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刑事訴訟法 訴因の概括的記載 最大判昭和37年11月28日

概要
犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、犯罪の日時、場所及び方法につき幅のある表示をしても、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すという訴因特定の目的に反しない限り、その一事のみをもって、訴因の特定を欠くことにはならない。
判例
事案:訴因を密出入国の日時・方法を概括的に記載された事案において、かかる記載が訴因の特定を欠くかが問題となった。

判旨:「本件起訴状記載の公訴事実は、『被告人は、昭和27年4月頃より同33年6月下旬までの間に、有効な旅券に出国の証印を受けないで、本邦より本邦外の地域たる中国に出国したものである』というにあって、犯罪の日時を表示するに6年余の期間内とし、場所を単に本邦よりとし、その方法につき具体的な表示をしていないことは、所論のとおりである。
 しかし、刑訴256条3項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。
 これを本件についてみるのに、検察官は、本件第1審第1回公判においての冒頭陳述において、証拠により証明すべき事実として、(1)昭和33年7月8日被告人は中国から白山丸に乗船し、同月13日本邦に帰国した事実、(2)同27年4月頃まで被告人は水俣市に居住していたが、その後所在が分らなくなった事実及び(3)被告人は出国の証印を受けていなかった事実を挙げており、これによれば検察官は、被告人が昭和27年4月頃までは本邦に在住していたが、その後所在不明となってから、日時は詳らかでないが中国に向けて不法に出国し、引き続いて本邦外にあり、同33年7月8日白山丸に乗船して帰国したものであるとして、右不法出国の事実を起訴したものとみるべきである。そして、本件密出国のように、本邦をひそかに出国してわが国と未だ国交を回復せず、外交関係を維持していない国に赴いた場合は、その出国の具体的顛末ついてこれを確認することが極めて困難であって、まさに上述の特殊事情のある場合に当るものというべく、たとえその出国の日時、場所及び方法を詳しく具体的に表示しなくても、起訴状及び右第1審第1回公判の冒頭陳述によって本件公訴が裁判所に対し審判を求めようとする対象は、おのずから明らかであり、被告人の防禦の範囲もおのずから限定されているというべきであるから、被告人の防禦に実質的の障碍を与えるおそれはない。それゆえ、所論刑訴256条3項違反の主張は、採ることを得ない。」
過去問・解説
(H21 司法 第32問 ア)
【事例】
 Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
 被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。

<公訴事実>の「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、「H市内又はその周辺」、「何らかの方法でVの頸部を圧迫し」という記載は、日時、場所、方法等の表示が概括的なものにとどまるが、検察官において、起訴当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって殺人の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから、訴因の特定に欠けるところはない。

(正答)

(解説)
判例(最大判昭37.11.28)は、「刑訴256条3項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。」としている。
本肢では、犯行日時、犯行場所、犯行方法が概括的な記載となっているが、Vは死亡している以上、審判対象は限定され、被告人に対する防御の範囲は示されており、検察官において、起訴当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって殺人の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるため、訴因の特定に欠けるところはない。
総合メモ
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