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刑法 殺人罪における実行の着手・早すぎた結果発生 最一小決平成16年3月22日 - 解答モード
概要
判例
判旨:「実行犯3名の殺害計画は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上、その失神状態を利用して、Vを港まで運び自動車ごと海中に転落させてでき死させるというものであって、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。」
過去問・解説
(H24 司法 第3問 2)
【事例】
甲は、自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上、約2キロメートル離れた港までVを運び、自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下、Vにクロロホルムを吸引させた。甲は、Vが動かなくなったので、計画どおりVが失神したものと考え、港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果、甲の計画とは異なり、Vは溺死ではなく、海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。
【判旨】
甲の殺害計画は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。)、その失神状態を利用してVを港まで運び、自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。)、溺死させるというものであって、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
【記述】
この判旨は、甲がVにクロロホルムを吸引させた場所と殺害計画を実行しようとしていた港との距離が約2キロメートルの距離にあったということを、実行の着手時期を決する上で考慮している。
(H24 司法 第3問 3)
【事例】
甲は、自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上、約2キロメートル離れた港までVを運び、自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下、Vにクロロホルムを吸引させた。甲は、Vが動かなくなったので、計画どおりVが失神したものと考え、港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果、甲の計画とは異なり、Vは溺死ではなく、海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。
【判旨】
甲の殺害計画は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。)、その失神状態を利用してVを港まで運び、自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。)、溺死させるというものであって、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
【記述】
この判旨が第1行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手を認めたのは、第1行為自体によってVの死の結果が生じることを甲が認識・認容していたことを前提としている。
(H24 司法 第3問 4)
【事例】
甲は、自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上、約2キロメートル離れた港までVを運び、自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下、Vにクロロホルムを吸引させた。甲は、Vが動かなくなったので、計画どおりVが失神したものと考え、港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果、甲の計画とは異なり、Vは溺死ではなく、海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。
【判旨】
甲の殺害計画は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。)、その失神状態を利用してVを港まで運び、自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。)、溺死させるというものであって、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
【記述】
この判旨の立場に立てば、甲が第1行為によってVが死亡していることに気付き、自動車ごとVを海中に転落させる行為に及ばなかった場合でも、甲に殺人既遂罪が成立する。
(H24 司法 第3問 5)
【事例】
甲は、自動車内でVにクロロホルムを吸引させて失神させた上、約2キロメートル離れた港までVを運び、自動車ごと海中に転落させて溺死させようという計画の下、Vにクロロホルムを吸引させた。甲は、Vが動かなくなったので、計画どおりVが失神したものと考え、港に運んで自動車ごと海中に転落させた。Vの遺体の司法解剖の結果、甲の計画とは異なり、Vは溺死ではなく、海中への転落前にクロロホルムの吸引により死亡していたことが判明した。
【判旨】
甲の殺害計画は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(以下「第1行為」という。)、その失神状態を利用してVを港まで運び、自動車ごと海中に転落させ(以下「第2行為」という。)、溺死させるというものであって、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。
【記述】
この判旨の立場に立てば、第1行為を行ってもそれ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在していたような場合には、甲に殺人未遂罪と重過失致死罪が成立することになる。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平16.3.22)は、「第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、甲が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。」としている。
したがって、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情がある場合、第1行為時点で殺人に至る客観的危険性が認められない。
よって、甲は第1行為という不法な有形力の行使によってVを死亡させているから、甲には傷害致死罪が成立することになる。