現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください

引き続き問題が発生する場合は、 お問い合わせ までご連絡ください。

労働基本権

三井美唄炭鉱労組事件 最大判昭和43年12月4日

概要
①憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有する。
②立候補の自由も、憲法15条1項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。
③労働組合が、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、勧告又は説得をすることは許される。しかし、当該組合員に対し、勧告又は説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分することは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法である。
判例
事案:A労働組合は、B市市議会議員選挙に際して、組合が支援する統一候補を決定したのに組合員Cが独自に立候補しようとしたため、Cに対して立候補を断念するよう再三にわたって説得を試み、その際、組合の決定に対する統制違反として組合規約により処分されることがある旨をCに示したり、その旨を機関紙に掲載してC宅に配布させたり、さらに、選挙に当選したCに対して1年間の組合員資格停止とする統制処分を行うなど、組合とCとの特殊な利害関係を利用して、選挙に関し、Cを威迫した。これらが選挙の自由妨害罪(公選法225条3号)、刑法60条に該当するとして、組合役員が起訴された。
 最高裁は、①労働組合の統制権の法的性質、②立候補の自由の憲法上の保障・重要性、③組合員の立候補の自由との関係における組合の統制権の限界について判断している。

判旨:①「労働者が憲法28条の保障する団結権に基づき労働組合を結成した場合において、その労働組合が正当な団体行動を行なうにあたり、労働組合の統一と一体化を図り、その団結力の強化を期するためには、その組合員たる個々の労働者の行動についても、組合として、合理的な範囲において、これに規制を加えることが許されなければならない(以下、これを組合の統制権とよぶ。)。およそ、組織的団体においては、一般に、その構成員に対し、その目的に即して合理的な範囲内での統制権を有するのが通例であるが、憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、その組合員に対する組合の統制権は、一般の組織的団体のそれと異なり、労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法28条の精神に由来するものということができる。この意味において、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。」
 ②「選挙は、本来、自由かつ公正に行なわれるべきものであり、このことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請である。この見地から、選挙人は、自由に表明する意思によつてその代表者を選ぶことにより、自ら国家(または地方公共団体等)の意思の形成に参与するのであり、誰を選ぶかも、元来、選挙人の自由であるべきであるが、多数の選挙人の存する選挙においては、これを各選挙人の完全な自由に放任したのでは選挙の目的を達成することが困難であるため、公職選挙法は、自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望する代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。したがつて、もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。さればこそ、公職選挙法に、選挙人に対すると同様、公職の候補者または候補者となろうとする者に対する選挙に関する自由を妨害する行為を処罰することにしているのである。(同法225条1号3号参照)。
 ③「労働組合は、その目的を達成するために必要な政治活動等を行なうことを妨げられるわけではない。したがつて、本件の地方議会議員の選挙にあたり、いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進することとし、統一候補以外の組合員で立候補しようとする組合員に対し、立候補を思いとどまるように勧告または説得することも、その限度においては、組合の政治活動の一環として、許されるところと考えてよい。また他面において、労働組合が、その団結を維持し、その目的を達成するために、組合員に対し、統制権を有することも、前叙のとおりである。しかし、労働組合が行使し得べき組合員に対する統制権には、当然、一定の限界が存するものといわなければならない。殊に、公職選挙における立候補の自由は、憲法15条1項の趣旨に照らし、基本的人権の一つとして、憲法の保障する重要な権利であるから、これに対する制約は、特に慎重でなければならず、組合の団結を維持するための統制権の行使に基づく制約であつても、その必要性と立候補の自由の重要性とを比較衡量して、その許否を決すべきであり、その際、政治活動に対する組合の統制権のもつ前叙のごとき性格と立候補の自由の重要性とを十分考慮する必要がある。
 A労働組合員たるCが組合の統一候補の選にもれたことから、独自に立候補する旨の意思を表示したため、…組合幹部は、Cに対し、組合の方針に従つて右選挙の立候補を断念するように再三説得したが、Cは容易にこれに応ぜず、あえて独自の立場で立候補することを明らかにしたので、ついに説得することを諦め、組合の決定に基づいて本件措置に出たというのである。このような場合には、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、勧告または説得をすることは、組合としても、当然なし得るところである。しかし、当該組合員に対し、勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」
過去問・解説
(H18 司法 第4問 イ)
労働組合の組合員に対する統制権は、労働者の団結権保障の一環として、憲法第28条の精神に由来するものであるが、労働組合が、公職選挙における統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進している場合であっても、組合の方針に反して立候補した組合員を統制違反として処分することは、労働組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、その組合員に対する組合の統制権は、…労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法28条の精神に由来するものということができる。」とする一方で、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(H23 司法 第10問 ウ)
最高裁判所の判例の趣旨によれば、労働組合には組合員に対する統制権が認められるが、公職選挙において、組合がその統一候補以外の組合員の立候補に対し、統制違反を理由に組合員としての権利を停止する処分をすることは許されない。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(H28 司法 第9問 イ)
憲法により団結権が保障されている労働組合においては、組合の目的の範囲内にある活動であれば、その全ての活動について組合員に対して統制権を行使し得るから、労働組合が統制権に基づいて組合員を除名した処分には司法審査が及ばない。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(R2 予備 第6問 ウ)
判例は、団結権を確保するために労働組合の統制権を認めるが、公職選挙に当たり労働組合が統一候補を決定し、それ以外の立候補した組合員に対し、これを統制違反者として処分することは違法としている。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(R4 共通 第13問 イ)
労働組合は、団結権が保障されており、組合の団結を維持するための統制権の行使によって公職選挙における組合員の立候補の自由を制約することができるので、公職選挙において統一候補を擁立した場合、当該候補以外の組合員が立候補をやめなかったことを理由にその組合員を処分することができる。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。」とする一方で、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(R5 共通 第8問 イ)
労働組合は、憲法第28条が団結権を保障する効果として、組合員に対する統制権を有するから、労働組合が、地方議会議員の選挙に当たり、統一候補を決定して組合を挙げて選挙運動を推進している場合に、組合の方針に反して立候補しようとする組合員に対し、立候補の取りやめを要求し、これに従わないことを統制違反として処分することは許される。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。」とする一方で、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。
総合メモ

国労広島地本事件 最三小判昭和50年11月28日

概要
①組合員としてもある程度まではこれを予想して組合に加入するのであるから、組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。
②労働組合が他の労働組合の闘争支援資金として徴収する臨時組合費については、右支援が法律上許されない等特別の場合でない限り、組合員はこれを納付する義務を負う。
③労働組合が安保反対闘争実施の費用として徴収する臨時組合費については、組合員はこれを納付する義務を負わない。これに対し、労働組合がその実施したいわゆる安保反対闘争により民事上又は刑事上の不利益処分を受けた組合員を救援する費用として徴収する臨時組合費については、組合員はこれを納付する義務を負う。
④公職選挙に際し、労働組合が特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金として徴収する臨時組合費については、組合員はこれを納付する義務を負わない。
判例
事案:日本国有鉄道の従業員で構成されるX労働組合は、臨時組合費を徴収する決議を行った。
 本事件では、他の労働組合の活動を支援するための「炭労資金」、X労働組合が実施した安保反対闘争により法的不利益を受けた組合員を救援するための「安保資金」、総選挙に際してX労働組合出身の候補者を支援するために所属政党に寄付するための「政治意欲昂揚資金」の納付義務が問題となった。

判旨:①「思うに、労働組合の組合員は、組合の構成員として留まる限り、組合が正規の手続に従つて決定した活動に参加し、また、組合の活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力義務」という。)は、もとより無制限のものではない。労働組合は、労働者の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であつて、組合員はかかる目的のための活動に参加する者としてこれに加入するのであるから、その協力義務も当然に右目的達成のために必要な団体活動の範囲に限られる。しかし、いうまでもなく、労働組合の活動は、必ずしも対使用者との関係において有利な労働条件を獲得することのみに限定されるものではない。労働組合は、歴史的には、使用者と労働者との間の雇用関係における労働者側の取引力の強化のために結成され、かかるものとして法認されてきた団体ではあるけれども、その活動は、決して固定的ではなく、社会の変化とそのなかにおける労働組合の意義や機能の変化に伴つて流動発展するものであり、今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。このような労働組合の活動の拡大は、そこにそれだけの社会的必然性を有するものであるから、これに対して法律が特段の制限や規制の措置をとらない限り、これらの活動そのものをもつて直ちに労働組合の目的の範囲外であるとし、あるいは労働組合が本来行うことのできない行為であるとすることはできない。
 しかし、このように労働組合の活動の範囲が広く、かつ弾力的であるとしても、そのことから、労働組合がその目的の範囲内においてするすべての活動につき当然かつ一様に組合員に対して統制力を及ぼし、組合員の協力を強制することができるものと速断することはできない。労働組合の活動が組合員の一般的要請にこたえて拡大されるものであり、組合員としてもある程度まではこれを予想して組合に加入するのであるから、組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、労働組合の活動が前記のように多様化するにつれて、組合による統制の範囲も拡大し、組合員が一個の市民又は人間として有する自由や権利と矛盾衝突する場合が増大し、しかも今日の社会的条件のもとでは、組合に加入していることが労働者にとつて重要な利益で、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けていることを考えると、労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。それゆえ、この点に関して格別の立法上の規制が加えられていない場合でも、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。
 そこで、以上のような見地から本件の前記各臨時組合費の徴収の許否について判断する。」
 ②「炭労資金(春闘資金中30円を含む。)について
 右資金は、上告組合自身の闘争のための資金ではなく、他組合の闘争に対する支援資金である。労働組合が他の友誼組合の闘争を支援する諸活動を行うことは、しばしばみられるところであるが、労働組合ないし労働者間における連帯と相互協力の関係からすれば、労働組合の目的とする組合員の経済的地位の向上は、当該組合かぎりの活動のみによつてではなく、広く他組合との連帯行動によつてこれを実現することが予定されているのであるから、それらの支援活動は当然に右の目的と関連性をもつものと考えるべきであり、また、労働組合においてそれをすることがなんら組合員の一般的利益に反するものでもないのである。それゆえ、右支援活動をするかどうかは、それが法律上許されない等特別の場合でない限り、専ら当該組合が自主的に判断すべき政策問題であつて、多数決によりそれが決定された場合には、これに対する組合員の協力義務を否定すべき理由はない。右支援活動の一環としての資金援助のための費用の負担についても同様である。
 のみならず、原判決は、本件支援の対象となつた炭労の闘争が、石炭産業の合理化に伴う炭鉱閉鎖と人員整理を阻止するため、使用者に対して企業整備反対の闘争をすると同時に、政府に対して石炭政策転換要求の闘争をすることを内容としたものであつて、右石炭政策転換闘争において炭労が成功することは、当時上告組合自身が行つていた国鉄志免炭鉱の閉山反対闘争を成功させるために有益であつたとしながら、本件支援資金が、炭労の右石炭政策転換闘争の支援を直接目的としたものでなく、主としてその企業整備反対闘争を支援するための資金であつたことを理由に、これを拠出することが上告組合の目的達成に必要なものではなかつたと判断しているのであるが、炭労の前記闘争目的から合理的に考えるならば、その石炭政策転換闘争と企業整備反対闘争とは決して無関係なものではなく、企業整備反対闘争の帰すうは石炭政策転換闘争の成否にも影響するものであつたことがうかがわれるのであり、そうである以上、直接には企業整備反対闘争を支援するための資金であつても、これを拠出することが石炭政策転換闘争の支援につながり、ひいて上告組合自身の前記闘争の効果的な遂行に資するものとして、その目的達成のために必要のないものであつたとはいいがたいのである。
 してみると、前記特別の場合にあたるとは認められない本件において、被上告人らが右支援資金を納付すべき義務を負うことは明らかであり、これを否定した原審及び第一審の判断は誤りというほかなく、その違法をいう論旨は理由がある。」
 ③「安保資金について
 右資金は、いわゆる安保反対闘争に参加して処分を受けた組合員を救援するための資金であるが、後記五の政治意識昂揚資金とともに、労働組合の政治的活動に関係するので、以下においては、まず労働組合の政治的活動に対する組合員の協力義務について一般的に考察し、次いで右政治的活動による被処分者に対する救援の問題に及ぶこととする。
 既に述べたとおり、労働組合が労働者の生活利益の擁護と向上のために、経済的活動のほかに政治的活動をも行うことは、今日のように経済的活動と政治的活動との間に密接ないし表裏の関係のある時代においてはある程度まで必然的であり、これを組合の目的と関係のない行為としてその活動領域から排除することは、実際的でなく、また当を得たものでもない。それゆえ、労働組合がかかる政治的活動をし、あるいは、そのための費用を組合基金のうちから支出すること自体は、法的には許されたものというべきであるが、これに対する組合員の協力義務をどこまで認めうるかについては、更に別個に考慮することを要する。
 すなわち、一般的にいえば、政治的活動は一定の政治的思想、見解、判断等に結びついて行われるものであり、労働組合の政治的活動の基礎にある政治的思想、見解、判断等は、必ずしも個々の組合員のそれと一致するものではないから、もともと団体構成員の多数決に従つて政治的行動をすることを予定して結成された政治団体とは異なる労働組合としては、その多数決による政治的活動に対してこれと異なる政治的思想、見解、判断等をもつ個々の組合員の協力を義務づけることは、原則として許されないと考えるべきである。かかる義務を一般的に認めることは、組合員の個人としての政治的自由、特に自己の意に反して一定の政治的態度や行動をとることを強制されない自由を侵害することになるからである。
 しかしながら、労働組合の政治的活動とそれ以外の活動とは実際上しかく截然と区別できるものではなく、一定の行動が政治的活動であると同時に経済的活動としての性質をもつことは稀ではないし、また、それが政治的思想、見解、判断等と関係する度合いも必ずしも一様ではない。したがつて、労働組合の活動がいささかでも政治的性質を帯びるものであれば、常にこれに対する組合員の協力を強制することができないと解することは、妥当な解釈とはいいがたい。例えば、労働者の権利利益に直接関係する立法や行政措置の促進又は反対のためにする活動のごときは、政治的活動としての一面をもち、そのかぎりにおいて組合員の政治的思想、見解、判断等と全く無関係ではありえないけれども、それとの関連性は稀薄であり、むしろ組合員個人の政治的立場の相違を超えて労働組合本来の目的を達成するための広い意味における経済的活動ないしはこれに付随する活動であるともみられるものであつて、このような活動について組合員の協力を要求しても、その政治的自由に対する制約の程度は極めて軽微なものということができる。それゆえ、このような活動については、労働組合の自主的な政策決定を優先させ、組合員の費用負担を含む協力義務を肯定すべきである。
 これに対し、いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとしても、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対するかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもつて組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。もつとも、この種の活動に対する費用負担の限度における協力義務については、これによつて強制されるのは一定額の金銭の出捐だけであつて、問題の政治的活動に関してはこれに反対する自由を拘束されるわけではないが、たとえそうであるとしても、一定の政治的活動の費用としてその支出目的との個別的関連性が明白に特定されている資金についてその拠出を強制することは、かかる活動に対する積極的協力の強制にほかならず、また、右活動にあらわされる一定の政治的立場に対する支持の表明を強制するにも等しいものというべきであつて、やはり許されないとしなければならない。
 次に、右安保反対闘争のような政治的活動に参加して不利益処分を受けた組合員に対する救援の問題について考えると、労働組合の行うこのような救援そのものは、組合の主要な目的の一つである組合員に対する共済活動として当然に許されるところであるが、それは同時に、当該政治的活動のいわば延長としての性格を有することも否定できない。しかし、労働組合が共済活動として行う救援の主眼は、組織の維持強化を図るために、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的に援助してやることにあり、処分の原因たる行為のいかんにかかわるものではなく、もとよりその行為を支持、助長することを直接目的とするものではないから、右救援費用を拠出することが直ちに処分の原因たる政治的活動に積極的に協力することになるものではなく、また、その活動のよつて立つ一定の政治的立場に対する支持を表明することになるものでもないというべきである。したがつて、その拠出を強制しても、組合員個人の政治的思想、見解、判断等に関係する程度は極めて軽微なものであつて、このような救援資金については、先に述べた政治的活動を直接の目的とする資金とは異なり、組合の徴収決議に対する組合員の協力義務を肯定することが相当である。なお、処分の原因たる被処分者の行為は違法なものでもありうるが、右に述べた救援の目的からすれば、そのことが当然には協力義務を否定する理由となるものではない(当裁判所昭和48年(オ)第498号組合費請求事件同50年11月28日第三小法廷判決参照)。
 ところで、本件において原審の確定するところによれば、前記安保資金は、いわゆる安保反対闘争による処分が行われたので専ら被処分者を救援するために徴収が決定されたものであるというのであるから、右の説示に照らせば、被上告人らはこれを納付する義務を負うことが明らかであるといわなければならない。それゆえ、これを否定した原審及び第一審の判断は誤りであり、その違法をいう論旨は理由がある。」
 ④「政治意識昂揚資金について
 右資金は、総選挙に際し特定の立候補者支援のためにその所属政党に寄付する資金であるが、政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが(当裁判所昭和38年(あ)第974号同43年12月4日大法廷判決・刑集22巻13号1425頁参照)、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべきことは、既に述べたところから明らかである。これと同旨の理由により本件政治意識昂揚資金について被上告人らの納付義務を否定した原審の判断は正当であつて、所論労働組合法又は民法の規定の解釈適用を誤つた違法はない。また、所論違憲の主張は、その実質において原判決に右違法のあることをいうものであるか、独自の見解を前提として原判決の違憲を主張するものにすぎないから、失当であり、更に所論引用の判例も、事案を異にし、本件に適切でない。この点に関する論旨は、採用することができない。」
過去問・解説
(H18 司法 第3問 ウ)
労働組合による統制と組合員が市民又は人間として有する自由や権利とが矛盾衝突する場合、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量して、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えるべきである。

(正答)  

(解説)
国労広島地本事件判決(最判昭50.11.28)は、「問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である」としている。

(H20 司法 第4問 ア)
どの政党又は候補者を支持するかは投票の自由と表裏をなすべきものであり、組合員各自が自主的に決定すべき事柄である。しかし、労働組合には脱退の自由があるので、労働組合が総選挙に際し特定の政党の立候補者を支援する資金のための臨時組合費の負担を組合員に強制することは、許される。

(正答)  

(解説)
国労広島地本事件判決(最判昭50.11.28)は、公職選挙に際し、労働組合が特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金について、「選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが…、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべき」として、協力義務を否定している。

(H30 予備 第9問 ア)
労働組合は、組合員の経済的地位の向上を本来の目的とする団体であり、その目的のために、組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが、その政党に寄付する資金の費用負担を組合員に強制することは許されない。

(正答)  

(解説)
国労広島地本事件判決(最判昭50.11.28)は、公職選挙に際し、労働組合が特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金について、「選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが…、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべき」として、協力義務を否定している。

(R3 予備 第1問 ウ)
労働組合の活動に対する組合員の協力義務の範囲は、問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、合理的な限定を加えられるべきである。それゆえ、組合員は、組合が支援する公職選挙候補者が所属する政党への寄付のために徴収する臨時組合費について納入義務を負わない。

(正答)  

(解説)
国労広島地本事件判決(最判昭50.11.28)は、「問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である」としている。
その上で、公職選挙に際し、労働組合が特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金について、「選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが…、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべき」として、協力義務を否定している。

(R6 予備 第2問 ア)
政治的活動が直ちに労働組合の目的の範囲外であるとすることはできないが、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が自主的に決定すべき事柄であるから、労働組合が組合員に対して、組合出身の立候補者の選挙運動の応援のために臨時組合費の負担を強制することは許されない。

(正答)  

(解説)
国労広島地本事件判決(最判昭50.11.28)は、公職選挙に際し、労働組合が特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金について、「選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが…、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべき」として、協力義務を否定している。
総合メモ

三井倉庫港運事件 最一小判平成元年12月14日

概要
①ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法90条の規定により、これを無効と解すべきである。
②使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、①の労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効である。
判例
事案:ユニオン・ショップ協定の有効性、及び同協定に基づく解雇の有効性が問題となった。

判旨:「ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法90条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法28条参照)。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない…。」
過去問・解説
(H18 司法 第4問 ウ)
労働組合への加入強制の方式の一つとして採用されているユニオン・ショップ協定のうち、使用者とユニオン・ショップ協定を締結している組合(締結組合)以外の他の組合に加入している者や、締結組合から脱退・除名されたが他の組合に加入し又は新たな組合を結成した者について、使用者の解雇義務を定める部分は、労働者の組合選択の自由や他の組合の団結権を侵害するものであり、民法第90条の規定により無効と解すべきである。

(正答)  

(解説)
三井倉庫港運事件判決(最判平元12.14)は、「ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法90条の規定により、これを無効と解すべきである」としている。

(H30 司法 第9問 エ)
憲法第28条は、その性質上、私人間の関係に適用される余地はなく、そのため、判例は、労働組合への加入を強制するために使用者と労働組合との間に締結されるユニオン・ショップ協定の効力を団結権との関係で判断する場合にも、憲法を直接適用していない。

(正答)  

(解説)
三井倉庫港運事件判決(最判平元.12.14)は、「ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法90条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法28条参照)。」として、憲法28条を参照しているから、「憲法第28条は、その性質上、私人間の関係に適用される余地はな…い」(本肢)とは言い切れない。

(R5 共通 第8問 ア)
ユニオン・ショップ協定とは、労働協約において、使用者が従業員のうち労働組合に加入しない者及び労働組合の組合員でなくなった者を解雇する義務を負う定めを置くことをいうが、ユニオン・ショップ協定において、使用者が同協定を締結した組合以外の他の労働組合に加入している者を解雇する義務を負うと定めることは、憲法第28条が保障する労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害するため許されない。

(正答)  

(解説)
三井倉庫港運事件判決(最判平元.12.14)は、「労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。」としている。
総合メモ

山田鉄鋼業事件 最大判昭和25年11月15日

概要
使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を柳圧し、財産に対する支配を阻止することは許さるべきでないと認められる。
判例
事案:使用者の権利との関係で労働者の争議行為の限界が問題となった。

判旨:①「論旨は、原判決を以て、生産管理の本質を誤り、生産管理が争議権行使の一方法であることを否認し、争議権行使の方法を制限した違法あるものとして、非難すると共に、生産管理が労働関係調整法第7条にいわゆる「その他」の行為に中に含まれるということを論拠として、労働者が争議方法として生産管理を行うことには何等の制限を受くべきでないと主張する。しかし右の法条は争議行為の定義を掲げただけであつて、争議行為又はそれに伴う諸々の行為がすべて適法又は正当であると言つているのではない。従つて生産管理が右の「その他」の行為の中に含まれるとしても、そのことだけから生産管理を行う自由がある、と即断することはできない。具体的の争議行為の適法性の限界については、別個の観点から判断されなければならない。生産管理の概念に関する原判決の説明が妥当であるか否かは別として、本件被告人等の所為を違法のものであるとした結局の判断は正当であること後に述べるとおりである。論旨は理由がない。」
 ②「論旨は、憲法が労働者の争議権を認めたことを論拠として、従来の市民法的個人法的観点を揚棄すべきことを説き、かような立場から労働者が争議によつて使用者たる資本家の意思を抑圧してその要求を貫徹することは不当でもなく違法でもないと主張する。しかし憲法は勤労者に対して団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障すると共に、すべての国民に対して平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであつて、是等諸々の基本的人権が労働者の争議権の無制限な行使の前に悉く排除されることを認めているのでもなく、後者が前者に対して絶対的優位を有することを認めているのでもない。寧ろこれ等諸々の一般的基本的人権と労働者の権利との調和をこそ期待しているのであつて、この調和を破らないことが、即ち争議権の正当性の限界である。その調和点を何処に求めるべきかは、法律制度の精神を全般的に考察して決すべきである。固より使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を柳圧し、財産に対する支配を阻止することは許さるべきでないと認められる。それは労働者側の争議権を偏重して、使用者側の権利を不当に侵害し、法が求める調和を破るものだからである。論旨は理由がない。」
 ③「論旨は、生産管理が同盟罷業と性質を異にするものでないということを理由として、生産管理も同盟罷業と同様に違法性を阻却される争議行為であると主張する。しかしわが国現行の法律疾序は私有財産制度を基幹として成り立つており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従つて企業の経営、生産行程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。労働者が所論のように企業者と並んで企業の担当者であるとしても、その故に当然に労働者が企業の使用収益権を有するのでもなく、経営権に対する権限を有するのでもない。従つて労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。なるほど同盟罷業も財産権の侵害を生ずるけれども、それは労働力の給付が債務不履行となるに過ぎない。然るに本件のようないわゆる生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。それ故に同盟罷業も生産管理も財産権の侵害である点において同様であるからとて、その相違点を無視するわけにはゆかない。前者において違法性が阻却されるからとて、後者においてもそうだという理由はない。よつて論旨は採用することができない。」
 ④「論旨は、原判決が生産サボの場合には生産管理も正当であると判示したことを捉えて、労働者は、そのような場合だけでなく、如何なる場合においても争議手段として生産管理をする自由があると主張する。しかし本件のいわゆる生産管理が生産サボの際行われたものでないことは原判決の認めているところであるから、生産サボの場合に生産管理が正当と認められるが否かは、本件に関係なきことである。本件被告人等の所為が不当であることは、他の論点について説示するとおりである。論旨は理由がない。」
 ⑤「論旨は、原判決が、本件鉄板は会社の占有を完全に離脱したものではないので、被告人等が擅にこれを工場外に搬出した行為は会社の所持を奪つたものであり、窃盗の罪責を免れない、と判示したことを非難し、生産管理の下においては占有の所持は労働者側にあり、会社は観念上間接占有を有するに過ぎないから、所持の奪取即ち窃盗はあり得ない。被告人等には占有奪取の意思もなく、不正領得の意思もなかつた、と主張する。しかし労働者側がいわゆる生産管理開始のとき工場、設備、資材等をその占有下においたのは、違法の占有であり、判示鉄板についてもそのとき会社側の占有に対して占有の侵奪があつたというべきであるが、原判決はこれを工場外に搬出したとき不法領得の実現行為があつたものと認定したのである。これを証拠に照らし合わせて考えてみても、被告人等が争議期間中の労働者の賃金支払等に充てるために売却する目的を以て、会社側の許可なくしてこれを工場外に運び出し、自己の事実上の支配内に収めた行為は、正に不法領得の意思を以て会社の所持を奪つたものというべきであつて、原判決がこれを窃盗罪にあたるものとしたのは当然である。
 原判決が、生産管理においては労働者の団体が工場、設備、資材等一切のものを接収してその占有下におくと判示し、本件においては被告人等が即に生産管理に入つたものであることを認めながら、而も他方において判示鉄板は「会社の占有を完全に離脱したものでない」と判示したのは、生産管理開始により労働者の団体が工場、設備、資材等一切のものを自己の支配下におき占有を取得したと言つても、個々の資材物件等については、それが会社構内に存置せられる以上、会社側にもなお占有が存するという趣旨に解すべきである。さすれば、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
 ⑥「論旨(第2点及び第3点)は、生産管理は正当な争議行為であり正当な争議行為中の個々の行為は、争議目的を達成するためのものである限り、すべて労働組合法1条2項により刑法35条の適用を受けて違法性を阻却されると主張する。しかし労働組合法1条2項は、労働組合の団体交渉その他の行為について無条件に刑法36条の適用があることを規定しているのではなく、唯労働組合法所定の目的達成のために為した正当な行為についてのみ適用を認めているに過ぎない(昭和22年(れ)第319号同24年5月18日最高裁判所大法延判決参照)。如何なる争議行為を以て正当するかは、具体的に個々の争議につき、争議の目的並びに争議手段としての各個の行為の両面に亘つて、現行法秩序全体との関連において決すべきである。従つて生産管理及び生産管理中の個々の行為が、すべて当然に正当行為であるとの論旨は理由がない。(そうして本件被告人等の判示所為が正当と認められないことは、即に上村、牧野両弁護人の上告趣意について述べたとおりである。)。」
過去問・解説
(H18 司法 第4問 エ)
憲法は、勤労者の団体行動権を保障しているが、勤労者の争議権の無制限な行使を許容するものではなく、労働争議において使用者側の自由意思をはく奪し又は極度に抑圧し、あるいはその財産に対する支配を阻止し、私有財産制度の基幹を揺るがすような行為をすることは許されない。いわゆる生産管理において、労働者が、権利者の意思を排除して企業経営の権能を行うときは、正当な争議行為とはいえない。

(正答)  

(解説)
山田鉄鋼業事件判決(最大判昭25.11.15)は、「使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を柳圧し、財産に対する支配を阻止することは許さるべきでない…。」(②)「労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。」(③)としている。したがって、本肢前段は正しい
また、本判決は、「生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。それ故に同盟罷業も生産管理も財産権の侵害である点において同様であるからとて、その相違点を無視するわけにはゆかない。前者において違法性が阻却されるからとて、後者においてもそうだという理由はない。」(④)としている。したがって、本肢後段も正しい。

(R6 司法 第9問 ウ)
最高裁判所の判例の趣旨に照らすと、勤労者が、自らが稼働する工場の施設を占拠し、使用者の指揮、命令を排除して、自ら生産活動等の業務を遂行することは、それが社会通念上、不当に長時間に及ぶものではないとしても、正当な争議行為には当たらず、違法である。

(正答)  

(解説)
山田鉄鋼業事件判決(最大判昭25.11.15)は、「わが国現行の法律疾序は私有財産制度を基幹として成り立つており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従つて企業の経営、生産行程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。労働者が所論のように企業者と並んで企業の担当者であるとしても、その故に当然に労働者が企業の使用収益権を有するのでもなく、経営権に対する権限を有するのでもない。従つて労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。」(③)としており、これは本肢と整合的である。
総合メモ

明治生命保険相互会社事件 最二小判昭和40年2月5日

概要
ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定しているというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならない。
判例
事案:ストライキによって削減し得る固定給の内容が問題となった。

判旨:「ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定しているというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならないと解するのが相当である。
 ところで、前記原審の確定した限りの事実関係の下においては、所論諸項目の給与のうち、勤務手当および交通費補助は、労働の対価として支給されるものではなくして、職員に対する生活補助費の性質を有することが明らかであるから、これら項目の給与は、職員が勤務に服さなかつたからといつてその割合に応ずる金額を当然には削減し得るものでないと認むべきである。次に、給料、出勤手当、功労加俸および地区主任手当についていえば、被上告人会社における勤務時間拘束の制度は、主として業務管理の手段として設けられたものであつて、そこに右各項目の給与の額を決定する絶対的基準としての意味は見いだし難く、従つてまた、これが設けられたことに対応して固定的給与を加味した給与体系が採られるにいたつたということも、この種職員の所得の安定を図る趣旨に出たものというべきであり、しかも、右係長、係長補、主任等の資格が純然たる給与の級別に過ぎず、且つ、該資格の決定がその者の過去における仕事の成績によつて行なわれる以上、給与の額は、主として、仕事の成果によつて決定されるものであつて、それが一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるのは、過去において完成された仕事の量に対して支払わるべき報酬を給与の平均化を図る目的で右期間に分割して支給されるというほどの意味を有するに過ぎないものと認めるのが当然であり、また、右期間中の仕事の成果が次期の給与額に直接自動的に影響を及ぼすことも否定し得ないところである。それ故、右各項目の給与は、上告人らが勤務に服した時間の長短を基準として決定された面が全然ないとはいえないにしても、その実質は、むしろ、本件ストライキの行なわれた昭和三二年六月以前における上告人らの募集、集金の成果に比例して決定されたものであつて、純然たる能率給であるかどうかは格別、少なくとも、前記意義における固定給ではない、と認むべきである。もつとも、典型的な固定給の受給者と目されている一般労働者にあつても、日常の仕事の成績を考慮してその者の昇格、格下げが決定され、これに伴ない給与の増減が招来されることは疑いを容れないところであるが、この場合には、仕事の量によつて決定さるべき資格が給与そのものの級別ではなくして職務の内容に関するものであることを看過してはならないのであつて、単に仕事の成績が給与の額に影響を及ぼすの一事をもつて、右両者の間に存する給与決定上の本質的相違を無視することは許されないものといわなければならない。
 しかるに、原審が、前叙のごとく、勤務時間拘束の制度が仕事の成果に応ずる能率給の実を挙げるために設けられたものではなく、また所論諸項目の給与が一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるものであるということにのみ着目し、本件事案の程度では資格の昇格、格下げも勤務の質の向上または低下に伴なう昇給、減給と解して妨げないとして、たやすく、所論諸項目の給与を固定給と認め、ひいては被上告人会社が上告人らのストライキを理由として行なつた賃金の削減を違法でないと判断したことは、法令の解釈適用を誤つたか、審理不尽の違法に陥つたものというべく、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は、理由あるに帰し、原判決は、その余の上告理由について判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。そして、本件につき、さらに審理を尽さしめる必要があるものと認め、これを原裁判所に差し戻すこととする。」
過去問・解説
(H18 司法 第4問 オ)
憲法第28条の趣旨からすると、正当な争議行為については、刑事責任を問われず、また、民事上の債務不履行ないし不法行為責任を免除されると解され、ストライキを行った場合、それが正当な争議行為であると認定されれば、当該ストライキ期間中の賃金についても使用者側に請求することができる。

(正答)  

(解説)
明治生命保険相互会社事件判決(最判昭40.2.5)は、「ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定しているというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならないと解するのが相当である。」としている。
総合メモ

三菱重工業事件 最二小判平成4年9月25日

概要
使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治的目的のために争議行為を行うことは、憲法28条の保障とは無関係なものである。
判例
事案:使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治的目的のために争議行為を行うことは、憲法28条により保障されるかが問題となった。

判旨:「使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治的目的のために争議行為を行うことは、憲法28条の保障とは無関係なものと解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和43年(あ)第2780号同48年4月25日大法廷判決・刑集27巻4号547頁)とするところであ…る…。」
過去問・解説
(R6 司法 第9問 イ)
最高裁判所の判例の趣旨に照らすと、憲法第28条は、勤労者に対し、その目的を問うことなく広く団体行動をする権利を保障するものであるから、私企業の勤労者が専ら自衛隊の海外派遣に反対する目的でストライキを行うことも、同条で保障される。

(正答)  

(解説)
三菱重工業事件判決(最判平4.9.25)は、「使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治的目的のために争議行為を行うことは、憲法28条の保障とは無関係なものと解すべきことは、当裁判所の判例…とするところであ…る…。」
総合メモ