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刑法 放火罪と抽象的事実の錯誤 福岡高判昭和38年12月20日
概要
現住建造物であるにもかかわらず他人所有非現住建造物であると誤信して放火した場合、他人所有非現住建造物放火罪が成立する。
判例
事案:現住建造物であるにもかかわらず他人所有非現住建造物であると誤信して放火した事案において、他人所有非現住建造物放火罪が成立するかが問題となった。
判旨:「本件家屋にはかねて被告人甲およびその妻A、長女B(当時3年3月余)次女C(当時9月)の4名が居住していたのであるが、Bの母Eが偶々本件犯行のあった2時間位前の午後6時頃本件家屋を訪れたところ、AよりBをしばらく、D方につれて行って遊ばしておいてくれる様依頼されたので、Dは約420米位離れた同人方にBをつれて行ったもので、このことは被告人甲も了知していたものであるところ、被告人甲はその後2時間位して午後8時頃原判示のような経緯から本件家屋でその妻Aを刺殺し、二女Cに瀕死の重傷を与えて之が死亡したものと誤認し、被告人甲も自殺しようと決意し、巳に両女は死亡し被告人甲も自殺するのであるから、もはや本件家屋は住家としても必要ないので焼燬しようと考えて本件家屋に放火した事実が認められる。
右事実によると本件放火当時被告人甲はAとCは死亡したものと考え、Bは已にD方に行き本件家屋に居ないことを知って、本件家屋はもはや必要がないものとして火を放ったものであるから、被告人は放火直前本件家屋を住居とすることを抛棄し火を放ったものと認めるのが相当である。
ところでBはその当時3年3月余の幼児であったので、その住居は母A亡きあとは、当然父であった被告人甲の意思に従って定まるものであるから、被告人甲が放火直前本件家屋をその住居とすることを抛棄した以上、Bは本件家屋に住居するものではないというべきであり、したがって、これと同一の見解の下に、本件につき現住建造物放火未遂罪の成立を否定した原判決は正当であり、原判決には所論のような法令の適用の誤はない。」
判旨:「本件家屋にはかねて被告人甲およびその妻A、長女B(当時3年3月余)次女C(当時9月)の4名が居住していたのであるが、Bの母Eが偶々本件犯行のあった2時間位前の午後6時頃本件家屋を訪れたところ、AよりBをしばらく、D方につれて行って遊ばしておいてくれる様依頼されたので、Dは約420米位離れた同人方にBをつれて行ったもので、このことは被告人甲も了知していたものであるところ、被告人甲はその後2時間位して午後8時頃原判示のような経緯から本件家屋でその妻Aを刺殺し、二女Cに瀕死の重傷を与えて之が死亡したものと誤認し、被告人甲も自殺しようと決意し、巳に両女は死亡し被告人甲も自殺するのであるから、もはや本件家屋は住家としても必要ないので焼燬しようと考えて本件家屋に放火した事実が認められる。
右事実によると本件放火当時被告人甲はAとCは死亡したものと考え、Bは已にD方に行き本件家屋に居ないことを知って、本件家屋はもはや必要がないものとして火を放ったものであるから、被告人は放火直前本件家屋を住居とすることを抛棄し火を放ったものと認めるのが相当である。
ところでBはその当時3年3月余の幼児であったので、その住居は母A亡きあとは、当然父であった被告人甲の意思に従って定まるものであるから、被告人甲が放火直前本件家屋をその住居とすることを抛棄した以上、Bは本件家屋に住居するものではないというべきであり、したがって、これと同一の見解の下に、本件につき現住建造物放火未遂罪の成立を否定した原判決は正当であり、原判決には所論のような法令の適用の誤はない。」
過去問・解説
(H23 司法 第9問 2)
次の【事例】における甲の罪責に関する【記述】を判例の立場に従って検討しなさい(ただし、事例において、公共の危険は発生したものとする。)。
【事例】
甲は、乙が所有し単身で居住している木造家屋の玄関前において、同所に駐車中の乙所有の自動二輪車の車体にガソリンをまいた上、新聞紙にライターで点火し、これを同車に投げ付け、同車を炎上させたところ、火が上記家屋に燃え移って全焼した。
【記述】
甲は、火が家屋に燃え移ることを認識・認容していたが、同家屋は居住する者のいない空き家であって同家屋内には誰もいないものと誤信していた場合、他人所有非現住建造物等放火罪が成立する。
次の【事例】における甲の罪責に関する【記述】を判例の立場に従って検討しなさい(ただし、事例において、公共の危険は発生したものとする。)。
【事例】
甲は、乙が所有し単身で居住している木造家屋の玄関前において、同所に駐車中の乙所有の自動二輪車の車体にガソリンをまいた上、新聞紙にライターで点火し、これを同車に投げ付け、同車を炎上させたところ、火が上記家屋に燃え移って全焼した。
【記述】
甲は、火が家屋に燃え移ることを認識・認容していたが、同家屋は居住する者のいない空き家であって同家屋内には誰もいないものと誤信していた場合、他人所有非現住建造物等放火罪が成立する。
(正答)〇
(解説)
裁判例(福岡高判昭38.12.20)は、犯人が現住性及び現在性を認識せずに現住建造物に放火した事案において、「甲が放火直前本件家屋をその住居とすることを抛棄した以上、Bは本件家屋に住居するものではないというべきであり、したがって、これと同一の見解の下に、本件につき現住建造物放火未遂罪の成立を否定した原判決は正当…。」として、他人所有非現住建造物放火罪の成立を認めている。
甲は、乙が所有し単身で居住している家屋を居住する者のいない空き家であって同家屋内には誰もいないものと認識していた。
そのため、主観的には他人所有非現住建造物等放火罪の認識で、客観的には他人所有現住建造物等放火罪の構成要件に該当する行為を行っている。
そして、両罪は、他人所有の建造物に放火するという限度で構成要件及び行為態様が重なり合う。
したがって、甲には、他人所有非現住建造物等放火罪が成立する。
裁判例(福岡高判昭38.12.20)は、犯人が現住性及び現在性を認識せずに現住建造物に放火した事案において、「甲が放火直前本件家屋をその住居とすることを抛棄した以上、Bは本件家屋に住居するものではないというべきであり、したがって、これと同一の見解の下に、本件につき現住建造物放火未遂罪の成立を否定した原判決は正当…。」として、他人所有非現住建造物放火罪の成立を認めている。
甲は、乙が所有し単身で居住している家屋を居住する者のいない空き家であって同家屋内には誰もいないものと認識していた。
そのため、主観的には他人所有非現住建造物等放火罪の認識で、客観的には他人所有現住建造物等放火罪の構成要件に該当する行為を行っている。
そして、両罪は、他人所有の建造物に放火するという限度で構成要件及び行為態様が重なり合う。
したがって、甲には、他人所有非現住建造物等放火罪が成立する。