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刑法 背任罪と共同正犯 最一小決平成20年5月19日 - 解答モード
概要
銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき、当該融資の申込みをしたにとどまらず、融資の前提となるスキームを頭取らに提案してこれに沿った行動を取り、同融資の担保となる物件の担保価値を大幅に水増しした不動産鑑定書を作らせるなどして、同融資の実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者は、上記特別背任行為に共同加功をしたということができる。
判例
事案:融資先会社の実質的経営者である被告人は、銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき、当該融資の申込みをしたにとどまらず、融資の前提となるスキームを頭取らに提案してこれに沿った行動を取り、同融資の担保となる物件の担保価値を大幅に水増しした不動産鑑定書を作らせるなどして、同融資の実現に積極的に加担したという事案において、特別背任罪の共同正犯の成否が問題となった。
判旨:「本件融資については…被告人らによる連帯保証があったものの、これらの連帯保証人に本件融資金を返済する能力はなく、また、C、更にはEにも、本件ゴルフ場以外には本件融資金の返済に充てられるべき資産はなかったところ、…本件融資は担保価値の乏しい不動産を担保に徴求するなどしただけのものであった。本件当時のEの経営状態は…実質的に破たん状態であったところ、本件ゴルフ場の会員権の販売状況、経営状態も、…劣悪な状況にあり、会員権の販売や営業収入の増加により本件融資金の返済が可能であったとは到底いえない。本件融資は、借り主であるC、更にはEが貸付金の返済能力を有さず、その回収が著しく困難であったものである。
そうすると、B銀行における資金の貸付け並びに債権の保全及び回収等の業務を担当していたDらは、同銀行の資産内容を悪化させることのないよう、貸付けに当たっては、回収の見込みを十分に吟味し、回収が危ぶまれる貸付けを厳に差し控え、かつ、十分な担保を徴求するなどして債権の保全及び回収を確実にするとの任務を有していたところ、本件融資の実行は、同任務に違背するものであった。
…被告人は、本件融資について、その返済が著しく困難であり、本件ゴルフ場の担保価値が乏しく、本件融資の焦げ付きが必至のものであることを認識しており、本件融資の実行がDらの任務に違背するものであること、その実行がB銀行に財産上の損害を加えるものであることを十分に認識していた。
そして、被告人の経営するE等はB銀行との間で長年にわたって不正常な取引関係を続けてきたものであるところ、本件融資の実行はEの経営破たんを当面回避させるものであり、それはDらが経営責任を追及される事態の発生を回避させるというDらの自己保身につながる状況にあったもので、被告人はDらが自己の利益を図る目的も有していたことを認識していた。
以上の事実関係のとおり、被告人は、特別背任罪の行為主体の身分を有していないが、上記認識の下、単に本件融資の申込みをしたにとどまらず、本件融資の前提となる再生スキームをDらに提案し、G社との債権譲渡の交渉を進めさせ、不動産鑑定士にいわば指し値で本件ゴルフ場の担保価値を大幅に水増しする不動産鑑定評価書を作らせ、本件ゴルフ場の譲渡先となるCを新たに設立した上、Dらと融資の条件について協議するなど、本件融資の実現に積極的に加担したものである。このような事実からすれば、被告人はDらの特別背任行為について共同加功したものと評価することができるのであって、被告人に特別背任罪の共同正犯の成立を認めた原判断は相当である。」
判旨:「本件融資については…被告人らによる連帯保証があったものの、これらの連帯保証人に本件融資金を返済する能力はなく、また、C、更にはEにも、本件ゴルフ場以外には本件融資金の返済に充てられるべき資産はなかったところ、…本件融資は担保価値の乏しい不動産を担保に徴求するなどしただけのものであった。本件当時のEの経営状態は…実質的に破たん状態であったところ、本件ゴルフ場の会員権の販売状況、経営状態も、…劣悪な状況にあり、会員権の販売や営業収入の増加により本件融資金の返済が可能であったとは到底いえない。本件融資は、借り主であるC、更にはEが貸付金の返済能力を有さず、その回収が著しく困難であったものである。
そうすると、B銀行における資金の貸付け並びに債権の保全及び回収等の業務を担当していたDらは、同銀行の資産内容を悪化させることのないよう、貸付けに当たっては、回収の見込みを十分に吟味し、回収が危ぶまれる貸付けを厳に差し控え、かつ、十分な担保を徴求するなどして債権の保全及び回収を確実にするとの任務を有していたところ、本件融資の実行は、同任務に違背するものであった。
…被告人は、本件融資について、その返済が著しく困難であり、本件ゴルフ場の担保価値が乏しく、本件融資の焦げ付きが必至のものであることを認識しており、本件融資の実行がDらの任務に違背するものであること、その実行がB銀行に財産上の損害を加えるものであることを十分に認識していた。
そして、被告人の経営するE等はB銀行との間で長年にわたって不正常な取引関係を続けてきたものであるところ、本件融資の実行はEの経営破たんを当面回避させるものであり、それはDらが経営責任を追及される事態の発生を回避させるというDらの自己保身につながる状況にあったもので、被告人はDらが自己の利益を図る目的も有していたことを認識していた。
以上の事実関係のとおり、被告人は、特別背任罪の行為主体の身分を有していないが、上記認識の下、単に本件融資の申込みをしたにとどまらず、本件融資の前提となる再生スキームをDらに提案し、G社との債権譲渡の交渉を進めさせ、不動産鑑定士にいわば指し値で本件ゴルフ場の担保価値を大幅に水増しする不動産鑑定評価書を作らせ、本件ゴルフ場の譲渡先となるCを新たに設立した上、Dらと融資の条件について協議するなど、本件融資の実現に積極的に加担したものである。このような事実からすれば、被告人はDらの特別背任行為について共同加功したものと評価することができるのであって、被告人に特別背任罪の共同正犯の成立を認めた原判断は相当である。」
過去問・解説
全体の正答率 : 100%
(R4 予備 第4問 ウ)
甲は、乙が自身の有していた丙に対する債権を丁に譲渡した後、丁が対抗要件を具備する前に、同債権が丁に譲渡済みであることを確実に知りながら、同債権を転売して利益を得る目的で、乙に強く働き掛けて、乙から同債権を譲り受け、その対抗要件も具備した。この場合、甲と乙はいわゆる必要的共犯の関係に立つため、甲に背任罪の共同正犯が成立することはない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平20.5.19)は、特別背任の事案において、「被告人は、特別背任罪の行為主体の身分を有していないが、…単に本件融資の申込みをしたにとどまらず、本件融資の前提となる再生スキームを…提案…するなど、本件融資の実現に積極的に加担したものである。このような事実からすれば、被告人は…特別背任行為について共同加功したものと評価することができる…。」として、単に関与したにとどまらない積極的な加担により、背任罪の実現に寄与した場合には共同正犯となるとしている。
甲は、債権が譲渡済みであることを確実に知りながら、同債権を転売して利益を得る目的で、乙に強く働き掛けているから単なる関与を超え、背任罪の実現に積極的に加担したといえる。
したがって、甲に背任罪の共同正犯が成立しうる。