現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください

引き続き問題が発生する場合は、 お問い合わせ までご連絡ください。

憲法 岩沼市議会出席停止事件 最大判令和2年11月25日

概要
普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる。
判例
事案:市議会により23日間の出席停止の懲罰を科された市議会議員がその取り消しを求める訴えを提起した事案において、市議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否が司法審査の対象になるかが問題となった。

判旨:①「普通地方公共団体の議会は、地方自治法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる(同法134条1項)ところ、懲罰の種類及び手続は法定されている(同法135条)。これらの規定等に照らすと、出席停止の懲罰を科された議員がその取消しを求める訴えは、法令の規定に基づく処分の取消しを求めるものであって、その性質上、法令の適用によって終局的に解決し得るものというべきである。」
 ②「憲法は、地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則として、その施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則を採用しており、普通地方公共団体の議会は、憲法にその設置の根拠を有する議事機関として、住民の代表である議員により構成され、所定の重要事項について当該地方公共団体の意思を決定するなどの権能を有する。そして、議会の運営に関する事項については、議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく、その性質上、議会の自律的な権能が尊重されるべきであるところ、議員に対する懲罰は、会議体としての議会内の秩序を保持し、もってその運営を円滑にすることを目的として科されるものであり、その権能は上記の自律的な権能の一内容を構成する。
 他方、普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体の区域内に住所を有する者の投票により選挙され(憲法93条2項、地方自治法11条、17条、18条)、議会に議案を提出することができ(同法112条)、議会の議事については、特別の定めがある場合を除き、出席議員の過半数でこれを決することができる(同法116条)。そして、議会は、条例を設け又は改廃すること、予算を定めること、所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない(同法96条)ほか、当該普通地方公共団体の事務の管理、議決の執行及び出納を検査することができ、同事務に関する調査を行うことができる(同法98条、100条)。議員は、憲法上の住民自治の原則を具現化するため、議会が行う上記の各事項等について、議事に参与し、議決に加わるなどして、住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである。
 出席停止の懲罰は、上記の責務を負う公選の議員に対し、議会がその権能において科する処分であり、これが科されると、当該議員はその期間、会議及び委員会への出席が停止され、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。
 そうすると、出席停止の懲罰は、議会の自律的な権能に基づいてされたものとして、議会に一定の裁量が認められるべきであるものの、裁判所は、常にその適否を判断することができるというべきである。
 したがって、普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となるというべきである。
 これと異なる趣旨をいう所論引用の当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決その他の当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである。」

補足意見:「私は、法廷意見に賛成するものであるが、地方議会の議員に対する出席停止の懲罰の司法審査について、補足して意見を述べることとする。
 1.法律上の争訟
 法律上の争訟は、①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、②それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られるとする当審の判例(最高裁昭和51年(オ)第749号同昭和56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁)に照らし、地方議会議員に対する出席停止の懲罰の取消しを求める訴えが、①②の要件を満たす以上、法律上の争訟に当たることは明らかであると思われる。
法律上の争訟については、憲法32条により国民に裁判を受ける権利が保障されており、また、法律上の争訟について裁判を行うことは、憲法76条1項により司法権に課せられた義務であるから、本来、司法権を行使しないことは許されないはずであり、司法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは、かかる例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定される必要がある。
 2.国会との相違
 国会については、国権の最高機関(憲法41条)としての自律性を憲法が尊重していることは明確であり、憲法自身が議員の資格争訟の裁判権を議院に付与し(憲法55条)、議員が議院で行った演説、討論又は表決についての院外での免責規定を設けている(憲法51条)。しかし、地方議会については、憲法55条や51条のような規定は設けられておらず、憲法は、自律性の点において、国会と地方議会を同視していないことは明らかである。
 3.住民自治
 地方議会について自律性の根拠を憲法に求めるとなると、憲法92条の「地方自治の本旨」以外にないと思われる。「地方自治の本旨」の意味については、様々な議論があるが、その核心部分が、団体自治と住民自治であることには異論はない。また、団体自治は、それ自身が目的というよりも、住民自治を実現するための手段として位置付けることができよう。
住民自治といっても、直接民主制を採用することは困難であり、我が国では、国のみならず地方公共団体においても、間接民主制を基本としており、他方、地方公共団体においては、条例の制定又は改廃を求める直接請求制度等、国以上に直接民主制的要素が導入されており、住民自治の要請に配慮がされている。この観点からすると、住民が選挙で地方議会議員を選出し、その議員が有権者の意思を反映して、議会に出席して発言し、表決を行うことは、当該議員にとっての権利であると同時に、住民自治の実現にとって必要不可欠であるということができる。もとより地方議会議員の活動は、議会に出席し、そこで発言し、投票することに限られるわけではないが、それが地方議会議員の本質的責務であると理解されていることは、正当な理由なく議会を欠席することが一般に懲罰事由とされていることからも明らかである。
 したがって、地方議会議員を出席停止にすることは、地方議会議員の本質的責務の履行を不可能にするものであり、それは、同時に当該議員に投票した有権者の意思の反映を制約するものとなり、住民自治を阻害することになる。「地方自治の本旨」としての住民自治により司法権に対する外在的制約を基礎付けながら、住民自治を阻害する結果を招くことは背理であるので、これにより地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象外とすることを根拠付けることはできないと考える。
 4.議会の裁量
 地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象としても、地方議会の自律性を全面的に否定することにはならない。懲罰の実体判断については、議会に裁量が認められ、裁量権の行使が違法になるのは、それが逸脱又は濫用に当たる場合に限られ、地方議会の自律性は、裁量権の余地を大きくする方向に作用する。したがって、地方議会議員に対する出席停止の懲罰の適否を司法審査の対象とした場合、濫用的な懲罰は抑止されることが期待できるが、過度に地方議会の自律性を阻害することにはならないと考える。」(宇賀克也裁判官の補足意見)
過去問・解説
(H23 予備 第9問 ウ)
地方議会における自律的な法規範の実現については、内部規律の問題として自治的措置に任せるのが適当であるが、数日間に及ぶ議会への出席停止の懲罰は、議員の重大な権利行使に対する制限であり、単なる内部規律の問題に止まらないから、司法審査の対象となる。

(正答)  

(解説)
山北村会議会出席停止事件判決(最大判昭35.10.19)は、「思うに、司法裁判権が、憲法又は他の法律によつてその権限に属するものとされているものの外、一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法3条の明定するところであるが、ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。一口に法律上の係争といつても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあるのである。けだし、自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。」として、従来の部分社会論の立場から、村議会による村会議員に対する3日間の出席停止の懲罰は司法審査の対象とならないとした。
しかし、その後、岩沼市議会出席停止事件判決(最大判令2.11.25)は、「普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となるというべきである。これと異なる趣旨をいう所論引用の当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決その他の当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである。」として。本判決については、従来の最高裁判例の「部分社会の法理」ではなく、学説の外在的制約論に立っていると理解されている。

(R4 司法 第17問 ア)
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰に関し、その懲罰を受けた議員が取消しを求める訴えは、法令の適用によって終局的に解決し得る法律上の争訟に当たるところ、議会により出席停止の懲罰処分を科されると、その議員は、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなるから、当該処分が議会の自律的な権能に基づいてなされたものとして、議会に一定の裁量が認められるとしても、裁判所は、常にその適否を判断することができ、司法審査の対象となる。

(正答)  

(解説)
岩沼市議会出席停止事件判決(最大判令2.11.25)は、「出席停止の懲罰を科された議員がその取消しを求める訴えは、法令の規定に基づく処分の取消しを求めるものであって、その性質上、法令の適用によって終局的に解決し得るものというべきである。」としているところ、これは「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たるとの判示であると理解されている。また、本判決は、「出席停止の懲罰は、議会の自律的な権能に基づいてされたものとして、議会に一定の裁量が認められるべきであるものの、裁判所は、常にその適否を判断することができるというべきである。」としている。
総合メモ
前の判例 次の判例