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刑法 中止犯の成否 東京高判昭和62年7月16日

概要
着手未遂の事実にあっては、犯人がそれ以上の実行行為をせずに犯行を中止し、かつ、その中止が犯人の任意に出たと認められる場合には、中止未遂が成立することになる。
判例
事案:牛刀で殺害する意図を有していた被告人が被害者に一撃を加えたが、命乞いされ追撃を止め、被害者に謝罪し病院へ運んだという事案において、中止未遂犯が成立するかが問題となった。

判旨:「被告人は、Vを右牛刀でぶった切り、あるいはめった切りにして殺害する意図を有していたものであって、最初の一撃で殺害の目的が達せられなかった場合には、その目的を完遂するため、更に、二撃、三撃というふうに追撃に及ぶ意図が被告人にあったことが明らかであるから、原判示のように、被告人が同牛刀でVに一撃を加えたものの、その殺害に奏功しなかったという段階では、いまだ殺人の実行行為は終了しておらず、従って、本件はいわゆる着手未遂に該当する事案であるといわねばならない。
 そして、いわゆる着手未遂の事案にあっては、犯人がそれ以上の実行行為をせずに犯行を中止し、かつ、その中止が犯人の任意に出たと認められる場合には、中止未遂が成立することになるので、この観点から、原判決の掲げる証拠に当審における被告人質問の結果なども参酌して、本件を考察すると、原判示のように、被告人は確定的殺意のもとに、Vの左側頭部付近を目掛けて、右牛刀で一撃し、これを左腕で防いだ同人に左前腕切傷の傷害を負わせたが、その直後に、同人から両腰付近に抱きつくように取りすがられて、『勘弁して下さい。私が悪かった。命だけは助けて下さい。』などと何度も哀願されたため、かわいそうとのれんびんの情を催して、同牛刀で更に二撃、三撃というふうに追撃に及んで、殺害の目的を遂げることも決して困難ではなかったのに、そのような行為には出ずに犯行を中止したうえ、自らも本件の所為について同人に謝罪し、受傷した同人に治療を受けさせるため、通り掛かりのタクシーを呼び止めて、同人を病院に運んだことなどの事実が明らかである。
 右によると、たしかに、Vが被告人の一撃を防御したうえ、被告人に取りすがって謝罪し、助命を哀願したことが、被告人が殺人の実行行為を中止した契機にはなっているけれども、一般的にみて、そのような契機があったからといって、被告人のように強固な確定的殺意を有する犯人が、その実行行為を中止するものとは必ずしもいえず、殺害行為を更に継続するのがむしろ通例であるとも考えられる。
 ところが、被告人は前記のように、Vの哀願にれんびんの情を催して、あえて殺人の実行行為を中止したものであり、加えて、被告人が前記のように、自らもVに謝罪して、同人を病院に運び込んだ行為には、本件所為に対する被告人の反省、後悔の念も作用していたことが看取されるのである。
 以上によると、本件殺人が未遂に終ったのは、被告人が任意に、すなわち自己の意思によって、その実行行為をやめたことによるものであるから、右の未遂は、中止未遂に当たるといわねばならない。」
過去問・解説
(H24 司法 第11問 エ)
甲は、殺意をもって、乙の頭部目掛けて包丁で1回切り付けたが、乙は、これを左腕で防いだため、左前腕部切創の傷害を負った。乙の負った傷害は、全治約2週間の左前腕部切創にとどまり、生命に危険のある状態には至らなかった。甲は、更に乙に切り付けようとしたが、乙から「助けてくれ。」と懇願されたため、憐憫の情を催し、そのままその場から立ち去った。中止犯が成立する。

(正答)

(解説)
裁判例(東京高判昭62.7.16)は、本肢と同種の事案において、「いわゆる着手未遂の事案にあっては、犯人がそれ以上の実行行為をせずに犯行を中止し、かつ、その中止が犯人の任意に出たと認められる場合には、中止未遂が成立することになる…。」として、中止犯の成立を認めている。
甲は、追撃しようとしたが乙の命乞いによって憐憫の情を催し、そのままその場から立ち去っているから、犯罪を中止したといえるし、自己の意思による任意性も認められる。
したがって、甲に中止犯が成立する。
総合メモ
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