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刑法 構成要件の重なり合い 最一小判昭和54年3月27日 - 解答モード
概要
②税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法111条1項の無許可輸入罪が成立する。
判例
判旨:「麻薬と覚せい剤とは、ともにその濫用による保健衛生上の危害を防止する必要上、麻薬取締法及び覚せい剤取締法による取締の対象とされているものであるところ、これらの取締は、実定法上は前記2つの取締法によって各別に行われているのであるが、両法は、その取締の目的において同一であり、かつ、取締の方式が極めて近似していて、輸入、輸出、製造、譲渡、譲受、所持等同じ態様の行為を犯罪としているうえ、それらが取締の対象とする麻薬と覚せい剤とは、ともに、その濫用によってこれに対する精神的ないし身体的依存(いわゆる慢性中毒)の状態を形成し、個人及び社会に対し重大な害悪をもたらすおそれのある薬物であって、外観上も類似したものが多いことなどにかんがみると、麻薬と覚せい剤との間には、実質的には同一の法律による規制に服しているとみうるような類似性があるというべきである。本件において、被告人は、営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類である粉末を覚せい剤と誤認して輸入したというのであるから、覚せい剤取締法41条2項、1項1号、13条の覚せい剤輸入罪を犯す意思で、麻薬取締法64条2項、1項、12条1項の麻薬輸入罪にあたる事実を実現したことになるが、両罪は、その目的物が覚せい剤か麻薬かの差異があるだけで、その余の犯罪構成要件要素は同一であり、その法定刑も全く同一であるところ、前記のような麻薬と覚せい剤との類似性にかんがみると、この場合、両罪の構成要件は実質的に全く重なり合っているものとみるのが相当であるから、麻薬を覚せい剤と誤認した錯誤は、生じた結果である麻薬輸入の罪についての故意を阻却するものではないと解すべきである。してみると、被告人の前者の行為については、麻薬取締法64条2項、1項、12条1項の麻薬輸入罪が成立し、これに対する刑も当然に同罪のそれによるものというべきである。次に、被告人の後者の行為についてみるに、関税法は、貨物の輸入に際し一般に通関手続の履行を義務づけているのであるが、右義務を履行しないで貨物を輸入した行為のうち、その貨物が関税定率法21条1項所定の輸入禁制品である場合には関税法109条1項によって、その余の一般輸入貨物である場合には同法111条1項によって処罰することとし、前者の場合には、その貨物が関税法上の輸入禁制品であるところから、特に後者に比し重い刑をもってのぞんでいるものであるところ、密輸入にかかる貨物が覚せい剤か麻薬かによって関税法上その罰則の適用を異にするのは、覚せい剤が輸入制限物件(関税法118条3項)であるのに対し麻薬が輸入禁制品とされているというだけの理由によるものに過ぎないことにかんがみると、覚せい剤を無許可で輸入する罪と輸入禁制品である麻薬を輸入する罪とは、ともに通関手続を履行しないでした類似する貨物の密輸入行為を処罰の対象とする限度において、その犯罪構成要件は重なり合っているものと解するのが相当である。本件において、被告人は、覚せい剤を無許可で輸入する罪を犯す意思であったというのであるから、輸入にかかる貨物が輸入禁制品たる麻薬であるという重い罪となるべき事実の認識がなく、輸入禁制品である麻薬を輸入する罪の故意を欠くものとして同罪の成立は認められないが、両罪の構成要件が重なり合う限度で軽い覚せい剤を無許可で輸入する罪の故意が成立し同罪が成立するものと解すべきである。」
過去問・解説
(H27 司法 第9問 5)
【事例】
Aは、外国へ旅行に行った際、旅行先で知り合ったBから、荷物を預けるので手荷物として日本まで運んでほしいと依頼され、これを了承し、その荷物を日本に持ち込んだが、荷物の中身は覚せい剤であった。
なお、覚せい剤をみだりに日本に持ち込んだ場合には覚せい剤取締法の輸入罪が成立し、麻薬をみだりに日本に持ち込んだ場合には麻薬及び向精神薬取締法の輸入罪が成立するものとする。
【記述】
Aは、Bから預かった荷物の中身は「覚せい剤ではないが、麻薬である。」と思ってこれを日本に持ち込んだ場合、覚せい剤取締法の輸入罪の法定刑と麻薬及び向精神薬取締法の輸入罪の法定刑が同じときには、Aには覚せい剤取締法の輸入罪が成立する。
(正答)〇
(解説)
判例(最判昭54.3.27)は、「麻薬と覚せい剤との類似性にかんがみると、この場合、両罪の構成要件は実質的に全く重なり合っているものとみるのが相当であるから、麻薬を覚せい剤と誤認した錯誤は、生じた結果である麻薬輸入の罪についての故意を阻却するものではないと解すべきである。」として、両罪の構成要件が実質的に同じで、認識していた犯罪事実と発生した犯罪事実の法定刑が同じ場合、発生した犯罪事実について故意を認めている。
Aは、Bから預かった荷物の中身は「覚せい剤ではないが、麻薬である。」と思ってこれを日本に持ち込んでいるが、覚醒剤取締法の輸入罪の法定刑と麻薬及び向精神薬取締法の輸入罪の法定刑が同じで両罪の構成要件は実質的に全く重なり合っているから、発生した犯罪事実である覚醒剤取締法の輸入罪の故意が認められる。
したがって、Aには覚醒剤取締法の輸入罪が成立する。
(R4 司法 第1問 1)
甲は、麻薬であるヘロインの粉末を覚醒剤と誤信して営利目的で輸入した。ヘロインの営利目的輸入罪と覚醒剤の営利目的輸入罪の法定刑は同一であった。この場合、甲には、覚醒剤の営利目的輸入罪が成立する。
(正答)✕
(解説)
判例(最判昭54.3.27)は、「麻薬と覚せい剤との類似性にかんがみると、この場合、両罪の構成要件は実質的に全く重なり合っているものとみるのが相当であるから、麻薬を覚せい剤と誤認した錯誤は、生じた結果である麻薬輸入の罪についての故意を阻却するものではないと解すべきである。」として、両罪の構成要件が実質的に同じで、認識していた犯罪事実と発生した犯罪事実の法定刑が同じ場合、発生した犯罪事実について故意を認めている。
甲は、麻薬であるヘロインの粉末を覚醒剤と誤信して営利目的で輸入しているが、ヘロインの営利目的輸入罪と覚醒剤の営利目的輸入罪の法定刑が同じで両罪の構成要件は実質的に全く重なり合っているから、発生した犯罪事実であるヘロインの営利目的輸入罪の故意が認められる。
したがって、甲にはヘロインの営利目的輸入罪が成立する。