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生存権

朝日訴訟 最大判昭和42年5月24日

概要
①憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではなく、具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつて、はじめて与えられているというべきである。
②何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることを免れない。
判例
事案:厚生大臣が生活保護法による授権(委任)に基づき設定した生活保護基準(生活扶助額の最高額月600円)の憲法25条適合性が問題となった。

判旨:「憲法25条1項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定している。この規定は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない(昭和23年(れ)第205号、同年9月29日大法廷判決、刑集2巻10号1235頁参照)。具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつて、はじめて与えられているというべきである。生活保護法は、「この法律の定める要件」を満たす者は、「この法律による保護」を受けることができると規定し(2条参照)、その保護は、厚生大臣の設定する基準に基づいて行なうものとしているから(8条1項参照)、右の権利は、厚生大臣が最低限度の生活水準を維持するにたりると認めて設定した保護基準による保護を受け得ることにあると解すべきである。
 もとより、厚生大臣の定める保護基準は、法8条2項所定の事項を遵守したものであることを要し、結局には憲法の定める健康で文化的な最低限度の生活を維持するにたりるものでなければならない。しかし、健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。
 生活保護法によつて保障される最低限度の生活とは、健康で文化的な生活水準を維持することができるものであることを必要とし(3条参照)、保護の内容も、要保護者個人またはその世帯の実際の必要を考慮して、有効かつ適切に決定されなければならないが(9条参照)、同時に、それは最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、かつ、これをこえてはならないこととなつている(8条2項参照)。本件のような入院入所中の保護患者については、生活保護法による保護の程度に関して、長期療養という特殊の生活事情や医療目的からくる一定の制約があることに留意しなければならない。この場合に、日用品費の額の多少が病気治療の効果と無関係でなく、その額の不足は、病人に対し看過し難い影響を及ぼすことのあるのは、否定し得ないところである。しかし、患者の最低限度の需要を満たす手段として、法は、その需要に即応するとともに、保護実施の適正を期する目的から、保護の種類および範囲を定めて、これを単給または併給することとし、入院入所中の保護患者については、生活扶助のほかに給食を含む医療扶助の制度を設けているが、両制度の間にはおのずから性質上および運用上の区別があり、また、これらとは別に生業扶助の制度が存するのであるから、単に、治療効果を促進しあるいは現行医療制度や看護制度の欠陥を補うために必要であるとか、退院退所後の生活を容易にするために必要であるとかいうようなことから、それに要する費用をもつて日用品費と断定し、生活扶助基準にかような費用が計上されていないという理由で、同基準の違法を攻撃することは、許されないものといわなければならない。
 さらに、本件生活扶助基準という患者の日用品に対する一般抽象的な需要測定の尺度が具体的に妥当なものであるかどうかを検討するにあたつては、日用品の消費量が各人の節約の程度、当該日用品の品質等によつて異なるのはもとより、重症患者と中・軽症患者とではその必要とする費目が異なり、特定の患者にとつてはある程度相互流用の可能性が考えられるので、単に本件基準の各費目、数量、単価を個別的に考察するだけではなく、その全体を統一的に把握すべきである。また、入院入所中の患者の日用品であつても、経常的に必要とするものと臨時例外的に必要とするものとの区別があり、臨時例外的なものを一般基準に組み入れるか、特別基準ないしは一時支給、貸与の制度に譲るかは、厚生大臣の裁量で定め得るところである。
 以上のことを念頭に入れて検討すれば、原判決の確定した事実関係の下においては、本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断は、与えられた裁量権の限界をこえまたは裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない。」
過去問・解説
(H19 司法 第10問 イ)
憲法上の人権規定の趣旨を具体化する立法が不備な場合に、国民が直接憲法に基づいて具体的な請求をなし得るかどうかは、人権規定により異なる。法律に補償に関する規定が欠けていても直接憲法第29条第3項を根拠にして損失補償請求権が認められることがあるのに対して、生存権の場合は、憲法第25条は個々の国民に対し具体的権利を付与していないから、直接同条に基づき具体的な給付請求をすることはできない。

(正答)  

(解説)
河川附近地制限令事件判決(最大判昭43.11.27)は、「同令4条2号による制限について同条に損失補償に関する規定がないからといつて、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、本件被告人も、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない。」としている。
他方で、朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、「憲法25条1項は、…すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない」としている。

(H27 共通 第7問 ウ)
いわゆる朝日訴訟においては、生活保護法に基づく生活扶助を廃止するとともに医療扶助を変更する旨の保護変更決定について、これを認容した厚生大臣の裁決自体の裁量権の逸脱・濫用が争われたのではなく、生活保護法自体が憲法25条1項に違反するとして争われた。

(正答)  

(解説)
朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、生活保護法自体の憲法25条1項違反ではなく、「本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断」の裁量権の逸脱・濫用が争われた事案に関するものである。

(R5 司法 第7問 イ)
朝日訴訟判決(最大判昭和42年5月24日)は、憲法25条1項は、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではないが、厚生大臣が、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合、違法な行為として司法審査の対象となるとした。

(正答)  

(解説)
朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、「健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。」とする一方で、「ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」としている。
総合メモ

堀木訴訟 最大判昭和57年7月7日

概要
①障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止を定める児童福祉手当法4条3項3号は、憲法25条に違反しない。
②障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止を定める児童福祉手当法4条3項3号は、憲法14条にも憲法13条にも違反しない。
判例
事案:Xは、国民年金法に基づく障害福祉年金を受給していたところ、離婚後、児童福祉手当法に基づき、養育する次男Aに係る児童福祉手当の受給資格の認定を請求したところ、障害福祉年金と児童福祉手当の併給禁止を定める児童福祉手当法4条3項3号を理由として、請求を却下する処分を受けた。
 本事件では、障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止を定める児童福祉手当法4条3項3号の憲法25条適合性と憲法14条1項適合性が争点となった。

判旨:①「憲法25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定しているが、この規定が、いわゆる福祉国家の理念に基づき、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言したものであること、また、同条2項は「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定しているが、この規定が、同じく福祉国家の理念に基づき、社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものであること、そして、同条1項は、国が個々の国民に対して具体的・現実的に右のような義務を有することを規定したものではなく、同条2項によつて国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的・現実的な生活権が設定充実されてゆくものであると解すべきことは、すでに当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和23年(れ)第205号同年9月29日大法廷判決・刑集2巻10号1235頁)。
 このように、憲法25条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規定にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。
 …一般に、社会保障法制上、同一人に同一の性格を有する二以上の公的年金が支給されることとなるべき、いわゆる複数事故において、そのそれぞれの事故それ自体としては支給原因である稼得能力の喪失又は低下をもたらすものであつても、事故が二以上重なつたからといつて稼得能力の喪失又は低下の程度が必ずしも事故の数に比例して増加するといえないことは明らかである。このような場合について、社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、さきに述べたところにより、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。また、この種の立法における給付額の決定も、立法政策上の裁量事項であり、それが低額であるからといつて当然に憲法25条違反に結びつくものということはできない。以上の次第であるから、本件併給調整条項が憲法25条に違反して無効であるとする…主張を排斥した原判決は、結局において正当というべきである。」
 ②「次に、本件併給調整条項がXのような地位にある者に対してその受給する障害福祉年金と児童扶養手当との併給を禁じたことが憲法14条及び13条に違反するかどうかについて見るのに、憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、受給者の範囲、支給要件、支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をしたり、あるいは個人の尊厳を毀損するような内容の定めを設けているときは、別に所論指摘の憲法14条及び13条違反の問題を生じうることは否定しえないところである。しかしながら、本件併給調整条項の適用により、Xのように障害福祉年金を受けることができる地位にある者とそのような地位にない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別を生ずることになるとしても、さきに説示したところに加えて原判決の指摘した諸点、とりわけ身体障害者、母子に対する諸施策及び生活保護制度の存在などに照らして総合的に判断すると、右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえない…。また、本件併給調整条項が児童の個人としての尊厳を害し、憲法13条に違反する恣意的かつ不合理な立法であるといえないことも、上来説示したところに徴して明らかである…。」
過去問・解説
(H19 司法 第10問 ア)
憲法25条2項は事前の積極的防貧施策をなすべき国の努力義務を定め、1項は2項の防貧施策の実施にかかわらずなお落ちこぼれた者に対し、「最低限度の生活」を確保するため事後的救貧施策をなすべき国の責務を定めている。したがって、1項にかかわる生活保護の受給資格等が争われる事案は、国民年金法による障害福祉年金の受給制限が争われる2項に関する事案よりも厳格な司法審査が行われる。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟の控訴審判決(大阪高判昭50.1.10)は、1項と2項を峻別し、2項は国の事前の積極的貧困施策をなすべき努力義務のあることを、1項は2項の防貧施策の実施にもかかわらずなお落ちこぼれた者に対し事後的・補足的かつ個別的な救貧施策をなすべき義務があることを宣言したものであるとして、峻別論に立っている。この峻別論は、2項の防貧施策には広い立法裁量が認められ、その合憲性を緩やかに審査されるとする一方で、1項を「最低限度の生活の保障」という絶対的基準の確保を直接の目的としていると捉え、1項の救貧施策には厳格な審査基準が適用されるとする。
これに対し、最高裁(最大判昭57.7.7)は、同条1項と2項はともに福祉国家の理念に基づく国の責務を規定したものであり、両者が相まって生存権が設定充実されていくものであると述べ、峻別論を採用しなかった。

(H19 司法 第10問 ウ)
憲法25条の趣旨を立法により実現することについては、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とする。したがって、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられるが、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合には裁判所が審査判断するのであるから、憲法25条は裁判規範性を持つといえる。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。」としている。

(H22 司法 第3問 ウ)
社会保障給付の受給が争われている場合には、法令等の憲法25条違反の問題と14条1項違反の問題は一括して審査され、法令等の内容が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ない場合を除き、違憲とは判断されない。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、障害福祉年金と児童福祉手当の併給禁止条項について、憲法25条違反と憲法14条1項違反を別々に審査している。

(H27 共通 第2問 イ)
併給調整条項の適用により、障害福祉年金を受けることのできる者とそうでない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別が生じても、両給付が基本的に同一の性格を有し、併給調整に立法裁量があることなどに照らすと、合理的理由のない不当なものとはいえない。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、「児童扶養手当は、…障害福祉年金と基本的に同一の性格を有するもの、と見るのがむしろ自然である。」とした上で、「社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、さきに述べたところにより、立法府の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。」としている。その上で、本判決は、「本件併給調整条項の適用により、上告人のように障害福祉年金を受けることができる地位にある者とそのような地位にない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別を生ずることになるとしても、…右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」としている。

(H29 共通 第10問 イ)
憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」は、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるから、国の立法として具体化される場合にも、国の財政事情は考慮されるべきではない。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、「憲法25条…に いう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。」として、「国の財政事情」を考慮事項として明示している。

(R2 司法 第9問 ア)
憲法25条の規定の趣旨に応えて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられているが、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いや、個人の尊厳を毀損するような内容の定めがあれば、憲法14条及び13条違反の問題を生じることがある。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており…」とする一方で、 「憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、受給者の範囲、支給要件、支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をしたり、あるいは個人の尊厳を毀損するような内容の定めを設けているときは、別に所論指摘の憲法14条及び13条違反の問題を生じうることは否定しえないところである。」としている。

(R3 共通 第9問 ア)
憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」は、抽象的・相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、同規定を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とする。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、「憲法25条…に いう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。」としている。

(R3 共通 第9問 ウ)
憲法25条2項で定める防貧施策については広い立法裁量が認められる一方、同条1項で定める救貧施策については、国は国民の最低限度の生活を保障する責務を負い、前者よりも厳格な違憲審査基準が用いられる。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟の控訴審判決(大阪高判昭50.1.10)は、1項と2項を峻別し、2項は国の事前の積極的貧困施策をなすべき努力義務のあることを、1項は2項の防貧施策の実施にもかかわらずなお落ちこぼれた者に対し事後的・補足的かつ個別的な救貧施策をなすべき義務があることを宣言したものであるとして、峻別論に立っている。この峻別論は、2項の防貧施策には広い立法裁量が認められ、その合憲性を緩やかに審査されるとする一方で、1項を「最低限度の生活の保障」という絶対的基準の確保を直接の目的としていると捉え、1項の救貧施策には厳格な審査基準が適用されるとする。
これに対し、最高裁(最大判昭57.7.7)は、同条1項と2項はともに福祉国家の理念に基づく国の責務を規定したものであり、両者が相まって生存権が設定充実されていくものであると述べ、峻別論を採用しなかった。

(R4 司法 第3問 イ)
生存権は、生存に直結する権利であり精神的自由に準ずる権利である一方、これを具体化するための立法には高度の専門技術的な政策的判断を要するところ、併給調整条項の適用により、障害福祉年金の受給者と非受給者との間で児童扶養手当の受給に関する区別が生じるとしても、立法目的に合理的な根拠があり、かつ、立法目的と当該区別との間に実質的関連性が認められ、合理的理由のない差別とはいえないから、憲法14条に違反しない。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、「本件併給調整条項の適用により、Xのように障害福祉年金を受けることができる地位にある者とそのような地位にない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別を生ずることになるとしても、さきに説示したところに加えて原判決の指摘した諸点、とりわけ身体障害者、母子に対する諸施策及び生活保護制度の存在などに照らして総合的に判断すると、右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえない…。」としており、「立法目的に合理的な根拠があり、かつ、立法目的と当該区別との間に実質的関連性が認められ」(本肢)るか否かにまで踏み込んだ審査は行っていない。

(R5 司法 第7問 ア)
堀木訴訟判決(最大判昭和57年7月7日)は、憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、憲法14条違反の問題を生じる余地はあるが、併給調整を行うかどうかは立法府の裁量の範囲内に属し、併給調整条項の適用により、児童扶養手当の受給に関して差別を生ずることになるとしても、身体障害者、母子に対する諸施策及び生活保護制度の存在などに照らして総合的に判断すると、かかる差別はなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえないとした。

(正答)  

(解説)
堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)は、「本件併給調整条項の適用により、Xのように障害福祉年金を受けることができる地位にある者とそのような地位にない者との間に児童扶養手当の受給に関して差別を生ずることになるとしても、さきに説示したところに加えて原判決の指摘した諸点、とりわけ身体障害者、母子に対する諸施策及び生活保護制度の存在などに照らして総合的に判断すると、右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえない…。」としている。
総合メモ

総評サラリーマン税金訴訟 最三小判平成元年2月7日

概要
給与所得の金額の計算につき必要経費の実額控除を認めない旧所得税法9条1項5号は、憲法25条に違反しない。
判例
事案:旧所得税法が事業所得者について必要経費の実額控除を認めながら、給与所得者にはこれを認めていないことについて、憲法14条1項違反の他に、憲法25条違反も問題となった。
 なお、憲法14条1項違反については、平等権のカテゴリで取り上げている(https://law-lib.jp/subjects/1/precedents/52)。

判旨:「憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であつて、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たつては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複 雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのよう な立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁)。
 …本件の場合、上告人らは、もつぱら、そのいうところの昭和46年の課税最低限がいわゆる総評理論生計費を下まわることを主張するにすぎないが、右総評理論生計費は日本労働組合総評議会(総評)にとつての望ましい生活水準ないしは将来の達成目標にほかならず、これをもつて「健康で文化的な最低限度の生活」 を維持するための生計費の基準とすることができないことは原判決の判示するところであり、他に上告人らは前記諸規定が立法府の裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないゆえんを何ら具体的に主張していないから、上告人らの憲法25条、81条違反の主張は失当といわなければならない。」
過去問・解説
(R5 司法 第7問 ウ)
総評サラリーマン税金訴訟判決(最三小判平成元年2月7日)は、国家は、国民各自が自らの手で健康で文化的な最低限度の生活を維持することを阻害してはならないのであって、これを阻害する立法は憲法25条に違反するとしつつ、所得税法中の給与所得に係る課税関係規定について、憲法25条の規定の趣旨を踏まえて具体的にどのような立法措置を講ずるかは、立法府の広い裁量に委ねられるとした。

(正答)  

(解説)
総評サラリーマン税金訴訟判決(最判平元.2.7)は、「国家は、国民各自が自らの手で健康で文化的な最低限度の生活を維持することを阻害してはならないのであって、これを阻害する立法は憲法25条に違反する」(本肢)といった趣旨のことは述べていない。
総合メモ

老齢加算廃止訴訟 最三小判平成24年2月28日

概要
生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の改定は、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用には当たらず、生活保護法3条又は8条2項に違反するものではない。
判例
事案:生活保護法では、同法8条の委任を受けて、厚生労働大臣が生活保護基準を定めるものとされている。平成16年度から3年間にわたり、厚生労働大臣が生活保護基準を改定することにより、70歳以上の者等を対象とする生活扶助の加算(老齢加算)を段階的に減額することにより、廃止した。本事件では、厚生労働大臣による老齢加算廃止を内容とする生活保護基準の改定の憲法25条適合性が主たる争点になった。
 なお、本判決は、原判決が⑤の各観点について何ら審理を尽くしていないとして、原判決の一部を破棄して同部分を原審に差し戻した。

判旨:①「生活保護法56条…にいう正当な理由がある場合とは、既に決定された保護の内容に係る不利益な変更が、同法及びこれに基づく保護基準が定めている変更、停止又は廃止の要件に適合する場合を指すものと解するのが相当である。したがって、保護基準自体が減額改定されることに基づいて保護の内容が減額決定される本件のような場合については、同条が規律するところではないというべきである。」
 ②「生活保護法3条によれば、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ、同法8条2項によれば、保護基準は、要保護者(生活保護法による保護を必要とする者をいう。)の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであるのみならず、これを超えないものでなければならない。そうすると、仮に、老齢加算の一部又は全部についてその支給の根拠となっていた高齢者の特別な需要が認められないというのであれば、老齢加算の減額又は廃止をすべきことは、同項の規定に基づく要請であるということができる。もっとも、同項にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、これを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。したがって、保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである。」
 ③「また、老齢加算の全部についてその支給の根拠となる上記の特別な需要が認められない場合であっても、老齢加算は、一定の年齢に達すれば自動的に受給資格が生じ、老齢のため他に生計の資が得られない高齢者への生活扶助の一部として相当期間にわたり支給される性格のものであることに鑑みると、その加算の廃止は、これを含めた生活扶助が支給されることを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては、保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来すものであることも否定し得ないところである。そうすると、上記のような場合においても、厚生労働大臣は、老齢加算の支給を受けていない者との公平や国の財政事情といった見地に基づく加算の廃止の必要性を踏まえつつ、被保護者のこのような期待的利益についても可及的に配慮する必要があるところ、その廃止の具体的な方法等について、激変緩和措置を講ずることなどを含め、上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである。」
 ④「したがって、本件改定は、〔1〕本件改定の時点において70歳以上の高齢者にはもはや老齢加算に見合う特別な需要が認められないとした厚生労働大臣の判断に上記②の見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合、あるいは、〔2〕老齢加算の廃止に際して採るべき激変緩和措置は3年間の段階的な廃止が相当であるとしつつ生活扶助基準の水準の定期的な検証を行うものとした同大臣の判断に上記③の見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に、生活保護法8条2項に違反して違法となり、本件改定に基づく本件各決定も違法となるものというべきである。」
 ⑤「そして、老齢加算の減額又は廃止の要否の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価が前記②のような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であることや、老齢加算の支給根拠及びその額等についてはそれまでも各種の統計や専門家の作成した資料等に基づいて高齢者の特別な需要に係る推計や加算対象世帯と一般世帯との消費構造の比較検討等がされてきた経緯等に鑑みると、同大臣の上記〔1〕の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として老齢加算の廃止に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される。また、本件改定が老齢加算を一定期間内に廃止するという内容のものであることに鑑みると、同大臣の上記〔2〕の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、本件改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者の上記のような期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼすか否か等の観点から、本件改定の被保護者の生活への影響の程度やそれが上記の激変緩和措置等によって緩和される程度等について上記の統計等の客観的な数値等との合理的関連性等を含めて審査されるべきものと解される。」
 ⑥「専門委員会が中間取りまとめにおいて示した意見は、特別集計等の統計や資料等に基づき、〔1〕無職単身世帯の生活扶助相当消費支出額を比較した場合、いずれの収入階層でも70歳以上の者の需要は60ないし69歳の者のそれより少ないことが示されていたこと、〔2〕70歳以上の単身者の生活扶助額(老齢加算を除く。)の平均は、第〈1〉-5分位の同じく70歳以上の単身無職者の生活扶助相当消費支出額を上回っていたこと、〔3〕昭和59年度から平成14度までにおける生活扶助基準の改定率は、消費者物価指数及び賃金の各伸び率を上回っており、特に同7年度以降の比較では後二者がマイナスで推移しているにもかかわらずプラスとなっていたこと、〔4〕昭和58年度以降、被保護勤労者世帯の消費支出の割合は一般勤労者世帯の消費支出の7割前後で推移していたこと、〔5〕昭和55年と平成12年とを比較すると第〈1〉-10分位及び被保護勤労者世帯の平均のいずれにおいても消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)が低下していることなどが勘案されたものであって、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところはない。そして、70歳以上の高齢者に老齢加算に見合う特別な需要が認められず、高齢者に係る本件改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持するに足りない程度にまで低下するものではないとした厚生労働大臣の判断は、専門委員会のこのような検討等を経た前記…の意見に沿って行われたものであり、その判断の過程及び手続に過誤、欠落があると解すべき事情はうかがわれない。
 また、前記事実関係等によれば、本件改定が老齢加算を3年間かけて段階的に減額して廃止したことも、専門委員会の前記…の意見に沿ったものであるところ、平成11年度における老齢加算のある被保護者世帯の貯蓄純増は老齢加算の額に近似した水準に達しており、老齢加算のない被保護者世帯の貯蓄純増との差額も月額で5000円を超えていたというのであるから、3年間かけて段階的に老齢加算を減額して廃止することによって被保護者世帯に対する影響は相当程度緩和されたものと評価することができる上、厚生労働省による生活扶助基準の水準の定期的な検証も前記…の意見を踏まえて生活水準の急激な低下を防止すべく配慮したものということができ、その他本件に現れた一切の事情を勘案しても、本件改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者世帯の期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼしたものとまで評価することはできないというべきである。
 以上によれば、本件改定については、前記…のいずれの観点からも裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。
 したがって、本件改定は、生活保護法3条又は8条2項の規定に違反するものではないと解するのが相当である。そして、本件改定に基づいてされた本件各決定にも、これを違法と解すべき事情は認められない。」
過去問・解説
(H26 共通 第10問 ウ)
生活保護法に基づいて生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であるから、保護基準の改定(老齢加算の廃止)に基づく保護の不利益変更は、その改定自体に正当な理由がない限り違法となる。

(正答)  

(解説)
老齢加算廃止訴訟判決(最判平24.2.28)は、「保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に…専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである」としており、「保護基準の改定(老齢加算の廃止)に基づく保護の不利益変更は、その改定自体に正当な理由がない限り違法となる。」(本肢)とは述べていない。

(R2 司法 第9問 イ)
「健康で文化的な最低限度の生活」は、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるが、老齢加算を廃止する保護基準の改定については、不利益変更であることに鑑み、厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的見地からの広範な裁量権は認められない。

(正答)  

(解説)
老齢加算廃止訴訟判決(最判平24.2.28)は、堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)を参照するにとどまり、その文言をそのまま引用はしておらず、堀木訴訟判決における「広い」裁量と明白の原則について明示的に言及していないため、の言及もない。生活保護の基準の不利益変更であることに鑑み、堀木訴訟判決の射程を部分的に制限し、「広い」裁量を根拠とした明白の原則は採用しなかったという読み方も可能である。しかし、司法試験委員会は、老齢加算廃止訴訟判決について、生活保護の基準の不利益変更の場面でも「広い」裁量を認めた判例であると理解している。

(R3 共通 第9問 イ)
憲法第25条の生存権を具体化する趣旨の法律として、生活保護法等の法律が制定された場合、その法律は憲法第25条と一体をなし、かかる法律の定める給付水準を正当な理由なくして引き下げることは憲法上許されない。

(正答)  

(解説)
老齢加算廃止訴訟判決(最判平24.2.28)は、「保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に…専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである」としており、「法律の定める給付水準を正当な理由なくして引き下げることは憲法上許されない」(本肢)とは解していない。
総合メモ

学生無年金訴訟 最二小判平成19年9月28日

概要
平成元年改正前の国民年金法における強制加入例外規定を含む20歳以上の学生に関する上記の措置及び加入等に関する区別並びに立法府が平成元年改正前において20歳以上の学生について国民年金の強制加入被保険者とするなどの措置を講じなかったことは、憲法25条、14条1項に違反しない。
判例
事案:昭和34年制定の国民年金法では、20歳以上の国民を国民年金保険料の強制徴収の対象者としていたが、20歳以上でも学生の場合は強制徴収の対象外とし、任意加入の道を開いていたところ、学生の任意加入率が極めて低く、加入しない間に障害を負った学生が国民年金法上の障害福祉年金の給付を受けられないという学生無年金者の問題が生じていた。
 昭和60年改正の国民年金法でも、20歳以上の学生の取り扱いは昭和34年制定の国民年金法と同じままで、従来から20歳未満の障害者については学生も含めて無拠出の障害福祉年金を支給する旨が定められていたが、20歳以上の学生無年金者に対する救済措置は講じられなかった。
 本事件では、国家賠償請求訴訟において、主として、学生無年金者の問題が遅くとも1970年代半ば頃には明らかになっていたにもかかわらず、国会が国民年金法をすみやかに改正しなかった立法不作為が憲法25条・14条1項に違反するかが問題とされた。

判旨:①「国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。もっとも、同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲、支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ないところである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。
 ②「学生(高等学校等の生徒を含む。以下同じ。)は、夜間の学部等に在学し就労しながら教育を受ける者を除き、一般的には、20歳に達した後も稼得活動に従事せず、収入がなく、保険料負担能力を有していない。また、20歳以上の者が学生である期間は、多くの場合、数年間と短く、その間の傷病により重い障害の状態にあることとなる一般的な確率は低い上に、多くの者は卒業後は就労し、これに伴い、平成元年改正前の法の下においても、被用者年金各法等による公的年金の保障を受けることとなっていたものである。一方、国民年金の保険料は、老齢年金(昭和60年改正後は老齢基礎年金)に重きを置いて、その適正な給付と保険料負担を考慮して設定されており、被保険者が納付した保険料のうち障害年金(昭和60年改正後は障害基礎年金)の給付費用に充てられることとなる部分はわずかであるところ、20歳以上の学生にとって学生のうちから老齢、死亡に備える必要性はそれほど高くはなく、専ら障害による稼得能力の減損の危険に備えるために国民年金の被保険者となることについては、保険料納付の負担に見合う程度の実益が常にあるとまではいい難い。さらに、保険料納付義務の免除の可否は連帯納付義務者である被保険者の属する世帯の世帯主等(法88条2項)による保険料の納付が著しく困難かどうかをも考慮して判断すべきものとされていること(平成12年改正前の法90条1項ただし書)などからすれば、平成元年改正前の法の下において、学生を強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を負わせ他の強制加入被保険者と同様に免除の可否を判断することとした場合、親などの世帯主に相応の所得がある限り、学生は免除を受けることができず、世帯主が学生の学費、生活費等の負担に加えて保険料納付の負担を負うこととなる。
 他方、障害者については障害者基本法等による諸施策が講じられており、生活保護法に基づく生活保護制度も存在している。これらの事情からすれば、平成元年改正前の法が、20歳以上の学生の保険料負担能力、国民年金に加入する必要性ないし実益の程度、加入に伴い学生及び学生の属する世帯の世帯主等が負うこととなる経済的な負担等を考慮し、保険方式を基本とする国民年金制度の趣旨を踏まえて、20歳以上の学生を国民年金の強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を課すのではなく、任意加入を認めて国民年金に加入するかどうかを20歳以上の学生の意思にゆだねることとした措置は、著しく合理性を欠くということはできず、加入等に関する区別が何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。
 確かに、加入等に関する区別によって、前記のとおり、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金等の受給に関し差異が生じていたところではあるが、いわゆる拠出制の年金である障害基礎年金等の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうか、どの程度緩和するかは、国民年金事業の財政及び国の財政事情にも密接に関連する事項であって、立法府は、これらの事項の決定について広範な裁量を有するというべきであるから、上記の点は上記判断を左右するものとはいえない。
 そうすると、平成元年改正前の法における強制加入例外規定を含む20歳以上の学生に関する上記の措置及び加入等に関する区別並びに立法府が平成元年改正前において20歳以上の学生について国民年金の強制加入被保険者とするなどの所論の措置を講じなかったことは、憲法25条、14条1項に違反しない。」
過去問・解説
(H26 共通 第10問 イ)
障害基礎年金の受給に関し、保険料の拠出要件を緩和するか否かは国の財政事情等に密接に関連するから、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金の受給に関し差異が生じていたとしても、不合理とはいえない。

(正答)  

(解説)
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)は、「いわゆる拠出制の年金である障害基礎年金等の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうか、どの程度緩和するかは、国民年金事業の財政及び国の財政事情にも密接に関連する事項であって、立法府は、これらの事項の決定について広範な裁量を有するというべきである」とした上で、結論として、憲法法25条、14条1項に違反しないとしている。

(H29 共通 第10問 ア)
国民年金制度は、憲法第25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるから、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除いて、裁判所が審査判断するに適しない事柄であり、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いがあっても、憲法第14条違反の問題は生じ得ない。

(正答)  

(解説)
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)では、「国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。」とする一方で、「もっとも、同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲、支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ないところである…。」としている。

(R2 司法 第9問 ウ)
障害基礎年金の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうかは国の財政事情等にも密接に関連する事項であるが、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金の受給に関し差異が生じた場合、その合憲性については、憲法第25条及び第14条の趣旨に照らし、慎重に検討する必要がある。

(正答)  

(解説)
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)は、「その合憲性については、憲法第25条及び第14条の趣旨に照らし、慎重に検討する必要がある。」とは述べていない。
総合メモ