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刑法 マスターテープの所持と猥せつ図画販売目的所持罪 富山地判平成2年4月13日

概要
ダビングテープのみを販売する意思でマスターテープを所持する行為について猥せつ図画販売目的所持罪の成立が認められる。
判例
事案:ダビングテープのみを販売する意思でマスターテープを所持していた事案において、猥せつ図画販売目的所持罪の成否が問題となった。

判旨:「ビデオカセットテープ自体はビデオカセットデッキにより容易に猥褻な場面を視覚により認識できるものであり、本条にいう猥褻物に該当するものであり、これを不特定多数の者に販売する目的で所持すれば、猥褻文書等販売目的所持罪が成立することはいうまでもない。
 そして、このマザーテープ自体を販売するのではなく、予めあるいは注文を受けた都度これをダヴィングして、ダヴィングテープを販売目的で所持するに至れば、これについて猥褻文書等販売目的所持罪が成立することは問題がない。
 問題は所持にかかるマザーテープ自体を販売する目的がなくても、注文があり次第、これをダヴィングしてダヴィングテープを販売する目的で所持する場合も猥褻文書等販売目的所持罪に該当するか否かであるが、所持にかかる猥褻物と販売する猥褻物とが同一物でなくても、猥褻物を複写して複写物を販売する目的で所持するに至れば『販売の目的』及び『所持』があると認められ、猥褻文書等販売目的所持罪に該当すると解すべきである。なぜなら、本条の立法趣旨は猥褻文書等が一般社会に広く流布されることにより善良な性風俗が害されることを防止しようというにあるところ、今日の情報化社会を迎えるまでは複写物を作成することには困難が伴い、販売しようとする目的物自体を所持するに至らなければ、即ち、所持にかかる猥褻物と販売する猥褻物が同一物でなければ、これを猥褻文書等販売目的所持罪として処罰する必要性も乏しかったものであるが、今日のように猥褻物を複写することが容易になった時代においては、販売する目的物自体を所持する以前であってもこれを複写して販売する目的で猥褻物を所持するに至れば、これ自体は原本としてのみ使用し、販売する意思がなかったとしても、猥褻物が社会一般に流布される危険性は高く、販売する目的物自体を所持する場合とその危険性において違いがないと考えられるし、また、このように解しても右犯罪構成要件の文理に反するとは解されないからである。
 これを本件についてみると、被告人は猥褻なビデオカセットテープを販売するに当たり、当該ビデオカセットテープ自体はマザーテープとして使用し販売する意思がなかったところ、機械を用いて若干の画質の劣化が認められるほか殆ど電磁的に同一のダヴィングテープを容易に作成することができ、注文があり次第、これを作成して販売する目的は持っているのであるから、マザーテープ自体を販売する目的でなかったとしても、既にダヴィングしたダヴィングテープを販売目的で所持する場合と猥褻物が一般社会に流布される危険性において何ら異なるものでなく、被告人の判示事実中の販売目的で本件ビデオカセットテープを所持した所為は猥褻文書等販売目的所持罪に該当すると解される。」
過去問・解説
(H23 司法 第15問 3)
甲は、わいせつな映像が録画されたマスターDVDを所持していたが、甲には、同マスターDVD内に記録されたわいせつな映像を客の注文に応じて他のDVDに複写して販売する意図はあったものの、同マスターDVD自体を販売する意図はなかった。この場合、甲にわいせつ物販売目的所持罪は成立しない。

(正答)

(解説)
裁判例(富山地判平2.4.13)は、「所持にかかる猥褻物と販売する猥褻物とが同一物でなくても、猥褻物を複写して複写物を販売する目的で所持するに至れば『販売の目的』及び『所持』があると認められ、猥褻文書等販売目的所持罪に該当する…。」としている。
甲には、同マスターDVD自体を販売する意図はなかったが、客の注文に応じて他のDVDに複写して販売する意図はあったのであるから、販売の目的と所持が認められる。
したがって、甲にわいせつ物販売目的所持罪が成立する。
総合メモ
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