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選挙
投票の秘密 最三小判昭和23年6月1日
概要
①選挙権のない者が誰に投票したのかを公表することも、無記名投票制度の精神に反する。
②議員の当選の効力を定める手続において、選挙権のない者が誰に投票したのかを取り調べることも、法律の許さないところである。
②議員の当選の効力を定める手続において、選挙権のない者が誰に投票したのかを取り調べることも、法律の許さないところである。
判例
事案:選挙無効確認訴訟において、選挙権のない者が誰に投票したかを調べることができるかが問題となった。
判旨:「地方自治法第37条は、同法第32条(旧町村制第22条)によって無記名投票制を採用した町村の議会の議員選挙について衆議院議員選挙法第39条を準用して、何人といえども選挙人の投票した被選挙人の氏名を陳述する義務のないことを規定すると共に地方自治法第73条(旧町村制第37条)は衆議院議員選挙法第106条第2項をも準用して官吏又は吏員が選挙人に対してその投票した被選挙人の氏名の表示を求めることを禁止し、これに違反した場合の罰則を定めている。これらの規定の立法の趣旨は、正当な選挙人が他からなんらの掣肘を受けずに自由な意思で投票することができ、したがって選挙が公正に行われることを保障したものであること勿論であるが、これをもって選挙権のない者が投票した場合を除外して規定したものと言うことはできない。けだし、議員の当選の効力を定めるに当つて、何人が何人に対して投票したかを公表することは選挙権の有無にかかわらず選挙投票の全般に亘つてその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反するからである。したがって、これらの規定は選挙人として投票した者が実際に選挙権を有したと否とを区別せずに適用されるものと解さなければならない。
もっとも、法律の他の規定からこれらの規定の適用が排除される趣旨が明かな場合(旧町村制第37条及び地方自治法第73条によって町村の議会の議員選挙に準用される衆議院議員選挙法第百127条は選挙人でない者が投票した場合及び氏名を詐称したりその他の詐偽の方法で投票した場合を犯罪として処罰している。これらの犯罪の捜査又は処罰にはその投票者及び被選挙人を明かにする必要があるので、前記の規定の適用はおのずから排除される趣旨が明瞭である)はこの限りでない。しかし、議員の当選の効力を定める手続についてはかかる規定はないのであるから、選挙権のない者が何人に対して投票したかを証拠調べによって明かにすることは法律の許さないところと言わなければならない。されば論旨は理由がない。」
判旨:「地方自治法第37条は、同法第32条(旧町村制第22条)によって無記名投票制を採用した町村の議会の議員選挙について衆議院議員選挙法第39条を準用して、何人といえども選挙人の投票した被選挙人の氏名を陳述する義務のないことを規定すると共に地方自治法第73条(旧町村制第37条)は衆議院議員選挙法第106条第2項をも準用して官吏又は吏員が選挙人に対してその投票した被選挙人の氏名の表示を求めることを禁止し、これに違反した場合の罰則を定めている。これらの規定の立法の趣旨は、正当な選挙人が他からなんらの掣肘を受けずに自由な意思で投票することができ、したがって選挙が公正に行われることを保障したものであること勿論であるが、これをもって選挙権のない者が投票した場合を除外して規定したものと言うことはできない。けだし、議員の当選の効力を定めるに当つて、何人が何人に対して投票したかを公表することは選挙権の有無にかかわらず選挙投票の全般に亘つてその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反するからである。したがって、これらの規定は選挙人として投票した者が実際に選挙権を有したと否とを区別せずに適用されるものと解さなければならない。
もっとも、法律の他の規定からこれらの規定の適用が排除される趣旨が明かな場合(旧町村制第37条及び地方自治法第73条によって町村の議会の議員選挙に準用される衆議院議員選挙法第百127条は選挙人でない者が投票した場合及び氏名を詐称したりその他の詐偽の方法で投票した場合を犯罪として処罰している。これらの犯罪の捜査又は処罰にはその投票者及び被選挙人を明かにする必要があるので、前記の規定の適用はおのずから排除される趣旨が明瞭である)はこの限りでない。しかし、議員の当選の効力を定める手続についてはかかる規定はないのであるから、選挙権のない者が何人に対して投票したかを証拠調べによって明かにすることは法律の許さないところと言わなければならない。されば論旨は理由がない。」
過去問・解説
(H26 共通 第13問 ウ)
選挙や当選の効力に関する争訟において、誰が誰に対して投票したかを解明し、これを公表することは、選挙投票の全般にわたってその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反する。
選挙や当選の効力に関する争訟において、誰が誰に対して投票したかを解明し、これを公表することは、選挙投票の全般にわたってその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反する。
(正答) 〇
(解説)
判例(最判昭23.6.1)は、地方地自法32条による衆議院議員選挙法39条の準用及び地方地自法73条による衆議院議員選挙法106条2項の準用について言及した上で、「これらの規定の立法の趣旨は、正当な選挙人が他からなんらの掣肘を受けずに自由な意思で投票することができ、したがって選挙が公正に行われることを保障したものであること勿論であるが、これをもって選挙権のない者が投票した場合を除外して規定したものと言うことはできない。けだし、議員の当選の効力を定めるに当たって、何人が何人に対して投票したかを公表することは選挙権の有無にかかわらず選挙投票の全般に亘ってその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反するからである。」としている。
判例(最判昭23.6.1)は、地方地自法32条による衆議院議員選挙法39条の準用及び地方地自法73条による衆議院議員選挙法106条2項の準用について言及した上で、「これらの規定の立法の趣旨は、正当な選挙人が他からなんらの掣肘を受けずに自由な意思で投票することができ、したがって選挙が公正に行われることを保障したものであること勿論であるが、これをもって選挙権のない者が投票した場合を除外して規定したものと言うことはできない。けだし、議員の当選の効力を定めるに当たって、何人が何人に対して投票したかを公表することは選挙権の有無にかかわらず選挙投票の全般に亘ってその秘密を確保しようとする無記名投票制度の精神に反するからである。」としている。
総合メモ
投票の秘密 最一小判昭和25年11月9日
概要
選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならない。
判例
事案:選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても「選挙における投票の秘密」(憲法15条4項)の保障が及ぶかが問題となった。
判旨:「本件のように選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならないことは、既に当裁判所の判例の趣旨とするところであるから、(昭和23年(オ)第8号同年6月1日第三小法廷判決民事判例集2巻7号125頁以下参照)原審が本件無効投票が何人に対してなされたかを確定しなかつたからといつて、違法であるとすることはできない。それ故、所論は採用できない。」
判旨:「本件のように選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならないことは、既に当裁判所の判例の趣旨とするところであるから、(昭和23年(オ)第8号同年6月1日第三小法廷判決民事判例集2巻7号125頁以下参照)原審が本件無効投票が何人に対してなされたかを確定しなかつたからといつて、違法であるとすることはできない。それ故、所論は採用できない。」
過去問・解説
(R4 共通 第14問 ア)
憲法第15条第4項は、「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。」として投票の秘密を明文で保障しているが、選挙の公正が担保されることは、代表民主制の根幹をなすもので極めて重要であるから、選挙権のない者又は代理投票をした者の投票のような無効投票が存在する場合における議員の当選の効力を判断する手続の中で、こうした無効投票の投票先を明らかにするとしても、その限度では投票の秘密を侵害するものではない。
憲法第15条第4項は、「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。」として投票の秘密を明文で保障しているが、選挙の公正が担保されることは、代表民主制の根幹をなすもので極めて重要であるから、選挙権のない者又は代理投票をした者の投票のような無効投票が存在する場合における議員の当選の効力を判断する手続の中で、こうした無効投票の投票先を明らかにするとしても、その限度では投票の秘密を侵害するものではない。
(正答) ✕
(解説)
判例(最判昭25.11.9)は、「選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならない…。」としている。
判例(最判昭25.11.9)は、「選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならない…。」としている。
総合メモ
在外日本人選挙権事件 最大判平成17年9月14日
概要
①自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
②平成10年改正前のの公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であったXらの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものである。
③平成10年改正後の公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものである。
④内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。
②平成10年改正前のの公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であったXらの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものである。
③平成10年改正後の公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものである。
④内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。
判例
事案:平成10年改正の公職選挙法では、在外国民に国政選挙における選挙権の行使を認める在外選挙制度が創設されたが、その対象となる選挙について、当分の間は、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙に限るとされていたことから、これらの選挙で選挙権を行使することが出来なかった在外国民Xらが国家賠償請求訴訟とともに、平成10年改正前の公職選挙法がXらに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴え、平成10年改正後の公職選挙法が…Xらに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴え、Xらが当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えを提起した。
判旨:「第1 事案の概要等
…(略)…
「第2 在外国民の選挙権の行使を制限することの憲法適合性について
1 国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。
憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。そして、憲法は、同条3項において、公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障すると定め、さらに、44条ただし書において、両議院の議員の選挙人の資格については、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならないと定めている。以上によれば、憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。
憲法の以上の趣旨にかんがみれば、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また、このことは、国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても、同様である。
在外国民は、選挙人名簿の登録について国内に居住する国民と同様の被登録資格を有しないために、そのままでは選挙権を行使することができないが、憲法によって選挙権を保障されていることに変わりはなく、国には、選挙の公正の確保に留意しつつ、その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって、選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り、当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきである。」
…(略)…
「第2 在外国民の選挙権の行使を制限することの憲法適合性について
1 国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。
憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。そして、憲法は、同条3項において、公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障すると定め、さらに、44条ただし書において、両議院の議員の選挙人の資格については、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならないと定めている。以上によれば、憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。
憲法の以上の趣旨にかんがみれば、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また、このことは、国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても、同様である。
在外国民は、選挙人名簿の登録について国内に居住する国民と同様の被登録資格を有しないために、そのままでは選挙権を行使することができないが、憲法によって選挙権を保障されていることに変わりはなく、国には、選挙の公正の確保に留意しつつ、その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって、選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り、当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきである。」
2 本件改正前の公職選挙法の憲法適合性について
本件改正前の公職選挙法の下においては、在外国民は、選挙人名簿に登録されず、その結果、投票をすることができないものとされていた。これは、在外国民が実際に投票をすることを可能にするためには、我が国の在外公館の人的、物的態勢を整えるなどの所要の措置を執る必要があったが、その実現には克服しなければならない障害が少なくなかったためであると考えられる。
記録によれば、内閣は、昭和59年4月27日、「我が国の国際関係の緊密化に伴い、国外に居住する国民が増加しつつあることにかんがみ、これらの者について選挙権行使の機会を保障する必要がある」として、衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を第101回国会に提出したが、同法律案は、その後第105回国会まで継続審査とされていたものの実質的な審議は行われず、同61年6月2日に衆議院が解散されたことにより廃案となったこと、その後、本件選挙が実施された平成8年10月20日までに、在外国民の選挙権の行使を可能にするための法律改正はされなかったことが明らかである。世界各地に散在する多数の在外国民に選挙権の行使を認めるに当たり、公正な選挙の実施や候補者に関する情報の適正な伝達等に関して解決されるべき問題があったとしても、既に昭和59年の時点で、選挙の執行について責任を負う内閣がその解決が可能であることを前提に上記の法律案を国会に提出していることを考慮すると、同法律案が廃案となった後、国会が、10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し、本件選挙において在外国民が投票をすることを認めなかったことについては、やむを得ない事由があったとは到底いうことができない。そうすると、本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。
本件改正前の公職選挙法の下においては、在外国民は、選挙人名簿に登録されず、その結果、投票をすることができないものとされていた。これは、在外国民が実際に投票をすることを可能にするためには、我が国の在外公館の人的、物的態勢を整えるなどの所要の措置を執る必要があったが、その実現には克服しなければならない障害が少なくなかったためであると考えられる。
記録によれば、内閣は、昭和59年4月27日、「我が国の国際関係の緊密化に伴い、国外に居住する国民が増加しつつあることにかんがみ、これらの者について選挙権行使の機会を保障する必要がある」として、衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を第101回国会に提出したが、同法律案は、その後第105回国会まで継続審査とされていたものの実質的な審議は行われず、同61年6月2日に衆議院が解散されたことにより廃案となったこと、その後、本件選挙が実施された平成8年10月20日までに、在外国民の選挙権の行使を可能にするための法律改正はされなかったことが明らかである。世界各地に散在する多数の在外国民に選挙権の行使を認めるに当たり、公正な選挙の実施や候補者に関する情報の適正な伝達等に関して解決されるべき問題があったとしても、既に昭和59年の時点で、選挙の執行について責任を負う内閣がその解決が可能であることを前提に上記の法律案を国会に提出していることを考慮すると、同法律案が廃案となった後、国会が、10年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し、本件選挙において在外国民が投票をすることを認めなかったことについては、やむを得ない事由があったとは到底いうことができない。そうすると、本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。
3 本件改正後の公職選挙法の憲法適合性について
本件改正は、在外国民に国政選挙で投票をすることを認める在外選挙制度を設けたものの、当分の間、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙についてだけ投票をすることを認め、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については投票をすることを認めないというものである。この点に関しては、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況の下で、候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議員の選挙又は参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めることには検討を要する問題があるという見解もないではなかったことなどを考慮すると、初めて在外選挙制度を設けるに当たり、まず問題の比較的少ない比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが、全く理由のないものであったとまでいうことはできない。しかしながら、本件改正後に在外選挙が繰り返し実施されてきていること、通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとはいえなくなったものというべきである。また、参議院比例代表選出議員の選挙制度を非拘束名簿式に改めることなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)が平成12年11月1日に公布され、同月21日に施行されているが、この改正後は、参議院比例代表選出議員の選挙の投票については、公職選挙法86条の3第1項の参議院名簿登載者の氏名を自書することが原則とされ、既に平成133年及び同16年に、在外国民についてもこの制度に基づく選挙権の行使がされていることなども併せて考えると、遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」
「第3 確認の訴えについて
1 本件の主位的確認請求に係る訴えのうち、本件改正前の公職選挙法が…Xらに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは、過去の法律関係の確認を求めるものであり、この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから、確認の利益が認められず、不適法である。
2 また、本件の主位的確認請求に係る訴えのうち、本件改正後の公職選挙法が…Xらに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えについては、他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には、確認の利益を欠き不適法であるというべきところ、本件においては、後記3のとおり、予備的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えであるということができるから、上記の主位的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない。
3 本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができるところ、その内容をみると、公職選挙法附則8項につき所要の改正がされないと、在外国民である…Xらが、今後直近に実施されることになる衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができず、選挙権を行使する権利を侵害されることになるので、そのような事態になることを防止するために、Xらが、同項が違憲無効であるとして、当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えであると解することができる。
選挙権は、これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず、侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから、その権利の重要性にかんがみると、具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては、それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきものである。そして、本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上記の内容に照らし、確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお、この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。
そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えについては、引き続き在外国民であるXらが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。
4 そこで、本件の予備的確認請求の当否について検討するに、前記のとおり、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するもので無効であって、…Xらは、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるというべきであるから、本件の予備的確認請求は理由があり、更に弁論をするまでもなく、これを認容すべきものである。
本件改正は、在外国民に国政選挙で投票をすることを認める在外選挙制度を設けたものの、当分の間、衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙についてだけ投票をすることを認め、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については投票をすることを認めないというものである。この点に関しては、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況の下で、候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議員の選挙又は参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めることには検討を要する問題があるという見解もないではなかったことなどを考慮すると、初めて在外選挙制度を設けるに当たり、まず問題の比較的少ない比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが、全く理由のないものであったとまでいうことはできない。しかしながら、本件改正後に在外選挙が繰り返し実施されてきていること、通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとはいえなくなったものというべきである。また、参議院比例代表選出議員の選挙制度を非拘束名簿式に改めることなどを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)が平成12年11月1日に公布され、同月21日に施行されているが、この改正後は、参議院比例代表選出議員の選挙の投票については、公職選挙法86条の3第1項の参議院名簿登載者の氏名を自書することが原則とされ、既に平成133年及び同16年に、在外国民についてもこの制度に基づく選挙権の行使がされていることなども併せて考えると、遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」
「第3 確認の訴えについて
1 本件の主位的確認請求に係る訴えのうち、本件改正前の公職選挙法が…Xらに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは、過去の法律関係の確認を求めるものであり、この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから、確認の利益が認められず、不適法である。
2 また、本件の主位的確認請求に係る訴えのうち、本件改正後の公職選挙法が…Xらに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えについては、他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には、確認の利益を欠き不適法であるというべきところ、本件においては、後記3のとおり、予備的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えであるということができるから、上記の主位的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない。
3 本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができるところ、その内容をみると、公職選挙法附則8項につき所要の改正がされないと、在外国民である…Xらが、今後直近に実施されることになる衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができず、選挙権を行使する権利を侵害されることになるので、そのような事態になることを防止するために、Xらが、同項が違憲無効であるとして、当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えであると解することができる。
選挙権は、これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず、侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから、その権利の重要性にかんがみると、具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては、それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきものである。そして、本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上記の内容に照らし、確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお、この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。
そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えについては、引き続き在外国民であるXらが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。
4 そこで、本件の予備的確認請求の当否について検討するに、前記のとおり、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するもので無効であって、…Xらは、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるというべきであるから、本件の予備的確認請求は理由があり、更に弁論をするまでもなく、これを認容すべきものである。
「第4 国家賠償請求について
国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は、以上と異なる趣旨をいうものではない。
在外国民であったXらも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、前記事実関係によれば、昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、Xらは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。そこで、Xらの被った精神的損害の程度について検討すると、本件訴訟において在外国民の選挙権の行使を制限することが違憲であると判断され、それによって、本件選挙において投票をすることができなかったことによってXらが被った精神的損害は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案すると、損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である。」
国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は、以上と異なる趣旨をいうものではない。
在外国民であったXらも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、前記事実関係によれば、昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、Xらは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。そこで、Xらの被った精神的損害の程度について検討すると、本件訴訟において在外国民の選挙権の行使を制限することが違憲であると判断され、それによって、本件選挙において投票をすることができなかったことによってXらが被った精神的損害は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案すると、損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である。」
過去問・解説
(H19 司法 第17問 5)
在外国民に国政選挙での投票を認めないことは憲法に違反しており、平成10年の公職選挙法改正で在外選挙制度が創設されたが、その対象が衆議院と参議院の比例代表選挙に限られていた点で、従前の違憲状態が継続していた。
在外国民に国政選挙での投票を認めないことは憲法に違反しており、平成10年の公職選挙法改正で在外選挙制度が創設されたが、その対象が衆議院と参議院の比例代表選挙に限られていた点で、従前の違憲状態が継続していた。
(正答) 〇
(解説)
在外日本人選挙事件判決(最大判平17.9.14)は、平成10年改正前の公職選挙法について、「本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。」とするとともに、平成10年改正後の公職選挙法について、「遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」としている。
在外日本人選挙事件判決(最大判平17.9.14)は、平成10年改正前の公職選挙法について、「本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなかったことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。」とするとともに、平成10年改正後の公職選挙法について、「遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」としている。
(H19 司法 第17問 6)
平成10年の公職選挙法改正で在外選挙制度が創設されたが、その対象が衆議院と参議院の比例代表選挙に限られている点で、遅くとも本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点において、憲法に違反する。
平成10年の公職選挙法改正で在外選挙制度が創設されたが、その対象が衆議院と参議院の比例代表選挙に限られている点で、遅くとも本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点において、憲法に違反する。
(正答) 〇
(解説)
在外日本人選挙事件判決(最大判平17.9.14)は、平成10年改正後の公職選挙法について、「遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」としている。
在外日本人選挙事件判決(最大判平17.9.14)は、平成10年改正後の公職選挙法について、「遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」としている。
(H27 司法 第16問 イ)
国民の選挙権を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないが、選挙権の保障には投票をする機会の保障は含まれないため、投票機会の確保のための措置を採るか採らないかについては広汎な立法裁量が認められる。
国民の選挙権を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないが、選挙権の保障には投票をする機会の保障は含まれないため、投票機会の確保のための措置を採るか採らないかについては広汎な立法裁量が認められる。
(正答) ✕
(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。」としており、選挙権の保障には投票機会の平等も含まれると述べている。
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。」としており、選挙権の保障には投票機会の平等も含まれると述べている。
(H28 共通 第14問 ア)
判例(最大判平成17年9月14日)は、国政選挙の選挙権について、「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民の全てに平等に与えられるべきものである」と指摘しているが、同判決の考え方に従ったとしても、自ら選挙の公正を害する行為をした者の選挙権について一定の制限をすることまで違憲となるわけではない。
判例(最大判平成17年9月14日)は、国政選挙の選挙権について、「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民の全てに平等に与えられるべきものである」と指摘しているが、同判決の考え方に従ったとしても、自ら選挙の公正を害する行為をした者の選挙権について一定の制限をすることまで違憲となるわけではない。
(正答) 〇
(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。」とした上で、「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。」としている。
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。」とした上で、「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。」としている。
(H28 共通 第14問 イ)
比例代表選出議員の選挙と異なり、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については、選挙権を行使する者が日本国内の特定地域に現に居住していることを前提としているから、上記判決の考え方に従ったとしても、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における在外日本国民の選挙権の行使を制限することまで違憲となるわけではない。
比例代表選出議員の選挙と異なり、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については、選挙権を行使する者が日本国内の特定地域に現に居住していることを前提としているから、上記判決の考え方に従ったとしても、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における在外日本国民の選挙権の行使を制限することまで違憲となるわけではない。
(正答) ✕
(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」としている。
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「遅くとも、本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」としている。
(H29 共通 第13問 ア)
憲法は、国民主権の原理に基づき、国民に対して、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利の保障は認めているが、投票をする機会の平等までは保障していない。
憲法は、国民主権の原理に基づき、国民に対して、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利の保障は認めているが、投票をする機会の平等までは保障していない。
(正答) ✕
(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。」としており、選挙権の保障には投票機会の平等も含まれると述べている。
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「憲法は、国民主権の原理に基づき、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており、その趣旨を確たるものとするため、国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。」としており、選挙権の保障には投票機会の平等も含まれると述べている。
(H29 共通 第13問 ウ)
憲法は、両議院の議員の選挙において投票をすることを、一定の年齢に達した国民の固有の権利として保障しており、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
憲法は、両議院の議員の選挙において投票をすることを、一定の年齢に達した国民の固有の権利として保障しており、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
(正答) 〇
(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。」とした上で、「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。」としている。
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。」とした上で、「自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。」としている。
(R2 司法 第13問 イ)
判例は、平成10年の改正前の公職選挙法が在外日本国民の選挙権を全く認めていなかったことは憲法第15条第1項、第3項、第43条第1項等に違反すると解し、さらに、同改正後の公職選挙法附則の規定が、当分の間、在外選挙制度の対象を比例代表選出議員の選挙に限定したことについても、同改正当時、比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたのには全く理由がなく、上記憲法各条項に違反すると解している。
判例は、平成10年の改正前の公職選挙法が在外日本国民の選挙権を全く認めていなかったことは憲法第15条第1項、第3項、第43条第1項等に違反すると解し、さらに、同改正後の公職選挙法附則の規定が、当分の間、在外選挙制度の対象を比例代表選出議員の選挙に限定したことについても、同改正当時、比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたのには全く理由がなく、上記憲法各条項に違反すると解している。
(正答) ✕
(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」とする一方で、「この点に関しては、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況の下で、候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議員の選挙又は参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めることには検討を要する問題があるという見解もないではなかったことなどを考慮すると、初めて在外選挙制度を設けるに当たり、まず問題の比較的少ない比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが、全く理由のないものであったとまでいうことはできない。」としている。
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。」とする一方で、「この点に関しては、投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況の下で、候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議員の選挙又は参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めることには検討を要する問題があるという見解もないではなかったことなどを考慮すると、初めて在外選挙制度を設けるに当たり、まず問題の比較的少ない比例代表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが、全く理由のないものであったとまでいうことはできない。」としている。
(R6 司法 第16問 イ)
最高裁判所は、立法不作為により在外国民が選挙権を行使することができない場合に、立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求を認めるほか、次回の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えについても、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法であるとして、これを認めている。
最高裁判所は、立法不作為により在外国民が選挙権を行使することができない場合に、立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求を認めるほか、次回の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えについても、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法であるとして、これを認めている。
(正答) 〇
(解説)
在外日本人選挙権事件判決(最大判平17.9.14)は、「在外国民であったXらも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、前記事実関係によれば、昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの、同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果、Xらは本件選挙において投票をすることができず、これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。」として、立法不作為の違憲を理由とする国家賠償請求を認めている。
また、「本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上記の内容に照らし、確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお、この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えについては、引き続き在外国民であるXらが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。」として、次回の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えについて、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法としている。
また、「本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上記の内容に照らし、確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお、この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えについては、引き続き在外国民であるXらが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。」として、次回の選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求める訴えについて、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法としている。
総合メモ
三井美唄炭鉱労組事件 最大判昭和43年12月4日
概要
①憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有する。
②立候補の自由も、憲法15条1項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。
③労働組合が、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、勧告又は説得をすることは許される。しかし、当該組合員に対し、勧告又は説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分することは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法である。
②立候補の自由も、憲法15条1項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。
③労働組合が、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、勧告又は説得をすることは許される。しかし、当該組合員に対し、勧告又は説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分することは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法である。
判例
事案:A労働組合は、B市市議会議員選挙に際して、組合が支援する統一候補を決定したのに組合員Cが独自に立候補しようとしたため、Cに対して立候補を断念するよう再三にわたって説得を試み、その際、組合の決定に対する統制違反として組合規約により処分されることがある旨をCに示したり、その旨を機関紙に掲載してC宅に配布させたり、さらに、選挙に当選したCに対して1年間の組合員資格停止とする統制処分を行うなど、組合とCとの特殊な利害関係を利用して、選挙に関し、Cを威迫した。これらが選挙の自由妨害罪(公選法225条3号)、刑法60条に該当するとして、組合役員が起訴された。
最高裁は、①労働組合の統制権の法的性質、②立候補の自由の憲法上の保障・重要性、③組合員の立候補の自由との関係における組合の統制権の限界について判断している。
判旨:①「労働者が憲法28条の保障する団結権に基づき労働組合を結成した場合において、その労働組合が正当な団体行動を行なうにあたり、労働組合の統一と一体化を図り、その団結力の強化を期するためには、その組合員たる個々の労働者の行動についても、組合として、合理的な範囲において、これに規制を加えることが許されなければならない(以下、これを組合の統制権とよぶ。)。およそ、組織的団体においては、一般に、その構成員に対し、その目的に即して合理的な範囲内での統制権を有するのが通例であるが、憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、その組合員に対する組合の統制権は、一般の組織的団体のそれと異なり、労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法28条の精神に由来するものということができる。この意味において、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。」
②「選挙は、本来、自由かつ公正に行なわれるべきものであり、このことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請である。この見地から、選挙人は、自由に表明する意思によつてその代表者を選ぶことにより、自ら国家(または地方公共団体等)の意思の形成に参与するのであり、誰を選ぶかも、元来、選挙人の自由であるべきであるが、多数の選挙人の存する選挙においては、これを各選挙人の完全な自由に放任したのでは選挙の目的を達成することが困難であるため、公職選挙法は、自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望する代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。したがつて、もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。さればこそ、公職選挙法に、選挙人に対すると同様、公職の候補者または候補者となろうとする者に対する選挙に関する自由を妨害する行為を処罰することにしているのである。(同法225条1号3号参照)。
③「労働組合は、その目的を達成するために必要な政治活動等を行なうことを妨げられるわけではない。したがつて、本件の地方議会議員の選挙にあたり、いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進することとし、統一候補以外の組合員で立候補しようとする組合員に対し、立候補を思いとどまるように勧告または説得することも、その限度においては、組合の政治活動の一環として、許されるところと考えてよい。また他面において、労働組合が、その団結を維持し、その目的を達成するために、組合員に対し、統制権を有することも、前叙のとおりである。しかし、労働組合が行使し得べき組合員に対する統制権には、当然、一定の限界が存するものといわなければならない。殊に、公職選挙における立候補の自由は、憲法15条1項の趣旨に照らし、基本的人権の一つとして、憲法の保障する重要な権利であるから、これに対する制約は、特に慎重でなければならず、組合の団結を維持するための統制権の行使に基づく制約であつても、その必要性と立候補の自由の重要性とを比較衡量して、その許否を決すべきであり、その際、政治活動に対する組合の統制権のもつ前叙のごとき性格と立候補の自由の重要性とを十分考慮する必要がある。
A労働組合員たるCが組合の統一候補の選にもれたことから、独自に立候補する旨の意思を表示したため、…組合幹部は、Cに対し、組合の方針に従つて右選挙の立候補を断念するように再三説得したが、Cは容易にこれに応ぜず、あえて独自の立場で立候補することを明らかにしたので、ついに説得することを諦め、組合の決定に基づいて本件措置に出たというのである。このような場合には、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、勧告または説得をすることは、組合としても、当然なし得るところである。しかし、当該組合員に対し、勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」
過去問・解説
(H21 司法 第4問 ウ)
立候補の自由について、最高裁判所は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持する上で極めて重要であることを認めつつ、憲法が立候補の自由について明文では規定していないので、立候補の自由は憲法の保障する基本的人権とまではいえないと判示した。
立候補の自由について、最高裁判所は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持する上で極めて重要であることを認めつつ、憲法が立候補の自由について明文では規定していないので、立候補の自由は憲法の保障する基本的人権とまではいえないと判示した。
(正答) ✕
(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。」とした上で、これを理由に、「憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。」と述べている。
(H26 共通 第13問 イ)
いわゆる立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持する上で極めて重要であるとして、憲法第15条第1項によって保障されていると解すべきである。
いわゆる立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持する上で極めて重要であるとして、憲法第15条第1項によって保障されていると解すべきである。
(正答) 〇
(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。」とした上で、これを理由に、「憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。」と述べている。
総合メモ
衆議院議員選挙における重複立候補制 最大判平成11年11月10日
概要
原告は、重複立候補制に係る改正公選法の規定は、重複立候補者が小選挙区選挙で落選しても比例代表選挙で当選することができる点において、憲法前文、43条1項、14条1項、15条3項、44条に違反し、また、重複立候補をすることができる者ないし候補者届出政党の要件を充足する政党等と重複立候補をすることができない者ないし右要件を充足しない政党等とを差別的に取り扱うものであり、選挙人の選挙権の十全な行使を侵害するものであって、憲法15条1項、3項、44条、14条1項、47条、43条1項に違反し、さらに、選挙の時点で候補者名簿の順位が確定しないものであるから直接選挙といえず、憲法43条1項、15条1項、3項に違反するなどと主張したが、いずれの主張も退けられた。
判例
事案:重複立候補制度とは、候補者届出政党と名簿届出政党の要件の双方を充たした組織の候補者につ いて、小選挙区選挙と比例代表選挙への重複立候補を認める制度であり、1994年の公選法改正により衆議院議員総選挙に導入された。
比例代表制とは、多数派・少数派の各派に対して得票数に比例した議員の選出を保障しようとする選挙制度であり、これと小選挙区制を組み合わせた選挙制度が小選挙区比例代表制(議員定数を小選挙区と比例代表区に二分し、選挙人は小選挙区については候補者個人に、比例代表区については政党の提出した名簿に投票する制度)である。
小選挙区選挙とは、議員定員と同数の選挙区を区分けし、1選挙区につき1人を選出する選挙制度である。
本事件では、小選挙区選挙における選挙運動の差異の合憲性、重複立候補制度の合憲性(立候補の自由との関係)、比例代表選挙の合憲性(直接選挙との関係)、小選挙区制の合憲性が問題となった。
判旨:①「代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた、右の理由から、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量にゆだねているのである。このように、国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には、その具体的に定めたところが、右の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため国会の右のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである…。」
②「改正公選法86条の2は、比例代表選挙における立候補につき、同条1項各号所定の要件のいずれかを備えた政党その他の政治団体のみが団体の名称と共に順位を付した候補者の名簿を届け出ることができるものとし、右の名簿の届出をした政党その他の政治団体(衆議院名簿届出政党等)のうち小選挙区選挙において候補者の届出をした政党その他の政治団体(候補者届出政党)はその届出に係る候補者を同時に比例代表選挙の名簿登載者とすることができ、両選挙に重複して立候補する者については右名簿における当選人となるべき順位を同一のものとすることができるという重複立候補制を採用している。重複立候補者は、小選挙区選挙において当選人とされた場合には、比例代表選挙における当選人となることはできないが、小選挙区選挙において当選人とされなかった場合には、名簿の順位に従って比例代表選挙の当選人となることができ、後者の場合に、名簿において同一の順位とされた者の間における当選人となるべき順位は、小選挙区選挙における得票数の当該選挙区における有効投票の最多数を得た者に係る得票数に対する割合の最も大きい者から順次に定めるものとされている(同法95条の2第3ないし第5項)。同法86条の2第1項各号所定の要件のうち1号、2号の要件は、同法86条1項1号、2号所定の候補者届出政党の要件と同一であるから、これらの要件を充足する政党等に所属する者は小選挙区選挙及び比例代表選挙に重複して立候補することができるが、右政党等に所属しない者は、同法86条の2第1項3号所定の要件を充足する政党その他の政治団体に所属するものにあっては比例代表選挙又は小選挙区選挙のいずれかに、その他のものにあっては小選挙区選挙に立候補することができるにとどまり、両方に重複して立候補することはできないものとされている。また、右の名簿に登載することができる候補者の数は、各選挙区の定数を超えることができないが、重複立候補者はこの計算上除外されるので、候補者届出政党の要件を充足した政党等は、右定数を超える数の候補者を名簿に登載することができることとなる(同条5項)。そして、衆議院名簿届出政党等のすることができる自動車、拡声機、ポスターを用いた選挙運動や新聞広告、政見放送等の規模は、名簿登載者の数に応じて定められている(同法141条3項、144条1項2号、149条2項、150条5項等)。さらに、候補者届出政党は、小選挙区選挙の選挙運動をすることができるほか、衆議院名簿届出政党等でもある場合には、その小選挙区選挙に係る選挙運動が同法の許す態様において比例代表選挙に係る選挙運動にわたることを妨げないものとされている(同法178条の3第1項)。
右のような改正公選法の規定をみると、立候補の機会において、候補者届出政党に所属する候補者は重複立候補をすることが認められているのに対し、それ以外の候補者は重複立候補の機会がないものとされているほか、衆議院名簿届出政党等の行うことができる選挙運動の規模において、重複立候補者の数が名簿登載者の数の制限の計算上除外される結果、候補者届出政党の要件を備えたものは、これを備えないものより規模の大きな選挙運動を行うことができるものとされているということができる。」
③「論旨は、右のような重複立候補制に係る改正公選法の規定は、重複立候補者が小選挙区選挙で落選しても比例代表選挙で当選することができる点において、憲法前文、43条1項、14条1項、15条3項、44条に違反し、また、重複立候補をすることができる者ないし候補者届出政党の要件を充足する政党等と重複立候補をすることができない者ないし右要件を充足しない政党等とを差別的に取り扱うものであり、選挙人の選挙権の十全な行使を侵害するものであって、憲法15条1項、3項、44条、14条1項、47条、43条1項に違反し、さらに、選挙の時点で候補者名簿の順位が確定しないものであるから直接選挙といえず、憲法43条1項、15条1項、3項に違反するなどというのである。
…重複立候補制を採用し、小選挙区選挙において落選した者であっても比例代表選挙の名簿順位によっては同選挙において当選人となることができるものとしたことについては、小選挙区選挙において示された民意に照らせば、議論があり得るところと思われる。しかしながら、前記のとおり、選挙制度の仕組みを具体的に決定することは国会の広い裁量にゆだねられているところ、同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、右の仕組みの一つとして、国会が裁量により決定することができる事項であるといわざるを得ない。改正公選法87条は重複立候補を原則として禁止しているが、これは憲法から必然的に導き出される原理ではなく、立法政策としてそのような選択がされているものであり、改正公選法86条の2第4項が政党本位の選挙を目指すという観点からこれに例外を設けたこともまた、憲法の要請に反するとはいえない。重複して立候補することを認める制度においては、一の選挙において当選人とされなかった者が他の選挙において当選人とされることがあることは、当然の帰結である。したがって、重複立候補制を採用したこと自体が憲法前文、43条1項、14条1項、15条3項、44条に違反するとはいえない。
もっとも、衆議院議員選挙において重複立候補をすることができる者は、改正公選法86条1項1号、2号所定の要件を充足する政党その他の政治団体に所属する者に限られており、これに所属しない者は重複立候補をすることができないものとされているところ、被選挙権又は立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係にある重要な基本的人権であることにかんがみれば、合理的な理由なく立候補の自由を制限することは、憲法の要請に反するといわなければならない。しかしながら、右のような候補者届出政党の要件は、国民の政治的意思を集約するための組織を有し、継続的に相当な活動を行い、国民の支持を受けていると認められる政党等が、小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に、第8次選挙制度審議会の答申にあるとおり、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするために設けられたものと解されるのであり、政党の果たしている国政上の重要な役割にかんがみれば、選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることは、国会の裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。したがって、同じく政策本位、政党本位の選挙制度というべき比例代表選挙と小選挙区選挙とに重複して立候補することができる者が候補者届出政党の要件と衆議院名簿届出政党等の要件の両方を充足する政党等に所属する者に限定されていることには、相応の合理性が認められるのであって、不当に立候補の自由や選挙権の行使を制限するとはいえず、これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。
そして、行うことができる選挙運動の規模が候補者の数に応じて拡大されるという制度は、衆議院名簿届出政党等の間に取扱い上の差異を設けるものではあるが、選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。一般に名簿登載者の数が多くなるほど選挙運動の必要性が増大するという面があることは否定することができないところであり、重複立候補者の数を名簿登載者の数の制限の計算上除外することにも合理性が認められるから、前記のような選挙運動上の差異を生ずることは、合理的理由に基づくものであって、これをもって国会の裁量の範囲を超えるとはいえない。これが選挙権の十全な行使を侵害するものでないことも、また明らかである。したがって、右のような差異を設けたことが憲法15条1項、3項、44条、14条1項、47条、43条1項に違反するとはいえない。
また、政党等にあらかじめ候補者の氏名及び当選人となるべき順位を定めた名簿を届け出させた上、選挙人が政党等を選択して投票し、各政党等の得票数の多寡に応じて当該名簿の順位に従って当選人を決定する方式は、投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。複数の重複立候補者の比例代表選挙における当選人となるべき順位が名簿において同一のものとされた場合には、その者の間では当選人となるべき順位が小選挙区選挙の結果を待たないと確定しないことになるが、結局のところ当選人となるべき順位は投票の結果によって決定されるのであるから、このことをもって比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項、15条1項、3項に違反するとはいえない。」
④「…論旨はまた、改正公選法の13条2項及び別表第2の定める南関東選挙区の比例代表選挙の定数と同選挙区内の同条1項及び同法別表第1の定める小選挙区選挙の定数との合計数が55となるのに対し、同東海選挙区のそれは57となり、この合計数でみるならば、人口の多い南関東選挙区に人口の少ない東海選挙区より少ない定数が配分されるという逆転現象が生じており、これが憲法14条1項、15条1項、3項、44条の各規定による投票価値の平等の要請に違反するとも主張する。
しかしながら、所論のように選挙区割りを異にする二つの選挙の議員定数を一方の選挙の選挙区ごとに合計して当該選挙区の人口と議員定数との比率の平等を問題とすることには、合理性がないことが明らかであり、比例代表選挙の無効を求める訴訟においては、小選挙区選挙の仕組みの憲法適合性を問題とすることはできないというほかはない。そして、比例代表選挙についてみれば、投票価値の平等を損なうところがあるとは認められず、その選挙区割りに憲法に違反するところがあるとはいえない。したがって、改正公選法の13条2項及び別表第2の規定が憲法14条1項、15条1項、3項、44条に違反するとは認められない。」
右のような改正公選法の規定をみると、立候補の機会において、候補者届出政党に所属する候補者は重複立候補をすることが認められているのに対し、それ以外の候補者は重複立候補の機会がないものとされているほか、衆議院名簿届出政党等の行うことができる選挙運動の規模において、重複立候補者の数が名簿登載者の数の制限の計算上除外される結果、候補者届出政党の要件を備えたものは、これを備えないものより規模の大きな選挙運動を行うことができるものとされているということができる。」
③「論旨は、右のような重複立候補制に係る改正公選法の規定は、重複立候補者が小選挙区選挙で落選しても比例代表選挙で当選することができる点において、憲法前文、43条1項、14条1項、15条3項、44条に違反し、また、重複立候補をすることができる者ないし候補者届出政党の要件を充足する政党等と重複立候補をすることができない者ないし右要件を充足しない政党等とを差別的に取り扱うものであり、選挙人の選挙権の十全な行使を侵害するものであって、憲法15条1項、3項、44条、14条1項、47条、43条1項に違反し、さらに、選挙の時点で候補者名簿の順位が確定しないものであるから直接選挙といえず、憲法43条1項、15条1項、3項に違反するなどというのである。
…重複立候補制を採用し、小選挙区選挙において落選した者であっても比例代表選挙の名簿順位によっては同選挙において当選人となることができるものとしたことについては、小選挙区選挙において示された民意に照らせば、議論があり得るところと思われる。しかしながら、前記のとおり、選挙制度の仕組みを具体的に決定することは国会の広い裁量にゆだねられているところ、同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、右の仕組みの一つとして、国会が裁量により決定することができる事項であるといわざるを得ない。改正公選法87条は重複立候補を原則として禁止しているが、これは憲法から必然的に導き出される原理ではなく、立法政策としてそのような選択がされているものであり、改正公選法86条の2第4項が政党本位の選挙を目指すという観点からこれに例外を設けたこともまた、憲法の要請に反するとはいえない。重複して立候補することを認める制度においては、一の選挙において当選人とされなかった者が他の選挙において当選人とされることがあることは、当然の帰結である。したがって、重複立候補制を採用したこと自体が憲法前文、43条1項、14条1項、15条3項、44条に違反するとはいえない。
もっとも、衆議院議員選挙において重複立候補をすることができる者は、改正公選法86条1項1号、2号所定の要件を充足する政党その他の政治団体に所属する者に限られており、これに所属しない者は重複立候補をすることができないものとされているところ、被選挙権又は立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係にある重要な基本的人権であることにかんがみれば、合理的な理由なく立候補の自由を制限することは、憲法の要請に反するといわなければならない。しかしながら、右のような候補者届出政党の要件は、国民の政治的意思を集約するための組織を有し、継続的に相当な活動を行い、国民の支持を受けていると認められる政党等が、小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に、第8次選挙制度審議会の答申にあるとおり、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするために設けられたものと解されるのであり、政党の果たしている国政上の重要な役割にかんがみれば、選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることは、国会の裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。したがって、同じく政策本位、政党本位の選挙制度というべき比例代表選挙と小選挙区選挙とに重複して立候補することができる者が候補者届出政党の要件と衆議院名簿届出政党等の要件の両方を充足する政党等に所属する者に限定されていることには、相応の合理性が認められるのであって、不当に立候補の自由や選挙権の行使を制限するとはいえず、これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。
そして、行うことができる選挙運動の規模が候補者の数に応じて拡大されるという制度は、衆議院名簿届出政党等の間に取扱い上の差異を設けるものではあるが、選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。一般に名簿登載者の数が多くなるほど選挙運動の必要性が増大するという面があることは否定することができないところであり、重複立候補者の数を名簿登載者の数の制限の計算上除外することにも合理性が認められるから、前記のような選挙運動上の差異を生ずることは、合理的理由に基づくものであって、これをもって国会の裁量の範囲を超えるとはいえない。これが選挙権の十全な行使を侵害するものでないことも、また明らかである。したがって、右のような差異を設けたことが憲法15条1項、3項、44条、14条1項、47条、43条1項に違反するとはいえない。
また、政党等にあらかじめ候補者の氏名及び当選人となるべき順位を定めた名簿を届け出させた上、選挙人が政党等を選択して投票し、各政党等の得票数の多寡に応じて当該名簿の順位に従って当選人を決定する方式は、投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。複数の重複立候補者の比例代表選挙における当選人となるべき順位が名簿において同一のものとされた場合には、その者の間では当選人となるべき順位が小選挙区選挙の結果を待たないと確定しないことになるが、結局のところ当選人となるべき順位は投票の結果によって決定されるのであるから、このことをもって比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項、15条1項、3項に違反するとはいえない。」
④「…論旨はまた、改正公選法の13条2項及び別表第2の定める南関東選挙区の比例代表選挙の定数と同選挙区内の同条1項及び同法別表第1の定める小選挙区選挙の定数との合計数が55となるのに対し、同東海選挙区のそれは57となり、この合計数でみるならば、人口の多い南関東選挙区に人口の少ない東海選挙区より少ない定数が配分されるという逆転現象が生じており、これが憲法14条1項、15条1項、3項、44条の各規定による投票価値の平等の要請に違反するとも主張する。
しかしながら、所論のように選挙区割りを異にする二つの選挙の議員定数を一方の選挙の選挙区ごとに合計して当該選挙区の人口と議員定数との比率の平等を問題とすることには、合理性がないことが明らかであり、比例代表選挙の無効を求める訴訟においては、小選挙区選挙の仕組みの憲法適合性を問題とすることはできないというほかはない。そして、比例代表選挙についてみれば、投票価値の平等を損なうところがあるとは認められず、その選挙区割りに憲法に違反するところがあるとはいえない。したがって、改正公選法の13条2項及び別表第2の規定が憲法14条1項、15条1項、3項、44条に違反するとは認められない。」
過去問・解説
(H22 司法 第15問 ウ)
名簿式比例代表制という選挙方法は、政党が作成した候補者名簿に有権者が投票するので、憲法が保障する直接選挙の原則に反するか否か問題となるが、最高裁判所は、選挙人の総意により当選人が決定される点において、直接選挙の原則に反しないと判示した。
名簿式比例代表制という選挙方法は、政党が作成した候補者名簿に有権者が投票するので、憲法が保障する直接選挙の原則に反するか否か問題となるが、最高裁判所は、選挙人の総意により当選人が決定される点において、直接選挙の原則に反しないと判示した。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判平11.11.10)によれば、「政党等にあらかじめ候補者の氏名及び当選人となるべき順位を定めた名簿を届け出させた上、選挙人が政党等を選択して投票し、各政党等の得票数の多寡に応じて当該名簿の順位に従って当選人を決定する方式は、投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。…比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項、15条1項、3項に違反するとはいえない。」としている。
判例(最大判平11.11.10)によれば、「政党等にあらかじめ候補者の氏名及び当選人となるべき順位を定めた名簿を届け出させた上、選挙人が政党等を選択して投票し、各政党等の得票数の多寡に応じて当該名簿の順位に従って当選人を決定する方式は、投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。…比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項、15条1項、3項に違反するとはいえない。」としている。
(H27 司法 第16問 ウ)
衆議院議員選挙では、小選挙区の候補者のほか、所属する候補者届出政党にも選挙運動が認められており、無所属の候補者は政見放送ができないなど非常に不利であるが、他に十分な手段があるため、政策・政党本位の選挙制度の実現のための立法裁量の範囲を逸脱していない。
衆議院議員選挙では、小選挙区の候補者のほか、所属する候補者届出政党にも選挙運動が認められており、無所属の候補者は政見放送ができないなど非常に不利であるが、他に十分な手段があるため、政策・政党本位の選挙制度の実現のための立法裁量の範囲を逸脱していない。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判平11.11.10)は、「政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず、その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって、その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって、選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難いところであって、これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているということはできないというほかはない。したがって、改正公選法の選挙運動に関する規定が憲法14条1項に違反するとはいえない。」としている。
判例(最大判平11.11.10)は、「政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず、その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって、その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって、選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難いところであって、これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているということはできないというほかはない。したがって、改正公選法の選挙運動に関する規定が憲法14条1項に違反するとはいえない。」としている。
(R3 司法 第12問 ウ)
衆議院の小選挙区選挙について、候補者届出政党にのみ政見放送を認め、候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとする公職選挙法の規定は、選挙運動をする上で、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となり、国会に与えられた合理的裁量の限界を超えるものであるから、憲法第14条第1項に違反する。
衆議院の小選挙区選挙について、候補者届出政党にのみ政見放送を認め、候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとする公職選挙法の規定は、選挙運動をする上で、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となり、国会に与えられた合理的裁量の限界を超えるものであるから、憲法第14条第1項に違反する。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判平11.11.10)は、「政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず、その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって、その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって、選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難いところであって、これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているということはできないというほかはない。したがって、改正公選法の選挙運動に関する規定が憲法14条1項に違反するとはいえない。」としている。
判例(最大判平11.11.10)は、「政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず、その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって、その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって、選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難いところであって、これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているということはできないというほかはない。したがって、改正公選法の選挙運動に関する規定が憲法14条1項に違反するとはいえない。」としている。
(R6 司法 第13問 ア)
政党は、議会制民主主義を支える上で重要な存在であるが、憲法は政党に関する特別の規定を置かず、また、現行法では、公職選挙法、政治資金規正法等の法律が、それぞれの法律の目的に応じて政党に関する定めを置いているにすぎない。
政党は、議会制民主主義を支える上で重要な存在であるが、憲法は政党に関する特別の規定を置かず、また、現行法では、公職選挙法、政治資金規正法等の法律が、それぞれの法律の目的に応じて政党に関する定めを置いているにすぎない。
(正答) 〇
(解説)
憲法は政党に関する特別の規定は置いておらず、現行法では、公職選挙法、政治資金規正法等の法律が、それぞれの法律の目的に応じて政党に関する定めを置いているにすぎない。
憲法は政党に関する特別の規定は置いておらず、現行法では、公職選挙法、政治資金規正法等の法律が、それぞれの法律の目的に応じて政党に関する定めを置いているにすぎない。
総合メモ
参議院非拘束名簿式比例代表並立制の合憲性 最大判平成16年1月14日
概要
公職選挙法が参議院議員選挙につき採用している非拘束名簿式比例代表制は、憲法15条、43条1項に違反するとはいえない。
判例
事案:拘束式名簿比例代表制では、有権者は政党名でのみ投票することができ、各政党が任意に決定した名簿順位に従って当選者が決定される。これに対し、非拘束名簿式比例代表制では、有権者は政党又は立候補者のいずれにも投票することができ、政党による名簿順位の決定はない。個人票の得票数に応じて順位付けがされ、当選者が決定するので、名簿順位の決定に有権者が参加することができる制度といえる。
原告側は、(ⅰ)「改正公選法が採用した…本件非拘束名簿式比例代表制…は、参議院名簿登載者個人には投票したいが、その者の所属する参議院名簿届出政党等には投票したくないという投票意思を認めず、選挙人の真意にかかわらず参議院名簿登載者個人に対する投票をその者の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票と評価し、比例代表選出議員が辞職した場合等には、当該議員の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票意思のみが残る結果となる点において、国民の選挙権を侵害し、憲法15条に違反するものであ」る、(ⅱ)「本件非拘束名簿式比例代表制の下では、超過得票に相当する票は、選挙人が投票した参議院名簿登載者以外の参議院名簿登載者に投票した選挙人の投票意思を実現するために用いられ、各参議院名簿届出政党等の届出に係る参議院名簿登載者の間における投票の流用が認められることになるから、直接選挙とはいえず、憲法43条1項に違反する」などと主張した。
判旨:①「代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた、上記の理由から、国会の両議院の議員の選挙について、議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。このように、国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるものであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には、その具体的に定めたところが、国会の上記のような裁量権を考慮しても、上記制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するためその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。」
②「名簿式比例代表制は、各名簿届出政党等の得票数に応じて議席が配分される政党本位の選挙制度であり、本件非拘束名簿式比例代表制も、各参議院名簿届出政党等の得票数に基づきその当選人数を決定する選挙制度であるから、本件改正前の拘束名簿式比例代表制と同様に、政党本位の名簿式比例代表制であることに変わりはない。憲法は、政党について規定するところがないが、政党の存在を当然に予定しているものであり、政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であって、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体である。したがって、国会が、参議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり、政党の上記のような国政上の重要な役割にかんがみて、政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは、その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。そして、名簿式比例代表制は、政党の選択という意味を持たない投票を認めない制度であるから、本件非拘束名簿式比例代表制の下において、参議院名簿登載者個人には投票したいが、その者の所属する参議院名簿届出政党等には投票したくないという投票意思が認められないことをもって、国民の選挙権を侵害し、憲法15条に違反するものとまでいうことはできない。また、名簿式比例代表制の下においては、名簿登載者は、各政党に所属する者という立場で候補者となっているのであるから、改正公選法が参議院名簿登載者の氏名の記載のある投票を当該参議院名簿登載者の所属する参議院名簿届出政党等に対する投票としてその得票数を計算するものとしていることには、合理性が認められるのであって、これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。」
③「政党等にあらかじめ候補者の氏名を記載した参議院名簿を届け出させた上、選挙人が参議院名簿登載者の氏名又は参議院名簿届出政党等の名称等を記載して投票し、各参議院名簿届出政党等の得票数(当該参議院名簿届出政党等に係る参議院名簿登載者の得票数を含む。)の多寡に応じて各参議院名簿届出政党等の当選人数を定めた後、参議院名簿登載者の得票数の多寡に応じて各参議院名簿届出政党等の届出に係る参議院名簿登載者の間における当選人となるべき順位を定め、この順位に従って当選人を決定する方式は、投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。同一参議院名簿届出政党等内において得票数の同じ参議院名簿登載者が2人以上いる場合には、それらの者の間における当選人となるべき順位は選挙長のくじで定められることになるが、この場合も、当選人の決定に選挙人以外の者の意思が介在するものではないから、上記の点をもって本件非拘束名簿式比例代表制による比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項に違反するとはいえない。」
過去問・解説
(H22 司法 第15問 ウ)
名簿式比例代表制という選挙方法は、政党が作成した候補者名簿に有権者が投票するので、憲法が保障する直接選挙の原則に反するか否か問題となるが、最高裁判所は、選挙人の総意により当選人が決定される点において、直接選挙の原則に反しないと判示した。
名簿式比例代表制という選挙方法は、政党が作成した候補者名簿に有権者が投票するので、憲法が保障する直接選挙の原則に反するか否か問題となるが、最高裁判所は、選挙人の総意により当選人が決定される点において、直接選挙の原則に反しないと判示した。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判平16.1.14)は、名簿式比例代表制という選挙方法について、「投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。同一参議院名簿届出政党等内において得票数の同じ参議院名簿登載者が2人以上いる場合には、それらの者の間における当選人となるべき順位は選挙長のくじで定められることになるが、この場合も、当選人の決定に選挙人以外の者の意思が介在するものではないから、上記の点をもって本件非拘束名簿式比例代表制による比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項に違反するとはいえない。」としている。
判例(最大判平16.1.14)は、名簿式比例代表制という選挙方法について、「投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。同一参議院名簿届出政党等内において得票数の同じ参議院名簿登載者が2人以上いる場合には、それらの者の間における当選人となるべき順位は選挙長のくじで定められることになるが、この場合も、当選人の決定に選挙人以外の者の意思が介在するものではないから、上記の点をもって本件非拘束名簿式比例代表制による比例代表選挙が直接選挙に当たらないということはできず、憲法43条1項に違反するとはいえない。」としている。
(R3 共通 第12問 ア)
憲法は、政党について規定するところがないが、政党の存在を当然に予定しており、政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であるから、国会が、参議院議員の選挙制度の仕組みを決めるに当たり、このような政党の国政上の重要な役割を踏まえて、政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは、国会の裁量の範囲内である。
憲法は、政党について規定するところがないが、政党の存在を当然に予定しており、政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であるから、国会が、参議院議員の選挙制度の仕組みを決めるに当たり、このような政党の国政上の重要な役割を踏まえて、政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは、国会の裁量の範囲内である。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大平16.1.14)は、「憲法は、政党について規定するところがないが、政党の存在を当然に予定しているものであり、政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であって、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体である。したがって、国会が、参議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり、政党の上記のような国政上の重要な役割にかんがみて、政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは、その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。」としている。
判例(最大平16.1.14)は、「憲法は、政党について規定するところがないが、政党の存在を当然に予定しているものであり、政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であって、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体である。したがって、国会が、参議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり、政党の上記のような国政上の重要な役割にかんがみて、政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは、その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。」としている。
総合メモ
衆議院議員選挙における小選挙区制 最大判平成11年11月10日
概要
平成8年10月20日施行の衆議院議員総選挙のうち東京都第5区における小選挙区選挙は無効であると主張して提起された選挙無効訴訟において、①両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定に関する国会の裁量を前提として、②小選挙制度自体の合憲性、③選挙区割りや議員定数の分配を定める規定の合憲性、④候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間における選挙運動上の差異の合憲性が問題になったところ、②~③いずれの主張も退けられた。
判例
事案:平成8年10月20日施行の衆議院議員総選挙のうち東京都第5区における小選挙区選挙は無効であると主張して提起された選挙無効訴訟において、①両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定に関する国会の裁量を前提として、②小選挙制度自体の合憲性、③選挙区割りや議員定数の分配を定める規定の合憲性、④候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間における選挙運動上の差異の合憲性が問題となった。
判旨:①「代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた、右の理由から、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量にゆだねているのである。このように、国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には,その具体的に定めたところが、右の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため国会の右のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである…。
②「論旨は、小選挙区制という制度は、死票率が高く、いわゆる多数代表制であって、憲法の国民代表の原理に抵触し、憲法55条、57条1項、59条2項等の趣旨を没却するおそれがあり、多数支配の原則に矛盾し、憲法の認める立候補の自由、選挙の自由、結社の自由等が害されるから、違憲である、また、区画審設置法3条2項の定める基準に従って各都道府県にあらかじめ定数一を配分した結果、選挙区間の人口較差が二倍を超えたことは、憲法の定める平等選挙の原則に違反するから、本件区割規定は違憲無効である、さらに、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との選挙運動の機会が均等でないことは、憲法14条1項の禁止する信条又は社会的身分による差別に当たるというのである(その余の論旨は、比例代表選挙に係る事項に関するものであって、小選挙区選挙の無効を求める本件においては、それ自体失当である。)。
…衆議院議員の選挙制度の仕組みの具体的決定は、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、国会の裁量にゆだねられているのであり、国会が衆議院議員選挙の一つの方式として小選挙区制を選択したことについても、このような裁量の限界を超えるといわざるを得ない場合に、初めて憲法に違反することになるのである。
小選挙区制は、全国的にみて国民の高い支持を集めた政党等に所属する者が得票率以上の割合で議席を獲得する可能性があって、民意を集約し政権の安定につながる特質を有する反面、このような支持を集めることができれば、野党や少数派政党等であっても多数の議席を獲得することができる可能性があり、政権の交代を促す特質をも有するということができ、また、個々の選挙区においては、このような全国的な支持を得ていない政党等に所属する者でも、当該選挙区において高い支持を集めることができれば当選することができるという特質をも有するものであって、特定の政党等にとってのみ有利な制度とはいえない。小選挙区制の下においては死票を多く生む可能性があることは否定し難いが、死票はいかなる制度でも生ずるものであり、当選人は原則として相対多数を得ることをもって足りる点及び当選人の得票数の和よりその余の票数(死票数)の方が多いことがあり得る点において中選挙区制と異なるところはなく、各選挙区における最高得票者をもって当選人とすることが選挙人の総意を示したものではないとはいえないから、この点をもって憲法の要請に反するということはできない。このように、小選挙区制は、選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法ということができ、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触するものではないと考えられるから、小選挙区制を採用したことが国会の裁量の限界を超えるということはできず、所論の憲法の要請や各規定に違反するとは認められない。」
③「憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないと解すべきである。
そして、憲法は、国会が衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度を採用する場合には、選挙制度の仕組みのうち選挙区割りや議員定数の配分を決定するについて、議員一人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることを求めているというべきであるが、それ以外にも国会において考慮することができる要素は少なくない。とりわけ都道府県は、これまで我が国の政治及び行政の実際において相当の役割を果たしてきたことや、国民生活及び国民感情においてかなりの比重を占めていることなどにかんがみれば、選挙区割りをするに際して無視することのできない基礎的な要素の一つというべきである。また、都道府県を更に細分するに当たっては、従来の選挙の実績、選挙区としてのまとまり具合、市町村その他の行政区画、面積の大小、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況等諸般の事情が考慮されるものと考えられる。さらに、人口の都市集中化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割りや議員定数の配分にどのように反映させるかという点も、国会が政策的観点から考慮することができる要素の一つである。このように、選挙区割りや議員定数の配分の具体的決定に当たっては、種々の政策的及び技術的考慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについて一定の客観的基準が存在するものでもないから、選挙区割りや議員定数の配分を定める規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。そして、具体的に決定された選挙区割りや議員定数の配分の下における選挙人の有する投票価値に不平等が存在し、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えていると推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないというべきである。
以上は、前掲昭和51年4月14日、同58年11月7日、同60年7月17日、平成5年1月20日の各大法廷判決の趣旨とするところでもあって、これを変更する要をみない。
区画審設置法3条2項が前記のような基準を定めたのは、人口の多寡にかかわらず各都道府県にあらかじめ定数一を配分することによって、相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意見をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とするものであると解される。しかしながら、同条は、他方で、選挙区間の人口較差が二倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきことを基準として定めているのであり、投票価値の平等にも十分な配慮をしていると認められる。前記のとおり、選挙区割りを決定するに当たっては、議員一人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることが、最も重要かつ基本的な基準であるが、国会はそれ以外の諸般の要素をも考慮することができるのであって、都道府県は選挙区割りをするに際して無視することができない基礎的な要素の一つであり、人口密度や地理的状況等のほか、人口の都市集中化及びこれに伴う人口流出地域の過疎化の現象等にどのような配慮をし、選挙区割りや議員定数の配分にこれらをどのように反映させるかという点も、国会において考慮することができる要素というべきである。そうすると、これらの要素を総合的に考慮して同条一項、二項のとおり区割りの基準を定めたことが投票価値の平等との関係において国会の裁量の範囲を逸脱するということはできない。
そして、本件区割規定は、区画審設置法3条の基準に従って定められたものであるところ、その結果、選挙区間における人口の最大較差は、改正の直近の平成2年10月に実施された国勢調査による人口に基づけば1対2.137であり、本件選挙の直近の同7年10月に実施された国勢調査による人口に基づけば1対2.309であったというのである。このように抜本的改正の当初から同条1項が基本とすべきものとしている2倍未満の人口較差を超えることとなる区割りが行われたことの当否については議論があり得るところであるが、右区割りが直ちに同項の基準に違反するとはいえないし、同条の定める基準自体に憲法に違反するところがないことは前記のとおりであることにかんがみれば、以上の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、一般に合理性を有するとは考えられない程度に達しているとまではいうことができず、本件区割規定が憲法の選挙権の平等の要求に反するとは認められない。」
④「改正公選法は、前記のように政党等を選挙に深くかかわらせることとしているが、これは、第八次選挙制度審議会の答申にあるとおり、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするために採られたと解される。前記のとおり、衆議院議員の選挙制度の仕組みの具体的決定は、国会の広い裁量にゆだねられているところ、憲法は、政党について規定するところがないが、その存在を当然に予定しているものであり、政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であって、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、国会が、衆議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり、政党の右のような重要な国政上の役割にかんがみて、選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることは、その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。そして、選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。
もっとも、このように選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることに伴って、小選挙区選挙においては、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に、選挙運動の上で実質的な差異を生ずる結果となっていることは否定することができない。そして、被選挙権又は立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係にある重要な基本的人権であることにかんがみれば、憲法は、各候補者が選挙運動の上で平等に取り扱われるべきことを要求しているというべきであるが、合理的理由に基づくと認められる差異を設けることまで禁止しているものではない。すなわち、国会が正当に考慮することのできる政策的目的ないし理由を考慮して選挙運動に関する規定を定めた結果、選挙運動の上で候補者間に一定の取扱いの差異が生じたとしても、国会の具体的に決定したところが、その裁量権の行使として合理性を是認し得ず候補者間の平等を害するというべき場合に、初めて憲法の要請に反することになると解すべきである。
改正公選法の前記規定によれば、小選挙区選挙においては、候補者のほかに候補者届出政党にも選挙運動を認めることとされているのであるが、政党その他の政治団体にも選挙運動を認めること自体は、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするという国会が正当に考慮し得る政策的目的ないし理由によるものであると解されるのであって、十分合理性を是認し得るのである。もっとも、改正公選法86条1項1号、2号が、候補者届出政党になり得る政党等を国会議員を5人以上有するもの及び直近のいずれかの国政選挙における得票率が2パーセント以上であったものに限定し、このような実績を有しない政党等は候補者届出政党になることができないものとしている結果、選挙運動の上でも、政党等の間に一定の取扱い上の差異が生ずることは否めない。しかしながら、このような候補者届出政党の要件は、国民の政治的意思を集約するための組織を有し、継続的に相当な活動を行い、国民の支持を受けていると認められる政党等が、小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に、政策本位、政党本位の選挙制度をより実効あらしめるために設けられたと解されるのであり、そのような立法政策を採ることには相応の合理性が認められ、これが国会の裁量権の限界を超えるとは解されない。
そして、候補者と並んで候補者届出政党にも選挙運動を認めることが是認される以上、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に選挙運動の上で差異を生ずることは避け難いところであるから、その差異が一般的に合理性を有するとは到底考えられない程度に達している場合に、初めてそのような差異を設けることが国会の裁量の範囲を逸脱するというべきである。自動車、拡声機、文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告、演説会等についてみられる選挙運動上の差異は、候補者届出政党にも選挙運動を認めたことに伴って不可避的に生ずるということができる程度のものであり、候補者届出政党に所属しない候補者も、自ら自動車、拡声機、文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告、演説会等を行うことができるのであって、それ自体が選挙人に政見等を訴えるのに不十分であるとは認められないことにかんがみれば、右のような選挙運動上の差異を生ずることをもって、国会の裁量の範囲を超え、憲法に違反するとは認め難い。もっとも、改正公選法150条1項が小選挙区選挙については候補者届出政党にのみ政見放送を認め候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとしたことは、政見放送という手段に限ってみれば、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となるものである。原審の確定したところによれば、このような差異が設けられた理由は、小選挙区制の導入により選挙区が狭くなったこと、従前よりも多数の立候補が予測され、これら多数の候補者に政見放送の機会を均等に提供することが困難になったこと、候補者届出政党は選挙運動の対象区域が広くラジオ放送、テレビジョン放送の利用が不可欠であることなどにあるとされているが、ラジオ放送又はテレビジョン放送による政見放送の影響の大きさを考慮すると、これらの理由をもってはいまだ右のような大きな差異を設けるに十分な合理的理由といい得るかに疑問を差し挟む余地があるといわざるを得ない。しかしながら、右の理由にも全く根拠がないものではないし、政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず、その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって、その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって、選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難いところであって、これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているということはできないというほかはない。したがって、改正公選法の選挙運動に関する規定が憲法14条1項に違反するとはいえない。」
判旨:①「代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた、右の理由から、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量にゆだねているのである。このように、国会は、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから、国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には,その具体的に定めたところが、右の制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため国会の右のような広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである…。
②「論旨は、小選挙区制という制度は、死票率が高く、いわゆる多数代表制であって、憲法の国民代表の原理に抵触し、憲法55条、57条1項、59条2項等の趣旨を没却するおそれがあり、多数支配の原則に矛盾し、憲法の認める立候補の自由、選挙の自由、結社の自由等が害されるから、違憲である、また、区画審設置法3条2項の定める基準に従って各都道府県にあらかじめ定数一を配分した結果、選挙区間の人口較差が二倍を超えたことは、憲法の定める平等選挙の原則に違反するから、本件区割規定は違憲無効である、さらに、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との選挙運動の機会が均等でないことは、憲法14条1項の禁止する信条又は社会的身分による差別に当たるというのである(その余の論旨は、比例代表選挙に係る事項に関するものであって、小選挙区選挙の無効を求める本件においては、それ自体失当である。)。
…衆議院議員の選挙制度の仕組みの具体的決定は、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、国会の裁量にゆだねられているのであり、国会が衆議院議員選挙の一つの方式として小選挙区制を選択したことについても、このような裁量の限界を超えるといわざるを得ない場合に、初めて憲法に違反することになるのである。
小選挙区制は、全国的にみて国民の高い支持を集めた政党等に所属する者が得票率以上の割合で議席を獲得する可能性があって、民意を集約し政権の安定につながる特質を有する反面、このような支持を集めることができれば、野党や少数派政党等であっても多数の議席を獲得することができる可能性があり、政権の交代を促す特質をも有するということができ、また、個々の選挙区においては、このような全国的な支持を得ていない政党等に所属する者でも、当該選挙区において高い支持を集めることができれば当選することができるという特質をも有するものであって、特定の政党等にとってのみ有利な制度とはいえない。小選挙区制の下においては死票を多く生む可能性があることは否定し難いが、死票はいかなる制度でも生ずるものであり、当選人は原則として相対多数を得ることをもって足りる点及び当選人の得票数の和よりその余の票数(死票数)の方が多いことがあり得る点において中選挙区制と異なるところはなく、各選挙区における最高得票者をもって当選人とすることが選挙人の総意を示したものではないとはいえないから、この点をもって憲法の要請に反するということはできない。このように、小選挙区制は、選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法ということができ、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触するものではないと考えられるから、小選挙区制を採用したことが国会の裁量の限界を超えるということはできず、所論の憲法の要請や各規定に違反するとは認められない。」
③「憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないと解すべきである。
そして、憲法は、国会が衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度を採用する場合には、選挙制度の仕組みのうち選挙区割りや議員定数の配分を決定するについて、議員一人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることを求めているというべきであるが、それ以外にも国会において考慮することができる要素は少なくない。とりわけ都道府県は、これまで我が国の政治及び行政の実際において相当の役割を果たしてきたことや、国民生活及び国民感情においてかなりの比重を占めていることなどにかんがみれば、選挙区割りをするに際して無視することのできない基礎的な要素の一つというべきである。また、都道府県を更に細分するに当たっては、従来の選挙の実績、選挙区としてのまとまり具合、市町村その他の行政区画、面積の大小、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況等諸般の事情が考慮されるものと考えられる。さらに、人口の都市集中化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割りや議員定数の配分にどのように反映させるかという点も、国会が政策的観点から考慮することができる要素の一つである。このように、選挙区割りや議員定数の配分の具体的決定に当たっては、種々の政策的及び技術的考慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについて一定の客観的基準が存在するものでもないから、選挙区割りや議員定数の配分を定める規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。そして、具体的に決定された選挙区割りや議員定数の配分の下における選挙人の有する投票価値に不平等が存在し、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えていると推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないというべきである。
以上は、前掲昭和51年4月14日、同58年11月7日、同60年7月17日、平成5年1月20日の各大法廷判決の趣旨とするところでもあって、これを変更する要をみない。
区画審設置法3条2項が前記のような基準を定めたのは、人口の多寡にかかわらず各都道府県にあらかじめ定数一を配分することによって、相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意見をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とするものであると解される。しかしながら、同条は、他方で、選挙区間の人口較差が二倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきことを基準として定めているのであり、投票価値の平等にも十分な配慮をしていると認められる。前記のとおり、選挙区割りを決定するに当たっては、議員一人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることが、最も重要かつ基本的な基準であるが、国会はそれ以外の諸般の要素をも考慮することができるのであって、都道府県は選挙区割りをするに際して無視することができない基礎的な要素の一つであり、人口密度や地理的状況等のほか、人口の都市集中化及びこれに伴う人口流出地域の過疎化の現象等にどのような配慮をし、選挙区割りや議員定数の配分にこれらをどのように反映させるかという点も、国会において考慮することができる要素というべきである。そうすると、これらの要素を総合的に考慮して同条一項、二項のとおり区割りの基準を定めたことが投票価値の平等との関係において国会の裁量の範囲を逸脱するということはできない。
そして、本件区割規定は、区画審設置法3条の基準に従って定められたものであるところ、その結果、選挙区間における人口の最大較差は、改正の直近の平成2年10月に実施された国勢調査による人口に基づけば1対2.137であり、本件選挙の直近の同7年10月に実施された国勢調査による人口に基づけば1対2.309であったというのである。このように抜本的改正の当初から同条1項が基本とすべきものとしている2倍未満の人口較差を超えることとなる区割りが行われたことの当否については議論があり得るところであるが、右区割りが直ちに同項の基準に違反するとはいえないし、同条の定める基準自体に憲法に違反するところがないことは前記のとおりであることにかんがみれば、以上の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、一般に合理性を有するとは考えられない程度に達しているとまではいうことができず、本件区割規定が憲法の選挙権の平等の要求に反するとは認められない。」
④「改正公選法は、前記のように政党等を選挙に深くかかわらせることとしているが、これは、第八次選挙制度審議会の答申にあるとおり、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするために採られたと解される。前記のとおり、衆議院議員の選挙制度の仕組みの具体的決定は、国会の広い裁量にゆだねられているところ、憲法は、政党について規定するところがないが、その存在を当然に予定しているものであり、政党は、議会制民主主義を支える不可欠の要素であって、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、国会が、衆議院議員の選挙制度の仕組みを決定するに当たり、政党の右のような重要な国政上の役割にかんがみて、選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることは、その裁量の範囲に属することが明らかであるといわなければならない。そして、選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。
もっとも、このように選挙制度を政策本位、政党本位のものとすることに伴って、小選挙区選挙においては、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に、選挙運動の上で実質的な差異を生ずる結果となっていることは否定することができない。そして、被選挙権又は立候補の自由が選挙権の自由な行使と表裏の関係にある重要な基本的人権であることにかんがみれば、憲法は、各候補者が選挙運動の上で平等に取り扱われるべきことを要求しているというべきであるが、合理的理由に基づくと認められる差異を設けることまで禁止しているものではない。すなわち、国会が正当に考慮することのできる政策的目的ないし理由を考慮して選挙運動に関する規定を定めた結果、選挙運動の上で候補者間に一定の取扱いの差異が生じたとしても、国会の具体的に決定したところが、その裁量権の行使として合理性を是認し得ず候補者間の平等を害するというべき場合に、初めて憲法の要請に反することになると解すべきである。
改正公選法の前記規定によれば、小選挙区選挙においては、候補者のほかに候補者届出政党にも選挙運動を認めることとされているのであるが、政党その他の政治団体にも選挙運動を認めること自体は、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするという国会が正当に考慮し得る政策的目的ないし理由によるものであると解されるのであって、十分合理性を是認し得るのである。もっとも、改正公選法86条1項1号、2号が、候補者届出政党になり得る政党等を国会議員を5人以上有するもの及び直近のいずれかの国政選挙における得票率が2パーセント以上であったものに限定し、このような実績を有しない政党等は候補者届出政党になることができないものとしている結果、選挙運動の上でも、政党等の間に一定の取扱い上の差異が生ずることは否めない。しかしながら、このような候補者届出政党の要件は、国民の政治的意思を集約するための組織を有し、継続的に相当な活動を行い、国民の支持を受けていると認められる政党等が、小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に、政策本位、政党本位の選挙制度をより実効あらしめるために設けられたと解されるのであり、そのような立法政策を採ることには相応の合理性が認められ、これが国会の裁量権の限界を超えるとは解されない。
そして、候補者と並んで候補者届出政党にも選挙運動を認めることが是認される以上、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に選挙運動の上で差異を生ずることは避け難いところであるから、その差異が一般的に合理性を有するとは到底考えられない程度に達している場合に、初めてそのような差異を設けることが国会の裁量の範囲を逸脱するというべきである。自動車、拡声機、文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告、演説会等についてみられる選挙運動上の差異は、候補者届出政党にも選挙運動を認めたことに伴って不可避的に生ずるということができる程度のものであり、候補者届出政党に所属しない候補者も、自ら自動車、拡声機、文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告、演説会等を行うことができるのであって、それ自体が選挙人に政見等を訴えるのに不十分であるとは認められないことにかんがみれば、右のような選挙運動上の差異を生ずることをもって、国会の裁量の範囲を超え、憲法に違反するとは認め難い。もっとも、改正公選法150条1項が小選挙区選挙については候補者届出政党にのみ政見放送を認め候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとしたことは、政見放送という手段に限ってみれば、候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となるものである。原審の確定したところによれば、このような差異が設けられた理由は、小選挙区制の導入により選挙区が狭くなったこと、従前よりも多数の立候補が予測され、これら多数の候補者に政見放送の機会を均等に提供することが困難になったこと、候補者届出政党は選挙運動の対象区域が広くラジオ放送、テレビジョン放送の利用が不可欠であることなどにあるとされているが、ラジオ放送又はテレビジョン放送による政見放送の影響の大きさを考慮すると、これらの理由をもってはいまだ右のような大きな差異を設けるに十分な合理的理由といい得るかに疑問を差し挟む余地があるといわざるを得ない。しかしながら、右の理由にも全く根拠がないものではないし、政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず、その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって、その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないことに照らせば、政見放送が認められないことの一事をもって、選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難いところであって、これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているということはできないというほかはない。したがって、改正公選法の選挙運動に関する規定が憲法14条1項に違反するとはいえない。」
過去問・解説
(H24 予備 第8問 ア)
選挙運動の規律は、選挙制度の仕組みの一部をなすものとして、国会が裁量により定めることができる。衆議院の小選挙区選挙において、候補者以外に候補者届出政党にも独自の選挙運動が認められているのは、選挙制度を政策本位、政党本位にするという正当な政策的目的によるものといえる。
選挙運動の規律は、選挙制度の仕組みの一部をなすものとして、国会が裁量により定めることができる。衆議院の小選挙区選挙において、候補者以外に候補者届出政党にも独自の選挙運動が認められているのは、選挙制度を政策本位、政党本位にするという正当な政策的目的によるものといえる。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判平11.11.10)は、「選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは、選挙制度の仕組みの一部を成すものとして、国会がその裁量により決定することができるものというべきである。」とした上で、「改正公選法の前記規定によれば、小選挙区選挙においては、候補者のほかに候補者届出政党にも選挙運動を認めることとされているのであるが、政党その他の政治団体にも選挙運動を認めること自体は、選挙制度を政策本位、政党本位のものとするという国会が正当に考慮し得る政策的目的ないし理由によるものであると解されるのであって、十分合理性を是認し得るのである。」としている。
総合メモ
選挙活動中の文書活動の制限 最大判昭和30年3月30日
概要
公職選挙法146条は、憲法21条に違反しない。
判例
事案:公職選挙法146条1項は、「何人も、選挙運動の期間中は、著述、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、第142条又は第143条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない。」と規定している。本事件では、公職選挙法146条1項が憲法21条1項に違反するかが問題となった。
判旨:「憲法21条は言論出版等の自由を絶対無制限に保障しているものではなく、公共の福祉のため必要ある場合には、その時、所、方法等につき合理的制限のおのづから存するものであることは、当裁判所の判例とするところである…。そして、公職選挙法146条は、公職の選挙につき文書図画の無制限の頒布、掲示を認めるときは、選挙運動に不当の競争を招き、これが為却つて選挙の自由公正を害し、その公明を保持し難い結果を来たすおそれがあると認めて、かかる弊害を防止する為、選挙運動期間中を限り、文書図画の頒布、掲示につき一定の規制をしたのであつて、この程度の規制は、公共の福祉のため、憲法上許された必要且つ合理的の制限と解することができる。」
判旨:「憲法21条は言論出版等の自由を絶対無制限に保障しているものではなく、公共の福祉のため必要ある場合には、その時、所、方法等につき合理的制限のおのづから存するものであることは、当裁判所の判例とするところである…。そして、公職選挙法146条は、公職の選挙につき文書図画の無制限の頒布、掲示を認めるときは、選挙運動に不当の競争を招き、これが為却つて選挙の自由公正を害し、その公明を保持し難い結果を来たすおそれがあると認めて、かかる弊害を防止する為、選挙運動期間中を限り、文書図画の頒布、掲示につき一定の規制をしたのであつて、この程度の規制は、公共の福祉のため、憲法上許された必要且つ合理的の制限と解することができる。」
過去問・解説
(H30 共通 第13問 ウ)
判例は、公職選挙法による選挙運動用の文書図画の頒布・掲示の規制について、表現の自由に対する最小限の制約とはいえないが、憲法第47条の趣旨に照らせば、国会の定めた選挙運動のルールは合理的と考えられないような特段の事情のない限り尊重されなければならず、当該規制は立法裁量の範囲を逸脱しているとまではいえないので合憲であるとしている。
判例は、公職選挙法による選挙運動用の文書図画の頒布・掲示の規制について、表現の自由に対する最小限の制約とはいえないが、憲法第47条の趣旨に照らせば、国会の定めた選挙運動のルールは合理的と考えられないような特段の事情のない限り尊重されなければならず、当該規制は立法裁量の範囲を逸脱しているとまではいえないので合憲であるとしている。
(正答) ✕
(解説)
判例(最判昭30.3.30)は、「公職選挙法146条は、公職の選挙につき文書図画の無制限の頒布、掲示を認めるときは、選挙運動に不当の競争を招き、これが為却つて選挙の自由公正を害し、その公明を保持し難い結果を来たすおそれがあると認めて、かかる弊害を防止する為、選挙運動期間中を限り、文書図画の頒布、掲示につき一定の規制をしたのであつて、この程度の規制は、公共の福祉のため、憲法上許された必要且つ合理的の制限と解することができる。」としており、本肢のような判示はしていない。
判例(最判昭30.3.30)は、「公職選挙法146条は、公職の選挙につき文書図画の無制限の頒布、掲示を認めるときは、選挙運動に不当の競争を招き、これが為却つて選挙の自由公正を害し、その公明を保持し難い結果を来たすおそれがあると認めて、かかる弊害を防止する為、選挙運動期間中を限り、文書図画の頒布、掲示につき一定の規制をしたのであつて、この程度の規制は、公共の福祉のため、憲法上許された必要且つ合理的の制限と解することができる。」としており、本肢のような判示はしていない。
総合メモ
戸別訪問禁止事件 最三小判昭和56年6月15日
概要
戸別訪問を一律に禁止している公職選挙法138条1項の規定は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものではない。
判例
事案:公職選挙法では、「選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって戸別訪問をすること」を禁止しており(138条)、違反については1年以内の禁錮又は30万円以下の罰金が設けられている(239条1項3号)。本事件では、公職選挙法の個別訪問禁止が憲法21条1項に違反するかが問題となった。
判旨:「公職選挙法138条1項の規定が憲法21条に違反するものでないことは、当裁判所の判例…とするところである。
戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち、戸別訪問が買収、利害誘導等の温床になり易く、選挙人の生活の平穏を害するほか、これが放任されれば、候補者側も訪問回数等を競う煩に耐えられなくなるうえに多額の出費を余儀なくされ、投票も情実に支配され易くなるなどの弊害を防止し、もつて選挙の自由と公正を確保することを目的としているところ…、右の目的は正当であり、それらの弊害を総体としてみるときには、戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性があるということができる。そして、戸別訪問の禁止によつて失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない反面、禁止により得られる利益は、戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから、得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいということができる。以上によれば、戸別訪問を一律に禁止している公職選挙法138条1項の規定は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものではない。
したがつて、戸別訪問を一律に禁止するかどうかは、専ら選挙の自由と公正を確保する見地からする立法政策の問題であつて、国会がその裁量の範囲内で決定した政策は尊重されなければならないのである。
このように解することは、意見表明の手段方法を制限する立法について憲法21条との適合性に関する判断を示したその後の判例…の趣旨にそうところであり、…昭和44年4月23日の大法廷判例は今日においてもなお維持されるべきである。」
補足意見:その後に出された判例(最判昭56.7.21)も、本判決を参照して公職選挙法138条1項は憲法21条1に違反しないと判断しているところ、この判例には伊藤正己裁判官の補足意見が付されている。
判旨:「公職選挙法138条1項の規定が憲法21条に違反するものでないことは、当裁判所の判例…とするところである。
戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち、戸別訪問が買収、利害誘導等の温床になり易く、選挙人の生活の平穏を害するほか、これが放任されれば、候補者側も訪問回数等を競う煩に耐えられなくなるうえに多額の出費を余儀なくされ、投票も情実に支配され易くなるなどの弊害を防止し、もつて選挙の自由と公正を確保することを目的としているところ…、右の目的は正当であり、それらの弊害を総体としてみるときには、戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性があるということができる。そして、戸別訪問の禁止によつて失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない反面、禁止により得られる利益は、戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから、得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいということができる。以上によれば、戸別訪問を一律に禁止している公職選挙法138条1項の規定は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものではない。
したがつて、戸別訪問を一律に禁止するかどうかは、専ら選挙の自由と公正を確保する見地からする立法政策の問題であつて、国会がその裁量の範囲内で決定した政策は尊重されなければならないのである。
このように解することは、意見表明の手段方法を制限する立法について憲法21条との適合性に関する判断を示したその後の判例…の趣旨にそうところであり、…昭和44年4月23日の大法廷判例は今日においてもなお維持されるべきである。」
補足意見:その後に出された判例(最判昭56.7.21)も、本判決を参照して公職選挙法138条1項は憲法21条1に違反しないと判断しているところ、この判例には伊藤正己裁判官の補足意見が付されている。
「一 選挙運動としていわゆる戸別訪問を禁止することが憲法21条に違反するものでないことは、当裁判所がすでに昭和25年9月27日大法廷判決(刑集4巻9号1799頁)において明らかにしたところであり、この判断は、その後も維持されており、いわば確定した判例となつている。それにもかかわらず下級裁判所において、この判例に反して戸別訪問禁止の規定を違憲と判示する判決が少なからずあらわれている。このことは、当裁判所の合憲とする判断の理由のもつ説得力が多少とも不十分であるところのあるためではないかと思われる。前記大法廷判決は、戸別訪問の禁止が単に公共の福祉に基づく時、所、方法等についての合理的制限であるという理由をあげるにとどまり、また公職選挙法138条に関する昭和44年4月23日大法廷判決(刑集23巻4号235頁)も、判例の変更の必要がないと判示しているにすぎず、必ずしも広く納得させるに足る根拠を示しているとはいえない憾みがあることは否めない。私は同条が憲法に違反するものではないと解することで法廷意見に同調するものであり、それを違憲とする所論は理由がないと考えるのであるが、この機会にその根拠についていささか私見を明らかにしておきたい。
二 選挙運動としての戸別訪問は、わが国において大正14年の普通選挙制の実施以来禁止されてきている。戦後の公職選挙法の制定に際し、その禁止の一部が緩和され、「公職の候補者が親族、平素親交の間柄にある知己その他密接な間柄にある者を訪問することは、この限りでない」という但し書が付加されたが、脱法行為の弊害が生じたとして昭和27年の改正によつて削除され(昭和27年法律第307号)、全面的な禁止が復活して今日に至つている。なお、その禁止の違反に対しては、刑事罰による制裁が科せられるというきびしい禁止措置がとられている(公職選挙法239条)。周知のように、欧米の議会制民主主義国にあつては、戸別訪問は禁止されていないのみではなく、むしろそれは、候補者と選挙人が直接に接触し、候補者はその政策を伝え、選挙人も候補者の識見、人物などを直接に知りうる機会を与えるものとして最も有効適切な選挙運動の方法であると評価されている。選挙運動としての戸別訪問が種々の長所をもつことは否定することができないし、また選挙という主権者である国民の直接の政治参加の場において、政治的意見を表示し伝達する有効な手段である戸別訪問を禁止することが、憲法の保障する表現の自由にとつて重大な制約として、それが違憲となるのではないかという問題を生ずるのも当然といえよう。
三 それでは戸別訪問が憲法に違反しないという論拠をどこに求めるべきであるか。この点について次ぎのようなものがあげられる。すなわち(1)戸別訪問は買収、利益誘導等の不正行為の温床となり易く、選挙の公正を損うおそれの大きいこと、(2)選挙人の生活の平穏を害して迷惑を及ぼすこと、(3)候補者にとつて煩に堪えない選挙運動であり、また多額の出資を余儀なくされること、(4)投票が情実に流され易くなること、(5)戸別訪問の禁止は意見の表明そのものを抑止するものではなく、意見表明のための一つの手段を禁止するものにすぎないのであり、以上にあげたような戸別訪問に伴う弊害を全体として考慮するとき、その禁止も憲法上許容されるものと解されること、がそれである(最高裁昭和55年(あ)第874号同56年6月15日第二小法廷判決参照)。
四 以上のような諸理由はそれぞれに是認できないものではなく、単に公共の福祉にもとづく制限であるというのに比してはるかに説得力に富むものではあるが、私見によれば、それらをもつて直ちに十分な合憲の理由とするに足りないと思われる。
(1)戸別訪問は買収や利益誘導のような不正行為を誘発する機会となり易く、実質的に選挙の公正を害する選挙運動を生みだす危検性をもつことは容認できる。とくにわが国の現状をみると、戸別訪問が実質的な不正行為の温床となるということを、安易に却けることができないと考えられる。戸別訪問は随伴するとみられる弊害として右にあげたものを多少とも生みだすおそれがあり、かつ戦前には戸別訪問とともに禁止されていた個々面接や電話による選挙運動が現行法上は許されているのは、それらが買収などを誘発する危険性がほとんどないことに基づくことを考えると、戸別訪問の禁止の最も重要な理由はこの点にあると思われる。
しかしながら、戸別訪問はそれ自身として違法性をもつものではなく、買収などを誘発する可能性があるといつても、なお抽象的な危険があるにとどまり、実際にはそのようなおそれのない場合があるし、かりにその可能性があるとしても、不正行為の発生の確率の高いものとは必ずしもいえない。憲法上の重要な価値をもつ表現の自由をこのような害悪発生のおそれがあるということでもつて一律に制限をすることはできないと思われる。また、具体的な危険の発生が推認されるときはともかく、単に観念上危険があると考えられるにすぎない場合に、表現の自由の行使を形式犯として刑罰を科することには、憲法上のみならず刑法理論としても問題があると思われる。
(2)戸別訪問が、それをうけることを欲しない選挙人にとつて迷惑感がつよく、その平穏な生活を害することはたしかである。とくにわが国における選挙人の通常の意識からみて、これを私生活の妨害と考える程度は少なくないと思われる。しかし、営利目的などでの訪問ではなく、選挙運動としての訪問は、それが議会制民主政治においてもつ意義の大きいことからみて、選挙人において受忍すべき範囲が広いと考えられるし、選挙人への迷惑を少なくするために訪問の時間や方法に合理的な制限を加えることが許されるとしても、私生活の平穏の保持の必要ということは、一律に戸別訪問を禁止することの理由として十分とはいえない。
(3)戸別訪問を許すと、各候補者は相互に競つて多くの選挙人を訪問せざるをえなくなり、その選挙運動が煩に堪えなくなるということもありうるかもしれない。しかし、これは候補者にとつての利便の問題であり、選挙人にとつて有益な判断資料を与えるという有効な手段が候補者側の利便によつて制限されることは適当ではない。また戸別訪問が選挙の費用を多額なものとするともいわれるが、かりにそうであつたとしても、それは法定費用の制限をもつて抑えるべきものであるし、およそ戸別訪問は最も簡便で、選挙費用に乏しい候補者が利用できる方法であるという面ももつていることをみのがしえない。
(4)戸別訪問は、前記のように、選挙人が候補者側と直接に接触してその政策や人格識見を知りうるという長所をもつが、わが国の国民の政治意識がいまもなお高くないことから、実際には、政策や識見よりも、義理や人情に訴えることとなり、投票が情実に流されるおそれのあることもまた否定できない。選挙運動の手段を法が定めるにあたつて、いたずらに理想を追うのではなく、実態を考慮にいれなければならないことはたしかである。
しかし、このことを理由として戸別訪問を一律に禁止することは、投票が情実に左右されるという消極的側面を余りに重視しすぎることになるのみでなく、それは単に推認によつてそのような危険性があるというにとどまり、厳密な事実上の論証があるとは必ずしもいえない。そのようなおそれがあるというのみでは,選挙における表現の自由を制約する根拠として十分とはいえないと思われる。
(5)表現の自由を制約する場合、表現そのものを抑止することよりも、表現の自由の行使の時、場所、方法を規制することは、その制約の程度が大きくなく、したがつて憲法上前者が合憲とされるためにはきびしい基準に適合する必要があるのに反して、後者はそれに比してやや緩やかな基準に合致するをもつて足りると考えられる。しかし、表現の自由の制約は、多くの場合に、後者の手段によつてされるのであり、これが単に合理的なものであれば許容されると解されるのであれば、表現の自由の制約が広く許されることになり、正当な解釈とはいえない。表現の自由の行使の一つの方法が禁止されたときも、その表現を他の方法によつて伝達することは可能であるが、禁止された方法がその表現の伝達にとつて有効適切なものであり、他の方法ではその効果を挙げえない場合には、その禁止は、実質的にみて表現の自由を大幅に制限することとなる。たしかに選挙運動において候補者の政策を選挙人に伝える方法として多くのものが認められてはいるが、戸別訪問が直接に政治的意見を伝えることができるとともに、また選挙人側の意思も候補者に伝えられるという双方向的な伝達方法であることなどの長所をもつことを考えると、戸別訪問の禁止がただ一つの方法の禁止にすぎないからといつて、これをたやすく合憲であるとすることは適切ではない。
以上のように考えると、これまで戸別訪問の禁止を合憲とする根拠とされてきたものは、それぞれ一応の理由があり、これを総体的にとらえるとき、この禁止が合理性を欠くものではないといえるかもしれないが、それだけでは、なお合憲とする判断の根拠として説得力に富むものではない。戸別訪問は選挙という政治的な表現の自由が最も強く求められるところで、その伝達の手段としてすぐれた価値をもつものであり、これを禁止することによつて失われる利益は、議会制民主主義のもとでみのがすことができない。そうして、もし以上に挙げたような理由のみでもつて戸別訪問の禁止が憲法上許容されるとすると、その考え方は広く適用され、憲法21条による表現の自由の保障をいちじるしく弱めることになると思われる。
五 私は、以上に挙げられた諸理由は戸別訪問の禁止が合憲であることの論拠として補足的、附随的なものであり、むしろ他の点に重要な理由があると考える。選挙運動においては各候補者のもつ政治的意見が選挙人に対して自由に提示されなければならないのではあるが、それは、あらゆる言論が必要最少限度の制約のもとに自由に競いあう場ではなく、各候補者は選挙の公正を確保するために定められたルールに従つて運動するものと考えるべきである。法の定めたルールを各候補者が守ることによつて公正な選挙が行なわれるのであり、そこでは合理的なルールの設けられることが予定されている。このルールの内容をどのようなものとするかについては立法政策に委ねられている範囲が広く、それに対しては必要最少限度の制約のみが許容されるという合憲のための厳格な基準は適用されないと考える。憲法47条は、国会議員の選挙に関する事項は法律で定めることとしているが、これは、選挙運動のルールについて国会の立法の裁量の余地の広いという趣旨を含んでいる。国会は、選挙区の定め方、投票の方法、わが国における選挙の実態など諸般の事情を考慮して選挙運動のルールを定めうるのであり、これが合理的とは考えられないような特段の事情のない限り、国会の定めるルールは各候補者の守るべきものとして尊重されなければならない。この立場にたつと、戸別訪問には前記のような諸弊害を伴うことをもつて表現の自由の制限を合憲とするために必要とされる厳格な基準に合致するとはいえないとしても、それらは、戸別訪問が合理的な理由に基づいて禁止されていることを示すものといえる。したがつて、その禁止が立法の裁量権の範囲を逸脱し憲法に違反すると判断すべきものとは考えられない。もとより戸別訪問の禁止が立法政策として妥当であるかどうかは考慮の余地があるが(第7次の選挙制度審議会では、人数、時間、場所、退去義務などの規制をするとともに、戸別訪問の禁止を原則として撤廃すべしとする意見がつよかつた)、これは、その禁止が憲法に反するかどうかとは別問題である。」(伊藤正己裁判官の補足意見)
二 選挙運動としての戸別訪問は、わが国において大正14年の普通選挙制の実施以来禁止されてきている。戦後の公職選挙法の制定に際し、その禁止の一部が緩和され、「公職の候補者が親族、平素親交の間柄にある知己その他密接な間柄にある者を訪問することは、この限りでない」という但し書が付加されたが、脱法行為の弊害が生じたとして昭和27年の改正によつて削除され(昭和27年法律第307号)、全面的な禁止が復活して今日に至つている。なお、その禁止の違反に対しては、刑事罰による制裁が科せられるというきびしい禁止措置がとられている(公職選挙法239条)。周知のように、欧米の議会制民主主義国にあつては、戸別訪問は禁止されていないのみではなく、むしろそれは、候補者と選挙人が直接に接触し、候補者はその政策を伝え、選挙人も候補者の識見、人物などを直接に知りうる機会を与えるものとして最も有効適切な選挙運動の方法であると評価されている。選挙運動としての戸別訪問が種々の長所をもつことは否定することができないし、また選挙という主権者である国民の直接の政治参加の場において、政治的意見を表示し伝達する有効な手段である戸別訪問を禁止することが、憲法の保障する表現の自由にとつて重大な制約として、それが違憲となるのではないかという問題を生ずるのも当然といえよう。
三 それでは戸別訪問が憲法に違反しないという論拠をどこに求めるべきであるか。この点について次ぎのようなものがあげられる。すなわち(1)戸別訪問は買収、利益誘導等の不正行為の温床となり易く、選挙の公正を損うおそれの大きいこと、(2)選挙人の生活の平穏を害して迷惑を及ぼすこと、(3)候補者にとつて煩に堪えない選挙運動であり、また多額の出資を余儀なくされること、(4)投票が情実に流され易くなること、(5)戸別訪問の禁止は意見の表明そのものを抑止するものではなく、意見表明のための一つの手段を禁止するものにすぎないのであり、以上にあげたような戸別訪問に伴う弊害を全体として考慮するとき、その禁止も憲法上許容されるものと解されること、がそれである(最高裁昭和55年(あ)第874号同56年6月15日第二小法廷判決参照)。
四 以上のような諸理由はそれぞれに是認できないものではなく、単に公共の福祉にもとづく制限であるというのに比してはるかに説得力に富むものではあるが、私見によれば、それらをもつて直ちに十分な合憲の理由とするに足りないと思われる。
(1)戸別訪問は買収や利益誘導のような不正行為を誘発する機会となり易く、実質的に選挙の公正を害する選挙運動を生みだす危検性をもつことは容認できる。とくにわが国の現状をみると、戸別訪問が実質的な不正行為の温床となるということを、安易に却けることができないと考えられる。戸別訪問は随伴するとみられる弊害として右にあげたものを多少とも生みだすおそれがあり、かつ戦前には戸別訪問とともに禁止されていた個々面接や電話による選挙運動が現行法上は許されているのは、それらが買収などを誘発する危険性がほとんどないことに基づくことを考えると、戸別訪問の禁止の最も重要な理由はこの点にあると思われる。
しかしながら、戸別訪問はそれ自身として違法性をもつものではなく、買収などを誘発する可能性があるといつても、なお抽象的な危険があるにとどまり、実際にはそのようなおそれのない場合があるし、かりにその可能性があるとしても、不正行為の発生の確率の高いものとは必ずしもいえない。憲法上の重要な価値をもつ表現の自由をこのような害悪発生のおそれがあるということでもつて一律に制限をすることはできないと思われる。また、具体的な危険の発生が推認されるときはともかく、単に観念上危険があると考えられるにすぎない場合に、表現の自由の行使を形式犯として刑罰を科することには、憲法上のみならず刑法理論としても問題があると思われる。
(2)戸別訪問が、それをうけることを欲しない選挙人にとつて迷惑感がつよく、その平穏な生活を害することはたしかである。とくにわが国における選挙人の通常の意識からみて、これを私生活の妨害と考える程度は少なくないと思われる。しかし、営利目的などでの訪問ではなく、選挙運動としての訪問は、それが議会制民主政治においてもつ意義の大きいことからみて、選挙人において受忍すべき範囲が広いと考えられるし、選挙人への迷惑を少なくするために訪問の時間や方法に合理的な制限を加えることが許されるとしても、私生活の平穏の保持の必要ということは、一律に戸別訪問を禁止することの理由として十分とはいえない。
(3)戸別訪問を許すと、各候補者は相互に競つて多くの選挙人を訪問せざるをえなくなり、その選挙運動が煩に堪えなくなるということもありうるかもしれない。しかし、これは候補者にとつての利便の問題であり、選挙人にとつて有益な判断資料を与えるという有効な手段が候補者側の利便によつて制限されることは適当ではない。また戸別訪問が選挙の費用を多額なものとするともいわれるが、かりにそうであつたとしても、それは法定費用の制限をもつて抑えるべきものであるし、およそ戸別訪問は最も簡便で、選挙費用に乏しい候補者が利用できる方法であるという面ももつていることをみのがしえない。
(4)戸別訪問は、前記のように、選挙人が候補者側と直接に接触してその政策や人格識見を知りうるという長所をもつが、わが国の国民の政治意識がいまもなお高くないことから、実際には、政策や識見よりも、義理や人情に訴えることとなり、投票が情実に流されるおそれのあることもまた否定できない。選挙運動の手段を法が定めるにあたつて、いたずらに理想を追うのではなく、実態を考慮にいれなければならないことはたしかである。
しかし、このことを理由として戸別訪問を一律に禁止することは、投票が情実に左右されるという消極的側面を余りに重視しすぎることになるのみでなく、それは単に推認によつてそのような危険性があるというにとどまり、厳密な事実上の論証があるとは必ずしもいえない。そのようなおそれがあるというのみでは,選挙における表現の自由を制約する根拠として十分とはいえないと思われる。
(5)表現の自由を制約する場合、表現そのものを抑止することよりも、表現の自由の行使の時、場所、方法を規制することは、その制約の程度が大きくなく、したがつて憲法上前者が合憲とされるためにはきびしい基準に適合する必要があるのに反して、後者はそれに比してやや緩やかな基準に合致するをもつて足りると考えられる。しかし、表現の自由の制約は、多くの場合に、後者の手段によつてされるのであり、これが単に合理的なものであれば許容されると解されるのであれば、表現の自由の制約が広く許されることになり、正当な解釈とはいえない。表現の自由の行使の一つの方法が禁止されたときも、その表現を他の方法によつて伝達することは可能であるが、禁止された方法がその表現の伝達にとつて有効適切なものであり、他の方法ではその効果を挙げえない場合には、その禁止は、実質的にみて表現の自由を大幅に制限することとなる。たしかに選挙運動において候補者の政策を選挙人に伝える方法として多くのものが認められてはいるが、戸別訪問が直接に政治的意見を伝えることができるとともに、また選挙人側の意思も候補者に伝えられるという双方向的な伝達方法であることなどの長所をもつことを考えると、戸別訪問の禁止がただ一つの方法の禁止にすぎないからといつて、これをたやすく合憲であるとすることは適切ではない。
以上のように考えると、これまで戸別訪問の禁止を合憲とする根拠とされてきたものは、それぞれ一応の理由があり、これを総体的にとらえるとき、この禁止が合理性を欠くものではないといえるかもしれないが、それだけでは、なお合憲とする判断の根拠として説得力に富むものではない。戸別訪問は選挙という政治的な表現の自由が最も強く求められるところで、その伝達の手段としてすぐれた価値をもつものであり、これを禁止することによつて失われる利益は、議会制民主主義のもとでみのがすことができない。そうして、もし以上に挙げたような理由のみでもつて戸別訪問の禁止が憲法上許容されるとすると、その考え方は広く適用され、憲法21条による表現の自由の保障をいちじるしく弱めることになると思われる。
五 私は、以上に挙げられた諸理由は戸別訪問の禁止が合憲であることの論拠として補足的、附随的なものであり、むしろ他の点に重要な理由があると考える。選挙運動においては各候補者のもつ政治的意見が選挙人に対して自由に提示されなければならないのではあるが、それは、あらゆる言論が必要最少限度の制約のもとに自由に競いあう場ではなく、各候補者は選挙の公正を確保するために定められたルールに従つて運動するものと考えるべきである。法の定めたルールを各候補者が守ることによつて公正な選挙が行なわれるのであり、そこでは合理的なルールの設けられることが予定されている。このルールの内容をどのようなものとするかについては立法政策に委ねられている範囲が広く、それに対しては必要最少限度の制約のみが許容されるという合憲のための厳格な基準は適用されないと考える。憲法47条は、国会議員の選挙に関する事項は法律で定めることとしているが、これは、選挙運動のルールについて国会の立法の裁量の余地の広いという趣旨を含んでいる。国会は、選挙区の定め方、投票の方法、わが国における選挙の実態など諸般の事情を考慮して選挙運動のルールを定めうるのであり、これが合理的とは考えられないような特段の事情のない限り、国会の定めるルールは各候補者の守るべきものとして尊重されなければならない。この立場にたつと、戸別訪問には前記のような諸弊害を伴うことをもつて表現の自由の制限を合憲とするために必要とされる厳格な基準に合致するとはいえないとしても、それらは、戸別訪問が合理的な理由に基づいて禁止されていることを示すものといえる。したがつて、その禁止が立法の裁量権の範囲を逸脱し憲法に違反すると判断すべきものとは考えられない。もとより戸別訪問の禁止が立法政策として妥当であるかどうかは考慮の余地があるが(第7次の選挙制度審議会では、人数、時間、場所、退去義務などの規制をするとともに、戸別訪問の禁止を原則として撤廃すべしとする意見がつよかつた)、これは、その禁止が憲法に反するかどうかとは別問題である。」(伊藤正己裁判官の補足意見)
過去問・解説
(H19 司法 第7問 小問2第2肢改題)
「選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって戸別訪問をすること」を処罰する公職選挙法の規定が憲法第21条に違反しないとした判決の解釈手法は、泉佐野市市民会館事件判決(最判平成7年3月7日)の「このように限定して解する限り、当該規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法第21条に違反するものではない。」との解釈手法と同様である。
「選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって戸別訪問をすること」を処罰する公職選挙法の規定が憲法第21条に違反しないとした判決の解釈手法は、泉佐野市市民会館事件判決(最判平成7年3月7日)の「このように限定して解する限り、当該規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法第21条に違反するものではない。」との解釈手法と同様である。
(正答) ✕
(解説)
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)には明示的には言及していないものの、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払基準に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、泉佐野市民会館事件判決(最判平7.3.7)と異なり合憲限定解釈は用いていない。
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)には明示的には言及していないものの、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払基準に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、泉佐野市民会館事件判決(最判平7.3.7)と異なり合憲限定解釈は用いていない。
(H26 共通 第13問 ア)
公職選挙法は、投票を得るなどの目的で戸別訪問をすること自体を禁止しているが、選挙運動の重要性に照らすと、その禁止の範囲は憲法に適合するよう限定して解釈しなければならない。
公職選挙法は、投票を得るなどの目的で戸別訪問をすること自体を禁止しているが、選挙運動の重要性に照らすと、その禁止の範囲は憲法に適合するよう限定して解釈しなければならない。
(正答) ✕
(解説)
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、泉佐野市民会館事件判決(最判平7.3.7)と異なり合憲限定解釈は用いていない。
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、泉佐野市民会館事件判決(最判平7.3.7)と異なり合憲限定解釈は用いていない。
(R1 共通 第5問 イ)
公職選挙法第138条第1項は、選挙に関し、投票を得るなどの目的をもって「戸別訪問をすること」を禁止しているところ、戸別訪問は、容易に他の方法により代替され得るものではなく、通常、それ自体何らの悪性を有するものでもないから、その規制の合憲性を判断するに当たっては、他に目的を達成することができるより狭い範囲の規制方法があるか否かを検討すべきである。
公職選挙法第138条第1項は、選挙に関し、投票を得るなどの目的をもって「戸別訪問をすること」を禁止しているところ、戸別訪問は、容易に他の方法により代替され得るものではなく、通常、それ自体何らの悪性を有するものでもないから、その規制の合憲性を判断するに当たっては、他に目的を達成することができるより狭い範囲の規制方法があるか否かを検討すべきである。
(正答) ✕
(解説)
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、LRAの審査は行っていない。
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、LRAの審査は行っていない。
(R5 共通 第12問 イ)
戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害を防止し、もって選挙の自由と公正を確保することを目的としている。こうしたことから、公職選挙法の戸別訪問禁止規定は、公正な選挙の実施に対する明白かつ現在の危険をもたらす戸別訪問のみを禁止する規定として限定して解釈される限りで合憲となる。
戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害を防止し、もって選挙の自由と公正を確保することを目的としている。こうしたことから、公職選挙法の戸別訪問禁止規定は、公正な選挙の実施に対する明白かつ現在の危険をもたらす戸別訪問のみを禁止する規定として限定して解釈される限りで合憲となる。
(正答) ✕
(解説)
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、泉佐野市民会館事件判決(最判平7.3.7)と異なり合憲限定解釈は用いていない。
戸別訪問禁止事件判決(最判昭56.6.15)は、戸別訪問禁止の憲法21条1項適合性について、①禁止の目的、②目的と手段との間の合理的関連性、③利益の均衡の3つから判断するという、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)に大きく依拠した判断基準を用いて判断をしており、泉佐野市民会館事件判決(最判平7.3.7)と異なり合憲限定解釈は用いていない。
総合メモ
連座制 最一小判平成9年3月13日
概要
連座制を定めた公職選挙法251条の3の規定は、憲法前文、1条、15条、21条及び31条に違反するものではない。
判例
事案:公職選挙法251条の3は、組織的選挙運動管理者等の選挙犯罪による公職の候補者等であつた者の当選無効及び立候補の禁止(いわゆる「連座制」)を定めている。本事件では、連座制の合憲性が問題となった。
判旨:「公職選挙法(以下「法」という。)251条の3第1項は、同項所定の組織的選挙運動管理者等が、買収等の所定の選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられた場合に、当該候補者等であった者の当選を無効とし、かつ、これらの者が法251条の5に定める時から5年間当該選挙に係る選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)において行われる当該公職に係る選挙に立候補することを禁止する旨を定めている。右規定は、いわゆる連座の対象者を選挙運動の総括主宰者等重要な地位の者に限っていた従来の連座制ではその効果が乏しく選挙犯罪を十分抑制することができなかったという我が国における選挙の実態にかんがみ、公明かつ適正な公職選挙を実現するため、公職の候補者等に組織的選挙運動管理者等が選挙犯罪を犯すことを防止するための選挙浄化の義務を課し、公職の候補者等がこれを防止するための注意を尽くさず選挙浄化の努力を怠ったときは、当該候補者等個人を制裁し、選挙の公明、適正を回復するという趣旨で設けられたものと解するのが相当である。法251条の3の規定は、このように、民主主義の根幹をなす公職選挙の公明、適正を厳粛に保持するという極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。また、右規定は、組織的選挙運動管理者等が買収等の悪質な選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられたときに限って連座の効果を生じさせることとして、連座制の適用範囲に相応の限定を加え、立候補禁止の期間及びその対象となる選挙の範囲も前記のとおり限定し、さらに、選挙犯罪がいわゆるおとり行為又は寝返り行為によってされた場合には免責することとしているほか、当該候補者等が選挙犯罪行為の発生を防止するため相当の注意を尽くすことにより連座を免れることのできるみちも新たに設けているのである。そうすると、このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。したがって、法251条の3の規定は、憲法前文、1条、15条、21条及び31条に違反するものではない。」
判旨:「公職選挙法(以下「法」という。)251条の3第1項は、同項所定の組織的選挙運動管理者等が、買収等の所定の選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられた場合に、当該候補者等であった者の当選を無効とし、かつ、これらの者が法251条の5に定める時から5年間当該選挙に係る選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)において行われる当該公職に係る選挙に立候補することを禁止する旨を定めている。右規定は、いわゆる連座の対象者を選挙運動の総括主宰者等重要な地位の者に限っていた従来の連座制ではその効果が乏しく選挙犯罪を十分抑制することができなかったという我が国における選挙の実態にかんがみ、公明かつ適正な公職選挙を実現するため、公職の候補者等に組織的選挙運動管理者等が選挙犯罪を犯すことを防止するための選挙浄化の義務を課し、公職の候補者等がこれを防止するための注意を尽くさず選挙浄化の努力を怠ったときは、当該候補者等個人を制裁し、選挙の公明、適正を回復するという趣旨で設けられたものと解するのが相当である。法251条の3の規定は、このように、民主主義の根幹をなす公職選挙の公明、適正を厳粛に保持するという極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。また、右規定は、組織的選挙運動管理者等が買収等の悪質な選挙犯罪を犯し禁錮以上の刑に処せられたときに限って連座の効果を生じさせることとして、連座制の適用範囲に相応の限定を加え、立候補禁止の期間及びその対象となる選挙の範囲も前記のとおり限定し、さらに、選挙犯罪がいわゆるおとり行為又は寝返り行為によってされた場合には免責することとしているほか、当該候補者等が選挙犯罪行為の発生を防止するため相当の注意を尽くすことにより連座を免れることのできるみちも新たに設けているのである。そうすると、このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。したがって、法251条の3の規定は、憲法前文、1条、15条、21条及び31条に違反するものではない。」
過去問・解説
(R4 共通 第13問 ウ)
組織的選挙運動管理者等が、買収等所定の選挙犯罪を犯して禁錮以上の刑に処せられた場合に、公職の候補者等であった者の当選を無効とし、かつ、これらの者が5年間当該選挙に係る選挙区において行われる当該公職に係る選挙に立候補することを禁止する旨を定めた公職選挙法の規定は、民主主義の根幹をなす公職選挙の公正を保持する極めて重要な法益を実現するための規定であり、立法目的は合理的であるとともに、立法目的を達成する手段として必要かつ合理的なものといえるから、憲法第15条に違反しない。
組織的選挙運動管理者等が、買収等所定の選挙犯罪を犯して禁錮以上の刑に処せられた場合に、公職の候補者等であった者の当選を無効とし、かつ、これらの者が5年間当該選挙に係る選挙区において行われる当該公職に係る選挙に立候補することを禁止する旨を定めた公職選挙法の規定は、民主主義の根幹をなす公職選挙の公正を保持する極めて重要な法益を実現するための規定であり、立法目的は合理的であるとともに、立法目的を達成する手段として必要かつ合理的なものといえるから、憲法第15条に違反しない。
(正答) 〇
(解説)
判例(最判平9.3.13)は、連座制について、「法251条の3の規定は、このように、民主主義の根幹をなす公職選挙の公明、適正を厳粛に保持するという極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。」、「このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。」としている。
判例(最判平9.3.13)は、連座制について、「法251条の3の規定は、このように、民主主義の根幹をなす公職選挙の公明、適正を厳粛に保持するという極めて重要な法益を実現するために定められたものであって、その立法目的は合理的である。」、「このような規制は、これを全体としてみれば、前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものというべきである。」としている。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判昭和60年7月17日
概要
①本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。
②本件は、一般的な法の基本原則(事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項))に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である。
②本件は、一般的な法の基本原則(事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項))に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である。
判例
事案:昭和58年12月18日に実施された衆議院議員選挙において、本件選挙当時、選挙区間における議員1人あたりの選挙人数につき最大1対4.40の較差が生じていたことが憲法14条1項に違反するかが問題となった。
判旨:「一 選挙権の平等と選挙制度
1 憲法14条1項の規定は、国会を構成する衆議院及び参議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず(44条但し書)、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきである。
2 議会制民主主義の下における選挙制度は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることを目的としつつ、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、各国の実情に即して決定されるべきものであり、そこには普遍的に妥当する一定の形態が存在するというものではない。日本国憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのであるから(43条、47条)、投票価値の平等は、憲法上、右選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準となるものではなく、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
それゆえ、国会が定めた具体的な選挙制度の仕組みの下において投票価値の不平等が存する場合に、それが憲法上の投票価値の平等の要求に反しないかどうかを判定するには、憲法上の投票価値の平等の要求と前記の選挙制度の目的とに照らし、右不平等が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得る範囲内にとどまるものであるかどうかにつき、検討を加えなければならない。
3 衆議院議員の選挙の制度につき、公職選挙法がその制定以来いわゆる中選挙区単記投票制を採用しているのは、候補者と地域住民との密接な関係を考慮し、また、原則として選挙人の多数の意思の反映を確保しながら、少数者の意思を代表する議員の選出をも可能ならしめようとする趣旨に出たものと考えられる。このような制度の下において、選挙区割と議員定数の配分を決定するについては,選挙人数と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるというべきであるが、それ以外にも考慮されるべきものとして、都道府県、市町村等の行政区画、地理的状況等の諸般の事情が存在するのみならず、人口の都市集中化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割や議員定数の配分にどのように反映させるかということも考慮されるべき要素の一つであり、このように、選挙区割と議員定数の配分の具体的決定には、種々の政策的及び技術的考慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについて客観的基準が存在するものでもないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによつて決するほかはない。
右の見地に立つて考えても、公職選挙法の制定又はその改正により具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の異動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないものというべきである。
もつとも、制定又は改正の当時合憲であつた議員定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は人口(この両者はおおむね比例するものとみて妨げない。)の較差がその後の人口の異動によつて拡大し、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて直ちに当該議員定数配分規定が憲法に違反するとすべきものではなく、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないとき初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。
4 また、議員定数配分規定そのものの違憲を理由とする選挙の効力に関する訴訟は、公職選挙法204条の規定に基づいてこれを提起することができるものと解すべきである。
二 本件議員定数配分規定の合憲性
判旨:「一 選挙権の平等と選挙制度
1 憲法14条1項の規定は、国会を構成する衆議院及び参議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず(44条但し書)、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきである。
2 議会制民主主義の下における選挙制度は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることを目的としつつ、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、各国の実情に即して決定されるべきものであり、そこには普遍的に妥当する一定の形態が存在するというものではない。日本国憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのであるから(43条、47条)、投票価値の平等は、憲法上、右選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準となるものではなく、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
それゆえ、国会が定めた具体的な選挙制度の仕組みの下において投票価値の不平等が存する場合に、それが憲法上の投票価値の平等の要求に反しないかどうかを判定するには、憲法上の投票価値の平等の要求と前記の選挙制度の目的とに照らし、右不平等が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得る範囲内にとどまるものであるかどうかにつき、検討を加えなければならない。
3 衆議院議員の選挙の制度につき、公職選挙法がその制定以来いわゆる中選挙区単記投票制を採用しているのは、候補者と地域住民との密接な関係を考慮し、また、原則として選挙人の多数の意思の反映を確保しながら、少数者の意思を代表する議員の選出をも可能ならしめようとする趣旨に出たものと考えられる。このような制度の下において、選挙区割と議員定数の配分を決定するについては,選挙人数と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるというべきであるが、それ以外にも考慮されるべきものとして、都道府県、市町村等の行政区画、地理的状況等の諸般の事情が存在するのみならず、人口の都市集中化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割や議員定数の配分にどのように反映させるかということも考慮されるべき要素の一つであり、このように、選挙区割と議員定数の配分の具体的決定には、種々の政策的及び技術的考慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについて客観的基準が存在するものでもないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによつて決するほかはない。
右の見地に立つて考えても、公職選挙法の制定又はその改正により具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の異動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないものというべきである。
もつとも、制定又は改正の当時合憲であつた議員定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は人口(この両者はおおむね比例するものとみて妨げない。)の較差がその後の人口の異動によつて拡大し、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて直ちに当該議員定数配分規定が憲法に違反するとすべきものではなく、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないとき初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。
4 また、議員定数配分規定そのものの違憲を理由とする選挙の効力に関する訴訟は、公職選挙法204条の規定に基づいてこれを提起することができるものと解すべきである。
二 本件議員定数配分規定の合憲性
1 本件選挙が依拠した公職選挙法13条1項、同法別表第1、同法附則7ないし9項の議員定数配分規定(以下「本件議員定数配分規定」という。)は、昭和50年法律第63号(以下「昭和50年改正法」という。)による改正にかかるものであるが、右改正の結果、昭和45年10月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は最大1対4.83…から1対2.92に縮小したところ、昭和55年6月施行の衆議院議員選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差は最大1対3.94に達し(以上につき昭和58年大法廷判決参照)、更に本件選挙当時においては、右較差が最大1対4.40に拡大するに至つたことは、原審の適法に確定するところである。
本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、選挙区の選挙人数又は人口と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる衆議院議員の選挙の制度の下で、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものというべきであり、また、公職選挙法制定後に行われた議員定数配分規定のいずれかの改正の際に、選挙制度の仕組みに変更を加え、その結果、投票価値の不平等が合理性を有するものと考えられるような改正が行われたものとみることができないことは、昭和58年大法廷判決の打示するとおりであつて、他に、前記投票価値の不平等を正当化すべき特別の理由を見出すことはできない。したがつて、本件選挙当時において選挙区間に存した投票価値の不平等状態は、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべきである。
2 選挙区間における議員一人当たりの人口又は選挙人数の較差は、昭和50年改正法による改正の結果最大1対2.92に縮小することとなつたものが、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時においては最大1対3.94に、更に本件選挙当時においては最大1対4.40に拡大するに至つたことは前記のとおりであるが、このように右較差が拡大したのは漸次的に生じた人口の異動によるものと推認することができる。
そして、昭和50年改正法による改正の結果、従前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は、一応解消されたものと評価することができるものというべきであるが(昭和58年大法廷判決参照)、その後、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時における前記1対3.94の較差は選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものであり、右選挙時を基準としてある程度以前において右較差の拡大による投票価値の不平等状態が選挙権の平等の要求に反する程度に達していたと認められることは、先に昭和58年大法廷判決の指摘したとおりである。のみならず、右選挙当時から本件選挙当時まで右較差が漸次拡大の一途をたどつていたことは、毎年九月現在の選挙人名簿登録者数などによつて周知のところである。しかるに本件において、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達した時から本件選挙までの間に右較差の是正が何ら行われることがなかつたことは、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達したかどうかの判定は国会の裁量権の行使として許容される範囲内のものであるかどうかという困難な点にかかるものである等のことを考慮しても、なお憲法上要求される合理的期間内の是正が行われなかつたものと評価せざるを得ない。したがつて、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。
そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。
三 本件選挙の効力
以上のように、本件議員定数配分規定は本件選挙当時全体として違憲であるが、これに基づいて行われた選挙の効力については、更に考慮を要する。
およそ公職選挙法204条の訴訟において請求認容の判決がされたときは、当該選挙は無効となり、直ちに法定期間内の再選挙が施行されて違法状態が是正されることになるのであるが、議員定数配分規定の違憲を理由とする同条の規定に基づく訴訟においては、当該選挙を無効とする判決をしても、直ちに再選挙施行の運びとなるわけではなく、憲法に適合する選挙を施行して違憲状態を是正するためには、議員定数配分規定の改正という別途の立法手続を要するのである。その意味において、かかる訴訟の判決については、一般の公職選挙法204条の訴訟のそれと別個の考慮を要するものというべきであり、かような見地からして、たとえ当該訴訟において議員定数配分規定が違憲と判断される場合においても、これに基づく選挙を常に無効とすべきものではない。すなわち、違憲の議員定数配分規定によつて選挙人の基本的権利である選挙権が制約されているという不利益など当該選挙の効力を否定しないことによる弊害、右選挙を無効とする判決の結果、議員定数配分規定の改正が当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われざるを得ないなど一時的にせよ憲法の予定しない事態が現出することによつてもたらされる不都合、その他諸般の事情を総合考察し、いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。そして、右のような見地に立つて本件についてみると、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差の推移は、前判示のとおりであり、右較差が漸次拡大の傾向をたどつていたことは、それまでの人口の動態等から十分予測可能なところであつて、決して予期し難い特殊事情に基づく結果ではなかつたことは否定できないが、他方、本件議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態が違憲の程度にあることを明示した昭和58年大法廷判決の言渡から本件選挙までの期間や本件選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の程度等本件に現れた諸般の事情を併せ考察すると、本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」
四 結論
以上の次第であるから、上記判示と同様の見解の下に、本件請求を棄却した上で、当該選挙区における本件選挙が違法であることを主文において宣言した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、その余の論点を含め、すべて採用することができない。」
本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、選挙区の選挙人数又は人口と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる衆議院議員の選挙の制度の下で、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものというべきであり、また、公職選挙法制定後に行われた議員定数配分規定のいずれかの改正の際に、選挙制度の仕組みに変更を加え、その結果、投票価値の不平等が合理性を有するものと考えられるような改正が行われたものとみることができないことは、昭和58年大法廷判決の打示するとおりであつて、他に、前記投票価値の不平等を正当化すべき特別の理由を見出すことはできない。したがつて、本件選挙当時において選挙区間に存した投票価値の不平等状態は、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべきである。
2 選挙区間における議員一人当たりの人口又は選挙人数の較差は、昭和50年改正法による改正の結果最大1対2.92に縮小することとなつたものが、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時においては最大1対3.94に、更に本件選挙当時においては最大1対4.40に拡大するに至つたことは前記のとおりであるが、このように右較差が拡大したのは漸次的に生じた人口の異動によるものと推認することができる。
そして、昭和50年改正法による改正の結果、従前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は、一応解消されたものと評価することができるものというべきであるが(昭和58年大法廷判決参照)、その後、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時における前記1対3.94の較差は選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものであり、右選挙時を基準としてある程度以前において右較差の拡大による投票価値の不平等状態が選挙権の平等の要求に反する程度に達していたと認められることは、先に昭和58年大法廷判決の指摘したとおりである。のみならず、右選挙当時から本件選挙当時まで右較差が漸次拡大の一途をたどつていたことは、毎年九月現在の選挙人名簿登録者数などによつて周知のところである。しかるに本件において、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達した時から本件選挙までの間に右較差の是正が何ら行われることがなかつたことは、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達したかどうかの判定は国会の裁量権の行使として許容される範囲内のものであるかどうかという困難な点にかかるものである等のことを考慮しても、なお憲法上要求される合理的期間内の是正が行われなかつたものと評価せざるを得ない。したがつて、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。
そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。
三 本件選挙の効力
以上のように、本件議員定数配分規定は本件選挙当時全体として違憲であるが、これに基づいて行われた選挙の効力については、更に考慮を要する。
およそ公職選挙法204条の訴訟において請求認容の判決がされたときは、当該選挙は無効となり、直ちに法定期間内の再選挙が施行されて違法状態が是正されることになるのであるが、議員定数配分規定の違憲を理由とする同条の規定に基づく訴訟においては、当該選挙を無効とする判決をしても、直ちに再選挙施行の運びとなるわけではなく、憲法に適合する選挙を施行して違憲状態を是正するためには、議員定数配分規定の改正という別途の立法手続を要するのである。その意味において、かかる訴訟の判決については、一般の公職選挙法204条の訴訟のそれと別個の考慮を要するものというべきであり、かような見地からして、たとえ当該訴訟において議員定数配分規定が違憲と判断される場合においても、これに基づく選挙を常に無効とすべきものではない。すなわち、違憲の議員定数配分規定によつて選挙人の基本的権利である選挙権が制約されているという不利益など当該選挙の効力を否定しないことによる弊害、右選挙を無効とする判決の結果、議員定数配分規定の改正が当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われざるを得ないなど一時的にせよ憲法の予定しない事態が現出することによつてもたらされる不都合、その他諸般の事情を総合考察し、いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。そして、右のような見地に立つて本件についてみると、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差の推移は、前判示のとおりであり、右較差が漸次拡大の傾向をたどつていたことは、それまでの人口の動態等から十分予測可能なところであつて、決して予期し難い特殊事情に基づく結果ではなかつたことは否定できないが、他方、本件議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態が違憲の程度にあることを明示した昭和58年大法廷判決の言渡から本件選挙までの期間や本件選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の程度等本件に現れた諸般の事情を併せ考察すると、本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」
四 結論
以上の次第であるから、上記判示と同様の見解の下に、本件請求を棄却した上で、当該選挙区における本件選挙が違法であることを主文において宣言した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、その余の論点を含め、すべて採用することができない。」
過去問・解説
(H24 司法 第18問 ア)
選挙権の平等に反する定数配分規定を是正するための合理的期間が経過したにもかかわらず、現行規定のままで選挙が施行された場合、判決確定により直ちに当該選挙を無効とすることが相当でないとみられるときは、選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するという内容の判決をすることも許される。
選挙権の平等に反する定数配分規定を是正するための合理的期間が経過したにもかかわらず、現行規定のままで選挙が施行された場合、判決確定により直ちに当該選挙を無効とすることが相当でないとみられるときは、選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するという内容の判決をすることも許される。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭60.7.17)は、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである…。」とする一方で、「いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである…。本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」としている。
判例(最大判昭60.7.17)は、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである…。」とする一方で、「いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである…。本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」としている。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判昭和51年4月14日
概要
①選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等も、憲法の要求するところである。
②憲法は、投票価値の平等についても、これをそれらの選挙制度の決定について国会が考慮すべき唯一絶対の基準としているわけではなく、国会は、衆議院及び参議院それぞれについて他に斟酌することのできる事項をも考慮して、公正かつ効果的な代表という目標を実現するために適切な選挙制度を具体的に決定することができる。
③本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲と断ぜられるべきものであった。
③本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲と断ぜられるべきものであった。
④「選挙区割及び議員定数の配分は不可分の一体をなすと考えられるから、議員定数の配分規定は、単に憲法に違反する不平等を招来している部分のみでなく、全体として違憲の瑕疵を帯びる。
⑤本件においては、事情判決の法理に従い、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、また、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。
⑤本件においては、事情判決の法理に従い、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、また、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。
判例
事案:昭和47年12月10日施行の衆議院議員選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対4.99の較差が生じていた。
判旨:①「憲法は、14条1項において、すべて国民は法の下に平等であると定め、一般的に平等の原理を宣明するとともに、政治の領域におけるその適用として、前記のように、選挙権について15条1項、3項、44条但し書の規定を設けている。これらの規定を通覧し、かつ、右15条1項等の規定が前述のような選挙権の平等の原則の歴史的発展の成果の反映であることを考慮するときは、憲法14条1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり、右15条1項等の各規定の文言上は単に選挙人資格における差別の禁止が定められているにすぎないけれども、単にそれだけにとどまらず、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところであると解するのが、相当である。」
②「しかしながら、右の投票価値の平等は、各投票が選挙の結果に及ぼす影響力が数字的に完全に同一であることまでも要求するものと考えることはできない。けだし、投票価値は、選挙制度の仕組みと密接に関連し、その仕組みのいかんにより、結果的に右のような投票の影響力に何程かの差異を生ずることがあるのを免れないからである。代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の事情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけのものではない。わが憲法もまた、右の理由から、国会両議院の議員の選挙については、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条2項、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。それ故、憲法は、前記投票価値の平等についても、これをそれらの選挙制度の決定について国会が考慮すべき唯一絶対の基準としているわけではなく、国会は、衆議院及び参議院それぞれについて他にしんしやくすることのできる事項をも考慮して、公正かつ効果的な代表という目標を実現するために適切な選挙制度を具体的に決定することができるのであり、投票価値の平等は、さきに例示した選挙制度のように明らかにこれに反するもの、その他憲法上正当な理由となりえないことが明らかな人種、信条、性別等による差別を除いては、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解されなければならない。もつとも、このことは、平等選挙権の一要素としての投票価値の平等が、単に国会の裁量権の行使の際における考慮事項の一つであるにとどまり、憲法上の要求としての意義と価値を有しないことを意味するものではない。投票価値の平等は、常にその絶対的な形における実現を必要とするものではないけれども、国会がその裁量によつて決定した具体的な選挙制度において現実に投票価値に不平等の結果が生じている場合には、それは、国会が正当に考慮することのできる重要な政策的目的ないしは理由に基づく結果として合理的に是認することができるものでなければならないと解されるのであり、その限りにおいて大きな意義と効果を有するのである。それ故、国会が衆議院及び参議院それぞれについて決定した具体的選挙制度は、それが憲法上の選挙権の平等の要求に反するものでないかどうかにつき、常に各別に右の観点からする吟味と検討を免れることができないというべきである。」
③「昭和47年12月10日の本件衆議院議員選挙当時においては、各選挙区の議員1人あたりの選挙人数と全国平均のそれとの偏差は、下限において47.30%、上限において162.87%となり、その開きは、約5対1の割合に達していた、というのである。このような事態を生じたのは、専ら前記改正後における人口の異動に基づくものと推定されるが、右の開きが示す選挙人の投票価値の不平等は、前述のような諸般の要素、特に右の急激な社会的変化に対応するについてのある程度の政策的裁量を考慮に入れてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているばかりでなく、これを更に超えるに至つているものというほかはなく、これを正当化すべき特段の理由をどこにも見出すことができない以上、本件議員定数配分規定の下における各選挙区の議員定数と人口数との比率の偏差は、右選挙当時には、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になつていたものといわなければならない。
しかしながら、右の理由から直ちに本件議員定数配分規定を憲法違反と断ずべきかどうかについては、更に考慮を必要とする。一般に、制定当時憲法に適合していた法律が、その後における事情の変化により、その合憲性の要件を欠くに至つたときは、原則として憲法違反の瑕疵を帯びることになるというべきであるが、右の要件の欠如が漸次的な事情の変化によるものである場合には、いかなる時点において当該法律が憲法に違反するに至つたものと断ずべきかについて慎重な考慮が払われなければならない。本件の場合についていえば、前記のような人口の異動は不断に生じ、したがって選挙区における人口数と議員定数との比率も絶えず変動するのに対し、選挙区割と議員定数の配分を頻繁に変更することは、必ずしも実際的ではなく、また、相当でもないことを考えると、右事情によつて具体的な比率の偏差が選挙権の平等の要求に反する程度となつたとしても、これによつて直ちに当該議員定数配分規定を憲法違反とすべきものではなく、人口の変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられるべきものと解するのが、相当である。この見地に立つて本件議員定数配分規定をみると、同規定の下における人口数と議員定数との比率上の著しい不均衡は、前述のように人口の漸次的異動によつて生じたものであつて、本件選挙当時における前記のような著しい比率の偏差から推しても、そのかなり以前から選挙権の平等の要求に反すると推定される程度に達していたと認められることを考慮し、更に、公選法自身その別表第1の末尾において同表はその施行後5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によつて更正するのを例とする旨を規定しているにもかかわらず、昭和39年の改正後本件選挙の時まで8年余にわたつてこの点についての改正がなんら施されていないことをしんしやくするときは、前記規定は、憲法の要求するところに合致しない状態になつていたにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかつたものと認めざるをえない。それ故、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲と断ぜられるべきものであつたというべきである。」
しかしながら、右の理由から直ちに本件議員定数配分規定を憲法違反と断ずべきかどうかについては、更に考慮を必要とする。一般に、制定当時憲法に適合していた法律が、その後における事情の変化により、その合憲性の要件を欠くに至つたときは、原則として憲法違反の瑕疵を帯びることになるというべきであるが、右の要件の欠如が漸次的な事情の変化によるものである場合には、いかなる時点において当該法律が憲法に違反するに至つたものと断ずべきかについて慎重な考慮が払われなければならない。本件の場合についていえば、前記のような人口の異動は不断に生じ、したがって選挙区における人口数と議員定数との比率も絶えず変動するのに対し、選挙区割と議員定数の配分を頻繁に変更することは、必ずしも実際的ではなく、また、相当でもないことを考えると、右事情によつて具体的な比率の偏差が選挙権の平等の要求に反する程度となつたとしても、これによつて直ちに当該議員定数配分規定を憲法違反とすべきものではなく、人口の変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられるべきものと解するのが、相当である。この見地に立つて本件議員定数配分規定をみると、同規定の下における人口数と議員定数との比率上の著しい不均衡は、前述のように人口の漸次的異動によつて生じたものであつて、本件選挙当時における前記のような著しい比率の偏差から推しても、そのかなり以前から選挙権の平等の要求に反すると推定される程度に達していたと認められることを考慮し、更に、公選法自身その別表第1の末尾において同表はその施行後5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によつて更正するのを例とする旨を規定しているにもかかわらず、昭和39年の改正後本件選挙の時まで8年余にわたつてこの点についての改正がなんら施されていないことをしんしやくするときは、前記規定は、憲法の要求するところに合致しない状態になつていたにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかつたものと認めざるをえない。それ故、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲と断ぜられるべきものであつたというべきである。」
④「そして、選挙区割及び議員定数の配分は、議員総数と関連させながら、前述のような複雑、微妙な考慮の下で決定されるのであつて、一旦このようにして決定されたものは、一定の議員総数の各選挙区への配分として、相互に有機的に関連し、一の部分における変動は他の部分にも波動的に影響を及ぼすべき性質を有するものと認められ、その意味において不可分の一体をなすと考えられるから、右配分規定は、単に憲法に違反する不平等を招来している部分のみでなく、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである。」
⑤「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時においては全体として違憲とされるべきものであつたが、しかし、これによつて本件選挙の効力がいかなる影響を受けるかについては、…右規定及びこれに基づく選挙を当然に無効であると解した場合、これによつて憲法に適合する状態が直ちにもたらされるわけではなく、かえつて、右選挙により選出された議員がすべて当初から議員としての資格を有しなかつたこととなる結果、すでに右議員によつて組織された衆議院の議決を経たうえで成立した法律等の効力にも問題が生じ、また、今後における衆議院の活動が不可能となり、前記規定を憲法に適合するように改正することさえもできなくなるという明らかに憲法の所期しない結果を生ずるのである。それ故、右のような解釈をとるべきでないことは、極めて明らかである。
そこで考えるのに、行政処分の適否を争う訴訟についての一般法である行政事件訴訟法は、31条1項前段において、当該処分が違法であつても、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合においては、諸般の事情に照らして右処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められる限り、裁判所においてこれを取り消さないことができることを定めている。この規定は法政策的考慮に基づいて定められたものではあるが、しかしそこには、行政処分の取消の場合に限られない一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられるのである。もつとも、行政事件訴訟法の右規定は、公選法の選挙の効力に関する訴訟についてはその準用を排除されているが(公選法219条)、これは、同法の規定に違反する選挙はこれを無効とすることが常に公共の利益に適合するとの立法府の判断に基づくものであるから、選挙が同法の規定に違反する場合に関する限りは、右の立法府の判断が拘束力を有し、選挙無効の原因が存在するにもかかわらず諸般の事情を考慮して選挙を無効としない旨の判決をする余地はない。しかしながら、本件のように、選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が法律の改正なくしては不可能である場合については、単なる公選法違反の個別的瑕疵を帯びるにすぎず、かつ、直ちに再選挙を行うことが可能な場合についてされた前記の立法府の判断は、必ずしも拘束力を有するものとすべきではなく、前記行政事件訴訟法の規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とすることによる不当な結果を回避する裁判をする余地もありうるものと解するのが、相当である。もとより、明文の規定がないのに安易にこのような法理を適用することは許されず、殊に憲法違反という重大な瑕疵を有する行為については、憲法98条2項の法意に照らしても、一般にその効力を維持すべきものではないが、しかし、このような行為についても、高次の法的見地から、右の法理を適用すべき場合がないとはいいきれないのである。
そこで本件について考えてみるのに、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたものであることは上記のとおりであるが、そのことを理由としてこれを無効とする判決をしても、これによつて直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえつて憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずることは、さきに述べたとおりである。これらの事情等を考慮するときは、本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。」
そこで考えるのに、行政処分の適否を争う訴訟についての一般法である行政事件訴訟法は、31条1項前段において、当該処分が違法であつても、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合においては、諸般の事情に照らして右処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認められる限り、裁判所においてこれを取り消さないことができることを定めている。この規定は法政策的考慮に基づいて定められたものではあるが、しかしそこには、行政処分の取消の場合に限られない一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられるのである。もつとも、行政事件訴訟法の右規定は、公選法の選挙の効力に関する訴訟についてはその準用を排除されているが(公選法219条)、これは、同法の規定に違反する選挙はこれを無効とすることが常に公共の利益に適合するとの立法府の判断に基づくものであるから、選挙が同法の規定に違反する場合に関する限りは、右の立法府の判断が拘束力を有し、選挙無効の原因が存在するにもかかわらず諸般の事情を考慮して選挙を無効としない旨の判決をする余地はない。しかしながら、本件のように、選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が法律の改正なくしては不可能である場合については、単なる公選法違反の個別的瑕疵を帯びるにすぎず、かつ、直ちに再選挙を行うことが可能な場合についてされた前記の立法府の判断は、必ずしも拘束力を有するものとすべきではなく、前記行政事件訴訟法の規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とすることによる不当な結果を回避する裁判をする余地もありうるものと解するのが、相当である。もとより、明文の規定がないのに安易にこのような法理を適用することは許されず、殊に憲法違反という重大な瑕疵を有する行為については、憲法98条2項の法意に照らしても、一般にその効力を維持すべきものではないが、しかし、このような行為についても、高次の法的見地から、右の法理を適用すべき場合がないとはいいきれないのである。
そこで本件について考えてみるのに、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたものであることは上記のとおりであるが、そのことを理由としてこれを無効とする判決をしても、これによつて直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえつて憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずることは、さきに述べたとおりである。これらの事情等を考慮するときは、本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。」
過去問・解説
(H18 司法 第9問 ア)
議員定数をどのように配分するかは、立法府である国会の権限に属する立法政策の問題であるが、衆議院議員選挙において、選挙区間の投票価値の格差により選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合には、例外的に、立法府の裁量の範囲を超えるものとして、憲法違反となる。
議員定数をどのように配分するかは、立法府である国会の権限に属する立法政策の問題であるが、衆議院議員選挙において、選挙区間の投票価値の格差により選挙人の選挙権の享有に極端な不平等を生じさせるような場合には、例外的に、立法府の裁量の範囲を超えるものとして、憲法違反となる。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、「投票価値の平等は、各投票が選挙の結果に及ぼす影響力が数字的に完全に同一であることまでも要求するものと考えることはできない。けだし、投票価値は、選挙制度の仕組みと密接に関連し、その仕組みのいかんにより、結果的に右のような投票の影響力に何程かの差異を生ずることがあるのを免れないからである。…わが憲法も…、国会両議院の議員の選挙については、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条2項、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。」とする一方で、「国会が衆議院及び参議院それぞれについて決定した具体的選挙制度は、それが憲法上の選挙権の平等の要求に反するものでないかどうかにつき、常に各別に右の観点からする吟味と検討を免れることができないというべきである。」としている。
判例(最大判昭51.4.14)は、「投票価値の平等は、各投票が選挙の結果に及ぼす影響力が数字的に完全に同一であることまでも要求するものと考えることはできない。けだし、投票価値は、選挙制度の仕組みと密接に関連し、その仕組みのいかんにより、結果的に右のような投票の影響力に何程かの差異を生ずることがあるのを免れないからである。…わが憲法も…、国会両議院の議員の選挙については、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条2項、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。」とする一方で、「国会が衆議院及び参議院それぞれについて決定した具体的選挙制度は、それが憲法上の選挙権の平等の要求に反するものでないかどうかにつき、常に各別に右の観点からする吟味と検討を免れることができないというべきである。」としている。
(H18 司法 第9問 イ)
衆議院議員選挙において、選挙区間の投票価値の最大格差が3倍を超える場合には、憲法の要求する投票価値の平等に反する程度に至っているといえるが、必ずしもそれだけでは、当該議員定数配分規定が憲法に違反しているということまではできない。
衆議院議員選挙において、選挙区間の投票価値の最大格差が3倍を超える場合には、憲法の要求する投票価値の平等に反する程度に至っているといえるが、必ずしもそれだけでは、当該議員定数配分規定が憲法に違反しているということまではできない。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、選挙区間での投票価値の最大格差が約5倍に達していた事案において、「本件議員定数配分規定の下における各選挙区の議員定数と人口数との比率の偏差は、右選挙当時には、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になつていたものといわなければならない。」とする一方で、「しかしながら、右の理由から直ちに本件議員定数配分規定を憲法違反と断ずべきかどうかについては、更に考慮を必要とする。」としている。
判例(最大判昭51.4.14)は、選挙区間での投票価値の最大格差が約5倍に達していた事案において、「本件議員定数配分規定の下における各選挙区の議員定数と人口数との比率の偏差は、右選挙当時には、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になつていたものといわなければならない。」とする一方で、「しかしながら、右の理由から直ちに本件議員定数配分規定を憲法違反と断ずべきかどうかについては、更に考慮を必要とする。」としている。
(H18 司法 第9問 エ)
議員定数配分規定が、憲法の要求する投票価値の平等に反し、違憲であると判断される場合、そのことを理由として当該規定に基づく選挙全体を無効としても、これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の所期するところに適合しない結果を生ずるから、行政事件訴訟法第31条の定める事情判決の制度を類推して、議席を過小に配分された選挙区の選挙のみを無効とすべきである。
議員定数配分規定が、憲法の要求する投票価値の平等に反し、違憲であると判断される場合、そのことを理由として当該規定に基づく選挙全体を無効としても、これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の所期するところに適合しない結果を生ずるから、行政事件訴訟法第31条の定める事情判決の制度を類推して、議席を過小に配分された選挙区の選挙のみを無効とすべきである。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項前段)に言及した上で、「本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。」としており、「議席を過小に配分された選挙区の選挙のみを無効とすべき」(本肢)とは述べていない。
(H23 司法 第4問 ア)
憲法第14条第1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民は全て政治的価値において平等であるべきとする徹底した平等化を志向するものであり、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等も、憲法が要求するところである。
憲法第14条第1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民は全て政治的価値において平等であるべきとする徹底した平等化を志向するものであり、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等も、憲法が要求するところである。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、「憲法14条1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり、右15条1項等の各規定の文言上は単に選挙人資格における差別の禁止が定められているにすぎないけれども、単にそれだけにとどまらず、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところであると解するのが、相当である」としている。
判例(最大判昭51.4.14)は、「憲法14条1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり、右15条1項等の各規定の文言上は単に選挙人資格における差別の禁止が定められているにすぎないけれども、単にそれだけにとどまらず、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところであると解するのが、相当である」としている。
(H23 司法 第4問 イ)
議員定数配分に際しては、人口比例の原則が最も重要かつ基本的な基準ではあるが、投票価値の平等は、国会が正当に考慮することのできる他の政策的な目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり、国会の裁量権の行使の際における考慮要素にとどまる。
議員定数配分に際しては、人口比例の原則が最も重要かつ基本的な基準ではあるが、投票価値の平等は、国会が正当に考慮することのできる他の政策的な目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり、国会の裁量権の行使の際における考慮要素にとどまる。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、「憲法は、…投票価値の平等についても、これをそれらの選挙制度の決定について国会が考慮すべき唯一絶対の基準としているわけではなく、国会は、衆議院及び参議院それぞれについて他にしんしやくすることのできる事項をも考慮して、公正かつ効果的な代表という目標を実現するために適切な選挙制度を具体的に決定することができるのであり、投票価値の平等は、さきに例示した選挙制度のように明らかにこれに反するもの、その他憲法上正当な理由となりえないことが明らかな人種、信条、性別等による差別を除いては、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解されなければならない。」とする一方で、「もっとも、このことは、平等選挙権の一要素としての投票価値の平等が、単に国会の裁量権の行使の際における考慮事項の一つであるにとどまり、憲法上の要求としての意義と価値を有しないことを意味するものではない。」としている。
判例(最大判昭51.4.14)は、「憲法は、…投票価値の平等についても、これをそれらの選挙制度の決定について国会が考慮すべき唯一絶対の基準としているわけではなく、国会は、衆議院及び参議院それぞれについて他にしんしやくすることのできる事項をも考慮して、公正かつ効果的な代表という目標を実現するために適切な選挙制度を具体的に決定することができるのであり、投票価値の平等は、さきに例示した選挙制度のように明らかにこれに反するもの、その他憲法上正当な理由となりえないことが明らかな人種、信条、性別等による差別を除いては、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解されなければならない。」とする一方で、「もっとも、このことは、平等選挙権の一要素としての投票価値の平等が、単に国会の裁量権の行使の際における考慮事項の一つであるにとどまり、憲法上の要求としての意義と価値を有しないことを意味するものではない。」としている。
(H23 司法 第4問 ウ)
投票価値の不平等が、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達し、かつ、合理的期間内における是正が憲法上要求されているのに行われない場合、当該選挙は違憲無効となる。
投票価値の不平等が、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達し、かつ、合理的期間内における是正が憲法上要求されているのに行われない場合、当該選挙は違憲無効となる。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、「投票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきものであり、このような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはない。」、「合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられるべきものと解する。」としており、この点については、本肢は正しい。
しかし、判例は、事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項前段)に言及した上で、「本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。」としており、「当該選挙は…無効となる」(本肢)とまでは述べていない。この点について、本肢は誤っている。
判例(最大判昭51.4.14)は、「投票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきものであり、このような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはない。」、「合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられるべきものと解する。」としており、この点については、本肢は正しい。
しかし、判例は、事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項前段)に言及した上で、「本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。」としており、「当該選挙は…無効となる」(本肢)とまでは述べていない。この点について、本肢は誤っている。
(H26 司法 第17問 ア)
一般的な法の基本原則に基づくものとして事情判決の法理を適用して、選挙を無効とせず違法の宣言にとどめるのは、当該選挙を無効とすることによって憲法が所期していない結果を生じることを回避するためである。
一般的な法の基本原則に基づくものとして事情判決の法理を適用して、選挙を無効とせず違法の宣言にとどめるのは、当該選挙を無効とすることによって憲法が所期していない結果を生じることを回避するためである。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項前段)に言及した上で、「本件のように、選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が法律の改正なくしては不可能である場合については、単なる公選法違反の個別的瑕疵を帯びるにすぎず、かつ、直ちに再選挙を行うことが可能な場合についてされた前記の立法府の判断は、必ずしも拘束力を有するものとすべきではなく、前記行政事件訴訟法の規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とすることによる不当な結果を回避する裁判をする余地もありうるものと解するのが、相当である。…本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたものであること…を理由としてこれを無効とする判決をしても、これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずることは、さきに述べたとおりである。これらの事情等を考慮するときは、本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、…相当である。」としている。
判例(最大判昭51.4.14)は、事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項前段)に言及した上で、「本件のように、選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が法律の改正なくしては不可能である場合については、単なる公選法違反の個別的瑕疵を帯びるにすぎず、かつ、直ちに再選挙を行うことが可能な場合についてされた前記の立法府の判断は、必ずしも拘束力を有するものとすべきではなく、前記行政事件訴訟法の規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とすることによる不当な結果を回避する裁判をする余地もありうるものと解するのが、相当である。…本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたものであること…を理由としてこれを無効とする判決をしても、これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずることは、さきに述べたとおりである。これらの事情等を考慮するときは、本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、…相当である。」としている。
(H26 司法 第17問 イ)
定数配分規定の違憲判断を選挙の効力と結び付けず、訴訟が提起された選挙区の選挙だけを無効とする手法は、投票価値が不平等であるとされた選挙区からの代表者がいない状態で定数配分規定の是正が行われるという問題がある。
定数配分規定の違憲判断を選挙の効力と結び付けず、訴訟が提起された選挙区の選挙だけを無効とする手法は、投票価値が不平等であるとされた選挙区からの代表者がいない状態で定数配分規定の是正が行われるという問題がある。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時においては全体として違憲とされるべきものであったが、しかし、これによって本件選挙の効力がいかなる影響を受けるかについては、…右規定及びこれに基づく選挙を当然に無効であると解した場合、これによつて憲法に適合する状態が直ちにもたらされるわけではなく、かえって、右選挙により選出された議員がすべて当初から議員としての資格を有しなかったこととなる結果、すでに右議員によって組織された衆議院の議決を経たうえで成立した法律等の効力にも問題が生じ、また、今後における衆議院の活動が不可能となり、前記規定を憲法に適合するように改正することさえもできなくなるという明らかに憲法の所期しない結果を生ずるのである。それ故、右のような解釈をとるべきでないことは、極めて明らかである。」としている。
判例(最大判昭51.4.14)は、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時においては全体として違憲とされるべきものであったが、しかし、これによって本件選挙の効力がいかなる影響を受けるかについては、…右規定及びこれに基づく選挙を当然に無効であると解した場合、これによつて憲法に適合する状態が直ちにもたらされるわけではなく、かえって、右選挙により選出された議員がすべて当初から議員としての資格を有しなかったこととなる結果、すでに右議員によって組織された衆議院の議決を経たうえで成立した法律等の効力にも問題が生じ、また、今後における衆議院の活動が不可能となり、前記規定を憲法に適合するように改正することさえもできなくなるという明らかに憲法の所期しない結果を生ずるのである。それ故、右のような解釈をとるべきでないことは、極めて明らかである。」としている。
(H28 共通 第3問 イ)
選挙権の平等には各選挙人の投票価値の平等も含まれるが、国会によって定められた選挙制度における投票価値が不平等であっても、その不平等が国会の有する裁量権の行使として合理的と認められるのであれば、憲法第14条に違反しない。
選挙権の平等には各選挙人の投票価値の平等も含まれるが、国会によって定められた選挙制度における投票価値が不平等であっても、その不平等が国会の有する裁量権の行使として合理的と認められるのであれば、憲法第14条に違反しない。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、「選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところであると解するのが、相当である」とする一方で、「投票価値の平等は、常にその絶対的な形における実現を必要とするものではないけれども、国会がその裁量によって決定した具体的な選挙制度において現実に投票価値に不平等の結果が生じている場合には、それは、国会が正当に考慮することのできる重要な政策的目的ないしは理由に基づく結果として合理的に是認することができるものでなければならないと解されるのであり、その限りにおいて大きな意義と効果を有するのである。それ故、国会が衆議院及び参議院それぞれについて決定した具体的選挙制度は、それが憲法上の選挙権の平等の要求に反するものでないかどうかにつき、常に各別に右の観点からする吟味と検討を免れることができないというべきである」としている。
判例(最大判昭51.4.14)は、「選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところであると解するのが、相当である」とする一方で、「投票価値の平等は、常にその絶対的な形における実現を必要とするものではないけれども、国会がその裁量によって決定した具体的な選挙制度において現実に投票価値に不平等の結果が生じている場合には、それは、国会が正当に考慮することのできる重要な政策的目的ないしは理由に基づく結果として合理的に是認することができるものでなければならないと解されるのであり、その限りにおいて大きな意義と効果を有するのである。それ故、国会が衆議院及び参議院それぞれについて決定した具体的選挙制度は、それが憲法上の選挙権の平等の要求に反するものでないかどうかにつき、常に各別に右の観点からする吟味と検討を免れることができないというべきである」としている。
(R1 司法 第16問 イ)
衆議院の議員定数配分規定が選挙権の平等に反して違憲と判断された場合、行政事件訴訟法の事情判決の規定には、一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられ、公職選挙法も選挙関係訴訟については上記規定の準用を明示的に排除していないため、事情判決の法理により、その選挙の違法を主文で宣言することができる。
衆議院の議員定数配分規定が選挙権の平等に反して違憲と判断された場合、行政事件訴訟法の事情判決の規定には、一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられ、公職選挙法も選挙関係訴訟については上記規定の準用を明示的に排除していないため、事情判決の法理により、その選挙の違法を主文で宣言することができる。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭51.4.14)は、事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項前段)に言及した上で、「本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、…相当である。」としているが、「行政事件訴訟法の右規定は、公選法の選挙の効力に関する訴訟についてはその準用を排除されている…(公選法219条)」とも述べている。
したがって、本肢は、「公職選挙法も選挙関係訴訟については上記規定の準用を明示的に排除していない」としている点において、誤っている。
判例(最大判昭51.4.14)は、事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項前段)に言及した上で、「本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、…相当である。」としているが、「行政事件訴訟法の右規定は、公選法の選挙の効力に関する訴訟についてはその準用を排除されている…(公選法219条)」とも述べている。
したがって、本肢は、「公職選挙法も選挙関係訴訟については上記規定の準用を明示的に排除していない」としている点において、誤っている。
(R5 予備 第1問 ウ)
選挙権に関しては、憲法第14条第1項に定める法の下の平等は、国民はすべて政治的価値において平等であるべきとする徹底した平等化を志向するもので、各選挙人の投票の価値の平等も憲法の要求するところであるから、両議院の議員一人当たりの人口が最大の選挙区と最小の選挙区との間で、一票の重みの較差がおおむね2対1以上に開いた場合、投票価値の平等の要請に正面から反し、違憲といわざるを得ない。
選挙権に関しては、憲法第14条第1項に定める法の下の平等は、国民はすべて政治的価値において平等であるべきとする徹底した平等化を志向するもので、各選挙人の投票の価値の平等も憲法の要求するところであるから、両議院の議員一人当たりの人口が最大の選挙区と最小の選挙区との間で、一票の重みの較差がおおむね2対1以上に開いた場合、投票価値の平等の要請に正面から反し、違憲といわざるを得ない。
(正答) ✕
(解説)
議員定数不均衡訴訟判決(最大判昭51.4.14)は、選挙区間での投票価値の最大格差が約5倍に達していた事案ですら、「本件議員定数配分規定の下における各選挙区の議員定数と人口数との比率の偏差は、右選挙当時には、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になつていたものといわなければならない。」とする一方で、「しかしながら、右の理由から直ちに本件議員定数配分規定を憲法違反と断ずべきかどうかについては、更に考慮を必要とする。」としている。そうである以上、本肢のように、「一票の重みの較差がおおむね2対1以上に開いた場合、投票価値の平等の要請に正面から反し、違憲といわざるを得ない。」と解することはできない。
議員定数不均衡訴訟判決(最大判昭51.4.14)は、選挙区間での投票価値の最大格差が約5倍に達していた事案ですら、「本件議員定数配分規定の下における各選挙区の議員定数と人口数との比率の偏差は、右選挙当時には、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になつていたものといわなければならない。」とする一方で、「しかしながら、右の理由から直ちに本件議員定数配分規定を憲法違反と断ずべきかどうかについては、更に考慮を必要とする。」としている。そうである以上、本肢のように、「一票の重みの較差がおおむね2対1以上に開いた場合、投票価値の平等の要請に正面から反し、違憲といわざるを得ない。」と解することはできない。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判昭和58年4月27日
概要
昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対5.26の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対5.26の較差が生じていた。
判旨:①「議会制民主主義を採る我が憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であつて、憲法は、その重要性にかんがみ、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて選挙人の資格を差別してはならないものとしている(15条3項、44条)。そして、この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層のさまざまな利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによつてなんらかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねているのである。それゆえ、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしやくして、その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであつて、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り、それによつて右の投票価値の平等が損なわれることとなつても、やむをえないものと解すべきである。
以上は、最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決(民集30巻3号223頁)の趣旨とするところであつて、いまこれを変更する要をみない。」
②「以上のような見地に立つて、本件についてみるのに、公職選挙法は、参議院議員の選挙については、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員を全都道府県の区域を通じて選挙される全国選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選挙される地方選出議員とに区分している(4条2項、12条1項、2項、14条、別表第2)。そして、右地方選出議員の各選挙区ごとの議員定数を定めた本件参議院議員定数配分規定は、昭和46年法律第130号により沖縄の復帰に伴い新たに同県の地方選出議員の議員定数2人が付加されたほかは、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)別表の定めをそのまま維持したものであつて、その制定経過に徴すれば、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し、総定数152人のうち最小限の2人を47の各選挙区に配分した上、残余の58人については人口を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし6人の偶数の定数を付加配分したものであることが明らかである。
公職選挙法が参議院議員の選挙の仕組みについて右のような定めをした趣旨、目的については、結局、憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところから、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあつても、参議院議員については、衆議院議員とはその選出方法を異ならせることによつてその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、前記のように参議院議員を全国選出議員と地方選出議員とに分かち、前者については、全国を一選挙区として選挙させ特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによつて、事実上ある程度職能代表的な色彩が反映されることを図り、また、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。
そうであるとすれば、公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた前記のような選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとは断じえないのであつて、その当否は、専ら立法政策の問題にとどまるものというべきである。上告人らは、両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定めた憲法43条1項の規定は参議院地方選出議員の議員定数の各選挙区への配分についても厳格な人口比例主義を唯一の基準とすべきことを要求するものであり、右のように地域代表の要素を反映した定数配分は憲法の右規定に違反する旨主張するけれども、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであつて、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであるということを意味し、右規定が両議院の議員の選挙の仕組みについてなんらかの意味を有するとしても、全国を幾つかの選挙区に分けて選挙を行う場合には常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまで要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといつて、これによつて選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。
このように、公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組みが国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認しうるものである以上、その結果として、各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票の価値の平等がそれだけ損なわれることとなつたとしても、先に説示したとおり、これをもつて直ちに右の議員定数の配分の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。したがつて、本件参議院議員定数配分規定は、その制定当初の人口状態の下においては、憲法に適合したものであつたということができる。」
③「昭和52年7月10日の本件参議院議員選挙の当時においては、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が最大1対5・26に拡大し、また、選挙人数の多い選挙区の議員定数が選挙人数の少ない選挙区の議員定数よりも少なくなつているといういわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたことは、原審の確定するとおりであつて、その限りでは、当初における議員定数の配分の基準及び方法と右のような現実の配分の状況との間にそごを来していることは否定しえない。
しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあつて不断に生ずる人口の異動につき、その政治的意味をどのように評価し、政治における安定の要請をも考慮しながら、これをいつどのような形で選挙区割、議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるべきか、また、これらの選挙制度の仕組みの変更にあたつて予想される実際上の困難や弊害をどのような方法と過程によつて解決するかなどの問題は、いずれも複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであつて、その決定は、これらの変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられているところである。
したがつて、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法とこれらの状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが、前記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つて行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、参議院議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、また、参議院については解散を認めないものとするなど憲法の定める二院制の本旨にかんがみると、参議院地方選出議員については、選挙区割や議員定数の配分をより長期にわたつて固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として許容されると解されるところである。これに加えて、原審の認定する事実関係に徴すると、参議院地方選出議員の選挙について公職選挙法が採用した2人を最小限として偶数の定数配分を基本とする前記のような選挙制度の仕組みに従い、その全体の定数を増減しないまま本件参議院議員選挙当時の各選挙区の選挙人数又は人口に比例した議員定数の再配分を試みたとしても、なおかなり大きな較差が残るというのであつて、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図るにもおのずから限度があることは明らかである。そして、他方、本件参議院議員定数配分規定の下においては、前記のように、投票価値の平等の要求も、人口比例主義を基本として選挙区割及び議員定数の配分を定めた選挙制度の場合と同一に論じ難いことを考慮するときは、本件参議院議員選挙当時に選挙区間において議員一人当たりの選挙人数に前記のような較差があり、あるいはいわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたとしても、それだけではいまだ前記のような許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足らないものというべきである。したがつて、国会が本件参議院議員選挙当時までに地方選出議員の議員定数の配分を是正する措置を講じなかつたことをもつて、その立法裁量権の限界を超えるものとは断じえず、右選挙当時において本件参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至つていたものとすることはできない。」
判旨:①「議会制民主主義を採る我が憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であつて、憲法は、その重要性にかんがみ、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて選挙人の資格を差別してはならないものとしている(15条3項、44条)。そして、この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層のさまざまな利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによつてなんらかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねているのである。それゆえ、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしやくして、その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであつて、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り、それによつて右の投票価値の平等が損なわれることとなつても、やむをえないものと解すべきである。
以上は、最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決(民集30巻3号223頁)の趣旨とするところであつて、いまこれを変更する要をみない。」
②「以上のような見地に立つて、本件についてみるのに、公職選挙法は、参議院議員の選挙については、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員を全都道府県の区域を通じて選挙される全国選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選挙される地方選出議員とに区分している(4条2項、12条1項、2項、14条、別表第2)。そして、右地方選出議員の各選挙区ごとの議員定数を定めた本件参議院議員定数配分規定は、昭和46年法律第130号により沖縄の復帰に伴い新たに同県の地方選出議員の議員定数2人が付加されたほかは、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)別表の定めをそのまま維持したものであつて、その制定経過に徴すれば、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し、総定数152人のうち最小限の2人を47の各選挙区に配分した上、残余の58人については人口を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし6人の偶数の定数を付加配分したものであることが明らかである。
公職選挙法が参議院議員の選挙の仕組みについて右のような定めをした趣旨、目的については、結局、憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところから、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあつても、参議院議員については、衆議院議員とはその選出方法を異ならせることによつてその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、前記のように参議院議員を全国選出議員と地方選出議員とに分かち、前者については、全国を一選挙区として選挙させ特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによつて、事実上ある程度職能代表的な色彩が反映されることを図り、また、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。
そうであるとすれば、公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた前記のような選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとは断じえないのであつて、その当否は、専ら立法政策の問題にとどまるものというべきである。上告人らは、両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定めた憲法43条1項の規定は参議院地方選出議員の議員定数の各選挙区への配分についても厳格な人口比例主義を唯一の基準とすべきことを要求するものであり、右のように地域代表の要素を反映した定数配分は憲法の右規定に違反する旨主張するけれども、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであつて、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであるということを意味し、右規定が両議院の議員の選挙の仕組みについてなんらかの意味を有するとしても、全国を幾つかの選挙区に分けて選挙を行う場合には常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまで要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといつて、これによつて選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。
このように、公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組みが国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認しうるものである以上、その結果として、各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票の価値の平等がそれだけ損なわれることとなつたとしても、先に説示したとおり、これをもつて直ちに右の議員定数の配分の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。したがつて、本件参議院議員定数配分規定は、その制定当初の人口状態の下においては、憲法に適合したものであつたということができる。」
③「昭和52年7月10日の本件参議院議員選挙の当時においては、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が最大1対5・26に拡大し、また、選挙人数の多い選挙区の議員定数が選挙人数の少ない選挙区の議員定数よりも少なくなつているといういわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたことは、原審の確定するとおりであつて、その限りでは、当初における議員定数の配分の基準及び方法と右のような現実の配分の状況との間にそごを来していることは否定しえない。
しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあつて不断に生ずる人口の異動につき、その政治的意味をどのように評価し、政治における安定の要請をも考慮しながら、これをいつどのような形で選挙区割、議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるべきか、また、これらの選挙制度の仕組みの変更にあたつて予想される実際上の困難や弊害をどのような方法と過程によつて解決するかなどの問題は、いずれも複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであつて、その決定は、これらの変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられているところである。
したがつて、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法とこれらの状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが、前記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つて行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、参議院議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、また、参議院については解散を認めないものとするなど憲法の定める二院制の本旨にかんがみると、参議院地方選出議員については、選挙区割や議員定数の配分をより長期にわたつて固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として許容されると解されるところである。これに加えて、原審の認定する事実関係に徴すると、参議院地方選出議員の選挙について公職選挙法が採用した2人を最小限として偶数の定数配分を基本とする前記のような選挙制度の仕組みに従い、その全体の定数を増減しないまま本件参議院議員選挙当時の各選挙区の選挙人数又は人口に比例した議員定数の再配分を試みたとしても、なおかなり大きな較差が残るというのであつて、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図るにもおのずから限度があることは明らかである。そして、他方、本件参議院議員定数配分規定の下においては、前記のように、投票価値の平等の要求も、人口比例主義を基本として選挙区割及び議員定数の配分を定めた選挙制度の場合と同一に論じ難いことを考慮するときは、本件参議院議員選挙当時に選挙区間において議員一人当たりの選挙人数に前記のような較差があり、あるいはいわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたとしても、それだけではいまだ前記のような許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足らないものというべきである。したがつて、国会が本件参議院議員選挙当時までに地方選出議員の議員定数の配分を是正する措置を講じなかつたことをもつて、その立法裁量権の限界を超えるものとは断じえず、右選挙当時において本件参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至つていたものとすることはできない。」
過去問・解説
(H18 司法 第9問 ウ)
参議院議員の選挙区選挙については、地域代表の性質を有するという参議院の特殊性により、投票価値の平等が直接的には要求されないと解されるから、衆議院議員選挙の場合とは異なり、選挙区間における投票価値の格差が5倍を超えるような場合であっても、憲法違反とはならない。
参議院議員の選挙区選挙については、地域代表の性質を有するという参議院の特殊性により、投票価値の平等が直接的には要求されないと解されるから、衆議院議員選挙の場合とは異なり、選挙区間における投票価値の格差が5倍を超えるような場合であっても、憲法違反とはならない。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としているが、「参議院議員の選挙区選挙については…投票価値の平等が直接的には要求されないと解される」とまでは述べていない。
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としているが、「参議院議員の選挙区選挙については…投票価値の平等が直接的には要求されないと解される」とまでは述べていない。
(H22 司法 第14問 ①)
最大判昭和58年4月27日(最大較差1対5.26倍)は、地方選出議員の地方代表的性格は否定したが、半数改選制、参議院に解散を認めない二院制の本旨といった参議院議員選挙の特殊性を重視して、合憲とした。
最大判昭和58年4月27日(最大較差1対5.26倍)は、地方選出議員の地方代表的性格は否定したが、半数改選制、参議院に解散を認めない二院制の本旨といった参議院議員選挙の特殊性を重視して、合憲とした。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としており、地方選出議員の地方代表的性格を否定していない。
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としており、地方選出議員の地方代表的性格を否定していない。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判平成8年9月11日
概要
平成4年7月26日施行の参議院議員選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対6.59の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:平成4年7月26日施行の参議院議員選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対6.59の較差が生じていた。
判旨:「一 議会制民主主義を採る日本国憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であって、憲法は、その重要性にかんがみ、これを国民固有の権利であると規定した(15条1項)上、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものと定めている(15条3項、44条ただし書)。この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層の様々な利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによって何らかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねているのである。したがって、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をしんしゃくして、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであって、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないものと解すべきである。
二 憲法は、国会を衆議院と参議院の両議院で構成するものとし(42条)、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているが、その趣旨は、衆議院と参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにある。右の二院制採用の趣旨を受け、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙について、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分した。右のうち、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとしており、その結果、各選挙人の投票価値には何ら差異がない。一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとしている。そして、各選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し、定数は偶数としその最小限を二人とする方針の下に、昭和21年当時の総人口を定数150で除して得られる数値で各選挙区の人口を除し、その結果得られた数値を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分したものであることが制定経過に徴して明らかである。昭和25年に制定された公職選挙法の14条及び別表第2の議員定数配分規定は右の参議院議員選挙法の別表の定めをそのまま引き継いだものであり、その後、沖縄返還に伴って昭和46年法律第130号により沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は、平成4年7月26日施行の本件参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時まで右定数配分規定に変更はなかった。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により、参議院議員選挙について拘束名簿式比例代表制が導入され、各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることとなったが、議員定数及び議員定数配分規定には何ら変更はなく、比例代表選出議員は、全都道府県を通じて選出されるものであり、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎないものということができる。
右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した前記の趣旨から、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがって、公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであると断ずることはできない。憲法43条1項は、両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織すると定めるが、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず、特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであって、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであることを意味し、右規定が両議院の議員の選挙制度の仕組みについて何らかの意味を有するとしても、全国をいくつかの選挙区に分けて選挙を行う場合には、常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでを要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるということもできない。
このように公職選挙法が採用した参議院(選挙区選出)議員についての選挙制度の仕組みが国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上、その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、先に説示したとおり、これをもって直ちに右の議員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲歩を免れないと解さざるを得ない。また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。したがって、議員定数配分規定の制定又は改正の後、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法と現実の配分の状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、昭和58年大法廷判決の趣旨とするところでもある。
三 右の見地に立って、以下、本件選挙当時の公職選挙法の14条及び別表第2の参議院(選挙区選出)議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の合憲性について検討する。
1 昭和58年大法廷判決は、昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差1対五5.26(以下、較差に関する数値は、すべて概数である。)について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し、さらに、最高裁昭和57年(行ツ)第171号同61年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事147号431頁は、昭和55年6月22日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・37について、最高裁昭和62年(行ツ)第14号同62年9月24日第一小法廷判決・裁判集民事151号711頁は、昭和58年6月26日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5.56について、最高裁昭和62年(行ツ)第127号同63年10月21日第二小法廷判決・裁判集民事155号65頁は、昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・85について、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示している。しかし、その後も選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は更に拡大の一途をたどり、原審の適法に確定したところによれば、平成4年7月26日施行の本件選挙当時においては、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が最大1対6・59にまで達していたというのである。
前記のとおり、各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでは要求されていないにせよ、投票価値の平等の要求は、憲法14条1項に由来するものであり、国会が選挙制度の仕組みを定めるに当たって重要な考慮要素となることは否定し難いのであって、国会の立法裁量権にもおのずから一定の限界があることはいうまでもないところ、本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、極めて大きなものといわざるを得ない。また、公職選挙法が採用した前記のような選挙制度の仕組みに従い、参議院(選挙区選出)議員の全体の定数を増減しないまま選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図ることには技術的な限界があることは明らかであるが、本件選挙後に行われた平成6年法律第47号による公職選挙法の改正により、総定数を増減しないまま七選挙区で改選議員定数を四増四減する方法を採って、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.99に是正されたことは、当裁判所に顕著である。
そうすると、本件選挙当時の前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、前記のような参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組み、是正の技術的限界、参議院議員のうち比例代表選出議員の選挙については各選挙人の投票価値に何らの差異もないこと等を考慮しても、右仕組みの下においてもなお投票価値の平等の有すべき重要性に照らして、もはや到底看過することができないと認められる程度に達していたものというほかはなく、これを正当化すべき特別の理由も見出せない以上、本件選挙当時、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ない。
2 そこで、次に、本件選挙当時、右の不平等状態が相当期間継続し、これを是正する何らの措置も講じないことが、前記のような国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えていたと断定すべきかどうかについて検討する。
昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.85であったことは前記のとおりであるが、その後の較差の拡大による投票価値の不平等状態は、右較差の程度、推移からみて、右選挙後でその6年後の本件選挙より前の時期において到底看過することができないと認められる程度に至っていたものと推認することができる。
ところで、憲法が、二院制を採った上、参議院については、その議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、その解散を認めないものとしている趣告にかんがみると、参議院(選挙区選出)議員については、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として合理性を有するものと解されるところであり、公職選挙法が、衆議院議員については、選挙区割及び各選挙区ごとの議員定数を定めた別表の末尾に、5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によって更正するのを例とする旨の定めを置いていたのに対し、参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定にはこうした定めを置いていないことも、右のような立法政策の表れとみることができる。そして、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達したかどうかの判定は、右の立法政策をふまえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界にかかわる困難なものであり、かつ、右の程度に達したと解される場合においても、どのような形で改正するかについて、なお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経ることが必要となるものと考えられる。また、昭和63年10月には、前記1対5・85の較差について、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りないという前掲第二小法廷の判断が示されており、その前後を通じ、本件選挙当時まで当裁判所が参議院議員の定数配分規定につき投票価値の不平等が違憲状態にあるとの判断を示したことはなかった。
以上の事情を総合して考察すると、本件において、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本件選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。
3 上述したところからすると、本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないが、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものと断ずることはできないものというべきである。」
判旨:「一 議会制民主主義を採る日本国憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であって、憲法は、その重要性にかんがみ、これを国民固有の権利であると規定した(15条1項)上、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものと定めている(15条3項、44条ただし書)。この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層の様々な利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによって何らかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねているのである。したがって、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をしんしゃくして、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであって、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないものと解すべきである。
二 憲法は、国会を衆議院と参議院の両議院で構成するものとし(42条)、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているが、その趣旨は、衆議院と参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにある。右の二院制採用の趣旨を受け、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙について、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分した。右のうち、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとしており、その結果、各選挙人の投票価値には何ら差異がない。一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとしている。そして、各選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し、定数は偶数としその最小限を二人とする方針の下に、昭和21年当時の総人口を定数150で除して得られる数値で各選挙区の人口を除し、その結果得られた数値を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分したものであることが制定経過に徴して明らかである。昭和25年に制定された公職選挙法の14条及び別表第2の議員定数配分規定は右の参議院議員選挙法の別表の定めをそのまま引き継いだものであり、その後、沖縄返還に伴って昭和46年法律第130号により沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は、平成4年7月26日施行の本件参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時まで右定数配分規定に変更はなかった。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により、参議院議員選挙について拘束名簿式比例代表制が導入され、各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることとなったが、議員定数及び議員定数配分規定には何ら変更はなく、比例代表選出議員は、全都道府県を通じて選出されるものであり、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎないものということができる。
右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した前記の趣旨から、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがって、公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであると断ずることはできない。憲法43条1項は、両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織すると定めるが、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず、特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであって、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであることを意味し、右規定が両議院の議員の選挙制度の仕組みについて何らかの意味を有するとしても、全国をいくつかの選挙区に分けて選挙を行う場合には、常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでを要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるということもできない。
このように公職選挙法が採用した参議院(選挙区選出)議員についての選挙制度の仕組みが国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上、その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、先に説示したとおり、これをもって直ちに右の議員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲歩を免れないと解さざるを得ない。また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。したがって、議員定数配分規定の制定又は改正の後、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法と現実の配分の状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、昭和58年大法廷判決の趣旨とするところでもある。
三 右の見地に立って、以下、本件選挙当時の公職選挙法の14条及び別表第2の参議院(選挙区選出)議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の合憲性について検討する。
1 昭和58年大法廷判決は、昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差1対五5.26(以下、較差に関する数値は、すべて概数である。)について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し、さらに、最高裁昭和57年(行ツ)第171号同61年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事147号431頁は、昭和55年6月22日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・37について、最高裁昭和62年(行ツ)第14号同62年9月24日第一小法廷判決・裁判集民事151号711頁は、昭和58年6月26日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5.56について、最高裁昭和62年(行ツ)第127号同63年10月21日第二小法廷判決・裁判集民事155号65頁は、昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・85について、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示している。しかし、その後も選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は更に拡大の一途をたどり、原審の適法に確定したところによれば、平成4年7月26日施行の本件選挙当時においては、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が最大1対6・59にまで達していたというのである。
前記のとおり、各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでは要求されていないにせよ、投票価値の平等の要求は、憲法14条1項に由来するものであり、国会が選挙制度の仕組みを定めるに当たって重要な考慮要素となることは否定し難いのであって、国会の立法裁量権にもおのずから一定の限界があることはいうまでもないところ、本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、極めて大きなものといわざるを得ない。また、公職選挙法が採用した前記のような選挙制度の仕組みに従い、参議院(選挙区選出)議員の全体の定数を増減しないまま選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図ることには技術的な限界があることは明らかであるが、本件選挙後に行われた平成6年法律第47号による公職選挙法の改正により、総定数を増減しないまま七選挙区で改選議員定数を四増四減する方法を採って、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.99に是正されたことは、当裁判所に顕著である。
そうすると、本件選挙当時の前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、前記のような参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組み、是正の技術的限界、参議院議員のうち比例代表選出議員の選挙については各選挙人の投票価値に何らの差異もないこと等を考慮しても、右仕組みの下においてもなお投票価値の平等の有すべき重要性に照らして、もはや到底看過することができないと認められる程度に達していたものというほかはなく、これを正当化すべき特別の理由も見出せない以上、本件選挙当時、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ない。
2 そこで、次に、本件選挙当時、右の不平等状態が相当期間継続し、これを是正する何らの措置も講じないことが、前記のような国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えていたと断定すべきかどうかについて検討する。
昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.85であったことは前記のとおりであるが、その後の較差の拡大による投票価値の不平等状態は、右較差の程度、推移からみて、右選挙後でその6年後の本件選挙より前の時期において到底看過することができないと認められる程度に至っていたものと推認することができる。
ところで、憲法が、二院制を採った上、参議院については、その議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、その解散を認めないものとしている趣告にかんがみると、参議院(選挙区選出)議員については、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として合理性を有するものと解されるところであり、公職選挙法が、衆議院議員については、選挙区割及び各選挙区ごとの議員定数を定めた別表の末尾に、5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によって更正するのを例とする旨の定めを置いていたのに対し、参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定にはこうした定めを置いていないことも、右のような立法政策の表れとみることができる。そして、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達したかどうかの判定は、右の立法政策をふまえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界にかかわる困難なものであり、かつ、右の程度に達したと解される場合においても、どのような形で改正するかについて、なお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経ることが必要となるものと考えられる。また、昭和63年10月には、前記1対5・85の較差について、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りないという前掲第二小法廷の判断が示されており、その前後を通じ、本件選挙当時まで当裁判所が参議院議員の定数配分規定につき投票価値の不平等が違憲状態にあるとの判断を示したことはなかった。
以上の事情を総合して考察すると、本件において、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本件選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。
3 上述したところからすると、本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないが、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものと断ずることはできないものというべきである。」
過去問・解説
(H22 司法 第14問 ②)
議員定数不均衡訴訟事件判決(最大判平成8年9月11日)は、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態が生じているとしたが、是正のための合理的期間は徒過していないとして、合憲とした。
議員定数不均衡訴訟事件判決(最大判平成8年9月11日)は、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態が生じているとしたが、是正のための合理的期間は徒過していないとして、合憲とした。
(正答) 〇
(解説)
議員定数不均衡訴訟判決(最大判平8.9.11)は、「本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない。」とする一方で、「選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本性選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。」として、是正のための合理的期間は徒過していないことを理由に合憲と判断している。
議員定数不均衡訴訟判決(最大判平8.9.11)は、「本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない。」とする一方で、「選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本性選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。」として、是正のための合理的期間は徒過していないことを理由に合憲と判断している。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判平成23年3月23日
概要
本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものではない。
判例
事案:1人別枠方式は、衆議院の小選挙区300区議席のうち、まず47都道府県に1議席ずつを別枠として割り当て、残り253議席を人口に比例して配分する方式である。これは、人口の少ない地方に比例分配より多めに議席を配分することで、過疎地域の国民の意見も十分に国政に反映させることを目的とする制度である。
本事件では、1人別枠方式の採用により投票価値の平等の実現が妨げられていることから、1人別枠方式を実施するための本件区間基準(区画審設置法)及び選挙区割りを定める公職選挙法の合憲性が問題となった。
なお、本件選挙区割りの下で生じていた選挙区間の投票価値の較差は、その当時、最大で2.304倍に達し、較差2倍以上の選挙区の数も45にまで増加していた。
判旨:①「…憲法は、…国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという基本的な要請(43条1項)の下で、…両議院の議員の各選挙制度の仕組みについて国会に広範な裁量を認めている。したがって、国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような基本的な要請や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため、上記のような裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。
憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。しかしながら、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、やむを得ないものと解される。そして、憲法は、衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には、選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するについて、議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることを求めているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することを許容しているものといえる。
具体的な選挙制度を定めるに当たっては、これまで、社会生活の上でも、また政治的、社会的な機能の点でも重要な単位と考えられてきた都道府県が、定数配分及び選挙区割りの基礎として考慮されてきた。衆議院議員の選挙制度においては、都道府県を定数配分の第一次的な基盤とし、具体的な選挙区は、これを細分化した市町村、その他の行政区画などが想定され、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素が考慮されるものと考えられ、国会において、人口の変動する中で、これらの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって、このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するか否かによって判断されることになる。
以上は、前掲各大法廷判決の趣旨とするところであって、これを変更する必要は認められない。」
②「…1人別枠方式が採用されており、…相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とする旨の説明がされている。しかし、この選挙制度によって選出される議員は、いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず、全国民を代表して国政に関与することが要請されているのであり、相対的に人口の少ない地域に対する配慮はそのような活動の中で全国的な視野から法律の制定等に当たって考慮されるべき事柄であって、地域性に係る問題のために、殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。しかも、…1人別枠方式が前記…に述べたような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたことは明らかである。1人別枠方式の意義については、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮という立法時の説明にも一部うかがわれるところであるが、既に述べたような我が国の選挙制度の歴史、とりわけ人口の変動に伴う定数の削減が著しく困難であったという経緯に照らすと、新しい選挙制度を導入するに当たり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。そうであるとすれば、1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われるものというほかはない。…略…これらの事情に鑑みると、本件選挙制度は定着し、安定した運用がされるようになっていたと評価することができるのであって、もはや1人別枠方式の上記のような合理性は失われていたものというべきである。加えて、本件選挙区割りの下で生じていた選挙区間の投票価値の較差は、…その当時、最大で2.304倍に達し、較差2倍以上の選挙区の数も増加してきており、1人別枠方式がこのような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたのであって、その不合理性が投票価値の較差としても現れてきていたものということができる。そうすると、本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、遅くとも本件選挙時においては、その立法時の合理性が失われたにもかかわらず、投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすものとして、それ自体、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものといわなければならない。そして、本件選挙区割りについては、本件選挙時において上記の状態にあった1人別枠方式を含む本件区割基準に基づいて定められたものである以上、これもまた、本件選挙時において、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものというべきである。
しかしながら、前掲平成19年6月13日大法廷判決において、平成17年の総選挙の時点における1人別枠方式を含む本件区割基準及び本件選挙区割りについて、前記のようにいずれも憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていない旨の判断が示されていたことなどを考慮すると、本件選挙までの間に本件区割基準中の1人別枠方式の廃止及びこれを前提とする本件区割規定の是正がされなかったことをもって、憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったものということはできない。
以上のとおりであって、本件選挙時において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」
③「国民の意思を適正に反映する選挙制度は、民主政治の基盤である。変化の著しい社会の中で、投票価値の平等という憲法上の要請に応えつつ、これを実現していくことは容易なことではなく、そのために立法府には幅広い裁量が認められている。しかし、1人別枠方式は、衆議院議員の選挙制度に関して戦後初めての抜本的改正を行うという経緯の下に、一定の限られた時間の中でその合理性が認められるものであり、その経緯を離れてこれを見るときは、投票価値の平等という憲法の要求するところとは相容れないものといわざるを得ない。衆議院は、その権能、議員の任期及び解散制度の存在等に鑑み、常に的確に国民の意思を反映するものであることが求められており、選挙における投票価値の平等についてもより厳格な要請があるものといわなければならない。したがって、事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に、できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し、区画審設置法3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があるところである。」
過去問・解説
(H27 司法 第16問 ア)
衆議院議員選挙における1人別枠方式については、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的であるが、その結果生じる投票価値の較差が過大であるから違憲である。
衆議院議員選挙における1人別枠方式については、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的であるが、その結果生じる投票価値の較差が過大であるから違憲である。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式…については…、相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とする旨の説明がされている。しかし、…殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。」としており、「人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的である」(本肢)とは認めていない。
また、同判例は、「本件選挙時において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」としており、「投票価値の較差が過大であるから違憲である。」(本肢)とは述べていない。
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式…については…、相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とする旨の説明がされている。しかし、…殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。」としており、「人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的である」(本肢)とは認めていない。
また、同判例は、「本件選挙時において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」としており、「投票価値の較差が過大であるから違憲である。」(本肢)とは述べていない。
(H30 共通 第13問 イ)
判例は、衆議院議員選挙におけるいわゆる1人別枠方式について、小選挙区比例代表並立制の導入に当たり、直ちに人口比例のみに基づいて定数配分を行った場合の影響に配慮するための方策であり、新選挙制度が定着し運用が安定すればその合理性は失われるとしている。
判例は、衆議院議員選挙におけるいわゆる1人別枠方式について、小選挙区比例代表並立制の導入に当たり、直ちに人口比例のみに基づいて定数配分を行った場合の影響に配慮するための方策であり、新選挙制度が定着し運用が安定すればその合理性は失われるとしている。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式の意義については、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮という立法時の説明にも一部うかがわれるところであるが、既に述べたような我が国の選挙制度の歴史、とりわけ人口の変動に伴う定数の削減が著しく困難であったという経緯に照らすと、新しい選挙制度を導入するに当たり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。そうであるとすれば、1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われるものというほかはない。」としている。
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式の意義については、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮という立法時の説明にも一部うかがわれるところであるが、既に述べたような我が国の選挙制度の歴史、とりわけ人口の変動に伴う定数の削減が著しく困難であったという経緯に照らすと、新しい選挙制度を導入するに当たり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。そうであるとすれば、1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われるものというほかはない。」としている。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判平成21年9月30日
概要
平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対4.86の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:平成19年7月29日施行の参議院議員通常選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対4.86の較差が生じていた。
判旨:①「憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、憲法は、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、参議院の独自性など、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。
…参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること、憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らし、相応の合理性を有するものであり、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない。そして、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって、その決定は、基本的に国会の裁量にゆだねられているものである。しかしながら、人口の変動の結果、投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)以降の参議院(地方選出ないし選挙区選出)議員選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところでもあって、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
そして、当裁判所は、昭和58年大法廷判決以降、参議院議員通常選挙の都度、上記の判断枠組みに従い参議院議員定数配分規定の合憲性について判断してきたが、平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対6.59について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの、いずれの場合についても、結論において、各選挙当時、参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示してきたところである。しかし、人口の都市部への集中が続き、最大較差1対5前後が常態化する中で、平成16年大法廷判決及び最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁においては、上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも、投票価値の平等をより重視すべきであるとの指摘や、較差是正のため国会における不断の努力が求められる旨の指摘がされ、また、不平等を是正するための措置が適切に行われているかどうかといった点をも考慮して判断がされるようになるなど、実質的にはより厳格な評価がされてきているところである。
②「上記の見地に立って、本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
参議院では…、平成16年大法廷判決中の指摘を受け、当面の是正措置を講ずる必要があるとともに、その後も定数較差の継続的な検証調査を進めていく必要があると認識された。本件改正は、こうした認識の下に行われたものであり、その結果、平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は、1対4.48に縮小することとなった。また、本件選挙は、本件改正の約1年2か月後に本件定数配分規定の下で施行された初めての参議院議員通常選挙であり、本件選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.86であったところ、この較差は、本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で施行された前回選挙当時の上記最大較差1対5.13に比べて縮小したものとなっていた。本件選挙の後には、参議院改革協議会が設置され、同協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置されるなど、定数較差の問題について今後も検討が行われることとされている。そして、現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには、後に述べるように相応の時間を要することは否定できないところであって、本件選挙までにそのような見直しを行うことは極めて困難であったといわざるを得ない。以上のような事情を考慮すれば、本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず、本件選挙当時において、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。」
「しかしながら、本件改正の結果によっても残ることとなった上記のような較差は、投票価値の平等という観点からは、なお大きな不平等が存する状態であり、選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ない。ただ、…現行の選挙制度の仕組みを維持する限り、各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは、最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり、これを行おうとすれば、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。このような見直しを行うについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり、事柄の性質上課題も多く、その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると、国会において、速やかに、投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な検討が行われることが望まれる。
以上の次第であるから、本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は、是認することができる。」
判旨:①「憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、憲法は、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、参議院の独自性など、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。
…参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること、憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らし、相応の合理性を有するものであり、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない。そして、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって、その決定は、基本的に国会の裁量にゆだねられているものである。しかしながら、人口の変動の結果、投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)以降の参議院(地方選出ないし選挙区選出)議員選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところでもあって、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
そして、当裁判所は、昭和58年大法廷判決以降、参議院議員通常選挙の都度、上記の判断枠組みに従い参議院議員定数配分規定の合憲性について判断してきたが、平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対6.59について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの、いずれの場合についても、結論において、各選挙当時、参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示してきたところである。しかし、人口の都市部への集中が続き、最大較差1対5前後が常態化する中で、平成16年大法廷判決及び最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁においては、上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも、投票価値の平等をより重視すべきであるとの指摘や、較差是正のため国会における不断の努力が求められる旨の指摘がされ、また、不平等を是正するための措置が適切に行われているかどうかといった点をも考慮して判断がされるようになるなど、実質的にはより厳格な評価がされてきているところである。
②「上記の見地に立って、本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
参議院では…、平成16年大法廷判決中の指摘を受け、当面の是正措置を講ずる必要があるとともに、その後も定数較差の継続的な検証調査を進めていく必要があると認識された。本件改正は、こうした認識の下に行われたものであり、その結果、平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は、1対4.48に縮小することとなった。また、本件選挙は、本件改正の約1年2か月後に本件定数配分規定の下で施行された初めての参議院議員通常選挙であり、本件選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.86であったところ、この較差は、本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で施行された前回選挙当時の上記最大較差1対5.13に比べて縮小したものとなっていた。本件選挙の後には、参議院改革協議会が設置され、同協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置されるなど、定数較差の問題について今後も検討が行われることとされている。そして、現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには、後に述べるように相応の時間を要することは否定できないところであって、本件選挙までにそのような見直しを行うことは極めて困難であったといわざるを得ない。以上のような事情を考慮すれば、本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず、本件選挙当時において、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。」
「しかしながら、本件改正の結果によっても残ることとなった上記のような較差は、投票価値の平等という観点からは、なお大きな不平等が存する状態であり、選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ない。ただ、…現行の選挙制度の仕組みを維持する限り、各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは、最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり、これを行おうとすれば、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。このような見直しを行うについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり、事柄の性質上課題も多く、その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると、国会において、速やかに、投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な検討が行われることが望まれる。
以上の次第であるから、本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は、是認することができる。」
過去問・解説
(H22 司法 第14問 ③)
判例(最大判平成21日9月30日)は、結論的には合憲としつつも、投票価値平等の観点からは大きな不平等が存し較差の縮小を図ることが求められること、そのためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となり国会において速やかに適切な検討が行われることが望まれると判示した。
判例(最大判平成21日9月30日)は、結論的には合憲としつつも、投票価値平等の観点からは大きな不平等が存し較差の縮小を図ることが求められること、そのためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となり国会において速やかに適切な検討が行われることが望まれると判示した。
(正答) 〇
(解説)
議員定数不均衡訴訟判決(最大判平8.9.11)は、「以上のような事情を考慮すれば、本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず、本件選挙当時において、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。」とする一方で、「区の定数を振り替える措置によるだけでは、最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり、これを行おうとすれば、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。このような見直しを行うについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり、事柄の性質上課題も多く、その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると、国会において、速やかに、投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な検討が行われることが望まれる。」としている。
議員定数不均衡訴訟判決(最大判平8.9.11)は、「以上のような事情を考慮すれば、本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず、本件選挙当時において、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。」とする一方で、「区の定数を振り替える措置によるだけでは、最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり、これを行おうとすれば、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。このような見直しを行うについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり、事柄の性質上課題も多く、その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると、国会において、速やかに、投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な検討が行われることが望まれる。」としている。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判平成24年10月17日
概要
平成22年7月11日施行の参議院議員選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対5.00の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:平成22年7月11日施行の参議院議員選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数の最大格差は1対5.00あった。
判旨:①「憲法は、…投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、憲法は、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。」
②「憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記…においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員と地方選出議員に分け、前者については全国の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである…。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり、後記…の点をおくとしても、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
もっとも、最大較差1対5前後が常態化する中で、…平成21年大法廷判決においては、投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって較差の縮小が求められること及びそのためには選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることが指摘されるに至っており、これらの大法廷判決においては、上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも、投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたところである。」
③「上記の見地に立って、本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認め(59条ないし61条、67条、69条)、その反面、参議院議員の任期を6年の長期とし、解散(54条)もなく、選挙は3年ごとにその半数について行う(46条)ことを定めている。その趣旨は、議院内閣制の下で、限られた範囲について衆議院の優越を認め、機能的な国政の運営を図る一方、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え、参議院議員の任期をより長期とすることによって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映し、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられているところであるが、その合理性を検討するに当たっては、参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余、当裁判所大法廷において前記…の基本的な判断枠組みが最初に示されてからでも30年近くにわたる、制度と社会の状況の変化を考慮することが必要である。
参議院議員の選挙制度の変遷は前記…のとおりであって、これを衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると、両議院とも、政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上、選挙の単位の区域に広狭の差はあるものの、いずれも、都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と、より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ、その結果として同質的な選挙制度となってきているということができる。このような選挙制度の変遷とともに、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきているということができる。加えて、衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている。これらの事情に照らすと、参議院についても、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に、更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。
参議院議員の選挙制度の変遷は前記…のとおりであって、これを衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると、両議院とも、政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上、選挙の単位の区域に広狭の差はあるものの、いずれも、都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と、より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ、その結果として同質的な選挙制度となってきているということができる。このような選挙制度の変遷とともに、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきているということができる。加えて、衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている。これらの事情に照らすと、参議院についても、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に、更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。
…さきに述べたような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。…平成16年、同18年及び同21年の各大法廷判決において、前記…のとおり投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたのも、較差が5倍前後で推移する中で、前記…においてみたような長年にわたる制度と社会の状況の変化を反映したものにほかならない。
現行の選挙制度は、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。…前回の平成19年選挙についても、投票価値の大きな不平等がある状態であって、選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは、平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところである。それにもかかわらず、平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正は行われることなく、本件選挙に至ったものである。これらの事情を総合考慮すると、本件選挙が平成18年改正による4増4減の措置後に実施された2回目の通常選挙であることを勘案しても、本件選挙当時、前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。
もっとも、当裁判所が平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは本件選挙の約9か月前のことであり、その判示の中でも言及されているように、選挙制度の仕組み自体の見直しについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど、事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないこと、参議院において、同判決の趣旨を踏まえ、参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど、選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたこと…などを考慮すると、本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。」
④「参議院議員の選挙制度については、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で、長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。」
過去問・解説
(H27 司法 第12問 ウ)
参議院議員選挙に関して、判例は、半数改選という憲法上の要請、そして都道府県を単位とする参議院の選挙区選挙における地域代表的性格という特殊性を重視して、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持することを是認し続けている。
参議院議員選挙に関して、判例は、半数改選という憲法上の要請、そして都道府県を単位とする参議院の選挙区選挙における地域代表的性格という特殊性を重視して、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持することを是認し続けている。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判平24.10.17)は、「憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」、「参議院議員の選挙制度については、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で、長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。」としている。
判例(最大判平24.10.17)は、「憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」、「参議院議員の選挙制度については、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で、長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。」としている。
(H30 共通 第13問 ア)
判例は、参議院議員選挙における定数不均衡の問題について、参議院の半数改選制の要請を踏まえれば投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められても憲法に違反するとはいえないとして、衆議院の場合よりも広い立法裁量を認めてきており、これまで違憲状態を認定したことはない。
判例は、参議院議員選挙における定数不均衡の問題について、参議院の半数改選制の要請を踏まえれば投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められても憲法に違反するとはいえないとして、衆議院の場合よりも広い立法裁量を認めてきており、これまで違憲状態を認定したことはない。
(正答) ✕
(解説)
平成8年判決(最大判平8.9.11)及び平成24年判決(最大判平24.10.17)は、参議院議員選挙における定数不均衡の問題について、「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた。」と判示している。また、平成24年判決(最大判平24.10.17)は、「憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」としている。
総合メモ
議員定数不均衡訴訟 最大判平成26年11月26日
概要
平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対4.77の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対4.77の較差が生じていた。
判旨:①「憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。
憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。…参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け、前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
もっとも、選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で、…平成16年、同18年及び同21年の前掲各大法廷判決においては、上記の判断枠組みは基本的に維持しつつも、選挙制度の仕組み自体の見直しが必要である旨の平成21年大法廷判決の指摘を含め、投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていたところであり、また、平成24年大法廷判決においては、昭和58年大法廷判決が長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた…の諸点につき、長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ、数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨の指摘がされているところである。
②「上記の見地に立って、本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
「憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認める反面、参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきところであるが、その合理性を検討するに当たっては、参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余にわたる制度及び社会状況の変化を考慮することが必要である。
参議院議員の選挙制度の変遷を衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると、両議院とも、政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上、都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と、より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ、その結果として同質的な選挙制度となってきており、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえることに加えて、衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと、参議院についても、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に、更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。
参議院においては、この間の人口変動により、都道府県間の人口較差が著しく拡大したため、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で、昭和22年の制度発足時には2.62倍であった選挙区間の最大較差が、昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し、平成4年選挙の時点では6、59倍にまで達する状況となり、平成6年以降の数次の改正による定数の調整によって若干の較差の縮小が図られたが、5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。
さきに述べたような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する機関としての責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。昭和58年大法廷判決は、参議院議員の選挙制度において長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として、上記の選挙制度の仕組みや参議院に関する憲法の定め等を挙げていたが、これらの諸点も、平成24年大法廷判決の指摘するとおり、上記…においてみたような長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえると、数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっているものといわざるを得ない。殊に、昭和58年大法廷判決は、上記の選挙制度の仕組みに関して、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し、政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし、都道府県を各選挙区の単位とすることによりこれを構成する住民の意思を集約的に反映させ得る旨の指摘をしていたが、この点についても、都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという限度において相応の合理性を有していたことは否定し難いものの、これを参議院議員の各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく、むしろ、都道府県を各選挙区の単位として固定する結果、その間の人口較差に起因して上記のように投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では、上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっているものといわなければならない。
以上に鑑みると、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、上記のような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。このことは、前記…平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されており、平成19年選挙当時も投票価値の大きな不平等がある状態であって選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは、平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところでもある。これらの事情の下では、平成24年大法廷判決の判示するとおり、平成22年選挙当時、本件旧定数配分規定の下での前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。
本件選挙は、平成24年大法廷判決の言渡し後に成立した平成24年改正法による改正後の本件定数配分規定の下で施行されたものであるが、上記ウのとおり、本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると評価されるに至ったのは、総定数の制約の下で偶数配分を前提に、長期にわたり投票価値の大きな較差を生じさせる要因となってきた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みが、長年にわたる制度及び社会状況の変化により、もはやそのような較差の継続を正当化する十分な根拠を維持し得なくなっていることによるものであり、同判決において指摘されているとおり、上記の状態を解消するためには、一部の選挙区の定数の増減にとどまらず、上記制度の仕組み自体の見直しが必要であるといわなければならない。しかるところ、平成24年改正法による前記4増4減の措置は、上記制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、上記の状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ない(同改正法自体も、その附則において、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を定めており、上記4増4減の措置の後も引き続き上記制度の仕組み自体の見直しの検討が必要となることを前提としていたものと解される。)。
したがって、平成24年改正法による上記の措置を経た後も、本件選挙当時に至るまで、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきである。」
③「参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について、当裁判所大法廷は、これまで、〔1〕当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か、〔2〕上記の状態に至っている場合に、当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として審査を行ってきており、こうした判断の方法が採られてきたのは、憲法の予定している司法権と立法権との関係に由来するものと考えられる。すなわち、裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても、自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく、その是正は国会の立法によって行われることになるものであり、是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しているので、裁判所が選挙制度の憲法適合性について上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより、国会がこれを踏まえて自ら所要の適切な是正の措置を講ずることが、憲法上想定されているものと解される。このような憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと、上記〔1〕において違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨の司法の判断がされれば国会はこれを受けて是正を行う責務を負うものであるところ、上記〔2〕において当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものと解される(最高裁平成25年(行ツ)第209号、第210号、第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁参照)。
そこで、本件において、本件選挙までに違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かについて検討する。
…(中略)…
以上に鑑みると、本件選挙は、前記4増4減の措置後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の下で施行されたものではあるが、平成24年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの約9か月の間に、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を附則に定めた平成24年改正法が成立し、参議院の検討機関において、上記附則の定めに従い、同判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程を示しつつその見直しの検討が行われてきているのであって、前記…において述べた司法権と立法権との関係を踏まえ、前記のような考慮すべき諸事情に照らすと、国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできず、本件選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。
以上のとおりであって、本件選挙当時において、本件定数配分規定の下で、選挙区間における投票価値の不均衡は、平成24年改正法による改正後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものではあるが、本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
参議院議員の選挙制度については、これまで、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みの下で、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大に伴い、一部の選挙区の定数を増減する数次の改正がされてきたが、これらの改正の前後を通じて長期にわたり投票価値の大きな較差が維持されたまま推移してきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割等に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、国会において、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる前記の不平等状態が解消される必要があるというべきである。」
判旨:①「憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、憲法は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。
憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。…参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)に分け、前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
もっとも、選挙区間の最大較差が5倍前後で常態化する中で、…平成16年、同18年及び同21年の前掲各大法廷判決においては、上記の判断枠組みは基本的に維持しつつも、選挙制度の仕組み自体の見直しが必要である旨の平成21年大法廷判決の指摘を含め、投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていたところであり、また、平成24年大法廷判決においては、昭和58年大法廷判決が長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として挙げていた…の諸点につき、長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ、数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている旨の指摘がされているところである。
②「上記の見地に立って、本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
「憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認める反面、参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきところであるが、その合理性を検討するに当たっては、参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余にわたる制度及び社会状況の変化を考慮することが必要である。
参議院議員の選挙制度の変遷を衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると、両議院とも、政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上、都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と、より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ、その結果として同質的な選挙制度となってきており、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえることに加えて、衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと、参議院についても、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に、更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。
参議院においては、この間の人口変動により、都道府県間の人口較差が著しく拡大したため、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で、昭和22年の制度発足時には2.62倍であった選挙区間の最大較差が、昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し、平成4年選挙の時点では6、59倍にまで達する状況となり、平成6年以降の数次の改正による定数の調整によって若干の較差の縮小が図られたが、5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。
さきに述べたような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する機関としての責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。昭和58年大法廷判決は、参議院議員の選挙制度において長期にわたる投票価値の大きな較差の継続を許容し得る根拠として、上記の選挙制度の仕組みや参議院に関する憲法の定め等を挙げていたが、これらの諸点も、平成24年大法廷判決の指摘するとおり、上記…においてみたような長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえると、数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっているものといわざるを得ない。殊に、昭和58年大法廷判決は、上記の選挙制度の仕組みに関して、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し、政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし、都道府県を各選挙区の単位とすることによりこれを構成する住民の意思を集約的に反映させ得る旨の指摘をしていたが、この点についても、都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという限度において相応の合理性を有していたことは否定し難いものの、これを参議院議員の各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく、むしろ、都道府県を各選挙区の単位として固定する結果、その間の人口較差に起因して上記のように投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では、上記の都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りなくなっているものといわなければならない。
以上に鑑みると、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、上記のような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。このことは、前記…平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されており、平成19年選挙当時も投票価値の大きな不平等がある状態であって選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは、平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところでもある。これらの事情の下では、平成24年大法廷判決の判示するとおり、平成22年選挙当時、本件旧定数配分規定の下での前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。
本件選挙は、平成24年大法廷判決の言渡し後に成立した平成24年改正法による改正後の本件定数配分規定の下で施行されたものであるが、上記ウのとおり、本件旧定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあると評価されるに至ったのは、総定数の制約の下で偶数配分を前提に、長期にわたり投票価値の大きな較差を生じさせる要因となってきた都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度の仕組みが、長年にわたる制度及び社会状況の変化により、もはやそのような較差の継続を正当化する十分な根拠を維持し得なくなっていることによるものであり、同判決において指摘されているとおり、上記の状態を解消するためには、一部の選挙区の定数の増減にとどまらず、上記制度の仕組み自体の見直しが必要であるといわなければならない。しかるところ、平成24年改正法による前記4増4減の措置は、上記制度の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり、現に選挙区間の最大較差(本件選挙当時4.77倍)については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたのであるから、上記の状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ない(同改正法自体も、その附則において、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を定めており、上記4増4減の措置の後も引き続き上記制度の仕組み自体の見直しの検討が必要となることを前提としていたものと解される。)。
したがって、平成24年改正法による上記の措置を経た後も、本件選挙当時に至るまで、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきである。」
③「参議院議員の選挙における投票価値の較差の問題について、当裁判所大法廷は、これまで、〔1〕当該定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているか否か、〔2〕上記の状態に至っている場合に、当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとして当該定数配分規定が憲法に違反するに至っているか否かといった判断の枠組みを前提として審査を行ってきており、こうした判断の方法が採られてきたのは、憲法の予定している司法権と立法権との関係に由来するものと考えられる。すなわち、裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題があると判断したとしても、自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく、その是正は国会の立法によって行われることになるものであり、是正の方法についても国会は幅広い裁量権を有しているので、裁判所が選挙制度の憲法適合性について上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより、国会がこれを踏まえて自ら所要の適切な是正の措置を講ずることが、憲法上想定されているものと解される。このような憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らすと、上記〔1〕において違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨の司法の判断がされれば国会はこれを受けて是正を行う責務を負うものであるところ、上記〔2〕において当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては、単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して、国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものと解される(最高裁平成25年(行ツ)第209号、第210号、第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁参照)。
そこで、本件において、本件選挙までに違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かについて検討する。
…(中略)…
以上に鑑みると、本件選挙は、前記4増4減の措置後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の下で施行されたものではあるが、平成24年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの約9か月の間に、平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を附則に定めた平成24年改正法が成立し、参議院の検討機関において、上記附則の定めに従い、同判決の趣旨に沿った方向で選挙制度の仕組みの見直しを内容とする法改正の上記選挙までの成立を目指すなどの検討の方針や工程を示しつつその見直しの検討が行われてきているのであって、前記…において述べた司法権と立法権との関係を踏まえ、前記のような考慮すべき諸事情に照らすと、国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできず、本件選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。
以上のとおりであって、本件選挙当時において、本件定数配分規定の下で、選挙区間における投票価値の不均衡は、平成24年改正法による改正後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものではあるが、本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
参議院議員の選挙制度については、これまで、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に、都道府県を各選挙区の単位とする現行の選挙制度の仕組みの下で、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大に伴い、一部の選挙区の定数を増減する数次の改正がされてきたが、これらの改正の前後を通じて長期にわたり投票価値の大きな較差が維持されたまま推移してきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割等に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、従来の改正のように単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、国会において、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる前記の不平等状態が解消される必要があるというべきである。」
過去問・解説
(H27 司法 第12問 ア)
日本国憲法が二院制を採用したのは、異なる選挙制度や議員の任期が異なること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院と参議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。
日本国憲法が二院制を採用したのは、異なる選挙制度や議員の任期が異なること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院と参議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判平26.11.26)は、「憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認める反面、参議院議員につき任期を6年の長期とし、解散もなく、選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(46条等)。その趣旨は、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ、参議院議員の任期をより長期とすること等によって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。」としている。
総合メモ
政見放送の削除 最三小判平成2年4月17日
概要
NHKの政見放送において身体障害者に対する差別用語を使用した発言部分が公職選挙法150条の2に違反する場合に、NHKが当該部分の音声を削除して放送したとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえない。
判例
事案:NHKが、録音・録画した公職選挙法150条1項に基づく政見放送のうち、身体障害者に対する差別的発言がある部分を削除したことについて損害賠償請求事件(原告:立候補者及び同人の所属政党、被告:NHK)として争われた。
判旨:「本件削除部分は、多くの視聴者が注目するテレビジョン放送において、その使用が社会的に許容されないことが広く認識されていた身体障害者に対する卑俗かつ侮蔑的表現であるいわゆる差別用語を使用した点で、他人の名誉を傷つけ善良な風俗を害する等政見放送としての品位を損なう言動を禁止した公職選挙法150条の2の規定に違反するものである。そして、右規定は、テレビジョン放送による政見放送が直接かつ即時に全国の視聴者に到達して強い影響力を有していることにかんがみ、そのような言動が放送されることによる弊害を防止する目的で政見放送の品位を損なう言動を禁止したものであるから、右規定に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえず、したがって、右言動がそのまま放送されなかったとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえないと解すべきである。以上のとおりであるから、NHKが右規定に違反する本件削除部分の音声を削除して放送した行為は、…不法行為に当たらないものというべきであ…る。」
判旨:「本件削除部分は、多くの視聴者が注目するテレビジョン放送において、その使用が社会的に許容されないことが広く認識されていた身体障害者に対する卑俗かつ侮蔑的表現であるいわゆる差別用語を使用した点で、他人の名誉を傷つけ善良な風俗を害する等政見放送としての品位を損なう言動を禁止した公職選挙法150条の2の規定に違反するものである。そして、右規定は、テレビジョン放送による政見放送が直接かつ即時に全国の視聴者に到達して強い影響力を有していることにかんがみ、そのような言動が放送されることによる弊害を防止する目的で政見放送の品位を損なう言動を禁止したものであるから、右規定に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえず、したがって、右言動がそのまま放送されなかったとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえないと解すべきである。以上のとおりであるから、NHKが右規定に違反する本件削除部分の音声を削除して放送した行為は、…不法行為に当たらないものというべきであ…る。」
過去問・解説
(H29 共通 第13問 イ)
選挙運動の一つの手段である政見放送において、政見放送の品位を損なう言動を禁止した公職選挙法第150条の2の規定に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえず、したがって、上記言動がそのまま放送されなかったとしても、法的利益の侵害があったとはいえない。
選挙運動の一つの手段である政見放送において、政見放送の品位を損なう言動を禁止した公職選挙法第150条の2の規定に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえず、したがって、上記言動がそのまま放送されなかったとしても、法的利益の侵害があったとはいえない。
(正答) 〇
(解説)
判例(最判平2.4.17)において、「公職選挙法150条の2…に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえず、したがって、右言動がそのまま放送されなかったとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえないと解すべきである。」としている。
判例(最判平2.4.17)において、「公職選挙法150条の2…に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえず、したがって、右言動がそのまま放送されなかったとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえないと解すべきである。」としている。
(R2 司法 第13問 ウ)
判例は、政見放送が民主政治の根幹をなす政治上の表現の自由に基づくものであり、選挙運動の一つの重要な手段である一方、公職選挙法の規定によって禁じられた政見放送としての品位を損なう言動をした場合の責任は、事後的に候補者自身に負わせれば足りることを根拠として、放送事業者が政見放送において用いられた差別的用語を削除した行為を憲法第21条第1項に違反すると解している。
判例は、政見放送が民主政治の根幹をなす政治上の表現の自由に基づくものであり、選挙運動の一つの重要な手段である一方、公職選挙法の規定によって禁じられた政見放送としての品位を損なう言動をした場合の責任は、事後的に候補者自身に負わせれば足りることを根拠として、放送事業者が政見放送において用いられた差別的用語を削除した行為を憲法第21条第1項に違反すると解している。
(正答) ✕
(解説)
判例(最判平2.4.17)は、「公職選挙法150条の2…に違反する言動がそのまま放送される利益は、法的に保護された利益とはいえず、したがって、右言動がそのまま放送されなかったとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえないと解すべきである。」とするにとどまり、放送事業者が政見放送において用いられた差別的用語を削除した行為を憲法第21条第1項に違反するとは解していない。
総合メモ
生活ほっとモーニング事件 最一小判平成16年11月25日
概要
放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた本人等は、放送事業者に対し、放送法4条1項の規定に基づく訂正又は取消しの放送を求める私法上の権利を有しない。
判例
事案:放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた被害者が、放送事業者に対し、放送法4条1項の規定に基づく訂正放送等を求める私法上の権利を有するか否かが問題となった。
判旨:「放送法…4条は、放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人(以下「被害者」と総称する。)から、放送のあった日から3か月以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から1日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送(以下「訂正放送等」と総称する。)をしなければならないとし(1項)、放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、上記と同様の訂正放送等をしなければならないと定めている(1項)。そして、法56条1項は、法4条1項の規定に違反した場合の罰則を定めている。
このように、法4条1項は、真実でない事項の放送について被害者から請求があった場合に、放送事業者に対して訂正放送等を義務付けるものであるが、この請求や義務の性質については、法の全体的な枠組みと趣旨を踏まえて解釈する必要がある。憲法21条が規定する表現の自由の保障の下において、法1条は、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること」(1号)、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(2号)、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」(3号)という三つの原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを法の目的とすると規定しており、法2条以下の規定は、この三つの原則を具体化したものということができる。法3条は、上記の表現の自由及び放送の自律性の保障の理念を具体化し、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」として、放送番組編集の自由を規定している。すなわち、別に法律で定める権限に基づく場合でなければ、他からの放送番組編集への関与は許されないのである。法4条1項も、これらの規定を受けたものであって、上記の放送の自律性の保障の理念を踏まえた上で、上記の真実性の保障の理念を具体化するための規定であると解される。そして、このことに加え、法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、訂正放送等に関する裁判所の関与を規定していないこと、同項所定の義務違反について罰則が定められていること等を併せ考えると、同項は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。前記のとおり、法4条1項は被害者からの訂正放送等の請求について規定しているが、同条1項の規定内容を併せ考えると、これは、同請求を、放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置付けているものと解するのが相当であって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。
したがって、被害者は、放送事業者に対し、法4条1項の規定に基づく訂正放送等を求める私法上の権利を有しないというべきである。」
判旨:「放送法…4条は、放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人(以下「被害者」と総称する。)から、放送のあった日から3か月以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から1日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送(以下「訂正放送等」と総称する。)をしなければならないとし(1項)、放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、上記と同様の訂正放送等をしなければならないと定めている(1項)。そして、法56条1項は、法4条1項の規定に違反した場合の罰則を定めている。
このように、法4条1項は、真実でない事項の放送について被害者から請求があった場合に、放送事業者に対して訂正放送等を義務付けるものであるが、この請求や義務の性質については、法の全体的な枠組みと趣旨を踏まえて解釈する必要がある。憲法21条が規定する表現の自由の保障の下において、法1条は、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること」(1号)、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(2号)、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」(3号)という三つの原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを法の目的とすると規定しており、法2条以下の規定は、この三つの原則を具体化したものということができる。法3条は、上記の表現の自由及び放送の自律性の保障の理念を具体化し、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」として、放送番組編集の自由を規定している。すなわち、別に法律で定める権限に基づく場合でなければ、他からの放送番組編集への関与は許されないのである。法4条1項も、これらの規定を受けたものであって、上記の放送の自律性の保障の理念を踏まえた上で、上記の真実性の保障の理念を具体化するための規定であると解される。そして、このことに加え、法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、訂正放送等に関する裁判所の関与を規定していないこと、同項所定の義務違反について罰則が定められていること等を併せ考えると、同項は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。前記のとおり、法4条1項は被害者からの訂正放送等の請求について規定しているが、同条1項の規定内容を併せ考えると、これは、同請求を、放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置付けているものと解するのが相当であって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。
したがって、被害者は、放送事業者に対し、法4条1項の規定に基づく訂正放送等を求める私法上の権利を有しないというべきである。」
過去問・解説
(H26 司法 第7問 イ)
放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であって、公的な性格を有するものであり、放送による権利侵害や放送された事項が真実でないことが判明した場合に訂正放送が義務付けられているが、これは視聴者に対し反論権を認めるものではない。
放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であって、公的な性格を有するものであり、放送による権利侵害や放送された事項が真実でないことが判明した場合に訂正放送が義務付けられているが、これは視聴者に対し反論権を認めるものではない。
(正答) 〇
(解説)
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、…被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。
また、サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、傍論においてであるが、「放送法4条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり…その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとしているにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし…反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法4条の規定も、 所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。」としている。
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、…被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。
また、サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、傍論においてであるが、「放送法4条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり…その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとしているにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし…反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法4条の規定も、 所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。」としている。
(H29 予備 第3問 ア)
放送事業者は、権利の侵害を受けた者の請求に基づく調査によって放送内容が真実でないことが判明した場合、放送法の規定により訂正放送をしなければならないが、これは、放送内容の真実性の保障及び干渉排除による表現の自由の確保の観点から、放送事業者において自律的に訂正放送を行うことを公法上の義務として定めたものである。
放送事業者は、権利の侵害を受けた者の請求に基づく調査によって放送内容が真実でないことが判明した場合、放送法の規定により訂正放送をしなければならないが、これは、放送内容の真実性の保障及び干渉排除による表現の自由の確保の観点から、放送事業者において自律的に訂正放送を行うことを公法上の義務として定めたものである。
(正答) 〇
(解説)
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項は…放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項は…放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。