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国家賠償

郵便貯金目減り訴訟 最一小判昭和57年7月15日

概要
政府においてその経済政策の判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成することができず、又はこれに反する結果を招いたとしても、これについて政府の政治的責任が問われることがあるのは格別、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものではない。
判例
事案:郵便貯金が目減したことは政府が経済政策を誤ったことに起因しているとして、国家賠償請求訴訟が提起された。

判旨:「政府が経済政策を立案施行するに当たっては、物価の安定、完全雇用の維持、国際的収支の均衡及び適度な経済成長の維持の4つがその担当者において対応すべき政策目標をなすところ、内閣及び公正取引委員会は右基準特に物価の安定という政策目標の達成への対応を誤りインフレーシヨンを促進したものであって、右はこれら機関の違法行為にあたり、被上告人はこれによる損害の賠償責任を免れない旨主張するが、右上告人らのいう各目標を調和的に実現するために政府においてその時々における内外の情勢のもとで具体的にいかなる措置をとるべきかは、事の性質上専ら政府の裁量的な政策判断に委ねられている事柄とみるべきものであって、仮に政府においてその判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成することができず、又はこれに反する結果を招いたとしても、これについて政府の政治的責任が問われることがあるのは格別、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものとすることはできない。」
過去問・解説
(H18 司法 第19問 オ)
憲法第17条は、「国家無答責の原則」を否定する趣旨の規定であるが、国民に生じたあらゆる損害を国が賠償することまで定めたものではない。例えば、最高裁判所は、内閣等が物価安定という政策目標達成への対応を誤り原告らの郵便貯金を目減りさせたとしても、政府の政治的責任が問われるのは格別、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題は生じない旨判示した。

(正答)  

(解説)
郵便貯金目減り訴訟判決(最判昭57.7.15)は、「政府が経済政策を立案施行するに当たって…、…仮に…その判断を誤り、ないしはその措置に適切を欠いたため右目標を達成することができず、又はこれに反する結果を招いたとしても、これについて政府の政治的責任が問われることがあるのは格別、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものとすることはできない。」としている。
総合メモ

在宅投票制度廃止事件 最一小判昭和60年11月21日

概要
在宅投票制度を廃止しその後8回の選挙までにこれを復活しなかつた本件立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
判例
事案:公職選挙法の一部を改正する法律(昭和27年法律第307号)の施行前においては、公職選挙法及びその委任を受けた公職選挙法施行令は、疾病、負傷、妊娠若しくは身体の障害のため又は産褥にあるため歩行が著しく困難である選挙人(公職選挙法施行令55条2項各号に掲げる選挙人を除く。以下「在宅選挙人」という。)について、投票所に行かずにその現在する場所において投票用紙に投票の記載をして投票をすることができるという制度(以下「在宅投票制度」という。)を定めていたところ、昭和26年4月の統一地方選挙において在宅投票制度が悪用され、そのことによる選挙無効及び当選無効の争訟が続出したことから、国会は、右の公職選挙法の一部を改正する法律により在宅投票制度を廃止し、その後在宅投票制度を設けるための立法を行わなかつた(以下この廃止行為及び不作為を「本件立法行為」と総称する。)。
 歩行が著しく困難なため投票所に行けなかった選挙人Xは、在宅投票制度の廃止以降、計8回の選挙で投票ができなかったため、国家賠償請求訴訟を提起して、憲法13条、15条1項、同条3項、14条1項、44条、47条、93条違反を主張した。

判旨:「国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがつて、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であつて、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
 そこで、国会議員が立法に関し個別の国民に対する関係においていかなる法的義務を負うかをみるに、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国会は、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ、議員の自由な討論を通してこれらを調整し、究極的には多数決原理により統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものである。そして、国会議員は、多様な国民の意向をくみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのであつて、議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも、国会議員の立法過程における行動で、立法行為の内容にわたる実体的側面に係るものは、これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのを相当とする。さらにいえば、立法行為の規範たるべき憲法についてさえ、その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るのであつて、国会議員は、これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法51条が、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである、との考慮によるのである。このように、国会議員の立法行為は、本質的に政治的なものであつて、その性質上法的規制の対象になじまず、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは、原則的には許されないものといわざるを得ない。ある法律が個人の具体的権利利益を侵害するものであるという場合に、裁判所はその者の訴えに基づき当該法律の合憲性を判断するが、この判断は既に成立している法律の効力に関するものであり、法律の効力についての違憲審査がなされるからといつて、当該法律の立法過程における国会議員の行動、すなわち立法行為が当然に法的評価に親しむものとすることはできないのである。以上のとおりであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであつて、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。
 これを本件についてみるに、…憲法には在宅投票制度の設置を積極的に命ずる明文の規定が存しないばかりでなく、かえつて、その47条は「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しているのであつて、これが投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会の裁量的権限に任せる趣旨であることは、当裁判所の判例とするところである。…そうすると、在宅投票制度を廃止しその後前記8回の選挙までにこれを復活しなかつた本件立法行為につき、これが前示の例外的場合に当たると解すべき余地はなく、結局、本件立法行為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないといわざるを得ない。」
過去問・解説
(H18 司法 第19問 エ)
国会議員は、憲法を尊重し擁護する義務を負っているので、違憲の法律を制定してはならないという行為規範の遵守義務が課されている。したがって、国会において議決された法律が違憲であれば、立法過程における国会議員の立法活動の当否にかかわらず、当該立法行為は、国家賠償法第1条第1項の適用上も違法となるとするのが、最高裁判所の基本的な考え方である。

(正答)  

(解説)
在宅投票制度廃止事件判決(最判昭60.11.21)は、「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」としている。
総合メモ

第二次国会乱闘事件 最三小判平成9年9月9日

概要
①国会議員がその職務を行うにつき故意又は過失により国民に損害を被らせた場合において、当該国会議員個人が損害賠償責任を負うことはない。
②国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
判例
事案:国会議員Yが国会衆議院社会労働委員会の答弁中にAに関する不適切な発言をし、これによりAが翌日死亡した事案において、①国会議員がその職務を行うにつき故意又は過失により国民に損害を被らせた場合において、当該国会議員個人が損害賠償責任を負うかと、②国会議員が国会で行った質疑等において個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があった場合に、国家賠償責任が成立するかが問題となった。

判旨「①「所論は,特定の者を誹謗するにすぎない本件発言は、憲法51条が規定する「演説、討論又は表決」に該当しないのに、原審が上告人の被上告人竹村に対する請求を排斥したのは不当であるというものである。 
 しかしながら、前記の事実関係の下においては、本件発言は、国会議員である被上告人竹村によって、国会議員としての職務を行うにつきされたものであることが明らかである。そうすると、仮に本件発言が被上告人竹村の故意又は過失による違法な行為であるとしても、被上告人国が賠償責任を負うことがあるのは格別、公務員である被上告人竹村個人は、上告人に対してその責任を負わないと解すべきである…。したがって、本件発言が憲法51条に規定する「演説、討論又は表決」に該当するかどうかを論ずるまでもなく、上告人の被上告人竹村に対する本訴請求は理由がない。これと同旨の理由により右請求を排斥すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響しない説示部分をとらえて原判決を論難するものであって、採用することができない。」
 ②「一 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するものである。そして、国会でした国会議員の発言が同項の適用上違法となるかどうかは、その発言が国会議員として個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背してされたかどうかの問題である。
 二 ところで、国会は、国権の最高機関であり、憲法改正の発議・提案、立法、条約締結の承認、内閣総理大臣の指名、弾劾裁判所の設置、財政の監督など、国政の根幹にかかわる広範な権能を有しているのであるが、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国会は、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を、その構成員である国会議員の自由な討論を通して調整し、究極的には多数決原理によって統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものであり、国会がこれらの権能を有効、適切に行使するために、国会議員は、多様な国民の意向をくみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのである。
 そして、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではなく、国会議員の立法行為そのものは、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法行為を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法上の違法の評価は受けないというべきであるが(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁)、この理は、独り立法行為のみならず、条約締結の承認、財政の監督に関する議決など、多数決原理により統一的な国家意思を形成する行為一般に妥当するものである。
 これに対して、国会議員が、立法、条約締結の承認、財政の監督等の審議や国政に関する調査の過程で行う質疑、演説、討論等(以下「質疑等」という。)は、多数決原理により国家意思を形成する行為そのものではなく、国家意思の形成に向けられた行為である。もとより、国家意思の形成の過程には国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益が反映されるべきであるから、右のような質疑等においても、現実社会に生起する広範な問題が取上げられることになり、中には具体的事例に関する、あるいは、具体的事例を交えた質疑等であるがゆえに、質疑等の内容が個別の国民の権利等に直接かかわることも起こり得る。したがって、質疑等の場面においては、国会議員が個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うこともあり得ないではない。
 しかしながら、質疑等は、多数決原理による統一的な国家意思の形成に密接に関連し、これに影響を及ぼすべきものであり、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を反映させるべく、あらゆる面から質疑等を尽くすことも国会議員の職務ないし使命に属するものであるから、質疑等においてどのような問題を取り上げ、どのような形でこれを行うかは、国会議員の政治的判断を含む広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであって、たとえ質疑等によって結果的に個別の国民の権利等が侵害されることになったとしても、直ちに当該国会議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえないと解すべきである。憲法51条は、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言、表決につきその法的責任を免除しているが、このことも、一面では国会議員の職務行為についての広い裁量の必要性を裏付けているということができる。もっとも、国会議員に右のような広範な裁量が認められるのは、その職権の行使を十全ならしめるという要請に基づくものであるから、職務とは無関係に個別の国民の権利を侵害することを目的とするような行為が許されないことはもちろんであり、また、あえて虚偽の事実を摘示して個別の国民の名誉を毀損するような行為は、国会議員の裁量に属する正当な職務行為とはいえないというべきである。
 以上によれば、国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。
 三 これを本件についてみるに、前示の事実関係によれば、本件発言が法律案の審議という国会議員の職務に関係するものであったことは明らかであり、また、被上告人竹村が本件発言をするについて同被上告人に違法又は不当な目的があったとは認められず、本件発言の内容が虚偽であるとも認められないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。」
過去問・解説
(H18 司法 第17問 エ)
最高裁判所は、議員が院内での質疑等によって個人の名誉を低下させる発言をしたとしても、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合に限り、国家賠償法第1条第1項にいう違法な行為があったとして国の損害賠償責任が認められると判示した。

(正答)  

(解説)
第二次国会乱闘事件判決(最判平9.9.9)は、「国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である」としている。

(R3 司法 第14問 ア)
国会議員は、議院で行った演説、討論又は表決に加えて、国会における意見の表明とみられる行為や、職務行為に付随する行為に関しては、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないから、国会議員の上記の行為そのものが国家賠償法上の違法の評価を受けることはない。

(正答)  

(解説)
第二次国会乱闘事件判決(最判平9.9.9)は、「国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である」としている。

(R3 司法 第14問 イ)
国会議員が、立法、条約締結の承認、財政の監督等の審議や国政に関する調査の過程で行う質疑等は、多数決原理により国家意思を形成する行為そのものではなく、国家意思の形成に向けられた行為であり、質疑等の内容が個別の国民の権利等に直接関わることも起こり得るので、質疑等において個人の権利を侵害した国会議員は、当該個人に対して損害賠償責任を負う。

(正答)  

(解説)
第二次国会乱闘事件判決(最判平9.9.9)は、「前記の事実関係の下においては、本件発言は、国会議員である被上告人竹村によって、国会議員としての職務を行うにつきされたものであることが明らかである。そうすると、仮に本件発言が被上告人竹村の故意又は過失による違法な行為であるとしても、被上告人国が賠償責任を負うことがあるのは格別、公務員である被上告人竹村個人は、上告人に対してその責任を負わないと解すべきである…」として、当該国会議員個人の損害賠償責任を否定している。

(R3 司法 第14問 ウ)
国会議員が、質疑等において、職務と無関係に違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、あえて虚偽の事実を摘示して、個別の国民の名誉を毀損したと認められる特別の事情がある場合には、国家賠償法第1条第1項に基づいて、国に賠償を求めることができることもある。

(正答)  

(解説)
第二次国会乱闘事件判決(最判平9.9.9)は、「国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である」としている。

(R4 司法 第10問 イ)
公務員がその職務を行うに当たり、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合、国は当該公務員に代位して賠償責任を負う。しかし、国会議員には憲法第51条で発言及び表決に対する免責特権が保障されているから、議員が国会で行った質疑等において個人の名誉を毀損する発言を行っても責任を問われることはないので、国が賠償責任を負うこともない。

(正答)  

(解説)
第二次国会乱闘事件判決(最判平9.9.9)は、「国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である」としている。
総合メモ

郵便法違憲判決 最大判平成14年9月11日

概要
①郵便法68条及び73条の規定のうち、書留郵便物について、郵便の業務に従事する者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反する。
②郵便法68条及び73条の規定のうち、特別送達郵便物について、郵便の業務に従事する者の故意又は過失によって損害が生じた場合に、国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反する。
判例
事案:郵便法68条及び73条のうち国の損害賠償責任を制限している部分は憲法17条に違反しないかが問題となった。

判旨:「所論は、要するに、(1)郵便法(以下「法」という。)68条、73条は、憲法17条に違反する、又は(2)法68条、73条のうち、郵便の業務に従事する者(以下「郵便業務従事者」という。)の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合にも国の損害賠償責任を否定している部分は、憲法17条に違反すると主張し、原判決には同条の解釈の誤りがあるというのである。
 1 憲法17条について
 憲法17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と規定し、その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については、法律による具体化を予定している。これは、公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び、公務員の行為の国民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから、国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。そして、公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し、又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは、当該行為の態様、これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度、免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ、当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。
 2 法68条、73条の目的について
(1)法68条は、法又は法に基づく総務省令(平成11年法律第160号による郵便法の改正前は、郵政省令。以下同じ。)に従って差し出された郵便物に関して、〔1〕書留とした郵便物の全部又は一部を亡失し、又はき損したとき、〔2〕引換金を取立てないで代金引換とした郵便物を交付したとき、〔3〕小包郵便物(書留としたもの及び総務省令で定めるものを除く。)の全部又は一部を亡失し、又はき損したときに限って、一定の金額の範囲内で損害を賠償することとし、法73条は、損害賠償の請求をすることができる者を当該郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人に限定している。
 法68条、73条は、その規定の文言に照らすと、郵便事業を運営する国は、法68条1項各号に列記されている場合に生じた損害を、同条2項に規定する金額の範囲内で、差出人又はその承諾を得た受取人に対して賠償するが、それ以外の場合には、債務不履行責任であると不法行為責任であるとを問わず、一切損害賠償をしないことを規定したものと解することができる。
(2)法は、「郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進すること」を目的として制定されたものであり(法1条)、法68条、73条が規定する免責又は責任制限もこの目的を達成するために設けられたものであると解される。すなわち、郵便官署は、限られた人員と費用の制約の中で、日々大量に取り扱う郵便物を、送達距離の長短、交通手段の地域差にかかわらず、円滑迅速に、しかも、なるべく安い料金で、あまねく、公平に処理することが要請されているのである。仮に、その処理の過程で郵便物に生じ得る事故について、すべて民法や国家賠償法の定める原則に従って損害賠償をしなければならないとすれば、それによる金銭負担が多額となる可能性があるだけでなく、千差万別の事故態様、損害について、損害が生じたと主張する者らに個々に対応し、債務不履行又は不法行為に該当する事実や損害額を確定するために、多くの労力と費用を要することにもなるから、その結果、料金の値上げにつながり、上記目的の達成が害されるおそれがある。
 したがって、上記目的の下に運営される郵便制度が極めて重要な社会基盤の一つであることを考慮すると、法68条、73条が郵便物に関する損害賠償の対象及び範囲に限定を加えた目的は、正当なものであるということができる。
 3 本件における法68条、73条の合憲性について
(1)上告人は、上告人を債権者とする債権差押命令を郵便業務従事者が特別送達郵便物として第三債務者へ送達するに際して、これを郵便局内に設置された第三債務者の私書箱に投かんしたために送達が遅れ、その結果、債権差押えの目的を達することができなかったと主張して、被上告人に対し、損害賠償を求めている。
 特別送達は、民訴法103条から106条まで及び109条に掲げる方法により送達すべき書類を内容とする通常郵便物について実施する郵便物の特殊取扱いであり、郵政事業庁(平成11年法律第160号による郵便法の改正前は、郵政省。以下同じ。)において、当該郵便物を民訴法の上記規定に従って送達し、その事実を証明するものである(法57条1項、66条)。そして、特別送達の取扱いは、書留とする郵便物についてするものとされている(法57条2項)。したがって、本件の郵便物については、まず書留郵便物として法68条、73条が適用されることとなるが、上記各条によれば、書留郵便物については、その亡失又はき損につき、差出人又はその承諾を得た受取人が法68条2項に規定する限度での賠償を請求し得るにすぎず、上告人が主張する前記事実関係は、上記各条により国が損害賠償責任を負う場合には当たらない。
(2)書留は、郵政事業庁において、当該郵便物の引受けから配達に至るまでの記録をし(法58条1項)、又は一定の郵便物について当該郵便物の引受け及び配達について記録することにより(同条4項)、郵便物が適正な手順に従い確実に配達されるようにした特殊取扱いであり、差出人がこれに対し特別の料金を負担するものである。そして、書留郵便物が適正かつ確実に配達されることに対する信頼は、書留の取扱いを選択した差出人はもとより、書留郵便物の利用に関係を有する者にとっても法的に保護されるべき利益であるということができる。
 ところで、上記のような記録をすることが定められている書留郵便物については、通常の職務規範に従って業務執行がされている限り、書留郵便物の亡失、配達遅延等の事故発生の多くは、防止できるであろう。しかし、書留郵便物も大量であり、限られた人員と費用の制約の中で処理されなければならないものであるから、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づく損害の発生は避けることのできない事柄である。限られた人員と費用の制約の中で日々大量の郵便物をなるべく安い料金で、あまねく、公平に処理しなければならないという郵便事業の特質は、書留郵便物についても異なるものではないから、法1条に定める目的を達成するため、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じたにとどまる場合には、法68条、73条に基づき国の損害賠償責任を免除し、又は制限することは、やむを得ないものであり、憲法17条に違反するものではないということができる。
 しかしながら、上記のような記録をすることが定められている書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づき損害が生ずるようなことは、通常の職務規範に従って業務執行がされている限り、ごく例外的な場合にとどまるはずであって、このような事態は、書留の制度に対する信頼を著しく損なうものといわなければならない。そうすると、このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を免除し、又は制限しなければ法1条に定める目的を達成することができないとは到底考えられず、郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為についてまで免責又は責任制限を認める規定に合理性があるとは認め難い。
 なお、運送事業等の遂行に関連して、一定の政策目的を達成するために、事業者の損害賠償責任を軽減している法令は、商法、国際海上物品運送法、鉄道営業法、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律、油濁損害賠償保障法など相当数存在する。これらの法令は、いずれも、事業者側に故意又は重大な過失ないしこれに準ずる主観的要件が存在する場合には、責任制限の規定が適用されないとしているが、このような法令の定めによって事業の遂行に支障が生じているという事実が指摘されているわけではない。このことからみても、書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、被害者の犠牲において事業者を保護し、その責任を免除し、又は制限しなければ法1条の目的を達成できないとする理由は、見いだし難いといわなければならない。
 以上によれば、法68条、73条の規定のうち、書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず、同条に違反し、無効であるというべきである。
(3)特別送達は、民訴法第1編第5章第3節に定める訴訟法上の送達の実施方法であり(民訴法99条)、国民の権利を実現する手続の進行に不可欠なものであるから、特別送達郵便物については、適正な手順に従い確実に受送達者に送達されることが特に強く要請される。そして、特別送達郵便物は、書留郵便物全体のうちのごく一部にとどまることがうかがわれる上に、書留料金に加えた特別の料金が必要とされている。また、裁判関係の書類についていえば、特別送達郵便物の差出人は送達事務取扱者である裁判所書記官であり(同法98条2項)、その適正かつ確実な送達に直接の利害関係を有する訴訟当事者等は自らかかわることのできる他の送付の手段を全く有していないという特殊性がある。さらに、特別送達の対象となる書類については、裁判所書記官(同法100条)、執行官(同法99条1項)、廷吏(裁判所法63条3項)等が送達を実施することもあるが、その際に過誤が生じ、関係者に損害が生じた場合、それが送達を実施した公務員の軽過失によって生じたものであっても、被害者は、国に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求し得ることになる。
 これら特別送達郵便物の特殊性に照らすと、法68条、73条に規定する免責又は責任制限を設けることの根拠である法1条に定める目的自体は前記のとおり正当であるが、特別送達郵便物については、郵便業務従事者の軽過失による不法行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって、直ちに、その目的の達成が害されるということはできず、上記各条に規定する免責又は責任制限に合理性、必要性があるということは困難であり、そのような免責又は責任制限の規定を設けたことは、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわなければならない。
 そうすると、(2)に説示したところに加え、法68条、73条の規定のうち、特別送達郵便物について、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反し、無効であるというべきである。」
過去問・解説
(H23 共通 第11問 イ)
日本国憲法第17条は、国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利について、「法律の定めるところにより」として、その法律による具体化を予定している。これは公務員のどのような行為によりいかなる要件で賠償責任を負うかを全面的に立法府の裁量判断に委ねる趣旨であるから、このような法律の定めが同条に反することはないと解される。

(正答)  

(解説)
郵便法違憲判決(最大判平14.9.11)は、「憲法17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と規定し、その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については、法律による具体化を予定している。」とする一方で、「これは、…国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。」としている。

(H24 共通 第10問 ア)
憲法第17条は、公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除又は制限する法律が立法権の裁量を逸脱したものである場合には、これを違憲無効とする効力を持つ規定である。

(正答)  

(解説)
郵便法違憲判決(最大判平14.9.11)は、「法68条、73条の規定のうち、書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず、同条に違反し、無効であるというべきである。」としている。

(H24 共通 第10問 イ)
書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、国の損害賠償責任を全面的に免除する立法は違憲無効であるが、法律で国が負担すべき賠償額に一定の制限を付することは許される。

(正答)  

(解説)
郵便法違憲判決(最大判平14.9.11)は、「法68条、73条の規定のうち、書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず、同条に違反し、無効であるというべきである。」と述べ、「国の損害賠償責任…を制限している部分」も違憲無効であるとしている。

(H24 共通 第10問 ウ)
特別送達郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、国の損害賠償責任を免除又は制限する立法は違憲無効であるが、軽過失にとどまる場合には、国の損害賠償責任を免除又は制限することも許される。

(正答)  

(解説)
郵便法違憲判決(最大判平14.9.11)は、「特別送達郵便物については、郵便業務従事者の軽過失による不法行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって、直ちに、その目的の達成が害されるということはできず、上記各条に規定する免責又は責任制限に合理性、必要性があるということは困難であり、そのような免責又は責任制限の規定を設けたことは、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわなければならない。」としている。

(R2 司法 第16問 ウ)
最高裁判所は、郵便法の損害賠償責任免除・制限規定が憲法第17条に違反するかが問われた訴訟(最大判平成14年9月11日)において、当該事案では郵便業務従事者の重過失により損害が生じており、郵便法はそのような場合にまで賠償責任の免除・制限を予定するものではないので、郵便法の上記規定が当該事案に適用される限りにおいて憲法第17条に違反すると判示した。

(正答)  

(解説)
郵便法違憲判決(最大判平14.9.11)は、「法68条、73条の規定のうち、特別送達郵便物について、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条に違反し、無効であるというべきである。」と述べ、法令違憲の判断を下しているのであって、郵便法の上記規定が当該事案に適用される限りにおいて憲法第17条に違反するとは判示していない。

(R4 司法 第10問 ア)
公務員の不法行為について国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利について、憲法第17条は、「法律の定めるところ」による旨を規定している。これは、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断に委ねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与しているわけではない。

(正答)  

(解説)
郵便法違憲判決(最大判平14.9.11)は、「憲法17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と規定し、その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については、法律による具体化を予定している。」とする一方で、「これは、…国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上、公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって、立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。」としている。
総合メモ

在外日本人選挙権事件 最大判平成17年9月14日

概要
①自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
②平成10年改正前のの公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であったXらの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものである。
③平成10年改正後の公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものである。
④内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。
判例
事案:平成10年改正の公職選挙法では、在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める在外選挙制度が創設されたが、その対象となる選挙について、当分の間は、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙に限るとされていたことから、これらの選挙で選挙権を行使することが出来なかった在外国民Xらが国家賠償請求訴訟を提起した。
 訴訟では、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院小選挙区選出議員の選挙については在外選挙制度を認めず、在外国民の選挙権の行使を制限していることが憲法15条1項・3項、43条1項、44条但書に違反するかどうかが問題となった。

判旨:①「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。
 憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。そして、憲法は、同条3項において、公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障すると定め、さらに、44条ただし書において、両議院の議員の選挙人の資格については、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならないと定めている。以上によれば、憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。
 憲法の以上の趣旨にかんがみれば、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また、このことは、国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても、同様である。
 在外国民は、選挙人名簿の登録について国内に居住する国民と同様の被登録資格を有しないために、そのままでは選挙権を行使することができないが、憲法によって選挙権を保障されていることに変わりはなく、国には、選挙の公正の確保に留意しつつ、その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって、選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り、当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきである。」
 ②「 本件改正前の公職選挙法の憲法適合性について 
 本件改正前の公職選挙法の下においては、在外国民は、選挙人名簿に登録されず、その結果、投票をすることができないものとされていた。これは、在外国民が実際に投票をすることを可能にするためには、我が国の在外公館の人的、物的態勢を整えるなどの所要の措置を執る必要があったが、その実現には克服しなければならない障害が少なくなかったためであると考えられる。
 記録によれば、内閣は、昭和59年4月27日、「我が国の国際関係の緊密化に伴い、国外に居住する国民が増加しつつあることにかんがみ、これらの者について選挙権行使の機会を保障する必要がある」として、衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を第101回国会に提出したが、同法律案は、その後第105回国会まで継続審査とされていたものの実質的な審議は行われず、同61年6月2日に衆議院が解散されたことにより廃案となったこと、その後、本件選挙が実施された平成8年10月20日までに、在外国民の選挙権の行使を可能にするための法律改正はされなかったことが明らかである。世界各地に散在する多数の在外国民に選挙権の行使を認めるに当たり、公正な選挙の実施や候補者に関する情報の適正な伝達等に関して解決されるべき問題があったとしても、既に昭和59年の時点で、選挙の執行について責任を負う内閣がその解決が可能であることを前提に上記の法律案を国会に提出していることを考慮すると、同法律案が廃案となった後、国会が、10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し、本件選挙において在外国民が投票をすることを認めなかったことについては、やむを得ない事由があったとは到底いうことができない。そうすると、本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。」
 ③「 本件改正後の公職選挙法の憲法適合性について 
 本件改正は、在外国民に国政選挙で投票をすることを認める在外選挙制度を設けたものの、当分の間、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙についてだけ投票をすることを認め、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については投票をすることを認めないというものである。この点に関しては、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況の下で、候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議員の選挙又は参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めることには検討を要する問題があるという見解もないではなかったことなどを考慮すると、初めて在外選挙制度を設けるに当たり、まず問題の比較的少ない比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが、全く理由のないものであったとまでいうことはできない。しかしながら、本件改正後に在外選挙が繰り返し実施されてきていること、通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとはいえなくなったものというべきである。また、参議院比例代表選出議員の選挙制度を非拘束名簿式に改めることなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)が平成12年11月1日に公布され、同月21日に施行されているが、この改正後は、参議院比例代表選出議員の選挙の投票については、公職選挙法86条の3第1項の参議院名簿登載者の氏名を自書することが原則とされ、既に平成133年及び同16年に、在外国民についてもこの制度に基づく選挙権の行使がされていることなども併せて考えると、遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」
 ④「 国家賠償請求について
  国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は、以上と異なる趣旨をいうものではない。
 在外国民であったXらも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、前記事実関係によれば、昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、Xらは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。そこで、Xらの被った精神的損害の程度について検討すると、本件訴訟において在外国民の選挙権の行使を制限することが違憲であると判断され、それによって、本件選挙において投票をすることができなかったことによってXらが被った精神的損害は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案すると、損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である。」
過去問・解説
(H19 司法 第17問 4)
立法内容が国民に憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白な場合や、国民に憲法上保障された権利行使の機会を確保するには所要の立法措置が必要不可欠で、それが明白なのに、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国家賠償法第1条第1項の規定の適用上、違法の評価を受ける。

(正答)  

(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。」としている。

(H23 共通 第11問 ウ)
最高裁判所は、かつて、例え立法の内容が憲法に違反するものであっても国会議員の立法行為は国家賠償法第1条第1項の適用上当然に違法の評価を受けるものではないとしていた。しかし、最高裁判所は、その後判例を変更し、国会で議決された法律が違憲であれば国家賠償法上も違法の評価を受けることになるという立場を採るに至った。

(正答)  

(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最判昭60.11.21)は、「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」としており、その後の在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)も、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。」としているため、判例は一貫して、国会議員の立法行為は例外的な場合には国家賠償法1条1項上違法の評価を受けるとの立場である。

(H28 共通 第14問 ウ)
判例(最大判平成17年9月14日)は、在外日本国民の選挙権行使を制限する公職選挙法の規定について違憲と判断したものであるが、「仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、それゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない」として、立法不作為を理由とする国家賠償請求は認めなかった。

(正答)  

(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、上告人らは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。」と述べており、国家賠償請求を認めている。

(R4 司法 第10問 ウ)
国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法の問題と立法内容の違憲の問題とは区別されるし、本質的に政治的なものである立法行為の適否を法的に評価するべきではない。したがって、国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白な場合であっても、国会議員の立法行為が国家賠償法上の違法の評価を受けることはない。

(正答)  

(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。」としている。したがって、本肢前段は正しい。
しかし、本判決は、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。」としている。したがって、、本肢後段は誤っている。
総合メモ