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刑法 「職権を濫用」の意義 最二小判昭和57年1月28日

概要
公務員職権濫用罪の「職権を濫用」とは、公務員が、その一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることを指称するが、右一般的職務権限は、必ずしも法律上の強制力を伴うものであることを要せず、それが濫用された場合、職権行使の相手方をして事実上義務なきことを行わせ又は行うべき権利を妨害するに足りる権限であれば、これに含まれる。
判例
事案:裁判官であった被告人が、訴外Aの事件を担当していないにもかかわらず、調査・閲覧する必要があると偽り、そう誤信した刑務所所長をして、訴外Aに関する身分帳簿の記載内容について閲覧させた等の事案において、公務員職権濫用罪の「職権を濫用」の意義が問題となった。

判旨:「刑法193条にいう『職権の濫用』とは、公務員が、その一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることを指称するが、右一般的職務権限は、必ずしも法律上の強制力を伴うものであることを要せず、それが濫用された場合、職権行使の相手方をして事実上義務なきことを行わせ又は行うべき権利を妨害するに足りる権限であれば、これに含まれるものと解すべきである。
 ところで、刑務所における行刑は、受刑者の名誉を保護する等の見地から、原則として密行すべきものとされているのであるが、裁判官については、一般の部外者について刑務所長の裁量により参観が許されることがある(監獄法5条)にとどまるのと異なり、刑務所の巡視権が与えられている(同法4条2項)。また、刑務所長が保管責任を負う身分帳簿は、行刑密行の一環として秘密性を有し、部外に対する提出やその内容の回答については厳格な規制がなされているのであるが、司法研究の委嘱を受けた裁判官は、研究題目等によつては身分帳簿の内容を了知することが許される場合があるとされている。このように、裁判官に巡視権が与えられ、かつ、現に担当している具体的事件についての証拠調等でない場合にも、身分帳簿の内容の了知が許されることがあるとされているゆえんは、刑務所は裁判所が言い渡した刑を執行する施設であり、裁判官は、適正妥当な刑事裁判の実現というその職責の遂行上、行刑の実情について十分な理解をもつことがとくに要請されるからにほかならない。
 右の点にかんがみると、裁判官が刑務所長らに対し資料の閲覧、提供等を求めることは、司法研究ないしはその準備としてする場合を含め、量刑その他執務上の一般的参考に資するためのものである以上、裁判官に特有の職責に由来し監獄法上の巡視権に連なる正当な理由に基づく要求というべきであって、法律上の強制力を伴ってはいないにしても、刑務所長らに対し行刑上特段の支障がない限りこれに応ずべき事実上の負担を生ぜしめる効果を有するものであるから、それが濫用された場合相手方をして義務なきことを行わせるに足りるものとして、職権濫用罪における裁判官の一般的職務権限に属すると認めるのが相当である。
 したがって、裁判官が、司法研究その他職務上の参考に資するための調査・研究という正当な目的ではなく、これとかかわりのない目的であるのに、正当な目的による調査行為であるかのように仮装して身分帳簿の閲覧、その写しの交付等を求め、刑務所長らをしてこれに応じさせた場合は、職権を濫用して義務なきことを行わせたことになるといわなければならない。」
過去問・解説
(R1 司法 第10問 3)
公務員職権濫用罪にいう「職権」は、必ずしも法律上の強制力を伴うことまで要しない。

(正答)

(解説)
判例(最判昭57.1.28)は、「『職権の濫用』とは、公務員が、その一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることを指称するが、右一般的職務権限は、必ずしも法律上の強制力を伴うものであることを要せず、それが濫用された場合、職権行使の相手方をして事実上義務なきことを行わせ又は行うべき権利を妨害するに足りる権限であれば、これに含まれる…。」としている。
総合メモ
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