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殺人の罪 - 解答モード
幼児の殺害嘱託と殺人罪 大判昭和9年8月27日
概要
判例
判旨:「自殺ノ何タルカヲ理解スルノ能力ナキ幼児ハ自己ヲ殺害スルコトヲ嘱託シ又ハ殺害ヲ承諾スルノ能力ナキモノトス」
過去問・解説
(H27 司法 第6問 4)
甲は、妻と話し合って一家心中することとし、妻と5歳になる息子Vからそれぞれ一家心中することの承諾を得た上、妻とVを殺すため、同人らの腹部を包丁で刺した。妻とVは、甲から腹部を包丁で刺されたことにより失血死した。甲には殺人罪が成立する。
(R6 司法 第4問 ウ)
甲は、4歳の実子Aから甲に殺害されることの承諾を得て、殺意をもってAを包丁で刺殺した。この場合、Aが殺害されることを承諾しているから、甲に殺人罪が成立することはない。
意思能力のない被害者と殺人罪 最一小決昭和27年2月21日
概要
判例
判旨:「被害者が通常の意思能力もなく、自殺の何たるかを理解せず、しかも被告人の命ずることは何でも服従するのを利用して、その被害者に縊首の方法を教えて縊首せしめ死亡するに至らしめた所為は、殺人罪にあたる。」
過去問・解説
(H25 共通 第17問 2)
甲は、通常の判断能力がないVの殺害を計画し、Vに対し、首をつっても仮死状態になるだけであり、必ず生き返るとだまして、Vに首をつらせて窒息死させた。甲には自殺関与罪が成立する。
(H27 司法 第6問 1)
甲は、Vには自殺がどのようなものかを理解する能力がなく、しかもVが甲の命ずることには何でも服従するのを利用してVを死亡させようと考え、Vに対して、首を吊る方法を教えた上、これを実行するよう命じた。Vは、甲から命じられたとおりに、教えられた方法で自ら首を吊って窒息死した。甲には殺人罪が成立する。
被害者の意思の瑕疵と刑法202条の嘱託・承諾 最二小判昭和33年11月21日
概要
判例
判旨:「被害者の意思に重大な瑕疵がある場合においては、それが被害者の能力に関するものであると、はたまた犯人の欺罔による錯誤に基くものであるとを問わず、要するに被害者の自由な真意に基かない場合は刑法202条にいう被殺者の嘱託承諾としては認め得られない…。
被害者は被告人の欺罔の結果被告人の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に添わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかである。そしてこのように被告人に追死の意思がないに拘らず被害者を欺罔し被告人の追死を誤信させて自殺させた被告人の所為は通常の殺人罪に該当する…。」
過去問・解説
(H21 司法 第4問 5)
甲は、乙に対し、同人が自殺すれば甲もその直後に後を追って自殺する旨うそをつき、乙は、その旨誤信して自殺することを決意し、甲から受け取った毒薬を服用して死亡した。この場合、乙に真実自殺する意思がある以上、甲には自殺教唆罪が成立するにとどまり、殺人罪の正犯とならない。
(R2 共通 第1問 2)
甲は、追死する意思がないのにあるように装い、その旨誤信したXに心中を決意させた上で、毒物を渡し、それを飲み込ませて死亡させた。この場合、甲に、Xに対する殺人罪は成立しない。
偽装心中と殺人罪 最二小判昭和33年11月21日
概要
判例
判旨:「本件被害者は被告人の欺罔の結果被告人の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に添わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかである。そしてこのように被告人に追死の意思がないに拘らず被害者を欺罔し被告人の追死を誤信させて自殺させた被告入の所為は通常の殺人罪に該当する…。」
過去問・解説
(H21 司法 第4問 5)
甲は、乙に対し、同人が自殺すれば甲もその直後に後を追って自殺する旨うそをつき、乙は、その旨誤信して自殺することを決意し、甲から受け取った毒薬を服用して死亡した。この場合、乙に真実自殺する意思がある以上、甲には自殺教唆罪が成立するにとどまり、殺人罪の正犯とならない。
(H27 司法 第6問 5)
甲は、Vから心中を持ち掛けられたことを利用して、Vを死亡させようと考え、自らは死ぬ気がないのに、Vとの心中を了承した。Vは、甲の真意を知っていれば死ぬことはなかったが、甲も一緒に死んでくれるものと誤信したまま、甲の目の前で、甲が用意した致死量の毒を飲んで中毒死した。甲には殺人罪が成立する。
(R1 共通 第9問 3)
甲は、乙との不倫関係を清算しようと考え、真実は、乙と心中するつもりはないにもかかわらず、乙に対し、「あの世で一緒になろう。私も君の後を追って死ぬから。」と言って心中を持ちかけ、その旨誤信してこれを承諾した乙に毒薬を手渡したところ、乙がそれを飲んで死亡した。この場合、甲には、自殺関与罪が成立する。
(R2 共通 第1問 2)
甲は、追死する意思がないのにあるように装い、その旨誤信したXに心中を決意させた上で、毒物を渡し、それを飲み込ませて死亡させた。この場合、甲に、Xに対する殺人罪は成立しない。
被害者の行為を利用した殺人 最一小決昭和59年3月27日
概要
判例
判旨:「被告人は、外2名と共に、厳寒の深夜、かなり酩酊しかつ被告人らから暴行を受けて衰弱していた被害者を、都内荒川の河口近くの堤防上に連行し、同所において同人を川に転落させて死亡させるのもやむを得ない旨意思を相通じ、上衣、ズボンを無理矢理脱がせたうえ、同人を取り囲み、『この野郎、いつまでふざけてるんだ、飛び込める根性あるか。』などと脅しながら護岸際まで追いつめ、さらにたる木で殴りかかる態度を示すなどして、遂には逃げ場を失った同人を護岸上から約3メートル下の川に転落するのやむなきに至らしめ、そのうえ長さ約3、4メートルのたる木で水面を突いたり叩いたりし、もって同人を溺死させたというのであるから、右被告人の所為は殺人罪にあたるとした原判断は相当である。」
過去問・解説
(H27 司法 第6問 2)
甲は、真冬の深夜、河川堤防でVに激しい暴行を加えたところ、Vは走って逃げ出した。甲は、逃げるVを堤防際まで追い詰めれば、逃げ場を失ったVが堤防から下の川に飛び込んで溺死するかもしれないがそれでも構わないと考え、Vを堤防際まで追い詰めた。逃げ場を失ったVは、甲からの暴行を免れるため、堤防から約3メートル下の川に飛び込んで溺死した。甲には、殺人罪が成立する。
(正答)〇
(解説)
判例(最決昭59.3.27)は、本肢と同種の事案において、「被告人は、…被害者を、都内荒川の河口近くの堤防上に連行し、同所において同人を川に転落させて死亡させるのもやむを得ない旨意思を相通じ、…脅しながら護岸際まで追いつめ、さらにたる木で殴りかかる態度を示すなどして、遂には逃げ場を失った同人を護岸上から約3メートル下の川に転落するのやむなきに至らしめ…同人を溺死させたというのであるから、右被告人の所為は殺人罪にあたる…。」としている。
Vは自分の意思によらず川に飛び込むことを強制され、甲は、V自身の行為を利用した間接正犯であるといえ、甲に殺人罪が成立する。
(R6 司法 第2問 ア)
甲は、真冬の深夜、甲から暴行を受けて衰弱したAを河川堤防上に連れて行き、未必の殺意をもって、Aを脅迫して護岸際まで追い詰め、さらに、Aに対して殴りかかる態度を示したため、逃げ場を失ったAが足を滑らせて堤防から3メートル下の川に転落して溺死した。この場合、甲に殺人罪は成立しない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決昭59.3.27)は、本肢と同種の事案において、「被告人は、…被害者を、都内荒川の河口近くの堤防上に連行し、同所において同人を川に転落させて死亡させるのもやむを得ない旨意思を相通じ、…脅しながら護岸際まで追いつめ、さらにたる木で殴りかかる態度を示すなどして、遂には逃げ場を失った同人を護岸上から約3メートル下の川に転落するのやむなきに至らしめ…同人を溺死させたというのであるから、右被告人の所為は殺人罪にあたる…。」としている。
甲は、逃げ場を失ったAに対して、甲はさらに殴り掛かる態度を示しているため、川に転落して死亡する危険性が高い行為に及んでいるといえ、甲に殺人罪が成立する。
自動車の転落事故を装い被害者を自殺させた行為 最三小決平成16年1月20日
概要
判例
判旨:「被告人は、事故を装い被害者を自殺させて多額の保険金を取得する目的で、自殺させる方法を考案し、それに使用する車等を準備した上、被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に対し、犯行前日に、漁港の現場で、暴行、脅迫を交えつつ、直ちに車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し、猶予を哀願する被害者に翌日に実行することを確約させるなどし、本件犯行当時、被害者をして、被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたものということができる。
被告人は、以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して、本件当日、漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ、被害者をして、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為に当たるというべきである。
また、…被害者には被告人の命令に応じて自殺する気持ちはなかったものであって、この点は被告人の予期したところに反していたが、被害者に対し死亡の現実的危険性の高い行為を強いたこと自体については、被告人において何ら認識に欠けるところはなかったのであるから、上記の点は、被告人につき殺人罪の故意を否定すべき事情にはならないというべきである。」
過去問・解説
(H21 司法 第4問 4)
甲は、乙に執拗に暴行・脅迫を加えた結果、同人を厳冬期に漁港の岸壁から自動車ごと海中に転落して自殺する以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせた上、同人に上記態様で自殺するよう指示し、乙は、甲の指示に従って、自殺することを決意し、自ら上記態様で海中に転落して溺死した。この場合、甲は自ら殺人の実行行為を行ったとはいえないので、殺人罪の正犯とならない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平16.1.20)は、本肢と同種の事案において、「被告人は、以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して、本件当日、漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ、被害者をして、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為に当たる…。」としている。
甲は、乙に執拗に暴行・脅迫を加えた結果、自動車ごと海中に転落して自殺する以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせ、乙は、甲の指示に従って、自殺することを決意し、自ら上記態様で海中に転落して溺死しているから、甲は殺人罪の実行行為を行ったといえる。
したがって、甲は殺人罪の正犯となる。
(R2 共通 第1問 1)
甲は、Xに対し、暴行や脅迫を用いて、自殺するように執拗に要求し、要求に応じて崖から海に飛び込んで自殺するしかないとの精神状態に陥らせた上で、Xを崖から海に飛び込ませて死亡させた。この場合、甲に、Xに対する殺人罪は成立しない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平16.1.20)は、「被告人は、以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して、本件当日、漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ、被害者をして、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為に当たる…。」としている。
甲は、Xに対し、暴行や脅迫を用いて、自殺するように執拗に要求し、要求に応じて崖から海に飛び込んで自殺するしかないとの精神状態に陥らせた上で、Xを崖から海に飛び込ませて死亡させているから、甲は殺人罪の実行行為を行ったといえる。
したがって、甲に、Xに対する殺人罪が成立する。
(R6 司法 第4問 イ)
甲は、自動車の転落事故を装いAを自殺させて保険金を得る目的で、極度に甲を畏怖していたAに対し、暴行・脅迫を加え、岸壁上から自動車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し、Aをして甲の命令に従う以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせてA自ら岸壁上から自動車ごと海中に転落させたが、その後、Aが岸壁上に逃れて生き延びた。
この場合、A自らが死亡する現実的危険性の高い行為を選んだから、甲に殺人未遂罪が成立することはない。
不作為による殺人罪(シャクティパッド治療事件) 最二小判平成17年7月4日
概要
判例
判旨:「被告人は、自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、患者が運び込まれたホテルにおいて、被告人を信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際、被告人は、患者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させた被告人には、不作為による殺人罪が成立し、殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となると解するのが相当である。」
過去問・解説
(H25 共通 第11問 1)
【事例】
甲は、手の平成で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが、その能力を信奉していたAから、脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ、意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した上、実際に連れてこられたBの様子を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識しながら、上記独自の治療を施すにとどまり、点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果、Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
【判旨】
甲は、自己の責めに帰すべき事由によりBの生命に具体的な危険を生じさせた上、Bが運び込まれたホテルにおいて、甲を信奉するAから、重篤な状態にあったBに対する手当てを全面的に委ねられた立場にあったものと認められる。その際、甲は、Bの重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちにBの生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置してBを死亡させた甲には、不作為による殺人罪が成立する。
【記述】
Aが甲に対してその特別の能力に基づく治療を行うことを真摯に求めていたという事情があれば、甲にはその治療を行うことについてのみ作為義務が認められるから、この判旨の立場からも殺人罪の成立は否定される。
(H25 共通 第11問 2)
【事例】
甲は、手の平成で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが、その能力を信奉していたAから、脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ、意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した上、実際に連れてこられたBの様子を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識しながら、上記独自の治療を施すにとどまり、点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果、Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
【判旨】
甲は、自己の責めに帰すべき事由によりBの生命に具体的な危険を生じさせた上、Bが運び込まれたホテルにおいて、甲を信奉するAから、重篤な状態にあったBに対する手当てを全面的に委ねられた立場にあったものと認められる。その際、甲は、Bの重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちにBの生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置してBを死亡させた甲には、不作為による殺人罪が成立する。
判旨の立場によれば、この事例で甲に患者に対する未必的な殺意が認められなければ、重過失致死罪が成立するにとどまる。
(H25 共通 第11問 3)
【事例】
甲は、手の平成で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが、その能力を信奉していたAから、脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ、意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した上、実際に連れてこられたBの様子を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識しながら、上記独自の治療を施すにとどまり、点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果、Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
【判旨】
甲は、自己の責めに帰すべき事由によりBの生命に具体的な危険を生じさせた上、Bが運び込まれたホテルにおいて、甲を信奉するAから、重篤な状態にあったBに対する手当てを全面的に委ねられた立場にあったものと認められる。その際、甲は、Bの重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちにBの生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置してBを死亡させた甲には、不作為による殺人罪が成立する。
判旨は、不作為犯が成立するためには、作為義務違反に加え、既発の状態を積極的に利用する意図が必要であると考えている。
(H25 共通 第11問 4)
【事例】
甲は、手の平成で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが、その能力を信奉していたAから、脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ、意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した上、実際に連れてこられたBの様子を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識しながら、上記独自の治療を施すにとどまり、点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果、Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
【判旨】
甲は、自己の責めに帰すべき事由によりBの生命に具体的な危険を生じさせた上、Bが運び込まれたホテルにおいて、甲を信奉するAから、重篤な状態にあったBに対する手当てを全面的に委ねられた立場にあったものと認められる。その際、甲は、Bの重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちにBの生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置してBを死亡させた甲には、不作為による殺人罪が成立する。
判旨は、Aが甲の指示を受けてBを病院から搬出した時点で、甲に殺人罪の実行の着手を認めたものと解される。
(H25 共通 第11問 5)
【事例】
甲は、手の平成で患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるとの独自の治療を施す特別の能力を有すると称していたが、その能力を信奉していたAから、脳内出血を発症した親族Bの治療を頼まれ、意識障害があり継続的な点滴等の入院治療が必要な状態にあったBを入院中の病院から遠く離れた甲の寄宿先ホテルの部屋に連れてくるようAに指示した上、実際に連れてこられたBの様子を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識しながら、上記独自の治療を施すにとどまり、点滴や痰の除去等Bの生命維持に必要な医療措置を受けさせないままBを約1日間放置した結果、Bを痰による気道閉塞に基づく窒息により死亡させた。
【判旨】
甲は、自己の責めに帰すべき事由によりBの生命に具体的な危険を生じさせた上、Bが運び込まれたホテルにおいて、甲を信奉するAから、重篤な状態にあったBに対する手当てを全面的に委ねられた立場にあったものと認められる。その際、甲は、Bの重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちにBの生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置してBを死亡させた甲には、不作為による殺人罪が成立する。
判旨は、先行行為についての甲の帰責性と甲による引受行為の存在を根拠に、甲のBに対する殺人罪の作為義務を認めたものと解される。
(H27 司法 第1問 ア)
不真正不作為犯の作為義務は、法律上の規定に基づかなければならない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平17.7.4)は、「被告人は、自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、患者が運び込まれたホテルにおいて、被告人を信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際、被告人は、患者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。」として、作為義務を認めている。
したがって、先行行為についての帰責性や、引受行為の存在といった法律上の規定以外でも作為義務を肯定できる。
(R1 共通 第1問 ア)
不作為犯は、結果発生を防止しなければならない義務が法律上の規定に基づくものでない場合であっても、成立する余地がある。
(正答)〇
(解説)
判例(最判平17.7.4)は、「被告人は、自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、患者が運び込まれたホテルにおいて、被告人を信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際、被告人は、患者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。」として、作為義務を認めている。
したがって、先行行為についての帰責性や、引受行為の存在といった法律上の規定以外でも作為義務を肯定できる。
(R1 共通 第1問 ウ)
不真正不作為犯の故意は、結果の発生を意欲していなくても、認められる余地がある。
(R5 司法 第9問 3)
結果犯における不真正不作為犯の故意について、結果の発生を積極的に意欲することは不要である。
(R5 司法 第9問 4)
不作為による殺人罪が成立するためには、行為者と生命の危機に瀕した者との間に親族関係や契約関係が必要であるから、行為者が、そのような関係にない重篤な患者に対する医師の治療を打ち切らせて同患者を1人暮らしの自宅に引き取った上、その生命を維持するために必要な医療措置を受けさせずに同患者を死亡させたとしても、殺人罪は成立し得ない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平17.7.4)は、本肢と同種の事案において、「被告人は、自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、患者が運び込まれたホテルにおいて、被告人を信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際、被告人は、患者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。」として、殺人罪の成立を肯定している。
したがって、本肢のような場合、その生命を維持するために必要な医療措置を受けさせずに同患者を死亡させたのであれば、殺人罪が成立する。
砂末吸引死亡事件 大判大正12年4月30日
概要
判例
判旨:「人ヲ殺ス目的ヲ以テ麻縄ヲ其ノ頸部ニ結ヒ絞扼シタル者カ被害者ノ微動セサルニ至リタルヲ見テ既ニ死シタルモノト誤認シ更ニ犯罪ノ発覚ヲ防カント欲シ縄ヲ解カスシテ屋内ヨリ海辺ニ移シ之ヲ砂上ニ放置シタルニ因リ其ノ者ハ遂ニ砂末ヲ吸引シテ死亡シタルトキハ殺人ノ目的ニ出テタル頸部絞扼ノ行為ト死亡トノ間ニ因果関係アルモノニシテ其ノ行為ハ殺人罪ヲ構成シ殺人未遂罪及過失致死罪ニ該当スルモノニ非ス」
過去問・解説
(H23 共通 第18問 2)
甲は、殺意をもって乙の首を絞め、乙が気絶したのを見て既に窒息死したものと誤信し、乙を海に投げ込んだところ、乙は海中で溺死した。この場合、甲には殺人罪が成立する。
(H24 共通 第7問 1)
甲は、Aを川の中に突き落として溺死させようと思い、橋の側端に立っていたAを突き飛ばしたところ、Aは落下する途中で橋脚に頭部を強打して即死した。甲には殺人既遂罪が成立する。
(H27 共通 第20問 エ)
【事例】
借金の返済に苦しんでいた甲とその内縁の妻乙は、A市が発行した乙を被保険者とする国民健康保険被保険者証の氏名を乙から実在しない丙に改変し、丙になりすまして消費者金融会社から借入れをして現金を手に入れることを相談した。甲と相談したとおり、乙は、上記国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄に乙とあるのを丙と書き換えた。そして、乙は、消費者金融会社の無人借入手続コーナーにおいて、借入申込書に丙の氏名を記載し、丙と刻した印鑑を押捺するなどして丙名義の借入申込書1通を完成させた上、同申込書及び氏名を丙に改変した上記国民健康保険被保険者証の内容を、同コーナーに設置された機械を使用し、同機械に接続されている同社本店の端末機に送信し、同社の貸付手続担当者に対し、丙であるかのように装って100万円の借入れを申し込んだ。同担当者は、当該申込みをした者が真実丙であり、かつ、貸付金は約定のとおりに返済されるものと誤信し、同社の貸付システムに従って丙名義の借入カードを上記コーナーに設置された機械から発券した。乙は、その場で同カードを入手し、同カードを現金自動入出機に挿入して同機から現金100万円を引き出した。その後、乙は、上記行為に及んだことを後悔し、自宅で、甲に一緒に自首をしようと持ち掛けた。甲は、これを聞いて激高し、乙を窒息死させようと考え、その首を絞めたところ、乙は首を絞められたことによるショックで心不全になり死亡した。甲は、乙の死亡から約30分後、死亡して横たわっている乙の指に時価20万円相当の乙の指輪がはめてあることに気が付き、同指輪を奪って逃走した。
【記述】
甲は、乙を窒息死させようとしていたが、乙はそれとは別の原因で死亡するに至ったのであるから、甲には、乙の首を絞めて死亡させた行為について殺人既遂罪は成立せず、殺人未遂罪と過失致死罪が成立する。
(H28 共通 第5問 1)
甲が、殺害目的でVの首を両手で絞め、失神してぐったりとしたVを死んだものと誤解し、死体を隠すつもりでVを雪山に運んで放置したところ、Vは意識を回復しないまま凍死した。甲がVの首を両手で絞めた行為とVの死亡との間には、因果関係がない。
(正答)✕
(解説)
判例(大判大12.4.30)は、本肢と同種の事案において、「殺人ノ目的ニ出テタル頸部絞扼ノ行為ト死亡トノ間ニ因果関係アルモノニシテ其ノ行為ハ殺人罪ヲ構成シ殺人未遂罪及過失致死罪ニ該当スルモノニ非ス」として、因果関係について認識と実際の経過に齟齬があったとしても、構成要件の範囲内で符合しているのであれば故意を阻却しないとしている。
そして、絞殺後に死体遺棄することは通常ありうることであり、首を絞めた行為が放置した行為を経て危険が死亡結果として現実化したといえるから、因果関係を肯定できる。
そして、甲の認識である絞殺と、現実に生じた失神したVを雪山に放置したことによる凍死という因果経過は、構成要件の範囲内で符合するから、故意を阻却せず、甲には殺人罪が成立する。
(R4 司法 第1問 5)
甲は、殺意をもってAの首を絞めたところ、Aが動かなくなったので、Aが死亡したものと誤信し、犯行の発覚を防ぐ目的で、Aを砂浜に運んで放置し、その結果、Aが砂を吸引して窒息死した。この場合、甲には、殺人罪が成立する。
致命的でない暴行と致死結果との間の因果関係 最二小判昭和25年3月31日
概要
判例
判旨:「被害者Vは予て脳梅毒にかかって居り脳に高度の病的変化があったので顔面に激しい外傷を受けたため脳の組織を一定度崩壊せしめその結果死亡するに至った…被告人の行為によって脳組織の崩壊を来したものであること従って被告人の行為と被害者の死亡との間に因果関係を認めることができるのであってかかる判断は毫も経験則に反するものではない。又被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的変化という特殊の事情さえなかったならば致死の結果を生じなかったであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかったとしてもその行為がその特殊事情と相まって致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができるのである。」
過去問・解説
(H19 司法 第12問 2)
甲がVを殴打したところ、Vには重篤な心臓疾患があったため、その疾患と相まってVが死亡した場合、V自身が同疾患の存在を認識していない限り、甲の殴打とVの死亡の結果との間に因果関係を肯定することはできない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判昭25.3.31)は、「被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的変化という特殊の事情さえなかったならば致死の結果を生じなかったであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかったとしてもその行為がその特殊事情と相まって致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができるのである。」として、被害者自身が特殊事情について認識しているか否かに関係なく因果関係を肯定している。
したがって、Vは、重篤な心臓疾患を患っていたことを認識していないが、甲の殴打行為とVの死亡の結果との間に因果関係を肯定することができる。
(H27 司法 第3問 オ)
甲の行為とVの死亡との間に因果関係が認められるか。
甲は、面識のないVが電車内で酔って絡んできたため、Vの顔面を拳で1回殴打したところ、もともとVは特殊な病気により脳の組織が脆弱となっており、その1回の殴打で脳の組織が崩壊し、その結果Vが死亡した。
(正答)〇
(解説)
判例(最判昭46.6.17)は、「被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的変化という特殊の事情さえなかったならば致死の結果を生じなかったであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかったとしてもその行為がその特殊事情と相まって致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができるのである。」として、被害者の特殊事情の存在にかかわらず因果関係を肯定している。
Vは、特殊な病気により脳の組織が脆弱となっていたという特殊事情があったが、甲の殴打行為と相まって死亡結果をもたらしたといえ、甲の殴打行為とVの死亡との間に因果関係が認められる。
(H28 共通 第5問 2)
甲が、心臓発作を起こしやすい持病を持ったVを突き飛ばして尻餅をつくように路上に転倒させたところ、Vはその転倒のショックで心臓発作を起こして死亡した。Vにその持病があることを甲が知り得なかった場合でも、甲がVを突き飛ばして路上に転倒させた行為とVの死亡との間には、因果関係がある。
(正答)〇
(解説)
判例(最判昭46.6.17)は、「被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的変化という特殊の事情さえなかったならば致死の結果を生じなかったであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかったとしてもその行為がその特殊事情と相まって致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができるのである。」として、被害者の特殊事情の存在にかかわらず因果関係を肯定している。
Vにその持病があることを甲が知り得ず、Vは心臓発作を起こしやすい持病があるという特殊事情があったが、甲の突き飛ばした行為と相まって死亡結果をもたらしたといえ、甲の突き飛ばした行為とVの死亡との間に因果関係が認められる。
(R3 予備 第11問 ウ)
甲は、Vの顔面を1回足で蹴ったところ、特殊な病気により脆弱となっていたVの脳組織が崩壊してVが死亡したが、当該病気の存在について、一般人は認識することができず、甲も認識していなかった。この場合、甲の上記足蹴り行為とVの死亡との間に、因果関係はない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判昭46.6.17)は、「被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的変化という特殊の事情さえなかったならば致死の結果を生じなかったであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかったとしてもその行為がその特殊事情と相まって致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができるのである。」として、被害者の特殊事情の存在に関する認識可能性に関係なく因果関係を肯定している。
したがって、病気の存在について、一般人は認識することができず、甲も認識していなかったが、甲の蹴った行為と相まって死亡結果をもたらしたといえ、甲の蹴った行為とVの死亡との間に因果関係が認められる。
暴行と死亡結果との間の因果関係 最三小判昭和59年7月6日
概要
判例
判旨:「本件被害者の死因となったくも膜下出血の原因である頭部擦過打撲傷が、たとえ、被告人及び共犯者2名による足蹴り等の暴行に耐えかねた被害者が逃走しようとして池に落ち込み、露出した岩石に頭部を打ちつけたため生じたものであるとしても、被告人ら3名の右暴行と被害者の右受傷に基づく死亡との間に因果関係を認めるのを相当とした原判決の判断は、正当である。」
過去問・解説
(H29 予備 第1問 1)
甲が、Vの胸部、腹部及び腰部を殴打したり足蹴りしたりする暴行を加えたところ、それに耐えかねたVは、その場から逃走した際、逃げることに必死の余り、過って路上に転倒し、縁石に頭部を打ち付けたことによって、くも膜下出血により死亡した。この場合、甲の暴行とVの死亡との間には、因果関係がある。
不作為の因果関係 最三小判平成元年12月15日
概要
判例
判旨:「被害者の女性が被告人らによって注射された覚せい剤により錯乱状態に陥った午前0時半ころの時点において、直ちに被告人が救急医療を要請していれば、同女が年若く(当時13年)、生命力が旺盛で、特段の疾病がなかったことなどから、十中八九同女の救命が可能であったというのである。そうすると、同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係があると認めるのが相当である。」
過去問・解説
(H19 司法 第12問 1)
不作為犯における不作為と結果との間に刑法上の因果関係を認めるためには、不作為の後に結果の発生が認められることで足り、期待される作為をなしていたとすれば結果を避け得たことが合理的な疑いを超える程度に確実であったことまでは必要とされない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平元.12.25)は、不作為犯の因果関係について、「直ちに被告人が救急医療を要請していれば、…十中八九同女の救命が可能であったというのである。」とした上で、「同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係がある…。」としている。
したがって、不作為犯における不作為と結果との間に刑法上の因果関係を認めるためには、期待される作為をなしていたとすれば結果を避け得たことが合理的な疑いを超える程度に確実であったことまで必要とされる。
(H27 司法 第1問 ウ)
不真正不作為犯の因果関係が認められるためには、期待された作為をしていれば結果が発生しなかったことが、合理的な疑いを超える程度に確実であったことが必要である。
(正答)〇
(解説)
判例(最判平元.12.25)は、不作為犯の因果関係について、「直ちに被告人が救急医療を要請していれば、…十中八九同女の救命が可能であったというのである。」とした上で、「同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係がある…。」としている。
したがって、不真正不作為犯の因果関係が認められるためには、期待された作為をしていれば結果が発生しなかったことが、合理的な疑いを超える程度に確実であったことが必要である。
(H28 共通 第5問 5)
甲は、ホテルの一室で未成年者Vに求められてその腕に覚せい剤を注射したところ、その場でVが錯乱状態に陥った。甲は、覚せい剤を注射した事実の発覚を恐れ、そのままVを放置して逃走し、Vは覚せい剤中毒により死亡した。Vが錯乱状態に陥った時点で甲がVに適切な治療を受けさせることによりVを救命できた可能性が僅かでもあれば、甲がVを放置した行為とVの死亡との間には、因果関係がある。
(正答)✕
(解説)
判例(最判平元.12.25)は、不作為犯の因果関係について、「直ちに被告人が救急医療を要請していれば、…十中八九同女の救命が可能であったというのである。」とした上で、「同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係がある…。」としている。
したがって、Vが錯乱状態に陥った時点で甲がVに適切な治療を受けさせることによりVを救命できた可能性が僅かしかないのであれば、甲がVを放置した行為とVの死亡との間には、因果関係が認められない。
(R1 共通 第1問 オ)
不作為犯の因果関係は、期待された作為に出ていれば結果が発生しなかったことが、合理的な疑いを超える程度に確実であったといえない場合であっても、その可能性さえあれば、認められる余地がある。
(R3 司法 第9問 イ)
甲は、Vと2人きりのホテル客室で、その同意の下、Vに対し、覚醒剤を注射したところ、Vが体調の異変を訴え、錯乱状態に陥ったため、救急医療を要請する必要があることを認識し、その要請をしていれば、Vの救命は確実であったにもかかわらず、その要請をすることなく、Vを放置したまま同室から立ち去り、その結果、Vが死亡したが、甲に殺意はなかった。この場合、甲がVを放置した行為とVの死亡との間の因果関係に欠けることはなく、甲には、保護責任者遺棄等致死罪が成立する。
(正答)〇
(解説)
判例(最判平元.12.25)は、不作為犯の因果関係について、「直ちに被告人が救急医療を要請していれば、…十中八九同女の救命が可能であったというのである。」とした上で、「同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係がある…。」としている。
甲が救急医療を要請すればVの救命が確実であったことから、放置した行為と死亡した結果との因果関係が認められる。
したがって、甲に保護責任者遺棄等致死罪が成立する。
(R5 司法 第9問 2)
不作為による幇助犯が成立するためには、作為に出ることで確実に正犯の実行を阻止できたという関係は不要である。
(正答)〇
(解説)
判例(最判平元.12.25)は、不作為犯の因果関係について、「直ちに被告人が救急医療を要請していれば、同女が年若く(当時13年)、生命力が旺盛で、特段の疾病がなかったことなどから、十中八九同女の救命が可能であったというのである。そうすると、同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められる…。」として、確実に救命できたという関係までは要求していない。
また、裁判例(札幌高判平12.3.16)は、「一定の作為によってAのDに対する暴行を阻止することが可能であった…。」として、不作為の幇助犯の成立を認めている。
したがって、不作為による幇助犯が成立するためには、作為に出ることで確実に正犯の実行を阻止できたという関係は不要である。