現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください

引き続き問題が発生する場合は、 お問い合わせ までご連絡ください。

財政

通達課税違憲訴訟 最二小判昭和33年3月28日

概要
①通達が現行法の解釈として示した物品税法1条1項にいう「遊戯具」にはパチンコ球遊器も含まれるとの法律解釈は、同法の正しい解釈に合致する適法なものである。
②パチンコ球遊器が「遊戯具」に含まれるとしてなされた物品税課税処分は、たまたま通達を契機として行われたものであっても、通達の内容が同法の正しい解釈に合致するものである以上、当該課税処分は同法の根拠に基づく処分であるから、憲法に違反するものではない。 
判例
事案:旧物品税法1条1項は課税対象物品として「遊戯具」を挙げていたところ、約10年の間、パチンコ球遊器には物品税が賦課されてこなかった。ところが、昭和26年3月2日、東京国税局長からパチンコ球遊器は「遊戯具」に当たる旨の通達が発せられ、税務署長は、この通達を契機として、パチンコ球遊器製造業者Xらに対し、物品税賦課処分を行った。 
 本事件では、①通達が示した法律解釈の適法性、②通達を契機として行われた課税処分の憲法適合性(憲法84条)が争われた。

判旨:「物品税は物品税法が施行された当初(昭和4年4月1日)においては消費税として出発したものであるが、その後次第に生活必需品その他いわゆる資本的消費財も課税品目中に加えられ、現在の物品税法(昭和15年法律第40号)が制定された当時、すでに、一部生活必需品(たとえば燐寸)(第1条第3種1)や「撞球台」(第1条第2種甲類11)「乗用自動車」(第1条第2種甲類14)等の資本財もしくは資本財たり得べきものも課税品目として掲げられ、その後の改正においてさらにこの種の品目が数多く追加されたこと、いわゆる消費的消費財と生産的消費財との区別はもともと相対的なものであつて、パチンコ球遊器も自家用消費財としての性格をまつたく持つていないとはいい得ないこと、その他第1、2審判決の掲げるような理由にかんがみれば、社会観念上普通に遊戯具とされているパチンコ球遊器が物品税法上の「遊戯具」のうちに含まれないと解することは困難であり、原判決も、もとより、所論のように、単に立法論としてパチンコ球遊器を課税品目に加えることの妥当性を論じたものではなく、現行法の解釈として「遊戯具」中にパチンコ球遊器が含まれるとしたものであつて、右判断は、正当である。
 なお、論旨は、通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであつても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであつて、採用し得ない。」
過去問・解説
(H26 司法 第18問 イ)
課税の根拠法律があるにもかかわらず長年にわたり課税されなかった物については、非課税の慣習法が成立しているとみるべきであるから、新たにその物に課税することは、それがその根拠法律の正しい解釈に基づくものであるとしても、租税法律主義に反する。

(正答)  

(解説)
通達課税違憲訴訟判決(最判昭33.3.28)は、「原判決も、…現行法の解釈として「遊戯具」中にパチンコ球遊器が含まれるとしたものであって、右判断は、正当である。」とした上で、「論旨は、通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであって、採用し得ない。」としている。

(R5 司法 第18問 ウ)
長く課税されることがなかったパチンコ球遊器について、行政の内部命令である通達によって課税の物件たる遊戯具に該当するとして課税の対象とされたことは、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものであっても、憲法第84条に違反する。

(正答)  

(解説)
通達課税違憲訴訟判決(最判昭33.3.28)は、「原判決も、…現行法の解釈として「遊戯具」中にパチンコ球遊器が含まれるとしたものであって、右判断は、正当である。」とした上で、「論旨は、通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであって、採用し得ない。」としている。
総合メモ

旭川市国民健康保険条例事件 最大判平成18年3月1日

概要
①国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条にいう「租税」に当たる。
②市町村が行う国民健康保険の保険料は、被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものであるから、憲法84条にいう「租税」には当たらない。
③租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである。
④市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、憲法84条の趣旨が及ぶ。
判例
事案:旭川市は、国民健康保険料条例を制定し、国民健康保険事業に要する費用に充てるために、保険料を徴収する方式を採用したところ、本件条例による保険料算定基礎となる賦課総額が不明確であるとして、本件条例の憲法84条違反が争われた。

判旨:「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。市町村が行う国民健康保険の保険料は、これと異なり、被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものである。前記のとおり、…市における国民健康保険事業に要する経費の約3分の2は公的資金によって賄われているが、これによって、保険料と保険給付を受け得る地位とのけん連性が断ち切られるものではない。また、国民健康保険が強制加入とされ、保険料が強制徴収されるのは、保険給付を受ける被保険者をなるべく保険事故を生ずべき者の全部とし、保険事故により生ずる個人の経済的損害を加入者相互において分担すべきであるとする社会保険としての国民健康保険の目的及び性質に由来するものというべきである。したがって、上記保険料に憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである(国民健康保険税は、前記のとおり目的税であって、上記の反対給付として徴収されるものであるが、形式が税である以上は、憲法84条の規定が適用されることとなる。)。
 もっとも、憲法84条は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり、直接的には、租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが、同条は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。したがって、国、地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても、その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり、憲法84条に規定する租税ではないという理由だけから、そのすべてが当然に同条に現れた上記のような法原則のらち外にあると判断することは相当ではない。そして、租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが、その場合であっても、租税以外の公課は、租税とその性質が共通する点や異なる点があり、また、賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから、賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については、当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。
 本件条例は、保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を明確に規定した上で、その算定に必要な上記の費用及び収入の各見込額並びに予定収納率の推計に関する専門的及び技術的な細目にかかわる事項を、…市長の合理的な選択にゆだねたものであり、また、上記見込額等の推計については、国民健康保険事業特別会計の予算及び決算の審議を通じて議会による民主的統制が及ぶものということができる。そうすると、本件条例が、8条において保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めた上で、12条3項において、…市長に対し、同基準に基づいて保険料率を決定し、決定した保険料率を告示の方式により公示することを委任したことをもって、法81条に違反するということはできず、また、これが憲法84条の趣旨に反するということもできない。また、賦課総額の算定基準及び賦課総額に基づく保険料率の算定方法は、本件条例によって賦課期日までに明らかにされているのであって、この算定基準にのっとって収支均衡を図る観点から決定される賦課総額に基づいて算定される保険料率についてはし意的な判断が加わる余地はなく、これが賦課期日後に決定されたとしても法的安定が害されるものではない。したがって、…市長が本件条例12条3項の規定に基づき平成6年度から同8年度までの各年度の保険料率をそれぞれ各年度の賦課期日後に告示したことは、憲法84条の趣旨に反するものとはいえない。」 
過去問・解説
(H19 司法 第18問 ア)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平成18年3月1日)は、国又は地方公共団体が課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法第84条に規定する租税に当たるというべきであるとした。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法第84条に規定する租税に当たる…。」としている。

(H19 司法 第18問 イ)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平成18年3月1日)は、国民健康保険の保険料は租税ではないから憲法第84条が直接適用されることはないが、国又は地方公共団体が賦課徴収する租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合いなどの点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法第84条の趣旨が及ぶと解すべきであるとした。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。市町村が行う国民健康保険の保険料は、これと異なり、被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものである。…したがって、上記保険料に憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである…。」とする一方で、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。…市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。」としている。

(H19 司法 第18問 ウ)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平成18年3月1日)は、憲法第84条の趣旨に照らせば、市町村が行う国民健康保険の保険料についても、条例において賦課要件をどの程度明確に定めておく必要があるかは、専ら国民健康保険が強制加入とされ、保険料が強制徴収される点を考慮して決定されるべきであるとした。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「市町村が行う国民健康保険の保険料…に憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである…。」とする一方で、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが、その場合であっても、…賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については、当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。」としている。このように、本判決は、「租税に類似する性質を有するもの」について「賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきか…は、当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。」としている。

(H19 司法 第18問 エ)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平成18年3月1日)は、保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準及び賦課総額に基づく保険料率の算定方法が賦課期日までに明らかにされているとしても、具体的な各年度の保険料率をそれぞれ各年度の賦課期日後に告示するとすれば、憲法第84条に反し、許されないこととなるとした。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「賦課総額の算定基準及び賦課総額に基づく保険料率の算定方法は、本件条例によって賦課期日までに明らかにされているのであって、この算定基準にのっとって収支均衡を図る観点から決定される賦課総額に基づいて算定される保険料率についてはし意的な判断が加わる余地はなく、これが賦課期日後に決定されたとしても法的安定が害されるものではない。したがって、被上告人市長が…保険料率をそれぞれ各年度の賦課期日後に告示したことは、憲法84条の趣旨に反するものとはいえない。」としている。

(H23 司法 第19問 ア)
租税は、国民に対して直接負担を求めるものであるから、課税をするに当たっては、必ず国民の同意を得なければならない。したがって、租税を創設し、改廃する場合だけでなく、課税要件と賦課及び徴収の手続についても、全て法律に基づいて定められる必要がある。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「憲法84条は、…国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。したがって、国、地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても、その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであ…る…」としており、課税の根拠としては、「法律」のみならず、「法律の範囲内で制定された条例」も挙げている。

(H23 司法 第19問 イ)
憲法第84条は、直接的には、租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが、国、地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても、その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がなされるべきである。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「憲法84条は、…直接的には、租税について法律による規律の在り方を定めるものである」とする一方で、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである」としている。

(H23 司法 第19問 ウ)
憲法第84条の定める「租税」とは、国又は地方公共団体が、その課税権に基づいて、その使用する経費に充当するために、強制的に徴収する金銭給付のことをいい、市町村が行う国民健康保険の保険料の徴収には憲法第84条の趣旨は及ばない。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである」としている。

(H26 司法 第18問 ウ)
租税法律主義は、社会全体に対する財やサービスを提供するための資金を租税として強制的に徴収する場合について規定したものであるから、個人への給付に対する反対給付としての性質を有する保険料等については適用がなく、また、その趣旨も及ばない。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「市町村が行う国民健康保険の保険料…に憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである…。」とする一方で、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。」としている。

(H29 司法 第19問 イ)
最高裁判所の判例によれば、個人への特別の給付に対する反対給付として当該個人に対して課する国民健康保険料のような金銭給付は憲法第84条の「租税」には当たらないと狭く解したとしても、「租税」以外の公課の賦課要件について定めた条例が憲法第84条の趣旨に反することはあり得る。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。」とする一方で、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。」としている。

(H30 司法 第18問 ア)
憲法第84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定めているところ、同条にいう「法律」には条例も含まれるとする見解は、この判決と矛盾抵触する。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「憲法84条は、…国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。したがって、国、地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても、その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであ…る…」としており、課税の根拠としては、「法律」のみならず、「法律の範囲内で制定された条例」も挙げている。

(H30 司法 第18問 イ)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平成18年3月1日)によれば、租税以外の公課であっても、租税に類似する性質を有するものについては、憲法第84条の趣旨が及ぶところ、その賦課徴収の強制の度合いは、当該公課と租税との類似性を検討するときの要素となる。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが、その場合であっても、租税以外の公課は、租税とその性質が共通する点や異なる点があり、また、賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから、賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については、当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。」としている。

(H30 司法 第18問 ウ)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平成18年3月1日)は、法律の委任に基づき保険料の賦課要件を定めるべき条例が保険料率の決定等を市長に委任していることにつき、委任された事項の内容や保険料率に係る算定基準の定め方等を検討して、憲法第84条の趣旨に反しないものと判断した。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「本件条例は、保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を明確に規定した上で、その算定に必要な上記の費用及び収入の各見込額並びに予定収納率の推計に関する専門的及び技術的な細目にかかわる事項を、被上告人市長の合理的な選択にゆだねたものであり、また、上記見込額等の推計については、…議会による民主的統制が及ぶも」としたうえで、「本件条例が…市長に対し…保険料率を決定し、決定した保険料率を…公示することを委任したことをもって、…憲法84条の趣旨に反するということもできない」としている。

(R5 司法 第18問 ア)
市町村が行う国民健康保険における保険料は、憲法第84条に規定する租税には当たらないが、国民健康保険は強制加入とされ、保険料が強制徴収されるものであり、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するため、憲法第84条の趣旨が及ぶ。

(正答)  

(解説)
旭川市国民健康保険条例事件判決(最大判平18.3.1)は、「市町村が行う国民健康保険の保険料…に憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである…。」とする一方で、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである…。」としている。
総合メモ

不利益遡及効を有する租税法規 最一小判平成23年9月22日

概要
所得税に係る長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額につき他の各種所得の金額から控除する損益通算を認めないこととした平成16年4月1日施行に係る平成16年法律第14号による改正後の租税特別措置法31条の規定を、同年1月1日以後に個人が行う同条1項所定の土地等又は建物等の譲渡について適用するものとしている平成16年法律第14号附則27条1項の規定は、憲法84条の趣旨に反しない。
判例
事案:租税特別措置法31条の改正により、同条1項所定の長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除する損益通算を認めないこととされ、上記改正後の同条の規定は平成16年1月1日以後に行う土地等又は建物等の譲渡について適用するものとされたこと(改正法附則17条1項)につき、同月30日にその所有する土地の売買契約を締結するなどして同年分の長期譲渡所得の金額の計算上損失を生じたXは、改正法がその施行日である同年4月1日より前にされた土地等又は建物等の譲渡についても上記損益通算を認めないこととしたのは納税者に不利益な遡及立法であって憲法84条に違反する等と主張し、所轄税務署長がXに生じた上記損失について上記損益通算を認めずXの同年分の所得税に係る更正の請求に対し更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのは違法であるとして、その取消しを求めた。

判旨:①「憲法84条は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであるが、これにより課税関係における法的安定が保たれるべき趣旨を含むものと解するのが相当である(最高裁平成12年(行ツ)第62号、同年(行ヒ)第66号同18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁参照)。そして、法律で一旦定められた財産権の内容が事後の法律により変更されることによって法的安定に影響が及び得る場合における当該変更の憲法適合性については、当該財産権の性質、その内容を変更する程度及びこれを変更することによって保護される公益の性質などの諸事情を総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって判断すべきものであるところ(最高裁昭和48年(行ツ)第24号同53年7月12日大法廷判決・民集32巻5号946頁参照)、…暦年途中の租税法規の変更及びその暦年当初からの適用によって納税者の租税法規上の地位が変更され、課税関係における法的安定に影響が及び得る場合においても、これと同様に解すべきものである。なぜなら、このような暦年途中の租税法規の変更にあっても、その暦年当初からの適用がこれを通じて経済活動等に与える影響は、当該変更の具体的な対象、内容、程度等によって様々に異なり得るものであるところ、上記のような租税法規の変更及び適用も、最終的には国民の財産上の利害に帰着するものであって、その合理性は上記の諸事情を総合的に勘案して判断されるべきものであるという点において、財産権の内容の事後の法律による変更の場合と同様というべきだからである。
 したがって、暦年途中で施行された改正法による本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定の暦年当初からの適用を定めた本件改正附則が憲法84条の趣旨に反するか否かについては、上記の諸事情を総合的に勘案した上で、このような暦年途中の租税法規の変更及びその暦年当初からの適用による課税関係における法的安定への影響が納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかという観点から判断するのが相当と解すべきである。」
  ②「そこで、以下、本件における上記諸事情についてみることとする。まず、改正法による本件に係る措置法…改正は、長期譲渡所得の金額の計算において所得が生じた場合には分離課税がされる一方で、損失が生じた場合には損益通算がされることによる不均衡を解消し、適正な租税負担の要請に応え得るようにするとともに、長期譲渡所得に係る所得税の税率の引下げ等とあいまって、使用収益に応じた適切な価格による土地取引を促進し、土地市場を活性化させて、我が国の経済に深刻な影響を及ぼしていた長期間にわたる不動産価格の下落(資産デフレ)の進行に歯止めをかけることを立法目的として立案され、これらを一体として早急に実施することが予定されたものであったと解される。また、本件改正附則において本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定を平成16年の暦年当初から適用することとされたのは、その適用の始期を遅らせた場合、損益通算による租税負担の軽減を目的として土地等又は建物等を安価で売却する駆け込み売却が多数行われ、上記立法目的を阻害するおそれがあったため、これを防止する目的によるものであったと解されるところ、平成16年分以降の所得税に係る本件損益通算廃止の方針を決定した与党の平成16年度税制改正大綱の内容が新聞で報道された直後から、資産運用コンサルタント、不動産会社、税理士事務所等によって平成15年中の不動産の売却の勧奨が行われるなどしていたことをも考慮すると、上記のおそれは具体的なものであったというべきである。そうすると、長期間にわたる不動産価格の下落により既に我が国の経済に深刻な影響が生じていた状況の下において、本件改正附則が本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定を暦年当初から適用することとしたことは、具体的な公益上の要請に基づくものであったということができる。そして、このような要請に基づく法改正により事後的に変更されるのは…、納税者の納税義務それ自体ではなく、特定の譲渡に係る損失により暦年終了時に損益通算をして租税負担の軽減を図ることを納税者が期待し得る地位にとどまるものである。納税者にこの地位に基づく上記期待に沿った結果が実際に生ずるか否かは、当該譲渡後の暦年終了時までの所得等のいかんによるものであって、当該譲渡が暦年当初に近い時期のものであるほどその地位は不確定な性格を帯びるものといわざるを得ない。また、租税法規は、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断及び極めて専門技術的な判断を踏まえた立法府の裁量的判断に基づき定立されるものであり、納税者の上記地位もこのような政策的、技術的な判断を踏まえた裁量的判断に基づき設けられた性格を有するところ、本件損益通算廃止を内容とする改正法の法案が立案された当時には、長期譲渡所得の金額の計算において損失が生じた場合にのみ損益通算を認めることは不均衡であり、これを解消することが適正な租税負担の要請に応えることになるとされるなど、上記地位について政策的見地からの否定的評価がされるに至っていたものといえる。
 以上のとおり、本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定の暦年当初からの適用が具体的な公益上の要請に基づくものである一方で、これによる変更の対象となるのは上記のような性格等を有する地位にとどまるところ、本件改正附則は、平成16年4月1日に施行された改正法による本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定を同年1月1日から同年3月31日までの間に行われた長期譲渡について適用するというものであって、暦年の初日から改正法の施行日の前日までの期間をその適用対象に含めることにより暦年の全体を通じた公平が図られる面があり、また、その期間も暦年当初の3か月間に限られている。納税者においては、これによって損益通算による租税負担の軽減に係る期待に沿った結果を得ることができなくなるものの、それ以上に一旦成立した納税義務を加重されるなどの不利益を受けるものではない。
 これらの諸事情を総合的に勘案すると、本件改正附則が、本件損益通算廃止に係る改正後措置法の規定を平成16年1月1日以後にされた長期譲渡に適用するものとしたことは、上記のような納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認されるべきものと解するのが相当である。したがって、本件改正附則が、憲法84条の趣旨に反するものということはできない。また、以上に述べたところは、法律の定めるところによる納税の義務を定めた憲法30条との関係についても等しくいえることであって、本件改正附則が、同条の趣旨に反するものということもできない。以上のことは、前掲各大法廷判決の趣旨に徴して明らかというべきである。所論の点に関する原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして、是認することができる。論旨は採用することができない。」
過去問・解説
(R5 司法 第18問 イ)
租税法規の変更及びその暦年当初からの適用によって納税者の租税法規上の地位が変更され、課税関係における法的安定に影響が及び得る場合の憲法第84条適合性については、変更の対象となる納税者の租税法規上の地位の性質、変更の程度及び変更により保護される公益の性質などの諸事情を総合的に勘案して判断すべきである。

(正答)  

(解説)
判例(最判平23.9.22)は、法律で一旦定められた財産権の内容が事後の法律により変更されることによって法的安定に影響が及び得る場合における当該変更の憲法適合性については、当該財産権の性質、その内容を変更する程度及びこれを変更することによって保護される公益の性質などの諸事情を総合的に勘案し…て判断すべき」とした上で、「暦年途中の租税法規の変更及びその暦年当初からの適用によって納税者の租税法規上の地位が変更され、課税関係における法的安定に影響が及び得る場合においても、これと同様に解すべきものである。」としている。
総合メモ