共同正犯の成立を認めた原判断は相当である。」
過去問・解説
(R4 予備 第4問 ウ)
甲は、乙が自身の有していた丙に対する債権を丁に譲渡した後、丁が対抗要件を具備する前に、同債権が丁に譲渡済みであることを確実に知りながら、同債権を転売して利益を得る目的で、乙に強く働き掛けて、乙から同債権を譲り受け、その対抗要件も具備した。この場合、甲と乙はいわゆる必要的共犯の関係に立つため、甲に背任罪の共同正犯が成立することはない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平20.5.19)は、特別背任の事案において、「被告人は、特別背任罪の行為主体の身分を有していないが、…単に本件融資の申込みをしたにとどまらず、本件融資の前提となる再生スキームを…提案…するなど、本件融資の実現に積極的に加担したものである。このような事実からすれば、被告人は…特別背任行為について共同加功したものと評価することができる…。」として、単に関与したにとどまらない積極的な加担により、背任罪の実現に寄与した場合には共同正犯となるとしている。
甲は、債権が譲渡済みであることを確実に知りながら、同債権を転売して利益を得る目的で、乙に強く働き掛けているから単なる関与を超え、背任罪の実現に積極的に加担したといえる。
したがって、甲に背任罪の共同正犯が成立しうる。
横領罪と背任罪 大判明治44年10月13日
概要
判例
要旨:質権者カ質物トシテ受取リ置キタル物件ヲ質権者ノ委託ヲ受ケ保管中質物所有者ノ請ヲ容レ擅ニ之ヲ交付シタル所為ハ質権ニ侵害ヲ加ヘタルモノナルヲ以テ刑法第二百四十七条ノ犯罪ヲ構成スルモノトス
(※原文を確認できないため、要旨のみを掲載)
過去問・解説
(H18 司法 第5問 イ)
甲は、乙から、乙がAに金員を貸し付けて質物として交付を受けたA所有の高級腕時計の鑑定を頼まれ、乙のためにその時計を保管していたが、Aから返還を求められたことに応じ、乙に無断で、その時計をAに交付した。甲に背任罪が成立する。
(H22 司法 第11問 ア)
甲は、質権者乙の委託を受けて質物である高級腕時計を保管していたが、乙に無断で、これを、質権の被担保債権の債務者で同腕時計の所有者でもある丙に返した。甲に背任罪が成立する。
(R4 予備 第4問 イ)
甲は、乙から頼まれ、乙が丙に対する貸金債権の質物として提供を受けていた丙所有の絵画を甲の自宅倉庫で保管していたが、乙に嫌がらせをする目的で、同絵画を乙に無断で丙に返還した。この場合、甲に背任罪が成立する。