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憲法 百里基地訴訟 最三小判平成元年6月20日 - 解答モード
概要
②憲法9条は、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではない。
③憲法9条の宣明する国際平和主義・戦争の放棄・戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によって相対化され、民法90条にいう「公の秩序」の内容の一部を形成する。
判例
判旨:①「憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」とは国の行うすべての行為を意味するのであって、国が行う行為であれば、私法上の行為もこれに含まれ、したがって、被上告人国がした本件売買契約も国務に関する行為に該当するから、本件売買契約は憲法9条(前文を含む。以下同じ。)の条規に反する国務に関する行為としてその効力を有しない、というのである。しかしながら、憲法98条1項は、憲法が国の最高法規であること、すなわち、憲法が成文法の国法形式として最も強い形式的効力を有し、憲法に違反するその余の法形式の全部又は一部はその違反する限度において法規範としての本来の効力を有しないことを定めた規定であるから、同条項にいう「国務に関するその他の行為」とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、したがって、行政処分、裁判などの国の行為は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する国の行為であるから、かかる法規範を定立する限りにおいて国務に関する行為に該当するものというべきであるが、国の行為であっても、私人と対等の立場で行う国の行為は、右のような法規範の定立を伴わないから憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないものと解すべきである。…そして、…本件売買契約は、国が行った行為ではあるが、私人と対等の立場で行った私法上の行為であり、右のような法規範の定立を伴わないことが明らかであるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しないものというべきである。」
②「平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえず、また、憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」
③「憲法9条は、人権規定と同様、国の基本的な法秩序を宣示した規定であるから、憲法より下位の法形式によるすべての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となりうるものであることはいうまでもないが、憲法9条は、前判示のように私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではないから、自衛隊基地の建設という目的ないし動機が直接憲法9条の趣旨に適合するか否かを判断することによって、本件売買契約が公序良俗違反として無効となるか否かを決すべきではないのであって、自衛隊基地の建設を目的ないし動機として締結された本件売買契約を全体的に観察して私法的な価値秩序のもとにおいてその効力を否定すべきほどの反社会性を有するか否かを判断することによって、初めて公序良俗違反として無効となるか否かを決することができるものといわなければならない。すなわち、憲法9条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有する規範であるから、私法的な価値秩序において、右規範がそのままの内容で民法90条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはないのであって、右の規範は、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によって相対化され、民法90条にいう「公ノ秩序」の内容の一部を形成するのであり、したがって私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。」
過去問・解説
(H18 司法 第10問 エ)
憲法第9条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない公法的な性格を有する規範であるから、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する作用を営むことはない。
(H21 司法 第2問 ア)
国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場から私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、国の統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれを律することはできないのであり、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるだけである。
(正答) 〇
(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」としている。
(H23 予備 第8問 ウ)
憲法第9条は国の基本的な法秩序を示した規定であるから、憲法より下位の法形式による全ての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となり得るものであることはいうまでもないが、私法上の行為の効力を直接規律するものではない。
(H27 予備 第6問 イ)
国や公共団体が行う純粋な私的経済取引に基づく私法関係については、民法等の私法の規律にしたがって賠償責任の有無が判断される。
(H30 司法 第14問 イ)
憲法前文が定める平和的生存権は、憲法第9条及び第3章の規定によって具体化され、裁判規範として現実的・個別的内容を持つものであるから、森林法上の保安林指定の解除処分が自衛隊の基地の建設を目的とするものである場合、周辺の住民は、同処分の取消訴訟において、平和的生存権の侵害のおそれを根拠として原告適格を有する。
(H30 司法 第14問 ウ)
国が自衛隊の用地を取得するために私人と締結した土地売買契約は、当該契約が実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法第9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるに過ぎない。
(正答) 〇
(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」としている。
(R6 予備 第8問 イ)
判例によれば、憲法第9条は、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではないため、国の私法上の行為については、実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情があったとしても、同条が直接適用されることはない。
(正答) ✕
(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」としている。したがって、国の私法上の行為であっても、「実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情」があるのであれば、憲法9条が直接適用される余地がある。