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刑法 監督過失 最二小判平成5年11月25日 - 解答モード
概要
ホテルの経営者は消防計画を作成させて、従業員らにこれを周知徹底させ、これに基づく消防訓練及び防火用・消防用設備等の点検、維持管理等を行わせるなどして、あらかじめ防火管理体制を確立しておくべき義務を負っている。当該義務を怠らなければ、火災による宿泊客らの死傷の結果を回避することができたということができるから、宿泊客らの死傷の結果について過失がある。
判例
事案:ホテルの火災事故の事案で、ホテルを経営する会社の代表取締役に業務上過失致死傷罪が成立するか問題となった。
判旨:「そこで検討するに、被告人甲は、代表取締役社長として、本件ホテルの経営、管理事務を統括する地位にあり、その実質的権限を有していたのであるから、多数人を収容する本件建物の火災の発生を防止し、火災による被害を軽減するための防火管理上の注意義務を負っていたものであることは明らかであり、本件ホテルを経営する会社においては、消防法8条1項の防火管理者であり、支配人兼総務部長の職にあった乙に同条項所定の防火管理業務を行わせることとしていたから、同人の権限に属さない措置については被告人甲自らこれを行うとともに、右防火管理業務については 乙において適切にこれを遂行するよう同人を指揮監督すべき立場にあったというべきである。そして、昼夜を問わず不特定多数の人に宿泊等の利便を提供するホテルにおいては火災発生の危険を常にはらんでいる上、被告人甲は、昭和54年5月代表取締役社長に就任した当時から本件建物の9、10階等にはスプリンクラー設備も代替防火区画も設置されていないことを認識しており、また、本件火災の相当以前から、既存の防火区画が不完全である上、防火管理者である乙が行うべき消防計画の作成、これに基づく消防訓練、防火用・消防用設備等の点検、維持管理その他の防火防災対策も不備であることを認識していたのであるから、自ら又は乙を指揮してこれらの防火管理体制の不備を解消しない限り、いったん火災が起これば、発見の遅れや従業員らによる初期消火の失敗等により本格的な火災に発展し、従業員らにおいて適切な通報や避難誘導を行うことができないまま、建物の構造、避難経路等に不案内の宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることを容易に予見できたことが明らかである。したがって、被告人甲は、本件ホテル内から出火した場合、早期にこれを消火し、又は火災の拡大を防止するとともに宿泊客らに対する適切な通報、避難誘導等を行うことにより、宿泊客らの死傷の結果を回避するため、消防法令上の基準に従って本件建物の9階及び10階にスプリンクラー設備又は代替防火区画を設置するとともに、防火管理者である乙を指揮監督して、消防計画を作成させて、従業員らにこれを周知徹底させ、これに基づく消防訓練及び防火用・消防用設備等の点検、維持管理等を行わせるなどして、あらかじめ防火管理体制を確立しておくべき義務を負っていたというべきである。そして、被告人甲がこれらの措置を採ることを困難にさせる事情はなかったのであるから、被告人甲において右義務を怠らなければ、これらの措置があいまって、本件火災による宿泊客らの死傷の結果を回避することができたということができる。
以上によれば、右義務を怠りこれらの措置を講じなかった被告人甲に、本件火災による宿泊客らの死傷の結果について過失があることは明らかであり、被告人甲に対し業務上過失致死傷罪の成立を認めた原判断は、正当である。」
判旨:「そこで検討するに、被告人甲は、代表取締役社長として、本件ホテルの経営、管理事務を統括する地位にあり、その実質的権限を有していたのであるから、多数人を収容する本件建物の火災の発生を防止し、火災による被害を軽減するための防火管理上の注意義務を負っていたものであることは明らかであり、本件ホテルを経営する会社においては、消防法8条1項の防火管理者であり、支配人兼総務部長の職にあった乙に同条項所定の防火管理業務を行わせることとしていたから、同人の権限に属さない措置については被告人甲自らこれを行うとともに、右防火管理業務については 乙において適切にこれを遂行するよう同人を指揮監督すべき立場にあったというべきである。そして、昼夜を問わず不特定多数の人に宿泊等の利便を提供するホテルにおいては火災発生の危険を常にはらんでいる上、被告人甲は、昭和54年5月代表取締役社長に就任した当時から本件建物の9、10階等にはスプリンクラー設備も代替防火区画も設置されていないことを認識しており、また、本件火災の相当以前から、既存の防火区画が不完全である上、防火管理者である乙が行うべき消防計画の作成、これに基づく消防訓練、防火用・消防用設備等の点検、維持管理その他の防火防災対策も不備であることを認識していたのであるから、自ら又は乙を指揮してこれらの防火管理体制の不備を解消しない限り、いったん火災が起これば、発見の遅れや従業員らによる初期消火の失敗等により本格的な火災に発展し、従業員らにおいて適切な通報や避難誘導を行うことができないまま、建物の構造、避難経路等に不案内の宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることを容易に予見できたことが明らかである。したがって、被告人甲は、本件ホテル内から出火した場合、早期にこれを消火し、又は火災の拡大を防止するとともに宿泊客らに対する適切な通報、避難誘導等を行うことにより、宿泊客らの死傷の結果を回避するため、消防法令上の基準に従って本件建物の9階及び10階にスプリンクラー設備又は代替防火区画を設置するとともに、防火管理者である乙を指揮監督して、消防計画を作成させて、従業員らにこれを周知徹底させ、これに基づく消防訓練及び防火用・消防用設備等の点検、維持管理等を行わせるなどして、あらかじめ防火管理体制を確立しておくべき義務を負っていたというべきである。そして、被告人甲がこれらの措置を採ることを困難にさせる事情はなかったのであるから、被告人甲において右義務を怠らなければ、これらの措置があいまって、本件火災による宿泊客らの死傷の結果を回避することができたということができる。
以上によれば、右義務を怠りこれらの措置を講じなかった被告人甲に、本件火災による宿泊客らの死傷の結果について過失があることは明らかであり、被告人甲に対し業務上過失致死傷罪の成立を認めた原判断は、正当である。」
過去問・解説
全体の正答率 : 100%
(R3 共通 第1問 5)
ホテルの火災により死傷者が出た場合、火災発生時に現場にいなかったホテル経営者には業務上過失致死傷罪が成立することはない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平5.11.25)は、ホテル火災の事案において、「甲は、…防火管理者である乙を指揮監督して、消防計画を作成させて、従業員らにこれを周知徹底させ、これに基づく消防訓練及び防火用・消防用設備等の点検、維持管理等を行わせるなどして、あらかじめ防火管理体制を確立しておくべき義務を負っていたというべきである。そして、被告人甲がこれらの措置を採ることを困難にさせる事情はなかったのであるから、被告人甲において右義務を怠らなければ、これらの措置があいまって、本件火災による宿泊客らの死傷の結果を回避することができたということができる。」として、防火管理体制を確立しておくべき義務を怠った経営者に、火災発生時に現場にいなかった場合でも過失責任を認めている。
したがって、火災発生時に現場にいなかったホテル経営者にも、業務上過失致死傷罪が成立しうる。